雨の日の過ごし方
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日は朝から大雨で、昼前には畑の養生も掃除も何もかもがすぐ終わり、私も陽太郎も珍しく暇を極めていた。
雨の音を聞きながら、居間でのんびりふたりでお茶をすすっていると、ようやく虎が起きてきた。
「おはよう。なんだお前ら、ずいぶん暇そうではないか。」
「おはよう虎。朝ごはんそこにあるから。って言っても、もうお昼近くだけどな。」
「雨の日はどうも眠くてかなわん。さて、今日のおかずは何かな~?」
いそいそと私の隣に座った虎がおひつを開けると、ご飯の匂いがした。単純ながら途端に小腹が空いてくる。
虎の分のお茶の用意と、ついでになにかつまめるものでも探しに台所に行くと、袋に入った小豆が目に入った。
もうすぐお昼ご飯だし、つまむのは我慢してこれで遊ぶか。
そう思い立って、小豆をざざっと適量皿に移す。もう一枚お皿を用意し、箸を一膳と虎のお茶をおぼんに乗せて、居間へと戻った。
「小豆……?生ですけど、このまま食べるんですか?」
陽太郎が不思議そうにおぼんの中を覗き込んで、訝しげに言った。
虎の前にお茶を置き、陽太郎の前に皿を並べる。
「十から零まで数える間に、箸で小豆を何粒移動できるか競わない?」
「なるほど…面白そうですね!やりましょう!」
では陽太郎からと箸を渡すと、座りなおして姿勢を正し
「いつでもどうぞ。」
箸をすっと構えた。所作が大変美しい。
「いくよ?」
言った後、一呼吸置いて十から数え始める。
すると、陽太郎はものすごい集中力で、皿から皿へ次々に小豆を移動させていった。
最初こそ少し手が震えていたものの、すぐに調子を上げた。あっという間に空の皿が小豆で埋め尽くされていく。
三からの速さは目を見張るほどで、食事中の虎も「なかなかやるな」と呟いていた。
零まで数えて終わりを告げると、陽太郎は箸を置いて、ふーっと息を吐きながら肩の力を抜いた。
移動させた小豆を数えると、十八粒あった。これが多いか少ないのかはここにいる誰も分からないけど、きっといい記録に違いないので、とりあえず大きな拍手を送った。
「次はおれのかわいい子豚さんの番ですね。」
陽太郎から皿と箸を受け取って、私も姿勢を正す。
肩を回しながら心を落ち着かせ、いつでもどうぞと言って、目の前の小豆に全神経を注いだ。
「ではいきますよ。」
すっと箸を構える。所作は気にしていられない。
陽太郎がすぅっと息を吸い、数を数え始めた。
「十…」
声が発せられたのとほぼ同時に、小豆を掴みにいけた。しかし、思っていたよりも滑り、全然うまく掴めない。
陽太郎が随分簡単そうにやっていたので、私も同じくらいできるかと思っていた。完全に小豆を甘く見ていた。
それでも七を過ぎたあたりからコツが分かってきて、ゆっくりだけど、掴んで移せるようになってきた。
今から陽太郎の記録に追いつくのは絶対に無理だけど、最後まで手を抜きたくない。
諦めずに気合を入れて小豆を一生懸命運んでいると、四を耳にしたあたりから、視界の端で虎の手が、移し終えた小豆を皿から取っていったのが見えた。それからポリポリと音がする。
もしかして、食べてる?
移したはずの小豆が次々と消えていき、ついに移たそばから消えるようになって、一と零では皿ではなく、皿の上に出された虎の手に小豆を置いていた。
「虎…せっかくおれのかわいい子豚さんが頑張って移したのに、食べちゃダメだろ?」
「す、すまん!我慢できなくてつい…」
「移した小豆の数は一応数えてましたけど、もう一回やりなおしますか?」
そう言った陽太郎の口元は緩んでいて、今にも笑い出しそうだった。虎も虎で、小豆を欲しそうにこちらを見ている。
たまらず吹き出して、これではもうできそうにないので箸を置いた。
「おれから見てると餅つきみたいに息ぴったりだったんですけど、おれのかわいい子豚さんは途中から虎に食べられてることに気づいてたんですか?」
「視界の端で、なんとなくだけど。」
「気づいててあんなに一生懸命…最後の方なんて虎の手に直接……ふっ」
陽太郎は言ってる途中で、ついに笑い出した。
私も視界に入っていた光景を思い出し、つられて声を出して笑った。
虎も堂々と小豆をつまみながら、何が面白いのか笑い出し、何粒か口から落としていた。
一度笑い出すと目にするすべてがおかしく見えて、やがて雨の音が聞こえなくなるほど、居間が笑い声でいっぱいになった。
ー完ー
【あとがき】
日常の一コマを書きたかったんだと思います。
雨の音を聞きながら、居間でのんびりふたりでお茶をすすっていると、ようやく虎が起きてきた。
「おはよう。なんだお前ら、ずいぶん暇そうではないか。」
「おはよう虎。朝ごはんそこにあるから。って言っても、もうお昼近くだけどな。」
「雨の日はどうも眠くてかなわん。さて、今日のおかずは何かな~?」
いそいそと私の隣に座った虎がおひつを開けると、ご飯の匂いがした。単純ながら途端に小腹が空いてくる。
虎の分のお茶の用意と、ついでになにかつまめるものでも探しに台所に行くと、袋に入った小豆が目に入った。
もうすぐお昼ご飯だし、つまむのは我慢してこれで遊ぶか。
そう思い立って、小豆をざざっと適量皿に移す。もう一枚お皿を用意し、箸を一膳と虎のお茶をおぼんに乗せて、居間へと戻った。
「小豆……?生ですけど、このまま食べるんですか?」
陽太郎が不思議そうにおぼんの中を覗き込んで、訝しげに言った。
虎の前にお茶を置き、陽太郎の前に皿を並べる。
「十から零まで数える間に、箸で小豆を何粒移動できるか競わない?」
「なるほど…面白そうですね!やりましょう!」
では陽太郎からと箸を渡すと、座りなおして姿勢を正し
「いつでもどうぞ。」
箸をすっと構えた。所作が大変美しい。
「いくよ?」
言った後、一呼吸置いて十から数え始める。
すると、陽太郎はものすごい集中力で、皿から皿へ次々に小豆を移動させていった。
最初こそ少し手が震えていたものの、すぐに調子を上げた。あっという間に空の皿が小豆で埋め尽くされていく。
三からの速さは目を見張るほどで、食事中の虎も「なかなかやるな」と呟いていた。
零まで数えて終わりを告げると、陽太郎は箸を置いて、ふーっと息を吐きながら肩の力を抜いた。
移動させた小豆を数えると、十八粒あった。これが多いか少ないのかはここにいる誰も分からないけど、きっといい記録に違いないので、とりあえず大きな拍手を送った。
「次はおれのかわいい子豚さんの番ですね。」
陽太郎から皿と箸を受け取って、私も姿勢を正す。
肩を回しながら心を落ち着かせ、いつでもどうぞと言って、目の前の小豆に全神経を注いだ。
「ではいきますよ。」
すっと箸を構える。所作は気にしていられない。
陽太郎がすぅっと息を吸い、数を数え始めた。
「十…」
声が発せられたのとほぼ同時に、小豆を掴みにいけた。しかし、思っていたよりも滑り、全然うまく掴めない。
陽太郎が随分簡単そうにやっていたので、私も同じくらいできるかと思っていた。完全に小豆を甘く見ていた。
それでも七を過ぎたあたりからコツが分かってきて、ゆっくりだけど、掴んで移せるようになってきた。
今から陽太郎の記録に追いつくのは絶対に無理だけど、最後まで手を抜きたくない。
諦めずに気合を入れて小豆を一生懸命運んでいると、四を耳にしたあたりから、視界の端で虎の手が、移し終えた小豆を皿から取っていったのが見えた。それからポリポリと音がする。
もしかして、食べてる?
移したはずの小豆が次々と消えていき、ついに移たそばから消えるようになって、一と零では皿ではなく、皿の上に出された虎の手に小豆を置いていた。
「虎…せっかくおれのかわいい子豚さんが頑張って移したのに、食べちゃダメだろ?」
「す、すまん!我慢できなくてつい…」
「移した小豆の数は一応数えてましたけど、もう一回やりなおしますか?」
そう言った陽太郎の口元は緩んでいて、今にも笑い出しそうだった。虎も虎で、小豆を欲しそうにこちらを見ている。
たまらず吹き出して、これではもうできそうにないので箸を置いた。
「おれから見てると餅つきみたいに息ぴったりだったんですけど、おれのかわいい子豚さんは途中から虎に食べられてることに気づいてたんですか?」
「視界の端で、なんとなくだけど。」
「気づいててあんなに一生懸命…最後の方なんて虎の手に直接……ふっ」
陽太郎は言ってる途中で、ついに笑い出した。
私も視界に入っていた光景を思い出し、つられて声を出して笑った。
虎も堂々と小豆をつまみながら、何が面白いのか笑い出し、何粒か口から落としていた。
一度笑い出すと目にするすべてがおかしく見えて、やがて雨の音が聞こえなくなるほど、居間が笑い声でいっぱいになった。
ー完ー
【あとがき】
日常の一コマを書きたかったんだと思います。
1/2ページ