壱頁完結物

布団の中に居る筈なのに少し肌寒くて目を覚ます。
「…何してるの?」
視線の先には布団から抜け出し窓に寄り掛かる妹の姿。
「御免、起こした?」
「お前が居てくれないと寒くて風邪引いちゃうよ」
「それは大変」
笑顔の筈の妹の手が震えているのを乱歩は見逃さなかった。

「何かあった?」


*****


「怖い夢、」
「どんな?」
「お兄ちゃんまで、居なくなっちゃう夢…」
震えが大きくなる手の上に雫が落ちる。
「僕は此処に居るよ」
「…うん」
「お前の前から消えたりしない」
乱歩が抱き締め背を叩くと暫くして涙は収まった。

「眠れそう?」
力無く首を横に振る妹の頭を撫でる。


*****


「じゃあお兄ちゃんが良い物を作ってあげよう」
何時もの自信満々な笑顔を見せた乱歩は立ち上がって台所へと向かった。
「お前もおいで」
手招きされた妹ものろのろと付いて行く。
徐に牛乳を取り出すと慣れた手付きで鍋に入れ火を着けた。

「何作るの?」
「よく眠れるおまじない」


*****


沸騰した牛乳をカップに注ぐと、黄金色のとろみを上からゆっくりと流し入れる。
「蜂蜜…」
「昔よく母上が作ってくれたんだ。只のホットミルクなんて飲めなくなるよ」
何時の間にか出来上がっていたホットミルクのカップを渡され、二人はまた窓の側へと戻る。

「冷めない内に飲みな」


*****


「…美味しい」
漸く口元を緩めてくれた妹に安心した乱歩もカップを口に含む。
「父上や母上が居なくなった時から、僕だけはずっとお前の傍に居るって決めたんだ」
だからもうそんな夢は見なくなるよ、と云う言葉を聞きながら、妹は何時の間にか眠っていた。

「お休み。僕の可愛い妹」


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