チンポツールフ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
じりじりと照りつける太陽。大きな雲が浮かぶ突き抜けるような青空に、元気な蝉の鳴き声が響き渡る気持ちが良い夏の日。
台所にこもってレシピとにらめっこをしていると、流れる汗も爽やかな陽太郎が来て、キンキンに冷えたでっかいスイカを置いていった。
今年はスイカが豊作で出来も良いと、嬉しそうに抱えて台所に持ってきて、お水を一杯飲んでまた、畑へと戻っていった。
それにしてもでかい。
普通に切って出したら物凄い量になる。
虎だったら一人で半分は食べられちゃいそうだし、陽太郎もスイカが好きだから四分の一は楽勝だと思う。でも、スイカばかりでは塩をかけたとてさすがに飽きるはず。
それならば、飽きずに食べられるよう工夫すればいい。
昨日読んだ雑誌のお洒落なカフェー特集。『夏の絶品甘味』という記事に、うってつけの一品が載っていた。
スイカをくり抜いて器にし、他の果物と白玉を入れ、ソーダを注いだフルーツポンチ。
本当に夏にぴったりだし、こんなの絶対おいしいに決まってる。陽太郎も虎も、きっと喜んでくれるはず。幸いなことに材料も全部揃ってる。
これはやるしかないでしょと、おやつに間に合わせる為にさっそく準備に取り掛かった。
「できた…!」
スイカを匙でできるだけ丸くなるように、皮ギリギリを攻めて削って器にし、白玉とお裾分けしてもらった旬の果物、家にあったフルーツ缶詰をシロップごと入れたフルーツポンチ。ソーダがしゅわしゅわと見た目も涼しく、我ながら上出来だと思う。
三人分の取り皿と匙と木のおたまをお盆に乗せ、さてフルーツポンチを先に運ぼうかと持ち上げようとするも、ずっしり重くて持ち上げられない。頑張って持ち上げてこのデカいお盆に乗せたところで、とてもじゃないけど縁側まで運べないだろう。
ソーダは後で入れるべきだった。この反省は次に生かそう。
「虎ー!」
大声で虎を呼ぶ。しかし返事はない。
「とーらー!!」
またしても返事はない。
木陰にでも涼みに行ってしまったのか、それとも畑の井戸のところで涼んでいるのか。
もふもふの虎にとって夏の暑さは私たち人間の体感の何倍も上だろう。聞こえていたとしても、きっと出るに出られないのだと思う。なおさらこれを食べて少しでも涼んでほしい。
ちょっと申し訳ないけど、陽太郎に運んでもらうしかなさそうだ。
縁側から庭に出て、働く後ろ姿に体を向ける。大きく息を吸って、声が真っ直ぐ届くように口を手で囲って。
「ようたろー!!!!」
自分でも想定外の大声が出て驚いた。
私のバカでかい声に振り向いて、嬉しそうに大きく手を振る陽太郎に手を振り返し
「おやつ運んでー!!」
さっきよりも少し声を抑えて叫ぶと、陽太郎は持っていた農具を体に預けて頭の上で丸を作った。農具の柄が滑って地面に倒れ、慌てて拾った柄の先の、井戸の陰から虎がひょっこり顔を出した。
微笑ましい光景に、思わず笑ってしまう。
小走りでやって来る陽太郎の後ろから虎が暑さでだれながらぴょんぴょん付いてきて、よっこいせと縁側に上った。
「おやつはさっきのスイカですか?」
「そ!」
「全部切ったんですか?」
「ううん。半分だけど、重くって。」
冷たいところで寝そべる虎を踏まないように、私は縁側から、陽太郎は玄関に回って台所へ向かった。
「わぁ…!すごい!宝石箱みたいですね!」
フルーツポンチを見た陽太郎は目を輝かせた。
宝石箱みたいだなんてさすがに大げさだと思うけど、色とりどりの果物がぎっしり詰まっているから、そう言われてみるとそう見える。
かの有名な旅芸人の彦磨呂氏もよく、甘味処や食事処に訪れては、◯◯の宝石箱や~!と言っているのをふと思い出す。
「陽太郎も彦磨呂知ってるの?」
「彦磨呂…?あぁ、新聞とか情報誌でよくご飯の記事書いてる……あ、おれ今同じこと言っちゃいましたね。」
「あえてかと思った。」
「いえ、無意識でした。」
「なんと天然の彦磨呂でしたか…。」
軽く笑い合いながら私はお盆を、陽太郎はずっしり重いフルーツポンチを軽々と持って、虎のいる縁側へと向かった。
「虎、見て!今日のおやつ!おれのかわいい子豚さんがすごいの作ってくれたよ。」
「スイカか?いや、それにしては甘いニオイが…」
起き上がって鼻をすんすんしている虎の横に、フルーツポンチが置かれた。
「これは…!!」
虎はスイカの器を覗き込んで、先ほどの陽太郎のように目を輝かせた。
二人の反応があまりに良くて、嬉しくてやにやしてしまう。
これがあるから暑くても頑張れるし、頑張った甲斐があるというもの。
所定の位置についた陽太郎に続いてお盆を置いた。そして自分の座布団の少し後ろに座って、このフルーツポンチこと果物の宝石箱から、宝石こと具を取り分けようとしたその時。
「“ちんぽつーるふ”ではないか!」
思わず手が止まった。
「雑誌で見たぞ!ちょっと待っていろ!」
ちょっと前まで暑さでうなだれていたとは思えない俊敏な動きで部屋に入り、例の雑誌を掲げて戻ってくると、手慣れた様子でパラパラめくっていき、ある頁で手を止めて、陽太郎にずいっと見せた。
「ほらこれだ!今かふぇーで人気のちんぽつーるふ…洒落た見た目に色鮮やかな果実達……!我はひと目見た時から食ってみたいと思っていたのだ…まさか家でちんぽが食えるとは……おれのかわいい子豚、ありがとう!!」
喜んでもらえてなによりだけど、突然のチンポ連呼に動揺してそれどころではない。
白玉の数も果物の種類も均等にと思っていたのに、白玉ばかりすくってしまう。
「ちんぽ…?あぁそうか、虎はまだ横書きの読み方知らなかったよな。横書きは、こっちから読むんだよ。」
「む、そうなのか?それじゃあえっと……ふ、るーつ、ぽ、ん…ち…ふるーつぽんちか?」
「そう。“チンポツールフ”じゃなくて、“フルーツポンチ”。カフェーのメニューを家でも食べられるなんて、おれのかわいい子豚さんは本当にすごいですね。」
「あ、うん、思ったより簡単だから…」
そんなことより、陽太郎までチンポチンポ言うなんて。
意味を知らないのだろうか。もしかしたらその呼び方は私の地元だけで、こっちではそう呼ばないのかもしれない。そうじゃなかったら陽太郎がその名を思いっきり口にするはずがない。
「しかし、我はもうそれで覚えてしまった。我の中ではずっと略して“ちんぽ”と呼んでいたからな…だからこれからも“ちんぽ”と呼ぶぞ。それにしてもその器は誰の分だ?白玉だけでなくちゃんと果物も入れてくれ!」
「あ、ごめん。今分けるね。」
動揺がおさまらない中、取りすぎた白玉をなんとか器に均等になるよう移していると。
「確かにチンポの方が短くて言いやすいけど、フルーツは果物って意味で、ポンチは飲み物の名前だから…チンポだと何がなんだかわからなくない?」
「おまえは細かいな~!ではこれならどうだ?カフェーのは“ふるーつぽんち”、おれのかわいい子豚が作ったのは我らの為の特製“ちんぽ”!」
「おれ達の為の特製か…それはいいな。じゃあおれも“チンポ”って呼ぼうかな。」
まってまって。次から『おれのかわいい子豚さん、チンポ下さい!』『そろそろおれのかわいい子豚のチンポが食べたいな!』とか言われるってこと?私生えてませんけど?いやそれどころか今から『おれのかわいい子豚さんのチンポおいしいです!』『おれのかわいい子豚のチンポは特製なだけあって格別だな!』とか始まるってことでしょ?
無理。耐えられない。笑ってしまって食べられない。
「あの…チンポはやめようか。」
意を決して言うと、二人の視線が向けられた。
二人共すごくきょとんとした顔で私を見ている。
「何故だ?こんなに発して心が弾む呼び名は無いと思うぞ?」
それはそうだと思う。
「やっぱり失礼でしたか?せっかくあなたがフルーツポンチを作ってくれたのに、別の呼び方で呼ぶなんて…。」
「いや、それは全然いいんだけど、チンポがよくないっていうか…」
言い淀む私に、二人がきょとん顔から真剣な眼差しに変わった。まるで怪モノ退治前の作戦会議のよう。
風鈴がチリンと鳴って、炭酸の音がしゅわしゅわと、やたら大きく聞こえる。
二人の為にも、はっきりと教えておいた方がいい。
「チンポって、私の地元では…その………」
めちゃくちゃ言いづらい。
あだ名?よりもできるだけ医学的な言い方をすれば、恥ずかしくないかもしれない。
「男性の………」
そこで、陽太郎が察した。
一瞬ハッとした顔をして、顔にスイカの汁でもぶっかけられたかのように、みるみるうちに真っ赤になっていく。
「おれのかわいい子豚さん、もう言わなくて大丈夫です。知らなかったとはいえ、嫁入り前のあなたになんてことを……」
「陽太郎は“ちんぽ”が何かわかったのか?我は何のことだかさっぱりなのだが??」
「虎、もうその呼び方は禁止。」
「えー!!!なんでだ?!さっきまでおまえも気に入っていたではないか!」
陽太郎は説明したくても、私の前でその名を口にすることが憚られているから、きっと上手く説明できない。
ならばやはり、ここは私が!
「あのね虎、“チン「まってください!おれが説明します!」
陽太郎が今までに、こんな大きな声を出したことがあっただろうか。
今度は熱中症を疑われてもおかしくないほど真っ赤な顔をして、その目には狼狽が表れている。
自分より動揺している人を見ると、不思議と落ち着いてくる。
ところで陽太郎はなんて説明するんだろう。気になるので黙って頷いて、あとは陽太郎に任せて、私は引き続きチンポの宝石箱から具を取り分けることにした。
今なら種類も均等に盛れそう。
「虎、その呼び方だけど…とてもじゃないけど人前で言っていい言葉じゃないんだよ。特に女の人の前では。」
「そうなのか?」
「うん。男にしかない急所を、そう呼ぶみたい。」
「男にしかない急所…というと、魔羅か?」
マラ?
「マラって何?」
「え?あ、それも男性の…ん?それを言おうとしてたんですよね?もしかして、おれが間違えてますか?」
「あ!ごめん!合ってる合ってる!盛り付けに夢中で、初めて聞いた単語だったから…ほんとごめん。続けてください。」
気を抜きすぎて、ちょっと考えればわかることを何も考えずに聞いてしまった。
もう絶対何があっても黙っていよう。それにしてもマラって…
男性器には呼び方がいっぱいあるんだなと感心しながら、具の上から甘い炭酸をすくってかけていく。
「とにかくそういうことだから。ちゃんと“フルーツポンチ”って言おう?」
「そうだな。知らなかったとはいえ、おれのかわいい子豚と“ふるーつぽんち”に失礼だったな。おれのかわいい子豚、すまなかった。」
「ううん、大丈夫だよ。さ、食べようか!」
器を受け取った虎はまた目を輝かせた。
陽太郎にも差し出すと、気まずそうに受け取って
「なんだかすごく楽しそうですけど……」
まだ照れた様子でじとっと私を見た。
その視線を一身に浴びながら、自分の分の器を持って「べつに~」と返して、所定の位置である二人の真ん中に座る。
揃ったところで両手を合わせ
「ごいっしょに」
三人分のいただきますの後に、風鈴がまたチリンと鳴った。
チンポツールフもといフルーツポンチは想像以上に大好評で、たくさんあった中身はあっという間に空っぽになった。
これがあれば暑い日も乗り切れるとお墨付きをいただいたので、中身を変えてまた出そうと思う。
チンポのことはすっかり無かったかのように楽しいおやつの時間は過ぎていき、またそれぞれの持ち場へと戻っていった。
台所で洗い物をしながら思い出し笑いを噛み殺し、チンポ連呼に耐えられずとも、やっぱり食べ終わるまで黙っていればよかったと思った。
―完―
【あとがき】
本当に様々な呼び方があるかと存じますが、おれのかわいい子豚様のお気に入りはどれですか?私はやっぱり『CHINーCHIN☆』ですね。
台所にこもってレシピとにらめっこをしていると、流れる汗も爽やかな陽太郎が来て、キンキンに冷えたでっかいスイカを置いていった。
今年はスイカが豊作で出来も良いと、嬉しそうに抱えて台所に持ってきて、お水を一杯飲んでまた、畑へと戻っていった。
それにしてもでかい。
普通に切って出したら物凄い量になる。
虎だったら一人で半分は食べられちゃいそうだし、陽太郎もスイカが好きだから四分の一は楽勝だと思う。でも、スイカばかりでは塩をかけたとてさすがに飽きるはず。
それならば、飽きずに食べられるよう工夫すればいい。
昨日読んだ雑誌のお洒落なカフェー特集。『夏の絶品甘味』という記事に、うってつけの一品が載っていた。
スイカをくり抜いて器にし、他の果物と白玉を入れ、ソーダを注いだフルーツポンチ。
本当に夏にぴったりだし、こんなの絶対おいしいに決まってる。陽太郎も虎も、きっと喜んでくれるはず。幸いなことに材料も全部揃ってる。
これはやるしかないでしょと、おやつに間に合わせる為にさっそく準備に取り掛かった。
「できた…!」
スイカを匙でできるだけ丸くなるように、皮ギリギリを攻めて削って器にし、白玉とお裾分けしてもらった旬の果物、家にあったフルーツ缶詰をシロップごと入れたフルーツポンチ。ソーダがしゅわしゅわと見た目も涼しく、我ながら上出来だと思う。
三人分の取り皿と匙と木のおたまをお盆に乗せ、さてフルーツポンチを先に運ぼうかと持ち上げようとするも、ずっしり重くて持ち上げられない。頑張って持ち上げてこのデカいお盆に乗せたところで、とてもじゃないけど縁側まで運べないだろう。
ソーダは後で入れるべきだった。この反省は次に生かそう。
「虎ー!」
大声で虎を呼ぶ。しかし返事はない。
「とーらー!!」
またしても返事はない。
木陰にでも涼みに行ってしまったのか、それとも畑の井戸のところで涼んでいるのか。
もふもふの虎にとって夏の暑さは私たち人間の体感の何倍も上だろう。聞こえていたとしても、きっと出るに出られないのだと思う。なおさらこれを食べて少しでも涼んでほしい。
ちょっと申し訳ないけど、陽太郎に運んでもらうしかなさそうだ。
縁側から庭に出て、働く後ろ姿に体を向ける。大きく息を吸って、声が真っ直ぐ届くように口を手で囲って。
「ようたろー!!!!」
自分でも想定外の大声が出て驚いた。
私のバカでかい声に振り向いて、嬉しそうに大きく手を振る陽太郎に手を振り返し
「おやつ運んでー!!」
さっきよりも少し声を抑えて叫ぶと、陽太郎は持っていた農具を体に預けて頭の上で丸を作った。農具の柄が滑って地面に倒れ、慌てて拾った柄の先の、井戸の陰から虎がひょっこり顔を出した。
微笑ましい光景に、思わず笑ってしまう。
小走りでやって来る陽太郎の後ろから虎が暑さでだれながらぴょんぴょん付いてきて、よっこいせと縁側に上った。
「おやつはさっきのスイカですか?」
「そ!」
「全部切ったんですか?」
「ううん。半分だけど、重くって。」
冷たいところで寝そべる虎を踏まないように、私は縁側から、陽太郎は玄関に回って台所へ向かった。
「わぁ…!すごい!宝石箱みたいですね!」
フルーツポンチを見た陽太郎は目を輝かせた。
宝石箱みたいだなんてさすがに大げさだと思うけど、色とりどりの果物がぎっしり詰まっているから、そう言われてみるとそう見える。
かの有名な旅芸人の彦磨呂氏もよく、甘味処や食事処に訪れては、◯◯の宝石箱や~!と言っているのをふと思い出す。
「陽太郎も彦磨呂知ってるの?」
「彦磨呂…?あぁ、新聞とか情報誌でよくご飯の記事書いてる……あ、おれ今同じこと言っちゃいましたね。」
「あえてかと思った。」
「いえ、無意識でした。」
「なんと天然の彦磨呂でしたか…。」
軽く笑い合いながら私はお盆を、陽太郎はずっしり重いフルーツポンチを軽々と持って、虎のいる縁側へと向かった。
「虎、見て!今日のおやつ!おれのかわいい子豚さんがすごいの作ってくれたよ。」
「スイカか?いや、それにしては甘いニオイが…」
起き上がって鼻をすんすんしている虎の横に、フルーツポンチが置かれた。
「これは…!!」
虎はスイカの器を覗き込んで、先ほどの陽太郎のように目を輝かせた。
二人の反応があまりに良くて、嬉しくてやにやしてしまう。
これがあるから暑くても頑張れるし、頑張った甲斐があるというもの。
所定の位置についた陽太郎に続いてお盆を置いた。そして自分の座布団の少し後ろに座って、このフルーツポンチこと果物の宝石箱から、宝石こと具を取り分けようとしたその時。
「“ちんぽつーるふ”ではないか!」
思わず手が止まった。
「雑誌で見たぞ!ちょっと待っていろ!」
ちょっと前まで暑さでうなだれていたとは思えない俊敏な動きで部屋に入り、例の雑誌を掲げて戻ってくると、手慣れた様子でパラパラめくっていき、ある頁で手を止めて、陽太郎にずいっと見せた。
「ほらこれだ!今かふぇーで人気のちんぽつーるふ…洒落た見た目に色鮮やかな果実達……!我はひと目見た時から食ってみたいと思っていたのだ…まさか家でちんぽが食えるとは……おれのかわいい子豚、ありがとう!!」
喜んでもらえてなによりだけど、突然のチンポ連呼に動揺してそれどころではない。
白玉の数も果物の種類も均等にと思っていたのに、白玉ばかりすくってしまう。
「ちんぽ…?あぁそうか、虎はまだ横書きの読み方知らなかったよな。横書きは、こっちから読むんだよ。」
「む、そうなのか?それじゃあえっと……ふ、るーつ、ぽ、ん…ち…ふるーつぽんちか?」
「そう。“チンポツールフ”じゃなくて、“フルーツポンチ”。カフェーのメニューを家でも食べられるなんて、おれのかわいい子豚さんは本当にすごいですね。」
「あ、うん、思ったより簡単だから…」
そんなことより、陽太郎までチンポチンポ言うなんて。
意味を知らないのだろうか。もしかしたらその呼び方は私の地元だけで、こっちではそう呼ばないのかもしれない。そうじゃなかったら陽太郎がその名を思いっきり口にするはずがない。
「しかし、我はもうそれで覚えてしまった。我の中ではずっと略して“ちんぽ”と呼んでいたからな…だからこれからも“ちんぽ”と呼ぶぞ。それにしてもその器は誰の分だ?白玉だけでなくちゃんと果物も入れてくれ!」
「あ、ごめん。今分けるね。」
動揺がおさまらない中、取りすぎた白玉をなんとか器に均等になるよう移していると。
「確かにチンポの方が短くて言いやすいけど、フルーツは果物って意味で、ポンチは飲み物の名前だから…チンポだと何がなんだかわからなくない?」
「おまえは細かいな~!ではこれならどうだ?カフェーのは“ふるーつぽんち”、おれのかわいい子豚が作ったのは我らの為の特製“ちんぽ”!」
「おれ達の為の特製か…それはいいな。じゃあおれも“チンポ”って呼ぼうかな。」
まってまって。次から『おれのかわいい子豚さん、チンポ下さい!』『そろそろおれのかわいい子豚のチンポが食べたいな!』とか言われるってこと?私生えてませんけど?いやそれどころか今から『おれのかわいい子豚さんのチンポおいしいです!』『おれのかわいい子豚のチンポは特製なだけあって格別だな!』とか始まるってことでしょ?
無理。耐えられない。笑ってしまって食べられない。
「あの…チンポはやめようか。」
意を決して言うと、二人の視線が向けられた。
二人共すごくきょとんとした顔で私を見ている。
「何故だ?こんなに発して心が弾む呼び名は無いと思うぞ?」
それはそうだと思う。
「やっぱり失礼でしたか?せっかくあなたがフルーツポンチを作ってくれたのに、別の呼び方で呼ぶなんて…。」
「いや、それは全然いいんだけど、チンポがよくないっていうか…」
言い淀む私に、二人がきょとん顔から真剣な眼差しに変わった。まるで怪モノ退治前の作戦会議のよう。
風鈴がチリンと鳴って、炭酸の音がしゅわしゅわと、やたら大きく聞こえる。
二人の為にも、はっきりと教えておいた方がいい。
「チンポって、私の地元では…その………」
めちゃくちゃ言いづらい。
あだ名?よりもできるだけ医学的な言い方をすれば、恥ずかしくないかもしれない。
「男性の………」
そこで、陽太郎が察した。
一瞬ハッとした顔をして、顔にスイカの汁でもぶっかけられたかのように、みるみるうちに真っ赤になっていく。
「おれのかわいい子豚さん、もう言わなくて大丈夫です。知らなかったとはいえ、嫁入り前のあなたになんてことを……」
「陽太郎は“ちんぽ”が何かわかったのか?我は何のことだかさっぱりなのだが??」
「虎、もうその呼び方は禁止。」
「えー!!!なんでだ?!さっきまでおまえも気に入っていたではないか!」
陽太郎は説明したくても、私の前でその名を口にすることが憚られているから、きっと上手く説明できない。
ならばやはり、ここは私が!
「あのね虎、“チン「まってください!おれが説明します!」
陽太郎が今までに、こんな大きな声を出したことがあっただろうか。
今度は熱中症を疑われてもおかしくないほど真っ赤な顔をして、その目には狼狽が表れている。
自分より動揺している人を見ると、不思議と落ち着いてくる。
ところで陽太郎はなんて説明するんだろう。気になるので黙って頷いて、あとは陽太郎に任せて、私は引き続きチンポの宝石箱から具を取り分けることにした。
今なら種類も均等に盛れそう。
「虎、その呼び方だけど…とてもじゃないけど人前で言っていい言葉じゃないんだよ。特に女の人の前では。」
「そうなのか?」
「うん。男にしかない急所を、そう呼ぶみたい。」
「男にしかない急所…というと、魔羅か?」
マラ?
「マラって何?」
「え?あ、それも男性の…ん?それを言おうとしてたんですよね?もしかして、おれが間違えてますか?」
「あ!ごめん!合ってる合ってる!盛り付けに夢中で、初めて聞いた単語だったから…ほんとごめん。続けてください。」
気を抜きすぎて、ちょっと考えればわかることを何も考えずに聞いてしまった。
もう絶対何があっても黙っていよう。それにしてもマラって…
男性器には呼び方がいっぱいあるんだなと感心しながら、具の上から甘い炭酸をすくってかけていく。
「とにかくそういうことだから。ちゃんと“フルーツポンチ”って言おう?」
「そうだな。知らなかったとはいえ、おれのかわいい子豚と“ふるーつぽんち”に失礼だったな。おれのかわいい子豚、すまなかった。」
「ううん、大丈夫だよ。さ、食べようか!」
器を受け取った虎はまた目を輝かせた。
陽太郎にも差し出すと、気まずそうに受け取って
「なんだかすごく楽しそうですけど……」
まだ照れた様子でじとっと私を見た。
その視線を一身に浴びながら、自分の分の器を持って「べつに~」と返して、所定の位置である二人の真ん中に座る。
揃ったところで両手を合わせ
「ごいっしょに」
三人分のいただきますの後に、風鈴がまたチリンと鳴った。
チンポツールフもといフルーツポンチは想像以上に大好評で、たくさんあった中身はあっという間に空っぽになった。
これがあれば暑い日も乗り切れるとお墨付きをいただいたので、中身を変えてまた出そうと思う。
チンポのことはすっかり無かったかのように楽しいおやつの時間は過ぎていき、またそれぞれの持ち場へと戻っていった。
台所で洗い物をしながら思い出し笑いを噛み殺し、チンポ連呼に耐えられずとも、やっぱり食べ終わるまで黙っていればよかったと思った。
―完―
【あとがき】
本当に様々な呼び方があるかと存じますが、おれのかわいい子豚様のお気に入りはどれですか?私はやっぱり『CHINーCHIN☆』ですね。
1/1ページ