壱頁完結物

「江戸川さん、あの…好きです」
事件が解決して一段落って時に、依頼人の女性からそんな言葉を投げられた。
僕だって男だし、そう云う関係を知らない訳じゃないけど
「恋愛とか興味ない。其れに妹が小さいんだ。君に構ってる時間は無いよ」

そう云うと女性は泣きながら去って行った。


*****


「お兄ちゃんお帰りなさい!」
「只今、良い子にしてた?」
「うん!」
玄関で抱き着く妹をしっかりと支える。
思春期と呼ばれる年頃になったけど、僕には変わらず甘えてくれる可愛い妹。
ふと、先程の女性を思い出した。
彼女に興味は無いが、妹だと如何なるんだろう。

「ねぇ、接吻して?」


*****


「え、接吻?」
「うん、嫌なら佳いよ」
本当に小さい時はずっとさせてたけど、何時の間にかしなくなった兄妹での接吻。
無理強いする気は無いけど何となく、したくなった。
「…目、閉じて?」
顔を赤らめてそう云う妹に一瞬目眩がした。

可愛い顔を見ていたいけど言葉通りに目を閉じる。


*****


頬に手を添えられ、柔らかく温かな感触が唇に触れる。
ほんの一瞬の出来事だったけど唇には余韻が残った。
目を開けば僕と同じ翠色の瞳。
重ねれば判る華奢な手が此の子が女の子である事を自覚させてくれる。
「有難う。お前は優しいね」

「…変なお兄ちゃん。ご飯出来てるよ」


*****


足早に台所へと向かう妹の背中を追い掛ける。
お前は僕が疲れて甘えて来ただけだと思ってくれているのだろう。
「本当に佳い子だ」
やっと解った。
僕は恋愛に興味が無いんじゃない。
此の子以外の女性に興味が無いんだ。

「愛してるよ」
女の子として、と伝えるのはもう少し先の話。



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