短編
「初めまして、太宰さん」
目の前で挨拶する美女に目を奪われる。
うずまきの給仕さん以外余り見かけない袴姿がとても可憐で思わず手を取ると、驚いた顔も何と美しい事か。
此れは運命…
「僕の妹に心中の話なんてしないでよ、太宰」
表情の変わらない乱歩さんに初めてゾクリとした。
*****
「君さぁ、乱歩さんに嘘とか吐かないの?」
太宰さんが突飛な事を云うので眼を丸くする。
「云ってもバレます」
「其れもそうか」
太宰さんは立ち上がり、兄の横まで依り一言
「妹さん、恋人が出来たらしいですよ」
其の瞬間兄が顔面蒼白で飛んで来た。
「お兄ちゃん、嘘だよ」
*****
「だから御免って云ってるじゃん」
「駄目!今日は赦さない!」
昼下がりの探偵社に喧嘩の声が響く。
「あのお八つ楽しみにしてたのに!」
「もう一回購えば佳いじゃん」
「今日しか売ってないもん!」
「じゃあ今から行こう。次いでにデートしよ」
「乱歩さん…今就業時間中」
「云うな敦…」
*****
「頭がふらふらする…」
貧血で上手く歩けない私を誰かが支える。
「太宰さん…有難う御座います」
「顔色が悪いね、貧血かな」
「早く治まって欲しいです」
「其れなら佳い方法があるよ」
徐に私を抱き上げ、太宰さんは歩き出した。
「私と心中…」
「与謝野先生の処までお願いします」
*****
「大丈夫?」
「一寸休めば治るから…」
「乱歩さんは心配性だねぇ」
医務室で横になる私に付き添ってくれる兄。
そんなに重症でも無いのに手を握って心配そうに此方を見ている。
「でも佳かった」
「何が?」
「妹はまだお兄ちゃんのものって事だもんね!」
「お兄ちゃんたまに怖いよね」
*****
乱歩の妹が店先の猫と戯れているのを見掛けた。
羨ま…微笑ましい限りだが、猫は私を見た瞬間逃げてしまった。
内心ガッカリしていると、まだ腹位の高さの少女が寄って来て袖を引っ張る。
「せんせ?」
「如何した」
「にゃーん!」
「福沢さん、何固まってるの?」
「あ、にぃに!」
*****
私は軍警が嫌いだ。
そして同じ位
「異能特務課の坂口安吾です」
「太宰さん出番ですよ」
「またそうやって人を顎で使う」
政府も嫌いだ。
「毎度お馴染みですが流石に凹みますね」
「まあうちの姫に用事なら私が聞くよ。用件は何かな?」
其処から守ってくれる太宰さんは、ちょっとだけ好きだ。
*****
「お買い物の途中で可愛いねって褒められたの」
「ふーん?」
買い出しから帰って来た妹の発言に場の空気を凍らせる乱歩さん。
国木田さんの冷や汗が凄い。
「どんな人だった?」
「綺麗な髪の女の人で」
「…なぁんだ!まぁお前が可愛いのは僕が一番知ってるけど!」
全員が一命と取り留めた。
*****
「お兄ちゃん」
妹の愚図る声に目を覚ます。
「コワい夢見た…」
「よし、それじゃあ推理してあげよう」
鞄から眼鏡を出して硝子越しに不安そうな妹を見つめる。
「もう其の夢は見なくなるよ」
「ホント?」
「うん、お兄ちゃんと一緒に寝たらね」
「ホントに見なかった!」
「名探偵だからね!」
*****
バチン、と云う音と共に真っ暗になる部屋。
「停電!?」
「何も見えませんわ!」
慌てふためく探偵社で兄の呼ぶ声がする。
「此処だよ」
「あー居た、誰にも何もされてないね?」
「如何云うこと?」
「暗闇は危険だからね、お兄ちゃんから離れないで」
頷けば帽子をポフリと被せられた。
*****
「にぃに?」
「ん~、一寸待ってね」
推理小説が佳境に入ったから読むのが止めれなくて妹を待たせると、膨れっ面で胡座の中心に顔を突っ込んできた。
「わぁ!?何してんのさ!」
「にぃにあそんでくれない…」
「解った!解ったから其処に顔入れないで!」
妹とはいえ流石に意識するから!!
*****
「お兄ちゃん、私結婚するの」
白無垢を纏った妹に思わず眼鏡を掛ける。
如何推理しても嘘を吐いてる証拠が出て来ない。
「だ、誰と結婚するの…?」
チラリと動かした視線に釣られると、其処には紋付き袴を着た…
「何で社長なの!?」
僕の声に驚いたのか妹が台所から飛んで来た。
「…夢か」
*****
妹が迷子になった。
僕の推理では既に迷子センターに預けられているので其処に行くと、見知らぬ着流しの大人が一緒に居た。
「あ、お兄ちゃん!」
「手を離しちゃ駄目って云ったでしょ」
「ご免…でもね、叔父さんが助けてくれたの!」
「パパと呼んでも良いぞ」
「帰るよ!」
何だあの人…。
*****
「昨日社長と結婚する夢を見たんだ」
「お兄ちゃんが?」
「お前がだよ!」
目を擦ると白無垢の妹を思い出す。
とても綺麗だったけど、やっぱり誰にも見せたくない。
「お前は結婚したいと思う?」
「うーん、今はお兄ちゃんのお世話で手一杯だし」
じゃあこれからも手の掛かる兄で居よう。
*****
「ねるねるお菓子が食べたい」
「さっきので最後だよ」
空になった容器を持て余す兄はまだ食べ足りない様子。
「僕買って来ましょうか?」
「大丈夫ですよ」
「えー買って来てよ敦」
「じゃああのケヱキは先生と一緒に食べようかな」
「あっ、忘れてた!」
「妹の方が一枚上手だ…」
「云うな敦」
*****
「せんせ、にゃんこは?」
「此処に在るぞ」
乱歩が初めての給料で買った猫のぬいぐるみを大事にしている妹。
愛らしい顔つきの其れは無くすと大変なので普段は私が持っている。
「せんせもにゃんこすき?」
「猫は善いな」
「ちがうよ、にゃんこだよ」
「猫…」
「にゃんこ!」
「…にゃんこ」
*****
「にぃにおふろ」
「はいはい」
乱歩達が風呂に入るのを見届ける。
乱歩は妹が私と一緒に風呂に入るのをえらく嫌うのだ。
「にぃにくすぐったい!」
「こら暴れないの」
そんな声が聞こえ、心配で浴室を覗くと乱歩が驚いて妹を隠した。
「もう!福沢さんは妹の裸見ちゃ駄目なの!」
「…済まん」
*****
天気予報は晴れだと云って居たのに外は超豪雨。
「傘持って来て無いのに…」
「仕方無い。帰ったら直ぐお風呂入ろ」
「兄妹でお風呂ですか、佳いですね!」
賢治が口にした言葉に社内が騒然とする。
「え、乱歩さん…?」
「まさか一緒に…?」
「ん?兄妹で一緒にお風呂入って何が悪いのさ」
*****
「せんせ、あそぼ」
「嗚呼」
「せんせ、おべんきょ」
「嗚呼」
最近妹は私をよく呼ぶ。
きっと兄が仕事ばかりで寂しいのだろう。
だが膝を抱えて寝転がる乱歩が視界に入る。
「せんせ、えほん」
「そろそろ乱歩と遊んでやったら如何だ」
近寄る妹に「仕方無い」と云う其の顔は嬉しそうだった。
*****
「お兄ちゃん見てー」
「ん?…如何したの其れ」
医務室で与謝野さんに呼ばれていた妹が紅を差して帰って来た。
「流行の色なんだって!似合う?」
「うん似合うよ。でも…」
首を傾げる妹の頬を包み込む。
「おめかしはお兄ちゃんの前だけにしてね」
「やれやれ、乱歩さんは独占欲が強いねぇ」
*****
目の前で挨拶する美女に目を奪われる。
うずまきの給仕さん以外余り見かけない袴姿がとても可憐で思わず手を取ると、驚いた顔も何と美しい事か。
此れは運命…
「僕の妹に心中の話なんてしないでよ、太宰」
表情の変わらない乱歩さんに初めてゾクリとした。
*****
「君さぁ、乱歩さんに嘘とか吐かないの?」
太宰さんが突飛な事を云うので眼を丸くする。
「云ってもバレます」
「其れもそうか」
太宰さんは立ち上がり、兄の横まで依り一言
「妹さん、恋人が出来たらしいですよ」
其の瞬間兄が顔面蒼白で飛んで来た。
「お兄ちゃん、嘘だよ」
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「だから御免って云ってるじゃん」
「駄目!今日は赦さない!」
昼下がりの探偵社に喧嘩の声が響く。
「あのお八つ楽しみにしてたのに!」
「もう一回購えば佳いじゃん」
「今日しか売ってないもん!」
「じゃあ今から行こう。次いでにデートしよ」
「乱歩さん…今就業時間中」
「云うな敦…」
*****
「頭がふらふらする…」
貧血で上手く歩けない私を誰かが支える。
「太宰さん…有難う御座います」
「顔色が悪いね、貧血かな」
「早く治まって欲しいです」
「其れなら佳い方法があるよ」
徐に私を抱き上げ、太宰さんは歩き出した。
「私と心中…」
「与謝野先生の処までお願いします」
*****
「大丈夫?」
「一寸休めば治るから…」
「乱歩さんは心配性だねぇ」
医務室で横になる私に付き添ってくれる兄。
そんなに重症でも無いのに手を握って心配そうに此方を見ている。
「でも佳かった」
「何が?」
「妹はまだお兄ちゃんのものって事だもんね!」
「お兄ちゃんたまに怖いよね」
*****
乱歩の妹が店先の猫と戯れているのを見掛けた。
羨ま…微笑ましい限りだが、猫は私を見た瞬間逃げてしまった。
内心ガッカリしていると、まだ腹位の高さの少女が寄って来て袖を引っ張る。
「せんせ?」
「如何した」
「にゃーん!」
「福沢さん、何固まってるの?」
「あ、にぃに!」
*****
私は軍警が嫌いだ。
そして同じ位
「異能特務課の坂口安吾です」
「太宰さん出番ですよ」
「またそうやって人を顎で使う」
政府も嫌いだ。
「毎度お馴染みですが流石に凹みますね」
「まあうちの姫に用事なら私が聞くよ。用件は何かな?」
其処から守ってくれる太宰さんは、ちょっとだけ好きだ。
*****
「お買い物の途中で可愛いねって褒められたの」
「ふーん?」
買い出しから帰って来た妹の発言に場の空気を凍らせる乱歩さん。
国木田さんの冷や汗が凄い。
「どんな人だった?」
「綺麗な髪の女の人で」
「…なぁんだ!まぁお前が可愛いのは僕が一番知ってるけど!」
全員が一命と取り留めた。
*****
「お兄ちゃん」
妹の愚図る声に目を覚ます。
「コワい夢見た…」
「よし、それじゃあ推理してあげよう」
鞄から眼鏡を出して硝子越しに不安そうな妹を見つめる。
「もう其の夢は見なくなるよ」
「ホント?」
「うん、お兄ちゃんと一緒に寝たらね」
「ホントに見なかった!」
「名探偵だからね!」
*****
バチン、と云う音と共に真っ暗になる部屋。
「停電!?」
「何も見えませんわ!」
慌てふためく探偵社で兄の呼ぶ声がする。
「此処だよ」
「あー居た、誰にも何もされてないね?」
「如何云うこと?」
「暗闇は危険だからね、お兄ちゃんから離れないで」
頷けば帽子をポフリと被せられた。
*****
「にぃに?」
「ん~、一寸待ってね」
推理小説が佳境に入ったから読むのが止めれなくて妹を待たせると、膨れっ面で胡座の中心に顔を突っ込んできた。
「わぁ!?何してんのさ!」
「にぃにあそんでくれない…」
「解った!解ったから其処に顔入れないで!」
妹とはいえ流石に意識するから!!
*****
「お兄ちゃん、私結婚するの」
白無垢を纏った妹に思わず眼鏡を掛ける。
如何推理しても嘘を吐いてる証拠が出て来ない。
「だ、誰と結婚するの…?」
チラリと動かした視線に釣られると、其処には紋付き袴を着た…
「何で社長なの!?」
僕の声に驚いたのか妹が台所から飛んで来た。
「…夢か」
*****
妹が迷子になった。
僕の推理では既に迷子センターに預けられているので其処に行くと、見知らぬ着流しの大人が一緒に居た。
「あ、お兄ちゃん!」
「手を離しちゃ駄目って云ったでしょ」
「ご免…でもね、叔父さんが助けてくれたの!」
「パパと呼んでも良いぞ」
「帰るよ!」
何だあの人…。
*****
「昨日社長と結婚する夢を見たんだ」
「お兄ちゃんが?」
「お前がだよ!」
目を擦ると白無垢の妹を思い出す。
とても綺麗だったけど、やっぱり誰にも見せたくない。
「お前は結婚したいと思う?」
「うーん、今はお兄ちゃんのお世話で手一杯だし」
じゃあこれからも手の掛かる兄で居よう。
*****
「ねるねるお菓子が食べたい」
「さっきので最後だよ」
空になった容器を持て余す兄はまだ食べ足りない様子。
「僕買って来ましょうか?」
「大丈夫ですよ」
「えー買って来てよ敦」
「じゃああのケヱキは先生と一緒に食べようかな」
「あっ、忘れてた!」
「妹の方が一枚上手だ…」
「云うな敦」
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「せんせ、にゃんこは?」
「此処に在るぞ」
乱歩が初めての給料で買った猫のぬいぐるみを大事にしている妹。
愛らしい顔つきの其れは無くすと大変なので普段は私が持っている。
「せんせもにゃんこすき?」
「猫は善いな」
「ちがうよ、にゃんこだよ」
「猫…」
「にゃんこ!」
「…にゃんこ」
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「にぃにおふろ」
「はいはい」
乱歩達が風呂に入るのを見届ける。
乱歩は妹が私と一緒に風呂に入るのをえらく嫌うのだ。
「にぃにくすぐったい!」
「こら暴れないの」
そんな声が聞こえ、心配で浴室を覗くと乱歩が驚いて妹を隠した。
「もう!福沢さんは妹の裸見ちゃ駄目なの!」
「…済まん」
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天気予報は晴れだと云って居たのに外は超豪雨。
「傘持って来て無いのに…」
「仕方無い。帰ったら直ぐお風呂入ろ」
「兄妹でお風呂ですか、佳いですね!」
賢治が口にした言葉に社内が騒然とする。
「え、乱歩さん…?」
「まさか一緒に…?」
「ん?兄妹で一緒にお風呂入って何が悪いのさ」
*****
「せんせ、あそぼ」
「嗚呼」
「せんせ、おべんきょ」
「嗚呼」
最近妹は私をよく呼ぶ。
きっと兄が仕事ばかりで寂しいのだろう。
だが膝を抱えて寝転がる乱歩が視界に入る。
「せんせ、えほん」
「そろそろ乱歩と遊んでやったら如何だ」
近寄る妹に「仕方無い」と云う其の顔は嬉しそうだった。
*****
「お兄ちゃん見てー」
「ん?…如何したの其れ」
医務室で与謝野さんに呼ばれていた妹が紅を差して帰って来た。
「流行の色なんだって!似合う?」
「うん似合うよ。でも…」
首を傾げる妹の頬を包み込む。
「おめかしはお兄ちゃんの前だけにしてね」
「やれやれ、乱歩さんは独占欲が強いねぇ」
*****
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