探しモノは何ですか?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
買ったばかりのパンツが無い。
お風呂に入る前、替えを取ろうと箪笥を開けたら、穿こうと思っていた買ったばかりのパンツが見当たらない。
今日洗って箪笥にしまったと思っていたけど、自分の記憶など当てにならない。他のパンツを穿けばいいだけの話だが、靴下をなくしたのとはわけが違う。
もしこの家の敷地内のどこかに落ちているとしたら、まだ一度も穿いてないとはいえゾッとする。可愛いパンツならまだしも、機能性重視のパンツだ。陽太郎が先に見つけてしまったらと思うと気が気じゃないので、お風呂に入る前に探すことにした。
誰もいませんようにと願いながら、まずは落ちている可能性の高い物干し場に行く。
「あれ?おれのかわいい子豚さん?もうお風呂から上がったんですか?」
願いも虚しく、こういう時に限って鉢合わせてしまう。
「いや、まだなんだけど…ちょっと探し物してて。陽太郎はなぜこんな時間にこんな所に?」
「物干し竿をしまい忘れてて…何を探してるんですか?おれも手伝いましょうか?」
「ありがとう。でも自分で探すから大丈夫!」
「そうですか。助けが必要になったらいつでも言ってくださいね?」
そう言って二本の長い物干し竿を抱えて、陽太郎は物置の方へと去っていった。陽太郎のこういう深入りしてこないところがありがたいんだよな、と思いながら、物干し場を注意深く探し歩く。しかしどこにも落ちていない。まぁ、落ちていたら先にいた陽太郎に拾われてるだろうけど。
溜息をついてから、今度は洗濯ものを取り込んで畳んで、それぞれの箪笥にしまった時のルートを辿ることにした。
注意深く足元を見ながら廊下を歩いていると、本を抱えた虎と会った。
「何をしているのだ?」
「ちょっと探し物してて…小さい布見なかった?これくらいの。」
「さて…見ていないと思うが。」
「そっか…これから読書?」
「あぁ、今日はこれで寝落ちする!」
と言って私に見せてくれたのは、『金色夜叉』だった。
「それ、寝落ちできるかな。」
「昨日は宮が蹴飛ばされたところで寝た。これはとんでもない愛憎劇だな。愛と金、お前はどっちを選ぶ?」
「う〜ん、どうだろ…難しいな…お金が無いと愛も無くなるってよく聞くし……」
「我は金には興味は無いが、人間の暮らしには欠かせないモノだろう?金は力になる。愛だけでは生きていけぬのも事実だ。もし大金持ちの男が言葉巧みに口説いてきたらどうする?」
今の暮らしに何不自由無く、のんびり日々が過ぎていってるので、そういえばお金のことなんて考えていなかったことに気付く。
これもひとえに陽太郎のおかげだし、そんな毎日こそが贅沢というもの。
私には二人がいれば、それでいい。
「お金は確かに大事だけど、丁重にお断りします。」
「ふむ、お前ならそう言うと思っていたぞ!ではまた明日な!おれのかわいい子豚、おやすみ。」
「虎おやすみ、また明日ね。」
元気に手を振る虎に手を振り返して、後ろ姿を見送った。
その後も捜索を再開したけど、私のパンツはどこにもなかった。
もう遅いし今日は諦めて、仕方がないからいつものパンツを持ってお風呂に行った。ついでに脱衣所をくまなく探したけど、やっぱりここにもなかった。
私の新しいパンツは、一体どこへ消えてしまったのだろう。
翌日も朝から隙を見ては探したけど、どこをどう探しても見つからなかった。
陽太郎が「探しモノ、まだ見つかってないんですか?」と心配そうにしていたけど、パンツを落としたなんて言えるはずもなく、そのうち出て来るはずだからと、自分を励ますように言った。
こんなに探しても見つからないのだから、新しく買ったということ自体が夢だったのかもしれないと、思い始めていた。
その日の夜の、怪モノ退治の時だった。
人様の畑を荒らそうとしている猩々らしき姿が目に入った。姿形は猩々に見えるけど、いつもとは何かが微妙に違っている。
駆け寄って近付くと、頭になんと、探していた私のパンツを被っていた。
なぜ、お前が。そう思った次の瞬間。
「猩々か。雑魚だな。」
「まって!そいつ私のパ」
言い終わる前に、虎がゴウッっと大きな風音を立てて、あっという間に私のパンツを被った猩々を食い
「ん?」
違和感に口をもごもごさせて、ペッと口からパンツを吐き出した。
「なんだこれ?」
「猩々が持ってたのか?」
私よりも一歩早く、陽太郎がしゃがんで私のパンツを拾い上げた。完全に出遅れた。
動揺と混乱で生きた心地がしない中、この場を切り抜ける方法は何かないかと考えていると
「すんすん…猩々のニオイに混ざって、かすかに木か?箪笥か?そんなようなニオイがするぞ?」
「箪笥のニオイ?どういうこと?」
「そういえば昨日、おれのかわいい子豚が布を探してなかったか?」
もう観念するしかないかもしれない。いや、これがパンツだということはまだバレていない。いかにもな見た目じゃない為、パッと見ただの布。まだ十分誤魔化せる。
年頃の男性と同居しているというのに、機能性を重視している自分を褒めてやりたい。
「そうそう、これ探してたんだよね~。なんで怪モノが持ってたんだろう?どこ探しても見つからないわけだよほんとやんなっちゃう!」
若干演技掛かってしまったことを悔いつつ、さぁ今すぐそれを私に渡してくださいと念じながら、陽太郎に手を差し出した。
「見つかってよかったですね!風で飛ばされて、たまたま猩々に拾われたのかもしれませんね。でもこれ…一度虎の口に入ったのでベチョベチョですよ?おれが持って帰って洗いましょうか?」
陽太郎に私のパンツを洗わせるわけにはいかない。
猿みたいな怪モノに被られ、虎のヨダレでベチョベチョになったパンツ。
洗えば綺麗になるかもしれないけど、さすがにそれを平気で履けるほど、神経が育っていない。
他にもパンツがある中で敢えてこれを穿こうとは思えないし、あまりの衝撃的な見つかり方に、そのうち忘れるだろうという希望も持てない。
まだ一度も穿いてないのにもったいないけど…
「埋めようかな。」
「よし!穴掘りなら我に任せておけ!」
そう言って、虎は勢いよく地面に穴を掘り始めた。ちなみにここは村長の家の裏の林だ。
「どれ、こんなもんだろう。」
「本当にいいんですか?あんなに探していたのに…。」
「うん、もういいの!土に還す!」
「……わかりました。」
陽太郎は何かを察したように頷くと、虎が掘ってくれた穴に汚れた私のパンツを落とした。
そのまま穴を埋めようとした陽太郎の腕を掴んで止める。
「ここは私にやらせてください。」
そう申し出て、二人に見守られながら、穴に土を落としていった。
月明かりに照らされて、ザッザッと自分のパンツに土が被されていくのを見ていると、なんともいえない物悲しさに襲われた。
さよなら、私の新しいパンツ。一度も穿いてあげることができなくて、ごめんね……。
「なぁ、その布は結局なんだったんだ?」
「虎、今は聞かないでおこう。おれのかわいい子豚さん、終わったら手を洗いに行きましょう。」
「うん。ありがとう。」
最後の土を掛けて両手を合わせると、陽太郎と虎も私に倣って両手を合わせた。
こうしてパンツの埋葬を終え、村長の家の庭に侵入して外の手洗い場をお借りした。手が綺麗になったら、踏ん切りもついたような気がした。
「おれのかわいい子豚さん、今日はここまでにして帰りますか?」
「大丈夫、心配掛けてごめんね?ふぅ、なんか燃えてきたわ…虎、よーっく眠れる方の根菜スープ食べない?」
「食べる!!!」
「はいどうぞ。それから、この辺にいる猩々、全部食ってくれる?」
「ああ!我に任せておけ!」
「ありがとう!よーし、パンツの弔い合戦といきますか!」
「え!?パッ……え?!あれってそうだったんですか?!」
「なんだと思ってたの?」
「てっきりおれが贈ったハンカチか何かかなと……」
「ごめん、パンツだったの。でもまだ一回も穿いてないから安心して!」
「あっ、はい…いや、そういうことじゃないんですけど…まぁ、元気になってよかったです。」
それから猩々を中心に怪モノたちを食っていき、晴れ晴れとした気分で家に帰った。
縁側でひと息つきながら、お騒がせしたことを謝った。それからお風呂に入ろうと引き出しを開けると、さっき埋めたはずのパンツが入っていた。
翌朝。昨夜の混乱を引きずって縁側に行くと、陽太郎が困った顔で私に言った。
「おれのかわいい子豚さんおはよう。駄菓子屋のおばあさんも、一昨日下着を盗まれたそうです。これってやっぱり猩々の仕業ですよね?」
「それってどんな下着か分かる?」
「さすがにそこまでは……」
まさか。いや、まさかねと、嫌な予感が胸を過ぎる。冷静になれよ私と言い聞かせ、呼吸を整えてから口を開く。
「あのね、実は…」
埋めたはずのパンツが引き出しに入っていたことを陽太郎に話した。
改めて口にすると、色んな意味で背筋が凍る。
「じゃあ、昨日埋めた下着って…」
「駄菓子屋のあばあさんのかもしれない。今からおばあさんのとこ行って、盗まれたのがどんなパンツか確認してくるね。」
「もしおばあさんのパンツだったら、掘り起こしますか?」
「掘り起こさないよ…。事情を説明して、同じの買って渡した方がいいよね?」
「そうですね。怪モノが被って虎のヨダレでベチョベチョで、一度土に埋められた下着なんて…さすがに洗っても穿きたくないですよね。」
おばあさんと同じ下着を持っていたことが発覚してなんともいえない気持ちになったけど、いくつになっても女は女。パンツを盗んだ不届き者への制裁ができただけヨシとしよう。
「下着、盗まれないように干す場所を変えましょう。日当たりと風通しのいい部屋の一角に目隠しを設置しておくので、今度からはそこに干すようにしてください。」
「ありがとう!じゃあ、行ってくるね!」
同じ下着と菓子折りを買って駄菓子屋さんに行き、おばあさんに盗まれたパンツの特徴を聞くと、私のパンツとは全く違っていた。
では昨日私たちが埋めたのは一体誰のパンツだったのか。
もしかしたら名前が書いてあるかもしれないから、掘り起こして確認するべきだろうか。ていうか私のパンツ、あれだけ探してみつからなかったのに、なんであっさり箪笥の中にあったわけ?
帰って陽太郎に報告しながら、なぜか涙が止まらなくなった。
「うっ…パンツがっ…パンツ…うっ……」
「おれのかわいい子豚さん…無理に話さなくて大丈夫だから、ね?とりあえず縁側に座りましょう。」
陽太郎は私を座らせて、隣で背中をずっと撫で続けてくれている。
落ち着いたらゆっくり話そう。まずはおばあさんが失くしたという下着が、とんでもなくセクシーだったことを。
ー完ー
お風呂に入る前、替えを取ろうと箪笥を開けたら、穿こうと思っていた買ったばかりのパンツが見当たらない。
今日洗って箪笥にしまったと思っていたけど、自分の記憶など当てにならない。他のパンツを穿けばいいだけの話だが、靴下をなくしたのとはわけが違う。
もしこの家の敷地内のどこかに落ちているとしたら、まだ一度も穿いてないとはいえゾッとする。可愛いパンツならまだしも、機能性重視のパンツだ。陽太郎が先に見つけてしまったらと思うと気が気じゃないので、お風呂に入る前に探すことにした。
誰もいませんようにと願いながら、まずは落ちている可能性の高い物干し場に行く。
「あれ?おれのかわいい子豚さん?もうお風呂から上がったんですか?」
願いも虚しく、こういう時に限って鉢合わせてしまう。
「いや、まだなんだけど…ちょっと探し物してて。陽太郎はなぜこんな時間にこんな所に?」
「物干し竿をしまい忘れてて…何を探してるんですか?おれも手伝いましょうか?」
「ありがとう。でも自分で探すから大丈夫!」
「そうですか。助けが必要になったらいつでも言ってくださいね?」
そう言って二本の長い物干し竿を抱えて、陽太郎は物置の方へと去っていった。陽太郎のこういう深入りしてこないところがありがたいんだよな、と思いながら、物干し場を注意深く探し歩く。しかしどこにも落ちていない。まぁ、落ちていたら先にいた陽太郎に拾われてるだろうけど。
溜息をついてから、今度は洗濯ものを取り込んで畳んで、それぞれの箪笥にしまった時のルートを辿ることにした。
注意深く足元を見ながら廊下を歩いていると、本を抱えた虎と会った。
「何をしているのだ?」
「ちょっと探し物してて…小さい布見なかった?これくらいの。」
「さて…見ていないと思うが。」
「そっか…これから読書?」
「あぁ、今日はこれで寝落ちする!」
と言って私に見せてくれたのは、『金色夜叉』だった。
「それ、寝落ちできるかな。」
「昨日は宮が蹴飛ばされたところで寝た。これはとんでもない愛憎劇だな。愛と金、お前はどっちを選ぶ?」
「う〜ん、どうだろ…難しいな…お金が無いと愛も無くなるってよく聞くし……」
「我は金には興味は無いが、人間の暮らしには欠かせないモノだろう?金は力になる。愛だけでは生きていけぬのも事実だ。もし大金持ちの男が言葉巧みに口説いてきたらどうする?」
今の暮らしに何不自由無く、のんびり日々が過ぎていってるので、そういえばお金のことなんて考えていなかったことに気付く。
これもひとえに陽太郎のおかげだし、そんな毎日こそが贅沢というもの。
私には二人がいれば、それでいい。
「お金は確かに大事だけど、丁重にお断りします。」
「ふむ、お前ならそう言うと思っていたぞ!ではまた明日な!おれのかわいい子豚、おやすみ。」
「虎おやすみ、また明日ね。」
元気に手を振る虎に手を振り返して、後ろ姿を見送った。
その後も捜索を再開したけど、私のパンツはどこにもなかった。
もう遅いし今日は諦めて、仕方がないからいつものパンツを持ってお風呂に行った。ついでに脱衣所をくまなく探したけど、やっぱりここにもなかった。
私の新しいパンツは、一体どこへ消えてしまったのだろう。
翌日も朝から隙を見ては探したけど、どこをどう探しても見つからなかった。
陽太郎が「探しモノ、まだ見つかってないんですか?」と心配そうにしていたけど、パンツを落としたなんて言えるはずもなく、そのうち出て来るはずだからと、自分を励ますように言った。
こんなに探しても見つからないのだから、新しく買ったということ自体が夢だったのかもしれないと、思い始めていた。
その日の夜の、怪モノ退治の時だった。
人様の畑を荒らそうとしている猩々らしき姿が目に入った。姿形は猩々に見えるけど、いつもとは何かが微妙に違っている。
駆け寄って近付くと、頭になんと、探していた私のパンツを被っていた。
なぜ、お前が。そう思った次の瞬間。
「猩々か。雑魚だな。」
「まって!そいつ私のパ」
言い終わる前に、虎がゴウッっと大きな風音を立てて、あっという間に私のパンツを被った猩々を食い
「ん?」
違和感に口をもごもごさせて、ペッと口からパンツを吐き出した。
「なんだこれ?」
「猩々が持ってたのか?」
私よりも一歩早く、陽太郎がしゃがんで私のパンツを拾い上げた。完全に出遅れた。
動揺と混乱で生きた心地がしない中、この場を切り抜ける方法は何かないかと考えていると
「すんすん…猩々のニオイに混ざって、かすかに木か?箪笥か?そんなようなニオイがするぞ?」
「箪笥のニオイ?どういうこと?」
「そういえば昨日、おれのかわいい子豚が布を探してなかったか?」
もう観念するしかないかもしれない。いや、これがパンツだということはまだバレていない。いかにもな見た目じゃない為、パッと見ただの布。まだ十分誤魔化せる。
年頃の男性と同居しているというのに、機能性を重視している自分を褒めてやりたい。
「そうそう、これ探してたんだよね~。なんで怪モノが持ってたんだろう?どこ探しても見つからないわけだよほんとやんなっちゃう!」
若干演技掛かってしまったことを悔いつつ、さぁ今すぐそれを私に渡してくださいと念じながら、陽太郎に手を差し出した。
「見つかってよかったですね!風で飛ばされて、たまたま猩々に拾われたのかもしれませんね。でもこれ…一度虎の口に入ったのでベチョベチョですよ?おれが持って帰って洗いましょうか?」
陽太郎に私のパンツを洗わせるわけにはいかない。
猿みたいな怪モノに被られ、虎のヨダレでベチョベチョになったパンツ。
洗えば綺麗になるかもしれないけど、さすがにそれを平気で履けるほど、神経が育っていない。
他にもパンツがある中で敢えてこれを穿こうとは思えないし、あまりの衝撃的な見つかり方に、そのうち忘れるだろうという希望も持てない。
まだ一度も穿いてないのにもったいないけど…
「埋めようかな。」
「よし!穴掘りなら我に任せておけ!」
そう言って、虎は勢いよく地面に穴を掘り始めた。ちなみにここは村長の家の裏の林だ。
「どれ、こんなもんだろう。」
「本当にいいんですか?あんなに探していたのに…。」
「うん、もういいの!土に還す!」
「……わかりました。」
陽太郎は何かを察したように頷くと、虎が掘ってくれた穴に汚れた私のパンツを落とした。
そのまま穴を埋めようとした陽太郎の腕を掴んで止める。
「ここは私にやらせてください。」
そう申し出て、二人に見守られながら、穴に土を落としていった。
月明かりに照らされて、ザッザッと自分のパンツに土が被されていくのを見ていると、なんともいえない物悲しさに襲われた。
さよなら、私の新しいパンツ。一度も穿いてあげることができなくて、ごめんね……。
「なぁ、その布は結局なんだったんだ?」
「虎、今は聞かないでおこう。おれのかわいい子豚さん、終わったら手を洗いに行きましょう。」
「うん。ありがとう。」
最後の土を掛けて両手を合わせると、陽太郎と虎も私に倣って両手を合わせた。
こうしてパンツの埋葬を終え、村長の家の庭に侵入して外の手洗い場をお借りした。手が綺麗になったら、踏ん切りもついたような気がした。
「おれのかわいい子豚さん、今日はここまでにして帰りますか?」
「大丈夫、心配掛けてごめんね?ふぅ、なんか燃えてきたわ…虎、よーっく眠れる方の根菜スープ食べない?」
「食べる!!!」
「はいどうぞ。それから、この辺にいる猩々、全部食ってくれる?」
「ああ!我に任せておけ!」
「ありがとう!よーし、パンツの弔い合戦といきますか!」
「え!?パッ……え?!あれってそうだったんですか?!」
「なんだと思ってたの?」
「てっきりおれが贈ったハンカチか何かかなと……」
「ごめん、パンツだったの。でもまだ一回も穿いてないから安心して!」
「あっ、はい…いや、そういうことじゃないんですけど…まぁ、元気になってよかったです。」
それから猩々を中心に怪モノたちを食っていき、晴れ晴れとした気分で家に帰った。
縁側でひと息つきながら、お騒がせしたことを謝った。それからお風呂に入ろうと引き出しを開けると、さっき埋めたはずのパンツが入っていた。
翌朝。昨夜の混乱を引きずって縁側に行くと、陽太郎が困った顔で私に言った。
「おれのかわいい子豚さんおはよう。駄菓子屋のおばあさんも、一昨日下着を盗まれたそうです。これってやっぱり猩々の仕業ですよね?」
「それってどんな下着か分かる?」
「さすがにそこまでは……」
まさか。いや、まさかねと、嫌な予感が胸を過ぎる。冷静になれよ私と言い聞かせ、呼吸を整えてから口を開く。
「あのね、実は…」
埋めたはずのパンツが引き出しに入っていたことを陽太郎に話した。
改めて口にすると、色んな意味で背筋が凍る。
「じゃあ、昨日埋めた下着って…」
「駄菓子屋のあばあさんのかもしれない。今からおばあさんのとこ行って、盗まれたのがどんなパンツか確認してくるね。」
「もしおばあさんのパンツだったら、掘り起こしますか?」
「掘り起こさないよ…。事情を説明して、同じの買って渡した方がいいよね?」
「そうですね。怪モノが被って虎のヨダレでベチョベチョで、一度土に埋められた下着なんて…さすがに洗っても穿きたくないですよね。」
おばあさんと同じ下着を持っていたことが発覚してなんともいえない気持ちになったけど、いくつになっても女は女。パンツを盗んだ不届き者への制裁ができただけヨシとしよう。
「下着、盗まれないように干す場所を変えましょう。日当たりと風通しのいい部屋の一角に目隠しを設置しておくので、今度からはそこに干すようにしてください。」
「ありがとう!じゃあ、行ってくるね!」
同じ下着と菓子折りを買って駄菓子屋さんに行き、おばあさんに盗まれたパンツの特徴を聞くと、私のパンツとは全く違っていた。
では昨日私たちが埋めたのは一体誰のパンツだったのか。
もしかしたら名前が書いてあるかもしれないから、掘り起こして確認するべきだろうか。ていうか私のパンツ、あれだけ探してみつからなかったのに、なんであっさり箪笥の中にあったわけ?
帰って陽太郎に報告しながら、なぜか涙が止まらなくなった。
「うっ…パンツがっ…パンツ…うっ……」
「おれのかわいい子豚さん…無理に話さなくて大丈夫だから、ね?とりあえず縁側に座りましょう。」
陽太郎は私を座らせて、隣で背中をずっと撫で続けてくれている。
落ち着いたらゆっくり話そう。まずはおばあさんが失くしたという下着が、とんでもなくセクシーだったことを。
ー完ー
1/1ページ