短編

「お兄ちゃん、もう直ぐ年越しだよ」
「んん…もうそんな時間?」
眠い目を擦り乍ら起き上がると、唇に温かい感触。
「今年はし納めだね」
「お前からなんて嬉しいね」
「日付が変わったら、お兄ちゃんからしてくれる?」

「名前で呼んだらしてあげる」
針が揃った瞬間に引き寄せられた。


*****


「正月に寝る時に見た夢は正夢になるんだって?」
「そうだね」
お雑煮を食べ乍ら妹に聞くと肯定の返事が返って来た。
「今年はどんな夢見るかな」
「お前と一緒に過ごす夢が良いなあ」
「お兄ちゃんは欲が無いなあ」
「如何してさ」

「だって夢なんか見なくても叶ってる事なのに」


*****


「お兄ちゃん見てみて!」
走って来る妹を受け止めると顔に違和感が。
「あれ、化粧してるの?」
「目の回りと口紅だけ。如何?」
「うん、似合ってるよ」
そう云い乍ら顎を掬うと頬に口付ける。
「食べちゃいたい位」

「も、もう!からかわないで!」
「僕は何時だって本気だよ?」


*****


「今日は愛妻の日なんだって!」
「わっ!?苦しいよ」
後ろから名探偵の声がしたと思ったら抱き竦められてしまった。
「沢山愛してあげるね」
「何時も愛して貰ってるよ?」
「そう?でも伝わってるか不安だから」
脇腹を撫でる手にゾクリとする。

「今夜はしっかり判らせてあげる」


*****


「そっか、今日は節分か」
「恵方巻き食べよ」
仕事の帰りに恵方巻きを買った江戸川兄妹。
「食べてる間は喋っちゃ駄目だからね」
「ぁふぁっへふほ」
「あー、云った傍から」
被り付いた儘モゴモゴと何か云っていた乱歩は飲み込んでニコリと笑った。

「後で豆撒きしよ!」
「しょうがないなぁ」


*****


お題
「乱歩さんが酔った翡翠ちゃん見たさに買ったチョコ」

「はい、あーん」
「もう食べれないよぉ…」
クテン、と僕にしなだれ掛かる妹の髪に口付ける。
「ほら」
「んぅ…」
口に最後の一個を詰め込むと急に顔を上げた。
「如何し…むぐっ」
口に広がる甘苦さに驚き顔を離すと
「えへへぇ、お兄ちゃん真っ赤だぁ」

外ではお酒を飲ませないと心に決めた。


*****

お題
「翡翠ちゃんが乱歩さんと一緒に食べるためのチョコ」

「見てみて!限定のフルーツいっぱいチョコだって!」
「へぇ、お洒落だね」
「お兄ちゃんも食べる?」
「うん、あーんして」
さも当たり前の様にあーんをすると、乱歩もお返しとばかりにチョコを食べさせた。

「こうやって一緒に食べたかったんでしょ?」
「お兄ちゃん流石だなぁ」


*****


※バレンタインポストお題
「「乱歩さん、妹さんと一緒にどうぞ」チョコ」

「チョコ貰ったんだよねえ…ってそんなに拗ねないでよ、心変わりなんてする訳無いだろう?」
「だって、お兄ちゃん」
「妹さんと一緒にどうぞ、だってさ」
「本当に?」
「お前に嘘は吐けないだろ」

「ほら、あーんしてあげるから此方においで」


*****

※バレンタインポストお題
「虫太郎君が翡翠ちゃんに用意した本命チョコ」

逆チョコ、と云う風習は大分定着している。
私があげても何ら不思議は無い筈なのだ。
そう思うのに
「勇気が出ない…」
引かれたら如何しようと云う不安が渦を巻く。
「否、彼女ならきっと…」

「わぁ、有難う御座います!お兄ちゃんと一緒に食べますね」
「そう云うだろうと思っていたよ…」


*****


※ホワイトデーポストお題
「翡翠ちゃんにあげる為に翡翠ちゃんと作ったチョコ」

「チョコの作り方教えて」
「珍しいね、お兄ちゃんがお菓子作りなんて」
翡翠色の目を真ん丸にした妹に早く早くと急かすと慌てて準備をしてくれる。
「如何して急にお菓子作ろうと思ったの?」
「内緒」
「…誰かにあげるの?」
「なーいしょ」

其の膨れっ面が笑顔に変わる瞬間が楽しみだなぁ。


*****


※ホワイトデーポストお題
「乱歩さんと半分こにしたチョコ」

「お兄ちゃん、依頼人さんからお礼にお菓子を頂いたの。食べる?」
「食べる!」
食い気味に返事をし乍ら妹に抱き付く。
「猪口か、美味しそうだね」
「私も一緒に食べて良い?」
「勿論、半分こしよう」

「此処から此処までは僕のね!」
「それ三分の二だよお兄ちゃん」


*****

※ホワイトデーポストお題
「新米警官からのチョコ」

「あの…こ、これ」
「あら、美味しそう!頂いて良いの?」
「も、勿論です!…その」
「駄目だよ」
乱歩の冷たい声で妹は背筋を正す。
「贈り物は意味を聞いてからと何時も云ってるだろ」
「ごめんなさい」
「其れで、君」

「如何して贈り物をしようと思ったのか、答えられるよねえ?」


*****


「今日は猫の日だよ」
「今年はどっちが猫?」
「僕!ほら撫でて撫でて!」
乱歩が妹の膝にダイブする。
手を頭の上に乗せたのに、頭は撫でられない。
「此処が良いかも」
「あはは!顎の下は擽ったいよ!」
「じゃあ此方」
「背中も駄目!」

「二人は何をして…」
「考えちゃ駄目だよ国木田くん」


*****

※ホワイトデーポストお題
「太る?一緒に食べれば問題ない!」

「お兄ちゃんがそうやって勧めてくるから食べてたら太った…」
「そう?見た目に判らないから良いじゃない」
「良くないの!暫くお兄ちゃんとはお菓子食べない!!」
「えっ…」

「お菓子…一緒に食べてくれないの…?」
「…元の体重に戻るまで待ってて」


*****


「虫太郎さん、今日お誕生日なんですね」
私の想い人である乱歩くんの妹さんが、私の顔を見て事も無げにそう云った。
「あ、嗚呼…」
「おめでとうございます」
言葉と共に向けられる笑顔だけで心が満たされていく。
「何か贈り物が出来れば良いのですが…」

こ、此れは告白の好機では…!?


*****


「そ、そうだなぁ…ならば」
「云っとくけど妹はやらないよ」
「うわぁ!」
何処からともなく現れた乱歩くんに依って私の好機は一瞬で塵と消える。
「なら、皆でケヱキでも食べに行きませんか?」
彼女の提案に口元が緩む。

嗚呼、誕生日とはなんと素晴らしい日だろうか!


*****


「如何したの、顔色悪いよ?」
「心配掛けて御免ね…仕事が立て込んでて余裕が無くて」
パソコンの前で真っ青な顔の妹に話し掛けると弱々しくそう答えた。
「もう直ぐ終わると思うんだけど…」
「…今日は此処まで、後は明日でも終わるよ」
「え、でも…」

「名探偵を信じなさい!ほら帰るよ」


*****


フラフラとした足取りの妹を何とか家に連れ帰ると其の儘ソファに突っ伏してしまった。
「頭痛い…」
「ほら、あれ以上やっても進まないでしょ」
「明日で終わるかな…」
「終わるよ。僕も手伝ってあげるから」

「今はゆっくりお休み」
毛布を掛けると直ぐに寝息が聞こえてきた。


*****
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