壱頁完結物

「ポオさん、アライグマ連れてたね」
「狸じゃないの?」
「アライグマだよ」
組合の重要書類を手にした江戸川兄妹と与謝野は探偵社への帰路に着いていた。
「もふもふで可愛かったなあ。次会ったら触らせて貰お」
「僕をもふもふすれば良いでしょ」

「如何云う理屈だい、それ…」


*****


「其れはそうと、今回も流石の推理力だったねお兄ちゃん」
「今回は偶々だ。あの空間じゃ異能力は使えないからね」
「お兄ちゃん」
隣から前に移動した妹は翠色の目を真っ直ぐ兄へと向ける。
「お前は、何時から知ってたの」
「最初からかな」
「えっ」

「何で教えてくれなかったの!」


*****


「私の異能力を侮って貰っちゃ困るよ!」
「いやだから何で…」
眉間に皺を寄せる乱歩。
「何で…か。お兄ちゃんが嬉しそうだったからかな」
自分の胸に顔を埋める妹を抱き留める。
「覚えてる?劇場のロビーで初めて押し問答したの」
「あの時は頑なだったよね」

「それ位、教えたくなかった」


*****


「真実を知ったらきっとまた頭を抱えちゃうだろうから」
「…お前当時五歳だったよね?」
「お兄ちゃんの妹だもの」
ぎゅーっと抱き付く妹に諦めの表情を浮かべるしかなく、隣を見れば微笑ましそうな与謝野が居て少し居心地が悪い。

「相変わらず仲が良いねえ」
「…見世物じゃないよ」


*****


「帰ったら先生にお説教?」
「僕の異能を否定するみたいで嫌だ」
頬を膨らませ不機嫌を露にする兄に対し終始笑顔の妹。
「ふふ、それもそっか」
「笑うの禁止」
「はいはい」
「はいはいも禁止!」
隣で肩を震わせる与謝野に、乱歩の不機嫌は最高潮になった。

「与謝野さんも笑うの禁止!!」


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