壱頁完結物

「何度云えば解るんだい」
「だって皆忙しそうだったし…」
幾度となく一人で出掛けるなと云ってるのに妹は勝手に出掛ける事が稀にある。
「乱歩さんがお兄さんしてる…」
「敦、余りジロジロ見るな」
神経が尖ってるからか、外野の声もよく聞こえる。

「御免なさいは?」


*****


「…お向かいのお店に行っただけで其処まで怒らなくても」
「 口で僕に勝てると思ってるの?」
妹が口籠るのを見逃さず再度
「ほら、御免なさいは?」
しっかり見開いた目の先には社長室へと走る妹。
「私悪くないもん!お兄ちゃんなんか知らない!」

社長室の扉が乱暴に閉まった。


*****


「えっ、あれ?」
「ら、乱歩さん…」
予想外の事態に頭が真っ白になる。
何時もは素直に謝ってたのに…。
「どうせ社長に愚痴ったら直ぐに出てくるでしょ」
「ですが…」
平静を装って駄菓子を食べるも全く味がしないし喉も通らない。

此の儘嫌われ続けるなんて、有り得ない…よね?


*****


パソコンのキーを叩く以外音がしない探偵社で、僕の心臓はそろそろパンクしそうだ。
あれから数時間、一向に妹は出て来ない。
それに社長室からは声どころか物音さえもしない。
「国木田、妹って本当に社長室に入ったよね?」

僕は出来るだけゆっくりとお菓子を金庫に詰めて立ち上がった。


*****


「社長、入るよ」
ノックして返事を待たずに入る。
其処には仕事をする社長の膝の上で眠る妹の姿があった。
「乱歩、漸く来たのか」
「何で妹寝てるの」
「泣き疲れだ」
「…泣き疲れるまで泣くなら悪い事しなきゃ佳いのに」
呆れて溜め息を吐くと社長に手招きされた。

「其れなんだが乱歩」


*****


「お前は少し妹を信用しなさ過ぎるのではないか」
「…信用してないんじゃない、心配してるんだよ」
探偵社の皆の様な自分の身を護れる異能力を僕達兄妹は持ち合わせて居ないのだ。
「此れ以上妹が急に居なくなるなんて耐えられない」
「…そうか」

気落ちする僕の頭を社長が撫でてくれた。


*****


暫くして妹が起きた。
社長室に僕が居るのに驚いたのか急に立ち上がる。
「お兄ちゃん…あの」
「ねえ、今度から外に行くときは僕を連れてってよ。自分で駄菓子選びたいからさ」
絶対だよ、と念を押すと妹はやっと笑顔に戻ってくれた。
「しょうがないなぁ!」

其の喋り方、誰に似たんだか。



.
6/51ページ
スキ