壱頁完結物
「慰安旅行?」
福沢さんと一緒にご飯を食べているとそんな話題が出て来て妹と顔を見合わせる。
「最近多忙で休みをやれなかったからな、社の皆で行こうと思うのだが」
「ふーん、何処に行くの?」
「海だ」
その瞬間妹が勢い佳く立ち上がった。
「海!行ったことない!!」
*****
翌日、探偵社は浮き足立っていた。
「海に行った事が無いんだってね」
与謝野さんに話し掛けられた妹が満面の笑みで頷く。
国木田が怒るのも構わず話し込む妹は本気で楽しみな様子。
「そうだ、ナオミも一寸お出で」
呼び掛けに応え席を立つナオミと妹を連れて三人は医務室に入っていった。
*****
「ん……は…がう」
「…すわ…」
途切れ途切れにしか聞こえない声に耳を澄ます僕と谷崎を賢治が不思議そうに見つめる。
「駄目です、全然聞こえません」
「今回ばかりはお手上げだよ」
僕等が座り込んだと同時に医務室の扉が開いた。
「お兄ちゃん達、扉の前で何してるの?」
*****
「何してるのかなと思って」
特に隠す気も無くそう云うと妹はニコリと笑う。
「此れから三人でお出掛けするの!」
「えっ」
「直ぐ戻って来るからね」
「お兄ちゃんも一緒に…」
「駄目ですわ」
ナオミが妹の肩を抱きながら同じ様に笑った。
「楽しみが減ってしまいますわよ、乱歩さん」
*****
結局何を買ったのか解らない儘旅行当日を迎えた。
「「海だー!」」
はしゃぐ敦と賢治を見ながら海パンの上にシャツを羽織った僕はパラソルの影に身を寄せる。
暑いし焼けると痛いからね。
…そう云えば妹は水着を持ってたっけ?
ラムネを飲みながらふと考える。
「お兄ちゃん海入らないの?」
*****
考えていた本人の声がして振り向いた瞬間、無意識に手からラムネが滑り落ちた。
髪を上げ、真っ白な肌を惜し気もなく晒し、最低限を隠すのは花柄フリルのビキニ。
「お兄ちゃん?ラムネ落ちたよ」
妹が動くと胸の辺りもぽよんと動く。
「わあぁ!」
僕は思わず自分のシャツを被せた。
*****
「何!?如何したの!?」
「もー!そんな水着何処で購って来たの!」
「与謝野さん達と購いに行ったんだよ」
其の言葉であの日の謎が解けた。
そうかあれは水着を
「ってそうじゃなくて!」
僕の行動が理解出来ない妹は一寸落ち込んだ顔をして
「似合わない…?」
「ううん似合う凄く可愛い」
*****
「でもナンパされちゃ大変だから此れ着といて」
「えー、されないよ」
着せた途端にシャツを脱ぐ妹は危機感もロッカーに預けて来た様だ。
「このシャツはお兄ちゃんの方が似合うの!ほら遊ぼ!」
グイと腕を引っ張られ、二人とも炎天下へと放り出される。
まあ、僕が隣に居れば大丈夫か。
*****
それから暫く振りの海に一緒になってはしゃいでいると、谷崎が何かを探しだした。
「如何したの谷崎」
「ナオミが居なくて…」
「あれ、そう云えば妹も居ない…」
「嗚呼、二人なら」
眼鏡が無くて一瞬誰か判らなかった国木田が口を開いた。
「喉が渇いたからと海の家に購いに行きましたよ」
*****
「お嬢さん達二人?」
「俺等と遊ばない?此方も丁度二人なんだよ」
「あの、連れが居ますから…」
怯えるナオミちゃんを庇って前に出る。
お兄ちゃんにナンパが如何のって云われたの、ちゃんと気にしておけば佳かったと後悔する。
男性は引き下がりそうに無いし、如何しよう…。
*****
谷崎と妹を探し回っていると、敦から電話が掛かってきた。
「乱歩さん居ました!ナオミさんと…知らない男性も一緒に居ます!」
…だから云ったのに。
「敦、其の男達逃がさないでよ」
電話を切って谷崎に声を掛け走り出す。
僕の妹に手を出した事、後悔させてあげるよ。
*****
「もう!離して下さい!」
「そんなに怖がらないでよ」
しつこい。
本当にしつこい。
気が強い様に振る舞ってみても膝の震えが止まらない。
「離してっ…!」
「一寸、此の子に何してんの」
私の腕を掴む手が増えた。
上から降って来た声は聞き慣れたもので。
「太宰、国木田、後宜しく」
*****
「ナオミぃ!大丈夫だったかい!?」
「お兄様!怖かったです!」
ヒシと抱き合う谷崎兄妹を横目に妹に視線を送ると気不味そうに俯く。
「……ご免なさい」
「あの、乱歩さん…」
「誰もついて行かなかったし、俺達にも責任が」
「今はそんな話してなーい」
その場の全員の肩が跳ねた。
*****
「全く、一寸浮かれ過ぎたね」
「…はい、ご免なさい」
妹の顔がどんどん沈んでいく。
「乱歩さん…」
「…」
反省してるし許してあげようと思うのに何だかモヤモヤする。
再度妹を見ると白い二の腕に挟まれた柔らかいものが目に入って、僕はハッとした。
「やっぱり此れはお前が着てなさい」
*****
「…暑い」
「我が儘云わない」
膨れる妹の肩を叩く。
折角の花柄フリルは隠れちゃうけど、今は自分のモヤモヤを消すのが最優先だ。
「お前の可愛い水着姿は僕だけが見てれば良いの」
視線が注がれた部分を察したのか、妹はシャツで前を隠した。
「お兄ちゃんのエッチ!」
*****
「乱歩、冷えたか」
「まだ一寸ヒリヒリする」
初めて妹から喰らった紅葉型は思いの外強かったらしい。
氷で冷やしながら仕切り直しに海で遊ぶ面々を見る。
「子供って成長が早いなぁ」
小さい時のよちよち歩きを思い出していると、妹が近寄って来た。
「さっきは御免ね、一緒に遊ぼ」
*****
差し出す手を握って妹を見る。
海で濡れた髪の滴が首を伝い、今度は素直に着た僕のシャツは濡れて中の水着が透けている。
「…此方の方が危ないかも」
「ん?」
「何でもない。今度は絶対僕から離れちゃ駄目だからね」
「はーい」
何時の間にか大人になったお前にお兄ちゃんは動揺を隠せません。
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福沢さんと一緒にご飯を食べているとそんな話題が出て来て妹と顔を見合わせる。
「最近多忙で休みをやれなかったからな、社の皆で行こうと思うのだが」
「ふーん、何処に行くの?」
「海だ」
その瞬間妹が勢い佳く立ち上がった。
「海!行ったことない!!」
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翌日、探偵社は浮き足立っていた。
「海に行った事が無いんだってね」
与謝野さんに話し掛けられた妹が満面の笑みで頷く。
国木田が怒るのも構わず話し込む妹は本気で楽しみな様子。
「そうだ、ナオミも一寸お出で」
呼び掛けに応え席を立つナオミと妹を連れて三人は医務室に入っていった。
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「ん……は…がう」
「…すわ…」
途切れ途切れにしか聞こえない声に耳を澄ます僕と谷崎を賢治が不思議そうに見つめる。
「駄目です、全然聞こえません」
「今回ばかりはお手上げだよ」
僕等が座り込んだと同時に医務室の扉が開いた。
「お兄ちゃん達、扉の前で何してるの?」
*****
「何してるのかなと思って」
特に隠す気も無くそう云うと妹はニコリと笑う。
「此れから三人でお出掛けするの!」
「えっ」
「直ぐ戻って来るからね」
「お兄ちゃんも一緒に…」
「駄目ですわ」
ナオミが妹の肩を抱きながら同じ様に笑った。
「楽しみが減ってしまいますわよ、乱歩さん」
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結局何を買ったのか解らない儘旅行当日を迎えた。
「「海だー!」」
はしゃぐ敦と賢治を見ながら海パンの上にシャツを羽織った僕はパラソルの影に身を寄せる。
暑いし焼けると痛いからね。
…そう云えば妹は水着を持ってたっけ?
ラムネを飲みながらふと考える。
「お兄ちゃん海入らないの?」
*****
考えていた本人の声がして振り向いた瞬間、無意識に手からラムネが滑り落ちた。
髪を上げ、真っ白な肌を惜し気もなく晒し、最低限を隠すのは花柄フリルのビキニ。
「お兄ちゃん?ラムネ落ちたよ」
妹が動くと胸の辺りもぽよんと動く。
「わあぁ!」
僕は思わず自分のシャツを被せた。
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「何!?如何したの!?」
「もー!そんな水着何処で購って来たの!」
「与謝野さん達と購いに行ったんだよ」
其の言葉であの日の謎が解けた。
そうかあれは水着を
「ってそうじゃなくて!」
僕の行動が理解出来ない妹は一寸落ち込んだ顔をして
「似合わない…?」
「ううん似合う凄く可愛い」
*****
「でもナンパされちゃ大変だから此れ着といて」
「えー、されないよ」
着せた途端にシャツを脱ぐ妹は危機感もロッカーに預けて来た様だ。
「このシャツはお兄ちゃんの方が似合うの!ほら遊ぼ!」
グイと腕を引っ張られ、二人とも炎天下へと放り出される。
まあ、僕が隣に居れば大丈夫か。
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それから暫く振りの海に一緒になってはしゃいでいると、谷崎が何かを探しだした。
「如何したの谷崎」
「ナオミが居なくて…」
「あれ、そう云えば妹も居ない…」
「嗚呼、二人なら」
眼鏡が無くて一瞬誰か判らなかった国木田が口を開いた。
「喉が渇いたからと海の家に購いに行きましたよ」
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「お嬢さん達二人?」
「俺等と遊ばない?此方も丁度二人なんだよ」
「あの、連れが居ますから…」
怯えるナオミちゃんを庇って前に出る。
お兄ちゃんにナンパが如何のって云われたの、ちゃんと気にしておけば佳かったと後悔する。
男性は引き下がりそうに無いし、如何しよう…。
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谷崎と妹を探し回っていると、敦から電話が掛かってきた。
「乱歩さん居ました!ナオミさんと…知らない男性も一緒に居ます!」
…だから云ったのに。
「敦、其の男達逃がさないでよ」
電話を切って谷崎に声を掛け走り出す。
僕の妹に手を出した事、後悔させてあげるよ。
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「もう!離して下さい!」
「そんなに怖がらないでよ」
しつこい。
本当にしつこい。
気が強い様に振る舞ってみても膝の震えが止まらない。
「離してっ…!」
「一寸、此の子に何してんの」
私の腕を掴む手が増えた。
上から降って来た声は聞き慣れたもので。
「太宰、国木田、後宜しく」
*****
「ナオミぃ!大丈夫だったかい!?」
「お兄様!怖かったです!」
ヒシと抱き合う谷崎兄妹を横目に妹に視線を送ると気不味そうに俯く。
「……ご免なさい」
「あの、乱歩さん…」
「誰もついて行かなかったし、俺達にも責任が」
「今はそんな話してなーい」
その場の全員の肩が跳ねた。
*****
「全く、一寸浮かれ過ぎたね」
「…はい、ご免なさい」
妹の顔がどんどん沈んでいく。
「乱歩さん…」
「…」
反省してるし許してあげようと思うのに何だかモヤモヤする。
再度妹を見ると白い二の腕に挟まれた柔らかいものが目に入って、僕はハッとした。
「やっぱり此れはお前が着てなさい」
*****
「…暑い」
「我が儘云わない」
膨れる妹の肩を叩く。
折角の花柄フリルは隠れちゃうけど、今は自分のモヤモヤを消すのが最優先だ。
「お前の可愛い水着姿は僕だけが見てれば良いの」
視線が注がれた部分を察したのか、妹はシャツで前を隠した。
「お兄ちゃんのエッチ!」
*****
「乱歩、冷えたか」
「まだ一寸ヒリヒリする」
初めて妹から喰らった紅葉型は思いの外強かったらしい。
氷で冷やしながら仕切り直しに海で遊ぶ面々を見る。
「子供って成長が早いなぁ」
小さい時のよちよち歩きを思い出していると、妹が近寄って来た。
「さっきは御免ね、一緒に遊ぼ」
*****
差し出す手を握って妹を見る。
海で濡れた髪の滴が首を伝い、今度は素直に着た僕のシャツは濡れて中の水着が透けている。
「…此方の方が危ないかも」
「ん?」
「何でもない。今度は絶対僕から離れちゃ駄目だからね」
「はーい」
何時の間にか大人になったお前にお兄ちゃんは動揺を隠せません。
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