視線の先は
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お昼時のちょうど少し前、村長の奥さんが大量のてんぷらを差し入れに来てくれた。
釣好きのおじさんから大量にもらったという海の幸と、先日おれがお裾分けした野菜で作った天ぷらだそうだ。
せっかくの揚げたてなので、そのままお昼ご飯に出すことにした。
虎は海老の天ぷらが気に入ったらしく、自分の分を食べ終えるとものすごく残念そうにしていた。
見るに見兼ねておれの分を一本あげると、おれのかわいい子豚さんも「私のもあげる!」と言って、虎に海老を一本あげた。
その様子を微笑ましく見ていると、ふと、天ぷらの油でつやつやとしたおれのかわいい子豚さんの唇が目に入った。
口元がかわいらしいなと思うことは今までに何度もあったけど、つやを纏ったことによって、食べる時の唇の動きを艶かしいものにし、よりいっそう魅力的に見える。
じろじろ見るのは良くないと思いながらも、天ぷらを挟んでは油に濡れるおれのかわいい子豚さんの唇から目が離せない。
「どうしたの?あ、穴子欲しいんでしょ?」
言われてようやく、唇から目を離す。
あまりに見すぎて、穴子を狙っていると思われてしまった。
欲しいのは穴子ではなくあなたの唇ですなんて、絶対に言えない。
「いえ、美味しそうに食べるなと思って。見すぎでしたよね…ごめんなさい。」
「ううん。私もいつも、二人がもりもり食べてるのつい見ちゃうから。それにしてもサクサクで美味しいね!ん?なにこの大葉。」
「海老の礼だ!」
「えー?かぼちゃがいいんだけど。」
こんなに和やかな食事中に、何を考えてるんだおれは…。
下心を持って不躾に見てしまったことを反省し、お詫びにかぼちゃをおれのかわいい子豚さんのお皿に乗せて、目の前の天ぷらに集中することにした。
食事が終わると、おれのかわいい子豚さんは油に濡れた口を拭いてから、全員分の食器を下げに行った。ついでに食後のお茶を淹れてくれるらしい。
あんまり口元を見てしまわないよう気をつけよう。油は取れたから、きっと大丈夫なはず。
そう自分に言い聞かせて、雑念を払うように食卓を拭いた。
****
豪華なお昼ご飯の後の縁側で、濃いめのお茶を飲みながらの話題は、「天ぷらにしたら意外と美味しそうな食材」だ。
各々思いつくままに言っていき、ああでもないこうでもないと盛り上がりを見せているけど…。
陽太郎が私の鼻の下らへんを、すごい見てくる。
結構頻繁にチラチラ見てくるけど、私の鼻から何か出てるのだろうか。それとも口周りの産毛の処理が甘かったのだろうか。歯に何か付いている可能性もあるし、急に人中が気になり出したということも考えられる。
今すぐ鏡が見たい。
「きゃらめるの天ぷらはどうだ?」
「キャラメルか…溶けちゃわない?」
たしかにーとか言いながら、自然に席を立てる間合いを探りつつ、指の背をできるだけ自然に使い、鼻から出てるかもしれない何かを押し戻す。
押しすぎてブタっ鼻にならないよう力加減を調節し、鼻から出ているかもしれない何かを、なんとなくで押し戻す。
成功したかしてないかは、陽太郎の視線が教えてくれるはず。
「うーん。ではいっそおにぎりを天ぷらにするのはどうだ?」
「あぁ、それはいいかもな。大きささえ気を付ければ作れるかも。具は何でも大丈夫そうだけど…おれのかわいい子豚さんはどう思いますか?」
また見た。手を離した隙に、ほんの一瞬だけど、私の鼻の下らへんを確認した。
もしかして、変にいじって余計悪化してしまったのだろうか。もしそうなら一刻を争う。見ている方も相当気まずいはず。
うん、食べごたえもありそうでいいね、なんて気のない返事をしていると、玄関から陽太郎を呼ぶ声がした。
不意に絶好の機会が訪れた。神は私を見放さなかった。
「ちょっと行ってきますね。」
鼻を隠しながら陽太郎を見送り、完全に姿が見えなくなった後、私を見上げている虎に私の顔に何かついているか訪ねた。
「目と鼻と口がついておるな。」
まぁそうだよねという答えが返ってきた。遊んでる場合ではない。
「私もちょっと外すね。すぐ戻るから。」
這うように立ち上がり、急いで自分の部屋へ駆け込んだ。
鏡に顔を近づけて、ありとあらゆる角度で見ても、毛に関しては問題なさそうだった。鼻くそもひらついてなければ歯にも何も付いていない。
となると、やっぱり人中か。
退屈でついてきたのか、後ろから虎が「おい、にらめっこするなら相手になるぞ?」と言っているのを聞き流しながら鏡台を漁ると、花飾りの付いた髪留めを見つけた。これだ、と思った。
服装には全く合ってないけど、少しでも人中から陽太郎の気を逸らせるように、耳の上らへんにしっかり留める。
そそれから引き出しから飴を出し、虎に今見た一人にらめっこの口止めをして、急いで縁側に戻った。
****
来客の対応から戻ると、おれのかわいい子豚さんがおしゃれな髪飾りをしていた。
この数分の間に、どんな心境の変化があったのだろうか。
「それ、似合ってますね。かわいいです。」
率直な感想を言うと、おれのかわいい子豚さんはご婦人がするように口元に手を当てて上品に笑い、控えめにありがとうと言った。
ごっこ遊びかなにかしているのかと思って虎を見ると、嬉しそうに口をもごもごさせていた。
「虎は何を食べてるんだ?」
「飴だ!」
「おれのかわいい子豚さんにもらったのか?」
「…………拾った!」
あやしい。二人共あやしすぎる。
おれが席を外ている間に、なにか企みを思いついたのかもしれない。
「おれのかわいい子豚さん。おれがいない間、なにか変わったことはありませんでしたか?」
「なにもありませんよ。ねぇ?」
「あぁ、変わったことなど何もないぞ?」
「そう…ですか?」
少し冷めてしまったお茶をすすりながら二人をよく観察していると、おれのかわいい子豚さんの動きがいつもと違うことに気がついた。
ずっと手を口元に当てているし、話しかけると頭を小さく振って髪飾りを揺らす。
とにかくどこよりも髪飾りを見てほしい。そんな感じが伝わってくる。
「その髪飾り、本当によく似合ってますね。大きめのお花が目を引きます。お気に入りなんですか?」
「そうなの。素敵でしょ?もっとよく見て。」
このお花に何か秘密があるのだろうか。
言われたとおりよく見てみても、仕掛けとかそういうものは無さそうだけど……。
こうしている間も、おれのかわいい子豚さんはずっと口元を手で隠している。そっちの方が気になる。
………そうか、おれがさっき見てたからだ。
虎が飴を食べてる理由はこの際置いといて、おれのせいで不快にさせたのに、変に疑ってしまったことを申し訳なく思った。
****
陽太郎の意識を人中から逸らすことには成功したようだけど、その代わりに急に落ち込み始めた。
しゅんと肩を落とし、ずっと湯呑みの中を見つめている。
必死になりすぎて、仲間はずれにしたような感じになってしまったかもしれない。こんなに悲しい顔をさせるくらいなら、恥なんて捨てよう。
気の済むまで隙なだけ、人中を見せてあげよう。
そっと手を外し、陽太郎の顔を覗き込む。
そして
「陽太郎。隠しちゃってごめんね。感じ悪かったよね。」
堂々と人中を晒して謝った。
「いえ、謝るのはおれの方です。つい唇を見つめてしまって…。気持ち悪かったですよね?」
私は耳を疑った。
「えっ、なんて??唇???」
「てんぷらを食べてた時の、油でつやつやしたおれのかわいい子豚さんの唇が…その……すごく色っぽくて…。やっぱり口元が魅力的だなって思ったら、話してる時もつい目がいってしまって……気をつけてたつもりだったんですけど、本当にごめんなさい。」
陽太郎は耳まで赤くして、まだ肩を落としたまま申し訳無さそうに謝った。
“――色っぽい”
その言葉に舞い上がったのもつかの間、判明した予想外の真実にどっと力が抜けていく。
それならそうと言ってくれればよかったのに。
天ぷらにしたら美味しそうなもの選手権に、もっとちゃんと参加したかった…。
「陽太郎はむっつりというやつだな。」
「はぁ…今回ばかりは言い返せないよ。」
「そういうことなら大歓迎だから、今度からちゃんと言ってね?」
「大歓迎……わかりました。次からはちゃんと言いますね。」
誤解も解けたところで
「さて、午後も頑張りましょうか。」
気持ちを切り替えて気合いを入れ直し、陽太郎は畑へ、私は台所へと向かうのであった。
ー完ー
【あとがき】
初めて書いたえんだんの夢小説がこれです。
夢小説を書くこと自体が億年ぶりだったので、まぁしょうがないよねって感じでございます。
釣好きのおじさんから大量にもらったという海の幸と、先日おれがお裾分けした野菜で作った天ぷらだそうだ。
せっかくの揚げたてなので、そのままお昼ご飯に出すことにした。
虎は海老の天ぷらが気に入ったらしく、自分の分を食べ終えるとものすごく残念そうにしていた。
見るに見兼ねておれの分を一本あげると、おれのかわいい子豚さんも「私のもあげる!」と言って、虎に海老を一本あげた。
その様子を微笑ましく見ていると、ふと、天ぷらの油でつやつやとしたおれのかわいい子豚さんの唇が目に入った。
口元がかわいらしいなと思うことは今までに何度もあったけど、つやを纏ったことによって、食べる時の唇の動きを艶かしいものにし、よりいっそう魅力的に見える。
じろじろ見るのは良くないと思いながらも、天ぷらを挟んでは油に濡れるおれのかわいい子豚さんの唇から目が離せない。
「どうしたの?あ、穴子欲しいんでしょ?」
言われてようやく、唇から目を離す。
あまりに見すぎて、穴子を狙っていると思われてしまった。
欲しいのは穴子ではなくあなたの唇ですなんて、絶対に言えない。
「いえ、美味しそうに食べるなと思って。見すぎでしたよね…ごめんなさい。」
「ううん。私もいつも、二人がもりもり食べてるのつい見ちゃうから。それにしてもサクサクで美味しいね!ん?なにこの大葉。」
「海老の礼だ!」
「えー?かぼちゃがいいんだけど。」
こんなに和やかな食事中に、何を考えてるんだおれは…。
下心を持って不躾に見てしまったことを反省し、お詫びにかぼちゃをおれのかわいい子豚さんのお皿に乗せて、目の前の天ぷらに集中することにした。
食事が終わると、おれのかわいい子豚さんは油に濡れた口を拭いてから、全員分の食器を下げに行った。ついでに食後のお茶を淹れてくれるらしい。
あんまり口元を見てしまわないよう気をつけよう。油は取れたから、きっと大丈夫なはず。
そう自分に言い聞かせて、雑念を払うように食卓を拭いた。
****
豪華なお昼ご飯の後の縁側で、濃いめのお茶を飲みながらの話題は、「天ぷらにしたら意外と美味しそうな食材」だ。
各々思いつくままに言っていき、ああでもないこうでもないと盛り上がりを見せているけど…。
陽太郎が私の鼻の下らへんを、すごい見てくる。
結構頻繁にチラチラ見てくるけど、私の鼻から何か出てるのだろうか。それとも口周りの産毛の処理が甘かったのだろうか。歯に何か付いている可能性もあるし、急に人中が気になり出したということも考えられる。
今すぐ鏡が見たい。
「きゃらめるの天ぷらはどうだ?」
「キャラメルか…溶けちゃわない?」
たしかにーとか言いながら、自然に席を立てる間合いを探りつつ、指の背をできるだけ自然に使い、鼻から出てるかもしれない何かを押し戻す。
押しすぎてブタっ鼻にならないよう力加減を調節し、鼻から出ているかもしれない何かを、なんとなくで押し戻す。
成功したかしてないかは、陽太郎の視線が教えてくれるはず。
「うーん。ではいっそおにぎりを天ぷらにするのはどうだ?」
「あぁ、それはいいかもな。大きささえ気を付ければ作れるかも。具は何でも大丈夫そうだけど…おれのかわいい子豚さんはどう思いますか?」
また見た。手を離した隙に、ほんの一瞬だけど、私の鼻の下らへんを確認した。
もしかして、変にいじって余計悪化してしまったのだろうか。もしそうなら一刻を争う。見ている方も相当気まずいはず。
うん、食べごたえもありそうでいいね、なんて気のない返事をしていると、玄関から陽太郎を呼ぶ声がした。
不意に絶好の機会が訪れた。神は私を見放さなかった。
「ちょっと行ってきますね。」
鼻を隠しながら陽太郎を見送り、完全に姿が見えなくなった後、私を見上げている虎に私の顔に何かついているか訪ねた。
「目と鼻と口がついておるな。」
まぁそうだよねという答えが返ってきた。遊んでる場合ではない。
「私もちょっと外すね。すぐ戻るから。」
這うように立ち上がり、急いで自分の部屋へ駆け込んだ。
鏡に顔を近づけて、ありとあらゆる角度で見ても、毛に関しては問題なさそうだった。鼻くそもひらついてなければ歯にも何も付いていない。
となると、やっぱり人中か。
退屈でついてきたのか、後ろから虎が「おい、にらめっこするなら相手になるぞ?」と言っているのを聞き流しながら鏡台を漁ると、花飾りの付いた髪留めを見つけた。これだ、と思った。
服装には全く合ってないけど、少しでも人中から陽太郎の気を逸らせるように、耳の上らへんにしっかり留める。
そそれから引き出しから飴を出し、虎に今見た一人にらめっこの口止めをして、急いで縁側に戻った。
****
来客の対応から戻ると、おれのかわいい子豚さんがおしゃれな髪飾りをしていた。
この数分の間に、どんな心境の変化があったのだろうか。
「それ、似合ってますね。かわいいです。」
率直な感想を言うと、おれのかわいい子豚さんはご婦人がするように口元に手を当てて上品に笑い、控えめにありがとうと言った。
ごっこ遊びかなにかしているのかと思って虎を見ると、嬉しそうに口をもごもごさせていた。
「虎は何を食べてるんだ?」
「飴だ!」
「おれのかわいい子豚さんにもらったのか?」
「…………拾った!」
あやしい。二人共あやしすぎる。
おれが席を外ている間に、なにか企みを思いついたのかもしれない。
「おれのかわいい子豚さん。おれがいない間、なにか変わったことはありませんでしたか?」
「なにもありませんよ。ねぇ?」
「あぁ、変わったことなど何もないぞ?」
「そう…ですか?」
少し冷めてしまったお茶をすすりながら二人をよく観察していると、おれのかわいい子豚さんの動きがいつもと違うことに気がついた。
ずっと手を口元に当てているし、話しかけると頭を小さく振って髪飾りを揺らす。
とにかくどこよりも髪飾りを見てほしい。そんな感じが伝わってくる。
「その髪飾り、本当によく似合ってますね。大きめのお花が目を引きます。お気に入りなんですか?」
「そうなの。素敵でしょ?もっとよく見て。」
このお花に何か秘密があるのだろうか。
言われたとおりよく見てみても、仕掛けとかそういうものは無さそうだけど……。
こうしている間も、おれのかわいい子豚さんはずっと口元を手で隠している。そっちの方が気になる。
………そうか、おれがさっき見てたからだ。
虎が飴を食べてる理由はこの際置いといて、おれのせいで不快にさせたのに、変に疑ってしまったことを申し訳なく思った。
****
陽太郎の意識を人中から逸らすことには成功したようだけど、その代わりに急に落ち込み始めた。
しゅんと肩を落とし、ずっと湯呑みの中を見つめている。
必死になりすぎて、仲間はずれにしたような感じになってしまったかもしれない。こんなに悲しい顔をさせるくらいなら、恥なんて捨てよう。
気の済むまで隙なだけ、人中を見せてあげよう。
そっと手を外し、陽太郎の顔を覗き込む。
そして
「陽太郎。隠しちゃってごめんね。感じ悪かったよね。」
堂々と人中を晒して謝った。
「いえ、謝るのはおれの方です。つい唇を見つめてしまって…。気持ち悪かったですよね?」
私は耳を疑った。
「えっ、なんて??唇???」
「てんぷらを食べてた時の、油でつやつやしたおれのかわいい子豚さんの唇が…その……すごく色っぽくて…。やっぱり口元が魅力的だなって思ったら、話してる時もつい目がいってしまって……気をつけてたつもりだったんですけど、本当にごめんなさい。」
陽太郎は耳まで赤くして、まだ肩を落としたまま申し訳無さそうに謝った。
“――色っぽい”
その言葉に舞い上がったのもつかの間、判明した予想外の真実にどっと力が抜けていく。
それならそうと言ってくれればよかったのに。
天ぷらにしたら美味しそうなもの選手権に、もっとちゃんと参加したかった…。
「陽太郎はむっつりというやつだな。」
「はぁ…今回ばかりは言い返せないよ。」
「そういうことなら大歓迎だから、今度からちゃんと言ってね?」
「大歓迎……わかりました。次からはちゃんと言いますね。」
誤解も解けたところで
「さて、午後も頑張りましょうか。」
気持ちを切り替えて気合いを入れ直し、陽太郎は畑へ、私は台所へと向かうのであった。
ー完ー
【あとがき】
初めて書いたえんだんの夢小説がこれです。
夢小説を書くこと自体が億年ぶりだったので、まぁしょうがないよねって感じでございます。
1/1ページ