壱頁完結物
乱歩くんに呼ばれて探偵社へとやって来たが、何やら招宴の最中で我輩は放置されている。
「帰るべきか…?」
ソファに座りながら呟くと、肩に乗っていたカールが急に走り出した。
「あっ!」
「きゃ!?」
追い掛けようと身を乗り出すと其処には。
「乱歩くんの、妹さんであるか…?」
*****
「ポオさん!いらしてたんですね」
妹さんはカールを抱えながら挨拶してくれた。
「お兄ちゃんには会いましたか?」
「会ったのだが…社長に呼ばれたから待っててくれと云われて…」
社長殿に褒められ上機嫌の乱歩くんを見た妹さんはスミマセンと頭を下げた。
「妹さんは悪くないのである」
*****
「良かったら妹さんにも読んで貰いたいである」
待っているだけでも暇なので妹さんに感想を貰おうと小説を差し出した。
「良いんですか!?」
妹さんは凄く嬉しそうな顔で小説を受け取ってくれた。
「私、ポオさんの小説大好きなんです!」
「吾輩の小説を読んだ事が…?」
「はい!」
*****
ふと、六年前の対決の後に自分の小説を捨てた事を思い出した。
真逆其れを拾ったのだろうか。
物思いに耽っている間に妹さんは渡した小説を読み始めた。
「凄く真剣に読んでる…」
戻って来たカールと一緒に妹さんを眺めると、困った顔で振り向いた。
「そんなに見られると読み辛いです…」
*****
その後もこっそり観察するとその頁に合った理想の表情で読んでくれた。
如何やら乱歩くんより推理力は無いらしく、数分で本を返すような事はしなかった。
しかし読むのが早い。
早送りを見ている様だ。
「妹さんは読むのが早いのである」
「そうですか?これでもじっくり読んでる方ですよ」
*****
「でも一寸浮かれてるからもう一回読みたいなあ」
「浮かれてる?」
「ポオさんの新しい小説が一番に読めるなんて贅沢だなって」
照れ笑いする妹さんに胸の辺りがキュッとした。
「あの、これお兄ちゃんにあげちゃうんですか?」
「その心算で持って来たが」
「これ、私にくれませんか…?」
*****
「構わないであるが」
「本当ですか!?」
急に大声を出した妹さんにまたカールが逃げた。
「あ、カール!」
「如何したのそんな大声出して」
「お兄ちゃん!」
福沢に褒められて満足したらしい乱歩くんがカールを抱き上げて近付いて来た。
「ねえお兄ちゃん。ポオさんの小説私が貰っても良い?」
*****
「僕にも読ませてくれるなら良いけど…嗚呼そうか、お前はポオ君のファンだったもんね」
凄く嫌そうな顔でそう云う乱歩くんに吾輩の肩が跳ねる。
「本を拾った当初は一日中読んでて僕の事全然構ってくれなくてさあ」
「す、済まなかったのである…」
余りの威圧感に思わず謝ってしまった。
*****
その会話を聞いている様子の無い妹さんは嬉しそうに小説を胸に抱いている。
乱歩くんの顔が益々険しくなるのを見て吾輩は怖くなった。
「嬉しいなあ!じゃあポオさん、あの」
「何であるか?」
「この本にサインして貰っても…良いですか?」
吾輩と乱歩くんは対照的な顔をした。
*****
「か、構わないである…が」
恐る恐る隣を見ると乱歩くんが世界に絶望したような表情を浮かべている。
「乱歩くんの許可は…いらないであるか?」
「だってこれは私の本ですもん!」
「いや、でも…」
目の前の笑顔に負け、吾輩は表紙の裏にペンを走らせた。
乱歩くんは居なくなっていた。
*****
翌日、乱歩くんから電話が掛かって来た。
『矢張り本返す!』
「ええ!?如何したであるか」
『妹がまた構ってくれなくなった!君のせいだからね!!』
『お兄ちゃん本返してよ!』
『駄目!僕が読んだらポオ君に返すから!』
『やだ!お兄ちゃんの意地悪!』
結局二人で遊びに来てくれた。
.
「帰るべきか…?」
ソファに座りながら呟くと、肩に乗っていたカールが急に走り出した。
「あっ!」
「きゃ!?」
追い掛けようと身を乗り出すと其処には。
「乱歩くんの、妹さんであるか…?」
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「ポオさん!いらしてたんですね」
妹さんはカールを抱えながら挨拶してくれた。
「お兄ちゃんには会いましたか?」
「会ったのだが…社長に呼ばれたから待っててくれと云われて…」
社長殿に褒められ上機嫌の乱歩くんを見た妹さんはスミマセンと頭を下げた。
「妹さんは悪くないのである」
*****
「良かったら妹さんにも読んで貰いたいである」
待っているだけでも暇なので妹さんに感想を貰おうと小説を差し出した。
「良いんですか!?」
妹さんは凄く嬉しそうな顔で小説を受け取ってくれた。
「私、ポオさんの小説大好きなんです!」
「吾輩の小説を読んだ事が…?」
「はい!」
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ふと、六年前の対決の後に自分の小説を捨てた事を思い出した。
真逆其れを拾ったのだろうか。
物思いに耽っている間に妹さんは渡した小説を読み始めた。
「凄く真剣に読んでる…」
戻って来たカールと一緒に妹さんを眺めると、困った顔で振り向いた。
「そんなに見られると読み辛いです…」
*****
その後もこっそり観察するとその頁に合った理想の表情で読んでくれた。
如何やら乱歩くんより推理力は無いらしく、数分で本を返すような事はしなかった。
しかし読むのが早い。
早送りを見ている様だ。
「妹さんは読むのが早いのである」
「そうですか?これでもじっくり読んでる方ですよ」
*****
「でも一寸浮かれてるからもう一回読みたいなあ」
「浮かれてる?」
「ポオさんの新しい小説が一番に読めるなんて贅沢だなって」
照れ笑いする妹さんに胸の辺りがキュッとした。
「あの、これお兄ちゃんにあげちゃうんですか?」
「その心算で持って来たが」
「これ、私にくれませんか…?」
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「構わないであるが」
「本当ですか!?」
急に大声を出した妹さんにまたカールが逃げた。
「あ、カール!」
「如何したのそんな大声出して」
「お兄ちゃん!」
福沢に褒められて満足したらしい乱歩くんがカールを抱き上げて近付いて来た。
「ねえお兄ちゃん。ポオさんの小説私が貰っても良い?」
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「僕にも読ませてくれるなら良いけど…嗚呼そうか、お前はポオ君のファンだったもんね」
凄く嫌そうな顔でそう云う乱歩くんに吾輩の肩が跳ねる。
「本を拾った当初は一日中読んでて僕の事全然構ってくれなくてさあ」
「す、済まなかったのである…」
余りの威圧感に思わず謝ってしまった。
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その会話を聞いている様子の無い妹さんは嬉しそうに小説を胸に抱いている。
乱歩くんの顔が益々険しくなるのを見て吾輩は怖くなった。
「嬉しいなあ!じゃあポオさん、あの」
「何であるか?」
「この本にサインして貰っても…良いですか?」
吾輩と乱歩くんは対照的な顔をした。
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「か、構わないである…が」
恐る恐る隣を見ると乱歩くんが世界に絶望したような表情を浮かべている。
「乱歩くんの許可は…いらないであるか?」
「だってこれは私の本ですもん!」
「いや、でも…」
目の前の笑顔に負け、吾輩は表紙の裏にペンを走らせた。
乱歩くんは居なくなっていた。
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翌日、乱歩くんから電話が掛かって来た。
『矢張り本返す!』
「ええ!?如何したであるか」
『妹がまた構ってくれなくなった!君のせいだからね!!』
『お兄ちゃん本返してよ!』
『駄目!僕が読んだらポオ君に返すから!』
『やだ!お兄ちゃんの意地悪!』
結局二人で遊びに来てくれた。
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