壱頁完結物


「母上、妹は何時になったら喋るの?」
「乱歩は慌てん坊さんね」
其処ら中を駆け回り楽しそうに声を上げる妹を見乍ら、乱歩は不服そうに頬を膨らませた。
「早く妹と推理遊戯したい」
「それは喋れるようになってももう一寸先かしらね」

益々膨らむ頬を見て妹が近寄ってきた。


*****


「あぅ、あー?」
「違うよ、にぃにだよ」
「ぅぇう」
「むむ…」
思い通りに喋ってくれない妹に苦戦する。
「いー、して」
「ぅい」
「いー、い」
「ぅえー、え」
「喋るのってそんなに難しいの…?」
翠色の目を覗き込むが幼子は意図が読めない様子。

「もういいもん」
乱歩はふて寝してしまった。


*****


其れから暫く経ち、ふて寝した事さえ忘れかけていた頃。
「只今」
学校から帰って来た乱歩に近付く足音が。
「ぃにぃ」
「えっ」
満面の笑みを浮かべた妹が乱歩の前まで走り寄り、手を伸ばして抱っこをせがんだ。
「ぃにぃ、ぁっこ」

「しゃ、喋った…?」
「ぁっこ、ににぃ」
「喋った!!」


*****


「母上!聞いて!妹が!!」
妹を抱っこした乱歩が慌てて居間に入って来た。
母は夕飯の支度の手を止めニコリと笑う。
「ちゃんと呼べたみたいね」
「…若しかして母上の仕込み?」
「云い出したのは其の子よ」
「如何云う事?」

「あの日、貴方がふて寝してしまった後にね…」


*****


「あらあら、お兄ちゃん寝ちゃった」
「ぅゅ…」
背中を向ける乱歩を見てあからさまにしょげる妹を母は膝に乗せる。
「母様とお話の練習をしましょ。お兄ちゃんきっと喜んでくれるわ」
「おょー?」
首を傾げる妹を母は力強く抱き締めた。

「父様にも手伝って貰いましょうね」


*****


「全然知らなかった…」
「ふふ、まだまだ子供ね乱歩」
「ぐぬぬ…」
其の会話が聞こえていたのか父が書斎から顔を出した。
「おお、遂にお披露目か」
「父上も酷いよ、内緒にするなんて」
「はは、済まんな」

「さて、推理遊戯は何時から出来るかな?」
「…子は親に似るわね」



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