幸運の種
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
怪モノが種を落とした。
種拾い係としていつものようにしゃがんで種を拾い集めていると、その中に今まで見たことのない少し大きめな種が何個か落ちていた。
新種の野菜を育てられるかもしれないと嬉々として拾い上げ、その種だけ別の布に包んで持ち帰った。
まずは陽太郎に普通の方の種を渡す。
「今日もたくさん拾ってくれてありがとう!一緒に調べましょう。」
「うん、あとね、こんな珍しい種も拾ったんだけど……」
満を持してもう一つの布を広げ、一粒つまんで掲げて見せた。
すると、それを見た虎が小さな手を口に当てて
「くくっ…それは…ぷくくっ…種じゃないぞ。」
笑いを堪えながら、途切れ途切れに言った。
「え、じゃあこれ何?他の種と一緒に落ちてたよ?」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
種の乗った布を陽太郎に渡すと、真剣な表情で、じっくりと観察し始めた。
道具を持って来るべきか悩んでいると、程なくしてその種から目を離さずに言った。
「これは種じゃなくて、うさぎのフンですね。」
「うさぎの…フン?」
「あーっはっはっは!ひー!」
虎はこらえきれず、ついに床をバンバン叩いて笑い出した。あまりの爆笑っぷりに、つられて笑いそうになる。いや、笑ってる場合じゃないんだけども。
「虎、笑い過ぎだぞ。おれのかわいい子豚さん、うさぎは草や木の芽を食べているので、ニオイもないしそんなに汚くないから大丈夫ですよ。前に使ってた肥料に比べたら、こっちの方が綺麗なくらいです。」
綺麗なうんこなんてある?と思ったけど、確かに嫌なニオイはしない。
でもうんこはうんこ。
乾燥しているのが不幸中の幸いだけど、私はうんこを持ち帰り、今こうしてつまんでいるという事実は変わらない。肥料とはまた話が違う。
「はぁーーーー笑った!!まさかフンを持ち帰ってくるとは!まぁ山を歩いてたらそんなこともある。ぷっ…まぁそう落ち込むな!」
「ありがとう。じゃあこれ食べてくれる?」
「ああいいぞ…って誰が食うか!!お前は我をなんだと思っている?!」
「なんでも喰らう最強の怪モノ?」
「そうだ!我こそは最強の怪モ…ちょっ、おい!フンを近づけるな!エンガチョだ!エンガチョ!陽太郎〜!切ってくれ~!」
虎が半べそで小さな指で輪っかを作って陽太郎に向けると、陽太郎は「はい」と言って切ってあげた。エンガチョの元凶である私はまだうんこを手に持ったままなので、きっと言っても誰にも切ってもらえない。
「これ、どうすればいい?」
庭に転がすわけにもいかないし、もちろん家に転がすわけにもいかない。帰ってからずっとうんこを素手で持っているという辛さで頭が働かずに困り果てていると、陽太郎が私を気遣うように、俯いているところへ覗き込んだ。
「その辺に捨ててもいいんですけど、気になりますよね?」
「気になる。」
「じゃあ埋めて土に還しましょう。少し待っていてください。」
陽太郎は縁側から降りてどこかへ行き、しばらくすると堀棒を持って帰ってきてた。そしてそれで庭先に穴を深めに掘ると
「おれのかわいい子豚さん、それもらいます。」
と言って、陽太郎は私から全てのうんこを受け取った。そして掘った穴にポロポロと入れて、あっという間に埋めて戻ってきた。
「終わりましたよ。さ、一緒に手を洗いに行きましょう?」
差し出された手を、今日ばかりは掴めない。
「私の手、汚れてるから…」
「おれも触りましたから。ね?」
陽太郎は手を伸ばし、うんこを受け取った手で、うんこを持っていた私の手をぎゅっと握った。
うんこを触って死にかけていた心に、あたたかな風が吹く。
「泣かせるではないか…『お前が汚れたなら、俺はそれ以上に汚れてやる…そして汚れごとお前を愛してやる』……これぞまさしく究極の愛!」
「まぁ、あながち間違ってはないけど…。おれはおれのかわいい子豚さんと手を洗ってくるから、堀棒片付けておいてくれる?」
「おう!まかせておけ!いやぁ〜笑った笑った!」
そうして陽太郎に連れられて手洗い場に行くと、陽太郎はまず自分の手を洗い、また石鹸を泡立てて、私の指先を両手で優しく丁寧に洗い始めた。
疲れているだろうに、余計な仕事を増やしてしまって申し訳ない。私こそうんこなのではと思う。
「うんこなんて拾ってきちゃってごめんなさい。」
「謝らないで?暗かったし、種と見間違えるのも仕方ないです。」
うんこを拾ってきたうんこ女の分際で、陽太郎の優しい声と手つきに胸がときめいてしまう。
それに、石鹸で滑りがいいからか、普通に撫でられているよりも妙な感じがする。
陽太郎の指が私の指の隙間に入り込み、ぬるぬると何度も行き来している。
奥まで入ると指が開かれて、水かきに圧迫感を感じる。
「あの、こんな時にどうかとは思うんですけど…こうしてあなたの手を洗っていると、なんだか妙にドキドキしちゃいます。いけないことを、してるみたいで……」
ようやく陽太郎の顔を見上げると、照れたような甘やかな面持ちで私を見ていた。途端に胸がぎゅんとなる。
頬が緩みそうになるのを誤魔化すようにして、陽太郎の手から自分の手を抜いて、水で泡を流した。
「私も洗ってあげるね。」
ごしごしと石鹸を泡立てて、散々洗われた陽太郎の手に泡を伸ばす。
陽太郎がしてくれたみたいに大きな手を甲から優しく丁寧に洗っていると、陽太郎は手の向きを変えて、また、私の指の隙間に自分の指を滑り込ませた。
「ね、おれのかわいい子豚さん…こっち見て?」
内緒話をするように耳元でささやかれ、恥ずかしすぎてどうにかなりそうになりながら、陽太郎を見上げる。
完全に口づけの雰囲気を察知した。陽太郎はきっと、私が目を閉じるのを待っている。
このままもう少し見つめ合って、陽太郎の物欲しげな表情と、この雰囲気を堪能したい気もする。
そんな贅沢な葛藤をしていると。
「いいぞ!そのままひと思いに…!」
物陰から、小さな声が聞こえてきた。
陽太郎の耳にも入ったようで、眉尻がくっと上がり、それから短いため息と共に眉毛も下がった。
「虎…出てきなさい。」
「ちっ!見つかってしまったか…いやぁすまんすまん!我のことは気にせず続けてくれ!」
「続けられるわけないだろ。ほら、戻るぞ。」
「明日から心の声を出さないように特訓をせねば。」
「覗くのをやめるっていう発想にはならないんだな。」
陽太郎はそんな話をしながら泡を流して、持っていた手ぬぐいで私の手を拭いた。
それから自分の手を拭いて
「戻りましょうか。」
さっきと同じように、指を絡めて歩き出した。あまりに自然な流れ。今日の陽太郎は、なんだかすごく……
「ふぁ~。笑ったりときめいたりで疲れたな。風呂に入るのも面倒だ。」
「戻ったら体を拭いてあげるから、今日は早く寝たら?」
「いいのか?ではお言葉に甘えるとしよう。ふぁ~…ねむ。」
縁側に着く手前で陽太郎は、「続きはまた後で」と私に耳打ちして、手を離して家の中へと入って行った。
その後に続いた虎の、眠たそうな後ろ姿を見送りながら、それは今夜つまりどこまで?と困惑して、しばらくその場で立ち尽くしていた。
それから、うんこを拾ったことも触ったことも、種を調べていないこともすっかり忘れ、急いで部屋に駆け込んで、念の為と比較的新しくてよさげな下着を探し出し、お風呂の準備に取り掛かったのだった。
―完―
種拾い係としていつものようにしゃがんで種を拾い集めていると、その中に今まで見たことのない少し大きめな種が何個か落ちていた。
新種の野菜を育てられるかもしれないと嬉々として拾い上げ、その種だけ別の布に包んで持ち帰った。
まずは陽太郎に普通の方の種を渡す。
「今日もたくさん拾ってくれてありがとう!一緒に調べましょう。」
「うん、あとね、こんな珍しい種も拾ったんだけど……」
満を持してもう一つの布を広げ、一粒つまんで掲げて見せた。
すると、それを見た虎が小さな手を口に当てて
「くくっ…それは…ぷくくっ…種じゃないぞ。」
笑いを堪えながら、途切れ途切れに言った。
「え、じゃあこれ何?他の種と一緒に落ちてたよ?」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
種の乗った布を陽太郎に渡すと、真剣な表情で、じっくりと観察し始めた。
道具を持って来るべきか悩んでいると、程なくしてその種から目を離さずに言った。
「これは種じゃなくて、うさぎのフンですね。」
「うさぎの…フン?」
「あーっはっはっは!ひー!」
虎はこらえきれず、ついに床をバンバン叩いて笑い出した。あまりの爆笑っぷりに、つられて笑いそうになる。いや、笑ってる場合じゃないんだけども。
「虎、笑い過ぎだぞ。おれのかわいい子豚さん、うさぎは草や木の芽を食べているので、ニオイもないしそんなに汚くないから大丈夫ですよ。前に使ってた肥料に比べたら、こっちの方が綺麗なくらいです。」
綺麗なうんこなんてある?と思ったけど、確かに嫌なニオイはしない。
でもうんこはうんこ。
乾燥しているのが不幸中の幸いだけど、私はうんこを持ち帰り、今こうしてつまんでいるという事実は変わらない。肥料とはまた話が違う。
「はぁーーーー笑った!!まさかフンを持ち帰ってくるとは!まぁ山を歩いてたらそんなこともある。ぷっ…まぁそう落ち込むな!」
「ありがとう。じゃあこれ食べてくれる?」
「ああいいぞ…って誰が食うか!!お前は我をなんだと思っている?!」
「なんでも喰らう最強の怪モノ?」
「そうだ!我こそは最強の怪モ…ちょっ、おい!フンを近づけるな!エンガチョだ!エンガチョ!陽太郎〜!切ってくれ~!」
虎が半べそで小さな指で輪っかを作って陽太郎に向けると、陽太郎は「はい」と言って切ってあげた。エンガチョの元凶である私はまだうんこを手に持ったままなので、きっと言っても誰にも切ってもらえない。
「これ、どうすればいい?」
庭に転がすわけにもいかないし、もちろん家に転がすわけにもいかない。帰ってからずっとうんこを素手で持っているという辛さで頭が働かずに困り果てていると、陽太郎が私を気遣うように、俯いているところへ覗き込んだ。
「その辺に捨ててもいいんですけど、気になりますよね?」
「気になる。」
「じゃあ埋めて土に還しましょう。少し待っていてください。」
陽太郎は縁側から降りてどこかへ行き、しばらくすると堀棒を持って帰ってきてた。そしてそれで庭先に穴を深めに掘ると
「おれのかわいい子豚さん、それもらいます。」
と言って、陽太郎は私から全てのうんこを受け取った。そして掘った穴にポロポロと入れて、あっという間に埋めて戻ってきた。
「終わりましたよ。さ、一緒に手を洗いに行きましょう?」
差し出された手を、今日ばかりは掴めない。
「私の手、汚れてるから…」
「おれも触りましたから。ね?」
陽太郎は手を伸ばし、うんこを受け取った手で、うんこを持っていた私の手をぎゅっと握った。
うんこを触って死にかけていた心に、あたたかな風が吹く。
「泣かせるではないか…『お前が汚れたなら、俺はそれ以上に汚れてやる…そして汚れごとお前を愛してやる』……これぞまさしく究極の愛!」
「まぁ、あながち間違ってはないけど…。おれはおれのかわいい子豚さんと手を洗ってくるから、堀棒片付けておいてくれる?」
「おう!まかせておけ!いやぁ〜笑った笑った!」
そうして陽太郎に連れられて手洗い場に行くと、陽太郎はまず自分の手を洗い、また石鹸を泡立てて、私の指先を両手で優しく丁寧に洗い始めた。
疲れているだろうに、余計な仕事を増やしてしまって申し訳ない。私こそうんこなのではと思う。
「うんこなんて拾ってきちゃってごめんなさい。」
「謝らないで?暗かったし、種と見間違えるのも仕方ないです。」
うんこを拾ってきたうんこ女の分際で、陽太郎の優しい声と手つきに胸がときめいてしまう。
それに、石鹸で滑りがいいからか、普通に撫でられているよりも妙な感じがする。
陽太郎の指が私の指の隙間に入り込み、ぬるぬると何度も行き来している。
奥まで入ると指が開かれて、水かきに圧迫感を感じる。
「あの、こんな時にどうかとは思うんですけど…こうしてあなたの手を洗っていると、なんだか妙にドキドキしちゃいます。いけないことを、してるみたいで……」
ようやく陽太郎の顔を見上げると、照れたような甘やかな面持ちで私を見ていた。途端に胸がぎゅんとなる。
頬が緩みそうになるのを誤魔化すようにして、陽太郎の手から自分の手を抜いて、水で泡を流した。
「私も洗ってあげるね。」
ごしごしと石鹸を泡立てて、散々洗われた陽太郎の手に泡を伸ばす。
陽太郎がしてくれたみたいに大きな手を甲から優しく丁寧に洗っていると、陽太郎は手の向きを変えて、また、私の指の隙間に自分の指を滑り込ませた。
「ね、おれのかわいい子豚さん…こっち見て?」
内緒話をするように耳元でささやかれ、恥ずかしすぎてどうにかなりそうになりながら、陽太郎を見上げる。
完全に口づけの雰囲気を察知した。陽太郎はきっと、私が目を閉じるのを待っている。
このままもう少し見つめ合って、陽太郎の物欲しげな表情と、この雰囲気を堪能したい気もする。
そんな贅沢な葛藤をしていると。
「いいぞ!そのままひと思いに…!」
物陰から、小さな声が聞こえてきた。
陽太郎の耳にも入ったようで、眉尻がくっと上がり、それから短いため息と共に眉毛も下がった。
「虎…出てきなさい。」
「ちっ!見つかってしまったか…いやぁすまんすまん!我のことは気にせず続けてくれ!」
「続けられるわけないだろ。ほら、戻るぞ。」
「明日から心の声を出さないように特訓をせねば。」
「覗くのをやめるっていう発想にはならないんだな。」
陽太郎はそんな話をしながら泡を流して、持っていた手ぬぐいで私の手を拭いた。
それから自分の手を拭いて
「戻りましょうか。」
さっきと同じように、指を絡めて歩き出した。あまりに自然な流れ。今日の陽太郎は、なんだかすごく……
「ふぁ~。笑ったりときめいたりで疲れたな。風呂に入るのも面倒だ。」
「戻ったら体を拭いてあげるから、今日は早く寝たら?」
「いいのか?ではお言葉に甘えるとしよう。ふぁ~…ねむ。」
縁側に着く手前で陽太郎は、「続きはまた後で」と私に耳打ちして、手を離して家の中へと入って行った。
その後に続いた虎の、眠たそうな後ろ姿を見送りながら、それは今夜つまりどこまで?と困惑して、しばらくその場で立ち尽くしていた。
それから、うんこを拾ったことも触ったことも、種を調べていないこともすっかり忘れ、急いで部屋に駆け込んで、念の為と比較的新しくてよさげな下着を探し出し、お風呂の準備に取り掛かったのだった。
―完―
1/1ページ