冗談
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お昼休憩を終え、台所に入ってレシピとにらめっこしているときだった。
玄関から「ごめんください。」と、品があって凛とした声がした。
はーいと返事をして出ると、思った通り村長の奥様だった。
仲良く食べてねと渡されたのは、なんとシュークリーム。
箱の隙間から漂ってくる香ばしい生地の香りと甘いクリームの香りに胸をときめかせ、お礼に野菜ジュースと処理済みの落花生と渡した。
シュークリームなんて滅多にお目にかかれない。心の中で何度も奥様に感謝しながらいそいそとお茶を淹れていると、甘い匂いに釣られたのであろう虎がすっ飛んで来た。
「すんすん…この甘いニオイ…けえきとはまた違う、我の心を掴んで離さないこのニオイ…じゅるっ。おれのかわいい子豚、それは一体……」
「ふっふっふ~縁側でのお楽しみ!すぐ用意するから、陽太郎呼んできてくれる?」
「任せろ!今すぐ連れてくる!」
ぴゅんとすっ飛んでいった虎の後ろ姿を見送ったあと、お茶とおしぼりを用意して、うきうきしながら箱を開けると、シュークリームが三つ入っていた。
やっぱりわかってるんだなとぐっときて、その気遣いに胸がじんとする。本当に、頭が上がらない。
心のなかでもう一度深くお礼をしてから、シュークリームをお皿に移しにかかる。
手に持つとずっしりと重く、思わず歓喜の声が出る。これはもしかしなくてもクリームたっぷりなやつ。心が踊るとはまさにこのこと。二人も絶対喜ぶはず。
わくわくしながらお盆を持って縁側へ行くと、陽太郎も虎も揃っていた。
「村長の奥さんからですか?」
「そう。すごいの頂いちゃった。しかも…」
“虎の分もあるんだよ。”
口にはしないけど、陽太郎は察してくれた。
「……あとでお礼しないとな。」
「そうだね。顔見せに行こうね。」
ちょっと泣きそうになりながら、シュークリームを乗せたお皿を置いていく。虎は頬に手を当てて目をキラキラと輝かせ、「ほぁぁぁ~……」とうっとりしたため息をついた。私よりもよっぽど女子らしい反応をしている。
「このもこもこした形…!情報誌で見たことあるぞ!えっと…アレだ、しゅうくりいむだ!!」
「これって、カフェーとかにあるやつですよね?おれも実物を見るのは初めてです。結構大きいんですね。」
「なぁなぁ!はやく食べよう!」
「そうだね!ではご一緒に、」
三人揃って手を合わせていただきますをした後、いよいよ各々シュークリームにかぶりつく。
「んふぅ…この香ばしい生地、ひと度噛めば甘くて濃厚なくりいむが口の中でとろけて…た・ま・ら・ん!」
虎は至福に打ち震え、口の周りについたクリームを舌でぺろりと舐めた。的確な感想にうんうん頷きながら大事に味わうと、和菓子の甘味とはまた違う甘さが口の中いっぱいに広がって、疲れた体に沁み渡っていく。
陽太郎はすでに二口目に突入していて、一口が大きいからか、横からクリームが溢れていた。
「おいしいけど、食べるのが難しいですね。」
そう言って、シュークリームを片手に持ち替えてお皿を持った。
少し下を向きながら食べてみると、クリームがぼとりと横から落ちてしまっていた。指にもついている。
苦戦しつつも食べる手が止まらない様子の陽太郎。その姿を眺めながら食べるシュークリームの、なんと美味しいことでしょう。
陽太郎は早くも最後の一口を口に入れ、指についているクリームをぺろっとし
「ふぅ、あっという間に食べちゃいました!」
口の横にクリームをつけたままにっこり笑った。
かわいすぎる。かわいすぎて、クリームの甘みが増した気すらする。
抗いきれずに陽太郎の口元に指を伸ばし、ちょこんとついたクリームを拭う。
「…ついて、ました?」
恥ずかしそうに眉を下げる顔もたまらなく、シュークリームを五つほど食べたような満足感に満たされていく。
「うん。クリームたっぷりだから、しょうがないね。」
言いながら、何の気なしに拭った指を自分の口元に運ぼうとすると
「あっ…!」
“あぶない!”と続きそうな一声に、反射的に手を止める。
陽太郎がなにか言いたげに、私の指をじっと見つめてるのはなぜだろう。
顔についた汚れとか、いつも普通に拭いてるし…髪についた埃とかも、普通に取ってる。お礼を言われることはあっても、止められたことは一度もない。
しかし私が拭ったのは貴重なクリーム。次いつ食べられるか分からない、贅沢な甘味。私は危うく、クリーム泥棒になるところだったのだ。
「あ、ごめん。返すね!」
「え?!いや、えっと…そういうことじゃないんです。ただ…」
「おれのかわいい子豚の指を舐めるか、自分の口を間接的に舐めてもらうか…迷うところだな。」
「そうなんです。どっちも捨て難いけどちょっと恥ずかしい……って、もう虎!いきなり変なこと言うなよな!」
「変なこと?我はお前の気持ちを代弁してやっただけだぞ?」
「しなくていいんだよ!」
「まったく、初心なのかそうでないのか。まぁ茶でものんで落ち着いて決めろ。」
陽太郎は虎に渡されたお茶に口をつけて、「あつっ!」と言って湯飲みを置いた。それを見て笑う虎に陽太郎はむすっとして、また言い合いが始まった。
らちが明かないし、このままでは指が使えなくて不便なので、この隙に指についたクリームを頂いてしまうことにした。
自分が食べていたクリームよりも、だいぶ甘く感じる。陽太郎味のクリームだからかな?と思うと頬の緩みが止まらない。
このままだと変態思考が加速してしまう。上書きするのはちょっともったいないけど、誤魔化すように自分のシュークリームを食べ始めた。
幸せいっぱいに、たっぷりのクリームと香ばしい生地を味わう。
「ん~!おいし!」
「おい、あいつの口の横にもくりいむがついてるぞ!いけ、陽太郎!」
「そう言われると、余計にいきづらいんだけど?」
そんな会話も耳に入らないくらい、シュークリームの美味しさを噛み締めていた。陽太郎味のクリームに思いを馳せつつ食べていき、最後に口の横に付いてるクリームを舌で取って、大満足でごちそうさまをした。
―完―
【あとがき】
陽太郎がトマト入りの大きいハンバーガーを豪快にがぶっと食べた後、指に付いたソースを舐めるところを見てみたい。そう言った私に友人が教えてくれました。
口元に付いたソース、それはどうするのか。そこにも夢が詰まっていると――。
取ってあげたソースをお口にお返しする、というのがいいなと思いました。強気の攻め攻めで返ってきたソースをぺろりんちょする陽太郎もいいし、照れながらぺろっとする陽太郎もいいし、戸惑って照れまくる陽太郎も捨て難いしで滾るばかり。
天啓をありがとうございました。しかし肝心の話の内容がお粗末様でした。御免。
玄関から「ごめんください。」と、品があって凛とした声がした。
はーいと返事をして出ると、思った通り村長の奥様だった。
仲良く食べてねと渡されたのは、なんとシュークリーム。
箱の隙間から漂ってくる香ばしい生地の香りと甘いクリームの香りに胸をときめかせ、お礼に野菜ジュースと処理済みの落花生と渡した。
シュークリームなんて滅多にお目にかかれない。心の中で何度も奥様に感謝しながらいそいそとお茶を淹れていると、甘い匂いに釣られたのであろう虎がすっ飛んで来た。
「すんすん…この甘いニオイ…けえきとはまた違う、我の心を掴んで離さないこのニオイ…じゅるっ。おれのかわいい子豚、それは一体……」
「ふっふっふ~縁側でのお楽しみ!すぐ用意するから、陽太郎呼んできてくれる?」
「任せろ!今すぐ連れてくる!」
ぴゅんとすっ飛んでいった虎の後ろ姿を見送ったあと、お茶とおしぼりを用意して、うきうきしながら箱を開けると、シュークリームが三つ入っていた。
やっぱりわかってるんだなとぐっときて、その気遣いに胸がじんとする。本当に、頭が上がらない。
心のなかでもう一度深くお礼をしてから、シュークリームをお皿に移しにかかる。
手に持つとずっしりと重く、思わず歓喜の声が出る。これはもしかしなくてもクリームたっぷりなやつ。心が踊るとはまさにこのこと。二人も絶対喜ぶはず。
わくわくしながらお盆を持って縁側へ行くと、陽太郎も虎も揃っていた。
「村長の奥さんからですか?」
「そう。すごいの頂いちゃった。しかも…」
“虎の分もあるんだよ。”
口にはしないけど、陽太郎は察してくれた。
「……あとでお礼しないとな。」
「そうだね。顔見せに行こうね。」
ちょっと泣きそうになりながら、シュークリームを乗せたお皿を置いていく。虎は頬に手を当てて目をキラキラと輝かせ、「ほぁぁぁ~……」とうっとりしたため息をついた。私よりもよっぽど女子らしい反応をしている。
「このもこもこした形…!情報誌で見たことあるぞ!えっと…アレだ、しゅうくりいむだ!!」
「これって、カフェーとかにあるやつですよね?おれも実物を見るのは初めてです。結構大きいんですね。」
「なぁなぁ!はやく食べよう!」
「そうだね!ではご一緒に、」
三人揃って手を合わせていただきますをした後、いよいよ各々シュークリームにかぶりつく。
「んふぅ…この香ばしい生地、ひと度噛めば甘くて濃厚なくりいむが口の中でとろけて…た・ま・ら・ん!」
虎は至福に打ち震え、口の周りについたクリームを舌でぺろりと舐めた。的確な感想にうんうん頷きながら大事に味わうと、和菓子の甘味とはまた違う甘さが口の中いっぱいに広がって、疲れた体に沁み渡っていく。
陽太郎はすでに二口目に突入していて、一口が大きいからか、横からクリームが溢れていた。
「おいしいけど、食べるのが難しいですね。」
そう言って、シュークリームを片手に持ち替えてお皿を持った。
少し下を向きながら食べてみると、クリームがぼとりと横から落ちてしまっていた。指にもついている。
苦戦しつつも食べる手が止まらない様子の陽太郎。その姿を眺めながら食べるシュークリームの、なんと美味しいことでしょう。
陽太郎は早くも最後の一口を口に入れ、指についているクリームをぺろっとし
「ふぅ、あっという間に食べちゃいました!」
口の横にクリームをつけたままにっこり笑った。
かわいすぎる。かわいすぎて、クリームの甘みが増した気すらする。
抗いきれずに陽太郎の口元に指を伸ばし、ちょこんとついたクリームを拭う。
「…ついて、ました?」
恥ずかしそうに眉を下げる顔もたまらなく、シュークリームを五つほど食べたような満足感に満たされていく。
「うん。クリームたっぷりだから、しょうがないね。」
言いながら、何の気なしに拭った指を自分の口元に運ぼうとすると
「あっ…!」
“あぶない!”と続きそうな一声に、反射的に手を止める。
陽太郎がなにか言いたげに、私の指をじっと見つめてるのはなぜだろう。
顔についた汚れとか、いつも普通に拭いてるし…髪についた埃とかも、普通に取ってる。お礼を言われることはあっても、止められたことは一度もない。
しかし私が拭ったのは貴重なクリーム。次いつ食べられるか分からない、贅沢な甘味。私は危うく、クリーム泥棒になるところだったのだ。
「あ、ごめん。返すね!」
「え?!いや、えっと…そういうことじゃないんです。ただ…」
「おれのかわいい子豚の指を舐めるか、自分の口を間接的に舐めてもらうか…迷うところだな。」
「そうなんです。どっちも捨て難いけどちょっと恥ずかしい……って、もう虎!いきなり変なこと言うなよな!」
「変なこと?我はお前の気持ちを代弁してやっただけだぞ?」
「しなくていいんだよ!」
「まったく、初心なのかそうでないのか。まぁ茶でものんで落ち着いて決めろ。」
陽太郎は虎に渡されたお茶に口をつけて、「あつっ!」と言って湯飲みを置いた。それを見て笑う虎に陽太郎はむすっとして、また言い合いが始まった。
らちが明かないし、このままでは指が使えなくて不便なので、この隙に指についたクリームを頂いてしまうことにした。
自分が食べていたクリームよりも、だいぶ甘く感じる。陽太郎味のクリームだからかな?と思うと頬の緩みが止まらない。
このままだと変態思考が加速してしまう。上書きするのはちょっともったいないけど、誤魔化すように自分のシュークリームを食べ始めた。
幸せいっぱいに、たっぷりのクリームと香ばしい生地を味わう。
「ん~!おいし!」
「おい、あいつの口の横にもくりいむがついてるぞ!いけ、陽太郎!」
「そう言われると、余計にいきづらいんだけど?」
そんな会話も耳に入らないくらい、シュークリームの美味しさを噛み締めていた。陽太郎味のクリームに思いを馳せつつ食べていき、最後に口の横に付いてるクリームを舌で取って、大満足でごちそうさまをした。
―完―
【あとがき】
陽太郎がトマト入りの大きいハンバーガーを豪快にがぶっと食べた後、指に付いたソースを舐めるところを見てみたい。そう言った私に友人が教えてくれました。
口元に付いたソース、それはどうするのか。そこにも夢が詰まっていると――。
取ってあげたソースをお口にお返しする、というのがいいなと思いました。強気の攻め攻めで返ってきたソースをぺろりんちょする陽太郎もいいし、照れながらぺろっとする陽太郎もいいし、戸惑って照れまくる陽太郎も捨て難いしで滾るばかり。
天啓をありがとうございました。しかし肝心の話の内容がお粗末様でした。御免。
11/12ページ