壱頁完結物

「本当に行くの…?」
「いくの!」
「乱歩と一緒の方が善いんじゃないか?」
「いくのー!」
福沢さんの財布を握り締めて意欲満々の妹。
「お兄ちゃんまだ早いと思うなぁ」
「はやくないの!」
「…仕方無い」
溜め息を吐く福沢さんにギョッとする。

「お使いなんて初めてなんだよ!?」


*****


「大丈夫かな…」
「だからこうして後ろから見ているんだろう」
家から少し歩いた行き付けの和菓子屋で福沢さんの大福を買って来て貰うことにした。
店員が顔見知りならまだ安心だろうと云う考えだ。
「あっ」
「!」
「…?にぃにいたとおもったのに」

流石僕の妹、察知能力が高い。


*****


その後何度も此方を振り返り、その度に必死で隠れる僕等。
「漸く着いたか」
「もう疲れたよ…」
「お前が疲れて如何する」
背中を叩かれ渋々立ち上がると、緊張しているのか店の前で財布を握り締める妹が目に入った。

「え、何あれ可愛い福沢さんカメラ!」
「大声を出すなバレるぞ」


*****


「あら妹ちゃん!一人かい?」
「こっ、こんにちは…」
中から見えたのか偶然か、店員が店から出て来た。
手に持っている財布を不思議そうに眺める。
「其の財布福沢さんのじゃないの?」
「うん、おつかい。せんせのだいふくかいにきたの」

「あらまあお使い!?大きくなったのねぇ!」


*****


店員に褒められて嬉しいのか体を揺らす妹が可愛い。
「今日は幾つにする?」
「えっと、せんせのと、にぃにの」
自分の名前を出さない妹に店員が数を確認すると
「かっていいかきいてないからかわない」
「あら、そうなのかい?」

「待て乱歩」
妹に駆け寄ろうとする僕の襟首を福沢さんが掴む。


*****


自分の大福が買えなくて悲しいのか、妹は心無しかしょんぼりしている。
買って良いよって云ってあげたい。
「はいお待たせ」
店員が包みを持って出て来た。
袋の中を確認した妹は首を傾げる。
「おばちゃん、いっこおおいよ」
「ああそれはね」

「お使い頑張ったからおばちゃんからのご褒美!」


*****


「いいの…?」
「うん、帰りも気を付けるんだよ」
「ありがとうおばちゃん!」
パァと花が咲いた様な満面の笑みを浮かべる妹が
「直視出来ないからカメラ変わって…」
「仕方の無い奴だ」
僕からカメラを渡された福沢さんは滑らかな手付きでカメラ構えた。

「そのカメラ連写機能あったっけ…」


*****


「ただいまー」
「お帰り。お買い物出来た?」
「う、うん…」
大はしゃぎで帰って来るかと思えば何だか歯切れの悪い返事。
「如何した 」
「あのね、だいふくもらった…」
「佳かったじゃないか。ちゃんとお礼云った?」
「うん、でも…」

「そのだいふくのおかねわたすのわすれちゃった…」


*****


一瞬何の事か解らず福沢さんと顔を見合わせる。
嗚呼そうか、此の子は貰った大福にもお金がいるんだと思ってるんだな。
「じゃあお兄ちゃんと一緒にもう一回和菓子屋さん行こっか」
「おつかいできなかった…」
「大丈夫、お前はちゃんとお使い出来たよ」

「ほら行くよ、しっかり手を繋いで」


*****


「勘違いさせて御免ね。あれはおばちゃんからの贈り物だったのよ」
だからお金は佳いのよ、と云う店員に吃驚する妹。
「福沢さんとお兄ちゃんと仲良く食べてね」
「ん!ありがとうおばちゃん!」
頭の切れる子だけど、まだまだ僕には及ばないな。

「さぁて、帰ってお八つにしよう!」


*****


「って事が昔あったんだよねぇ。あの時は可愛かったなぁ」
「へぇ、そんな事が…」
「一寸お兄ちゃん、事在る毎に其の話するの止めて」
呆れ顔の妹の頬を突くとますます不機嫌になる。
「今ではお兄ちゃんのお使いの方が怖いよ」
「云う様になったじゃないか」

「じゃあまた手を繋がなきゃね」



.
7/51ページ
スキ