壱頁完結物

妹と恋人関係になって一週間。
一緒にお風呂に入れなかった。
いや、気持ち的な物じゃなくて、女の子の事情と云うやつだ。
しかしそれも今日で終わる筈。
「乱歩さん、何か楽しそうですね」
「解る?」
賢治に指摘されても笑顔が崩れない。

「早く仕事終わらないかなぁ」
面倒そうに呟いてみる。


*****


「今日は雨降らないって云ってたのに!」
帰り道、急な雨に見舞われて僕等はずぶ濡れで玄関に立っていた。
繋いだ手の中に水が入って皮膚がふやけそう。
「お風呂沸かすからお兄ちゃん入って」
「あれ、まだ終わってないの?」
タオルを受け取りながら聞くと

妹は何故か顔を真っ赤にした。


*****


「お、終わった…けど」
「じゃあ一緒に入ろうよ」
何時もの様に提案しているのに妹は首を縦に振らない。
たまに目が合っては逸らす仕草に其の理由が解り妹を引き寄せる。
「意識、してくれてるの?」
耳元で囁けば身を固くする。

「なら尚更、一緒に入ろ」
漸く首を縦に振った。


*****


「入るよー」
妹が湯船に浸かったのを確認してから風呂場に入る。
「あれ、入浴剤入れたの?」
「…ん」
湯船は乳白色に染まり、妹の肩から下を隠している。
「嫌だった?」
「今日は好きにさせてあげるよ」
頭を撫でると肩も沈んでいく。

予想以上の反応に顔がどんどん緩んでいく。


*****


少し前に詰めてもらい、僕も湯船に浸かる。
何時もの様にお腹に腕を回すと妹は大袈裟に驚いた。
「緊張しすぎ」
「だ、だって…」
逃げようともがいてるみたいだけどお湯が波打つだけでほぼ動いてない。

「お兄ちゃんとはお風呂入ってたけど…乱歩さんと入るのは…初めて、だから…」


*****


今のは流石にキた。
妹は僕が思ってる以上に男として意識してくれてるみたいだ。
嬉しさに顔と足の間に熱が集まるが、まだ理性を崩壊させる訳にはいかない。
「そう云う事教えてないのに何処で覚えて来るの?」
腕に力を込めればまた反応する体。
女の子らしい柔らかい感触。

「ねえ、答えて」


*****


「わ、私だって軍警に出入りしてる身だし、だ…男女の如何こうは…その、知らない訳じゃ…」
手で顔を覆ったが首まで赤いのが後ろから見える。
「そっか知ってたか。僕が教えようと思ったのに」
うなじに接吻するとまた体が跳ねる。
が…

「…っン」
微かに漏らしたその声を聞き逃す筈もなく。


*****


確かめる為に何度かうなじに口付けると浅い吐息を吐き出す。
妹が逃げるように動くが男の僕に敵う筈もなく。
「ゃ、だめ…ァ!」
その内艶っぽい嬌声を挙げ始めた。
何時の間にか腕の上に柔らかい感触がする。
少し腕がずり上がってしまった様だ。

「お、おに、ちゃ…まっ、まって…」


*****


「今一緒に入ってるのは乱歩さんでしょ?」
甘い嬌声を鼓膜に受け僕も少し余裕が無くなって来た。
手で腹の辺りをゆっくりと撫で、首や肩に接吻を落とす。
「ち、ちが…ンっ…!」
「何が違うの?」
耳を舐めるとお湯が大きな音を立てた。

「の、逆上せそう…」
「えっ!?」


*****


「大丈夫?」
「ん…少し良くなって来た…」
グッタリと布団に横たわる妹に流石の僕も罪悪感を感じた。
「御免ね。お前と恋人になって初めてのお風呂だったから浮かれちゃった」
頬を撫でてやると気持ち良さそうに擦り寄って来る。
「私も、ドキドキしてた」

「一寸急ぎすぎたね」


*****


「まだ怖い、かも…」
「僕が?」
「乱歩さんじゃなくて…何時もの自分じゃない感じが…」
体の反応の事を云っているのか。
「それも少しずつ慣れていこう」
時刻も遅いので僕も布団に入る。
「次の休みの前夜は、少し触っても良い?」
「え!?えっと…」

「怖いって云ったら止めてくれる…?」


*****


「勿論、お前の事は大事にしたいからね」
腕枕をしてギュッと引き寄せる。
「有難う」
安心した顔で笑う妹に接吻をして電気を消す。
「さあ、明日も仕事だし寝ようか」
「うん。お休み…えっと」
「今はお兄ちゃんでいいよ」
「お休み、お兄ちゃん」
「お休み」

僕の葛藤はもう暫く続きそうだ。



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