壱頁完結物

「にぃに…どこー」
幼子がとぼとぼと道を歩く。
辺りを見回しながら歩くその姿から迷子である事が容易に想像出来たので、近くに居た少年が膝を折って話し掛けた。
「兄を探してるのか」
「うん…にぃにのて、はなしちゃった…」

しょんぼりと項垂れる幼子の頭を撫で、少年は手を取った。


*****


「一緒に探してやろう」
「…ほんと?」
「嗚呼」
「ありがと、おにいちゃん」
「兄はどんな格好をしているんだ」
「んとね、くろい“がくせいふく”をきてるの」
「学生服か」
ふむ、と顎に手を当てる少年。
「…!」
何かを感じたのか徐に歩き出した。

「どこいくの?」
「もうすぐ兄に会えるぞ」


*****


「あーこんな処に!…もう、心配したんだからね!」
曲がり角の影から黒い学生服を着た少年がヒョコリと顔を出した。
「にぃに!」
「ほら、会えただろう」
「うん!おにいちゃんすごい!」
「こら、御免なさいでしょ」
「ごめんなさい…」

「そう怒るな、一生懸命探してたんだ」


*****


「君は?」
「通り掛かっただけだ」
「おにいちゃん、にぃにのいるとこすぐにみつけてくれたの!」
「そうか、礼を云うよ」
「大した事はしてない」
少年と思えない会話をする二人に挟まれながら、幼子は通りすがりの少年をじっと見つめた。

「おださ、くの…すけ?」


*****


「俺の名前を知ってるのか?」
「見えた!」
「見えた?」
何処かから名前の書いてある物でも見えているのかと探すが特に其らしき物は見付からなかった。
不思議に思いつつも名前を呼ばれた少年は改めて自己紹介をした。

「織田が名字で、作之助が名前だ」


*****


「じゃあ作だ」
「随分縮まったな」
「さく!」
「…其れで良い」
「僕は江戸川乱歩。作、妹を助けてくれて有難うね」
年相応に笑う乱歩と云う少年に作は少しだけ顔を緩めた。
「君は、良い人生を送るだろうね」
「如何云うことだ?」
「最期まで君を貫いて生きるだろうって事」

「予言か?」


*****


「見れば判るよ」
「俺には判らない」
「じゃあ憶えておくと良いよ」
「…そうさせて貰う」
それじゃあ、と踵を返す作の後ろから妹が呼び止めた。
「かたのしたのやつ、かっこいいね!」
「……、有難う」

不思議な兄妹に別れを告げ、作と呼び名の付いた少年はふらりと消えた。


*****


「何で、今頃こんな事を思い出すんだろうな…」
「織田作、喋るな!」
「昔、迷子を助けたら…君は良い人生を、送るだろうと云われた…。そうだな…友人に看取られる最期なら…良い、人生だ」
「織田作…」
「太宰…有難う」

予言者の翠色の瞳を脳裏に浮かべながら作はゆっくりと目を閉じた。


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