先月、久し振りに顔を合わせた母に、新しい男が出来たとスマホにいる陽太郎を紹介した。初対面で「なすときゅうりなら、どっちの気分ですか？」と聞く陽太郎に対し、母は「え〜、じゃあなす！」と言ったのでなすを選択した。すると、「焼いてくれるって 笑！！」と大興奮していた。

ガラケー時代にどハマりしていた『恋人はキャプテン』という乙女ゲームでは、サッカー部の風間に翻弄される日々を過ごし、弟に「今日の風間」と題して、母が夕飯の支度をしている間、手伝いもせずダイニングテーブルにて風間との出来事を聞いてもらっていた。それを聞いていた母は私に彼氏が出来たと勘違いしていたらしく、「今日の風間」を始めてからしばらく経ったある日、「ママにも紹介してよ」と言ってきたことがあった。
お望み通り台所に立つ母にケータイ画面を見せて風間を紹介すると、「今まで話してたのってこれのこと！？やだもー！！」と漫画のように膝から崩れ落ちた。そんな母の姿を見て、私と弟は腹を抱えて笑った。母は力無く笑いながら、「そんなに楽しいならママも始めようかな…」と言ったので、名前を忘れてしまったが柔道部のキャプテンをオススメしておいた。

母はオタクではなく、今で言うところの陽キャ(あまりこの表現は好きではないが)と呼ばれる類の人間だが、実はシャンクスのガチ恋拗らせ夢女だ。そういう人種がいることを知らないので、おそらく自覚はしていない。

毎年夏休みにお台場で開催されているイベントにも家族で参加し、メリー号に乗ったりグッズを買い込んだりとはしゃぎ倒した。一番はしゃいでいたのは他でもない母で、我先にとフォトスポットへと駆け出し、フォトスポットの段差で躓いてスネを強打していた。これぞ名誉の負傷。

母は現在も自分はシャンクスの妻であると言い張っており、ウタがシャンクスの娘という情報を初めて仕入れた時には、相手はどこの女だとブチギレていた。シャンクスほどの大物ならば女の一人や二人いてもおかしくないとなだめたが、なかなかにうるさかったのでネタバレして事なきを得た。私はもうすでに計二回鑑賞済みだったので、弟と一緒に映画館に行ったとか行っていないとか。かくいう私もルフィに抱きつき、突然ルフィの幼少期に割って入ってきたウタに腹を立てて文句を言っていたので、母のことは言えない。

そんな母と私は容姿が全く似ておらず、一緒にいて親子だと認識されたことはなく大変驚かれる。太ましい外見は父方の方の遺伝子を濃く引き継ぎ、夢見がちなところと忘却力は母方の遺伝子を濃く引き継いだようだ。
ちなみに親族の中で私はまだまともな方で、母は私の倍はぶっ飛んでいる。

そんな母は日本語がおぼつかない為、勤め先の若者男子たちに「チャン・ジュン」と呼ばれている。名前がじゅんこで、若者女子たちからは「じゅんちゃん」と呼ばれているからだ。これを超える的確なあだ名をつけるのは、全盛期の有吉弘行とて難しいだろう。それからおっちょこちょいを通り越し、おっちょこぴーとも言われている。この前はリトグリのことを「ほら、なんだっけ、若くて五人くらいいる阿佐ヶ谷姉妹！」と言っていた。

そんな母は三姉妹の末っ子で、姉二人もそれぞれぶっ飛んでいるし、その母である祖母は言わずもがなカリスマ級にぶっ飛んでいる。全員揃うと収集がつかず、奇行とおかしな言動にツッコミが追いつかない為、我々子ども連中はただひたすらに腹をよじらせる事しかできなかった。
なおそのスペクタクルな世界観を各々で収めた写真や動画はいとこたちとアルバムで共有しており、今でも度々更新されている。

最近追加されたのは、遠方に住む私の育ての母である母の長女、つまり叔母(職業：クラブのママ)が仕事を終えて帰宅し、寝る準備をしながら疲れ果てた様子で「ママのデブの原因分かる？体が脂肪をつけようとしてんのさ。」と従妹に話し、従妹が「で、原因は何なの？」聞くと「冷え冷え。」と吐き捨てて秒で寝る、という動画だった。

母方の女たちは波乱万丈に生きており、非常に強く逞しく情に厚い。その生き様はまさにケ・セラ・セラ。死ぬこと以外はかすり傷。私もできればそうありたいが、チケットの当落や公式の供給で簡単に情緒がヘブンとヘルを行ったり来たりするので、どうやらその道程は険しそうだ。