女子会の隣で
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
仕事も一段落して、そろそろ洗濯物でも取り込むかと干し場に向かって歩いていると、大福の箱を持った“お虎”が、何故か縁側を通って居間に入ろうとしていた。
「虎!なんで変化してるの?」
「ん?ニラがどうしても我と遊びたいと言うから、仕方なくな。」
「そうなんだ。ちなみに、何して遊ぶの?」
「女子会だ!」
「じょしかい?」
「うむ。女同士で茶を飲みつつ、菓子を食いながらおしゃべりするらしい。」
「そうなんだ…」
この家にはおれしかいないから、たまには女性同士でしかできない会話がしたくなるのは当然だ。村でもよく井戸端会議が開かれてるし、おれのかわいい子豚さんもきっと、気兼ねなく話せる相手が欲しいのかもしれない。
同じ年頃の女性もいるにはいるけど、おれのかわいい子豚さんは案外人見知りだと言ってたから、下手に紹介して逆に気を遣わせてしまうなら、虎が一番適役かもしれない。
「お前も女装して混ざるか?」
「さすがにおかしいだろ…」
「そうか?」
「女装したところでどこからどう見ても男だし、邪魔しちゃ悪いから。」
「邪魔なのはニラだけどな!」
「またそんなこと言って…あ、お茶は淹れたの?」
「ニラが淹れた!」
「夕飯入らなくなるから、あまり食べ過ぎないでよ?」
「わかって…わかったわ。じゃあアタイ、もう行くわね。」
役に入ったお虎を見送って、洗濯物を取り込みにかかった。
虎はおれのかわいい子豚さんに対してやたらツンツンしてるし、おれのかわいい子豚さんも対等に言い返してるけど、あの二人、なんだかんだ仲良いよな…。この前だって風呂上がりに二人で庭に出て、どっちが早く髪が乾くか競争だ!とか言って、虎は身体を思いっきり震わせて、おれのかわいい子豚さんも頭を前後左右にぶんぶん振って一生懸命髪乾かしてたっけ…
結局どっちが勝ったんだっけ?最後は二人共フラフラになって真っ直ぐ歩けなくなって…乾かし方が激しかったからか、毛の流れがめちゃくちゃだったな…それでお互いの顔見ながら楽しそうに笑ってて、心配してたけど山姥とか言うから、おれもつられて笑っちゃったんだよな…。
それにしてもおれのかわいい子豚さん、もうちょっと体調不良の自覚持ってくれないと困るな。まぁ、楽しく過ごしてもらえてるなら何よりだけど…無理、してないかな。
思い出し笑いをしたり心配になったりしながら、取り込んだ洗濯物を抱えて部屋に入ると、隣の部屋から二人の話し声が聞こえてきた。
「この大福おいしいね!」
「そうでしょう?いくらでも食べられちゃうわぁ。」
食べ過ぎるなって言ったのになぁ。
「ほんと、お茶もおいしいね。(ズズッ)あー、痩せたい。(ガサガサッ…もぐっ)」
別に気にする必要ないと思うけど…でも、痩せたいのになんでお菓子食べてるんだろう。
「そうね、寝て起きたら痩せてないかしら。(もちゃもちゃ)」
「ほんと、楽して痩せたい。食べて痩せたい。(バリッボリッ)」
「わかる~食べれば食べるほど痩せられたらいいのにな!(ごっくん、ズズーッ)」
おせんべいも食べてるのか…それにしても虎、口調が不安定だな。
「そういえばお虎、最近どう?恋人できた?」
「できないわよぉ。なかなかいい男いなくて…あーあ、我より強い男、どこかにいないかしら!」
「うーん、お虎より強い男か…本多忠勝とか?」
「やだ!もう死んでるじゃない!」
楽しそうな笑い声を聞きながらもくもくと洗濯物を畳んでいると
「ニラヨは?誰かいい人、いないの?」
ちょっと答えが気になる質問に、思わず手が止まった。
「いないなぁ。このまま生き遅れる未来しか見えないよ。」
「寂しい女ね!どんな男がいいとかないの?」
「うーん……優しくて、かっこよくて、真面目で、誠実で、一途で、面白くて…」
「ニラヨのくせに贅沢ね!で?あとは?」
「借金が無い人!」
「あんた、ただの夢見がちだと思ったら…意外と現実的なのね。」
「そりゃそうだよ。借金はダメでしょ。金にだらしない男は女にもだらしないって、おばあちゃんが言ってたもん。あーあ、どっかにいい男落ちてないかな~。(もぐもぐ)」
「あら、近くにちょうどいいのがいるじゃない。(ばりぼり)」
「誰?」
「陽太郎よ!」
いきなり自分の名前が出て、驚いて心臓が飛び跳ねて、動揺のあまり、もう畳み終わったシャツをまた広げてしまった。
「でも、あんたなんかには勿体ないから諦めなさい!」
「分かってるよ!陽太郎みたいないい人なかないないけど、ほんと、私には勿体なさ過ぎるわ…(ズズッ)絶対にいい人見つけて幸せになってほしい。」
「そうよねぇ、でもアタイの目の黒いうちは、半端な女連れてきたら食ってやるんだから!」
「こわ…でも幸薄そうな女に弱そうだよね。守ってあげたくなっちゃうようなさ。」
「アタイみたいな?」
「お虎は幸濃そうだけど…でもまぁ、陽太郎が選ぶ人なら、見た目も中身も、きっとすごくいい人だよ。」
同じシャツを畳みながら、急に胸のあたりがちくっとした。
褒められてるのに、幸せを願ってくれているのに、どういうわけか素直に喜べない。
まだ一緒にいて日が浅いけど、おれのかわいい子豚さんこそおれには勿体ない人だと思う。故郷に帰ったら引く手数多だろうから、心配なんてしなくてもきっと大丈夫。
早く元気になって、たくさん笑って幸せになってほしい。
そう思うのに、なんだか胸のあたりがずっと重い。
疲れてるのかな…念の為今日は早めに寝よう。
「そうだといいわね…(ゴソゴソ)はっ!まずい!大福を全部食ってしまった…!」
「ん?おせんべいならまだあるよ?」
「いや、さっき食い過ぎるなと釘を刺されたのだ。バレたら叱られる…!」
「付き合ってくれたお礼に、私が全部食べたってことにしてあげる。」
「本当か?!じゃあせんべいも…いやまてよ?さては油断させておいて、あとで陽太郎に告げ口するつもりだな?我は騙されないぞ!」
「じゃあ食べちゃおー」
「あっ!まて!せめて半分…!」
畳み終わった洗濯物を、賑やかな声を聞きながら箪笥にしまい、夕飯の準備をしに台所に入ると、おかずはもうほとんど出来ていた。スープの仕込みも終わっている。
行儀が悪いのを重々承知で煮物を一つだけつまみ食いすると、味がしっかり染み込んでいておいしくて、なんだかほっとする。
やっぱりおれのかわいい子豚さんが生き遅れることはないだろうし、彼女を奥さんにできる人はすごく幸せだと思う。怪モノに憑かれてなかったら、今頃良い縁に恵まれていただろうに…。
またちくりとした胸の痛みを誤魔化すように、夕飯の仕上げに取り掛かる。
お米を丁寧に研ぎながら、虎と遊んでくれたお礼と、上手に女子会が出来た虎へのご褒美に、怪モノ退治から戻ったらケーキでも焼こうかと考えた。
でも今日は、ハチミツと砂糖は控え目で。
―完―
【あとがき】
虎とのガールズトークが書きたくて書き始めたのですが、ニラ呼ばわり時代の話を書いたのが初めてだということに気付いて、少々驚いてとても新鮮な気持ちになりました。あの頃の虎、あれはあれで可愛かった。敵意むき出しなのに、一緒に遊ぶのは好きなところとかたまりませんね。
まだ何も始まっていない二人ですが、お互い魅力的な異性であるとは思っていて、発展する可能性を十分秘めているのにまったく気付いてないこの段階、結構美味しいんですよね。その美味しさを余すことなくお伝えしたいのに、私の力では伝えられないのが残念です。なんとかなれーっ!
1/1ページ