芳醇!純愛大吟醸
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
三人で楽しくお酒を飲んだ翌朝。
暑さと重苦しさを感じて目が覚めると、至近距離に陽太郎の寝顔があった。重苦しさの正体は陽太郎の腕で、こともあろうかすっぽり抱きしめられている。驚きのあまり声も出ず、血の気の引く思いで着衣を確認すると、私も陽太郎も特に乱れた様子はない。身体にも異変は感じない。陽太郎の頭越しに見える壁の暦を見るに、どうやらここは私の部屋のようだ。
とりあえず一安心して再び陽太郎の顔に視線を戻すと、とても深く眠っているような、そんな寝顔をしている。こんな近くで正面から見たのは初めてだったので、ここぞとばかりに眺めると、あどけなくてかわいくて、なんだかちょっと感動する。もう少し眺めていたいけど、お手洗いにも行きたいし、一旦頭を整理したい。一体何がどうしてどうなってこうなっているのか。昨夜の記憶が曖昧すぎる。
陽太郎の腕から抜け出して布団から出ると、枕元には虎もいた。こちらもぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。
三人で寝てたのなら間違いが起きていないことは確かだけど、頭が冷静になるにつれ騒がしくなる胸を手で抑えながら、とりあえずお手洗いへと向かう。
その道中、おぼろげな昨夜の記憶を順を追って整理した。
昨夜、珍しくかなり久し振りに三人でお酒を飲んだ。というのも、陽太郎がものすごくいいお酒を村長から二升も頂いてきて、虎がそのうちの丸々一升にアレンジを加え、私でも飲みやすいようにと果実の風味豊かな甘い日本酒にしてくれた。日本酒なのにほとんどジュースみたいな感覚で飲んでしまい、途中からワケが分からなくなって、気がついたら朝だった。陽太郎も三人で飲めて楽しかったのか、お酒がいつもよりだいぶ進んでいた気がする。
お手洗いに着いて用を足し、手と顔を洗ってお水を汲んで、台所で乾いた喉を潤していると、だんだんと記憶がはっきりしてきた。
最初は普通にお酒の美味しさに感動して、感想を言いつつなんてことない会話をしていたと思う。注ぎ注がれしながらそのうち会話が弾んで、飲みやすさもあって全員揃ってお酒が進みに進み、なんかだかすごく楽しくなっちゃって、みんなして結構出来上がってたんだよね。で、どうしてかは思い出せないけど、私が虎のお腹に顔を埋めたらかわいい匂いがして…
『かわいいニオイって、どんなニオイですか?』
『ん~?かわいい匂い!』
『そうだ、我はニオイもとびきりかわいいのだ!特別に嗅がせてやってもいいぞ!』
『どれどれ……ん?一日中外で走り回ってた子供?みたいなニオイがするけど…』
『あー(くんくん)、ちょっと分かる気がする。あとなんか…(くんくん)豆っぽい。』
豆の種類によっては傷付く、みたいなことを話してたら
『我は陽太郎のニオイもおれのかわいい子豚のニオイも好きだぞ!あったかくて、やさしくて、落ち着くニオイだ!それに加えておれのかわいい子豚は(すんすん)甘いニオイがして、一緒に寝るといい夢が見られる。陽太郎も嗅いでみるか?』
なんて言い出して
『わざわざ嗅がなくても知ってる。』
『お前が知っているのは髪のニオイだけだろう?おれのかわいい子豚の本当のニオイがわかるのは、こことここだぞ!』
虎が私の肩によじ登って胸と首の耳下らへんをぺしぺし叩いた後、膝に降りてどやってたっけ。
そしたら陽太郎が
『おれのかわいい子豚さんの、本当のニオイ?』
『そうだ。』
『虎だけ知ってるの、ずるい……』
その眉毛の下がりっぷりと子犬のような目があんまりにもかわいくて、その後酒を煽った姿にもきゅんとして、自分の匂いに自信があるわけでもなく、むしろ臭いでしょと思ってるのに、酔いに任せて
『陽太郎…おいで!』
両手を広げて構えたんだ。お酒恐るべし。
そしたら陽太郎がゆっくり近づいてきて、私の肩に手を置いて首筋を控えめにすんすんして…鼻先が触れて、ちょっとくすぐったかったな。
『本当だ、いいニオイ……でも、落ち着かないな…落ち着くどころか、落ち着かない。』
『ははは!なんだそれ!』
『陽太郎酔ってる~!ね、どんな匂い?』
『どんな…?う~ん、一言でいうと………食べちゃいたいです。』
『え~!食べられちゃう!!』
『なんだ陽太郎、腹が減ってるのか?我もだぞ!』
酔ってるから何もかもがおかしくて、虎と二人であははは!とか言ってすごい笑ってたけど、よく考えたらとんでもないこと言われてない?
それこそ落ち着かなくなって、もう一杯お水をコップに注いで虎の踏み台に腰掛けた。目を閉じて軽く深呼吸をして、少し落ち着いたところでまた記憶を辿り出す。
確か、ひとしきり笑った後…
『陽太郎はどんな匂いだっけ?』
『陽太郎か?陽太郎はあったかくてやさしくて、干したての匂いだな!』
『干物ってこと~?!』
最悪なことを言っていた。それから確か、どれどれなんて言って、陽太郎の首筋の匂いを嗅いで…
『何の干物でしたか?』
『これはね~…陽太郎の干物!』
『陽太郎の干物か…食いでがありそうだな!』
『でもまって、もう一回…(くんくん)なんか(くんくん)落ち着くような(くんくん)へんな気分になるような…(くんくん)身体が熱くなるような…』
『大麻か?』
『嗅いだことないけど、たぶんそんな感じ!』
そして爆笑する虎と私…
思い出さなければよかったし、陽太郎が全部忘れてることを願いたい。これ以上思い出すのが怖いけど、思い出さずにいて陽太郎の胸の中にだけ秘められていられるのも怖い。
一旦水を飲んで、ふぅ、と息を吐いたところでまた記憶を辿っていく。
私に散々匂いを嗅がれた後も、陽太郎はずっと眉毛をかわいく下げてて…
『それって…いいニオイなんですか?それとも嫌なニオイ?』
『すーっっっっっ………ごくいい匂い!私も陽太郎の匂い好き…ずーっと一生嗅いでたい……ねぇ、もっと嗅がせて?』
『はぁ…かわいい…めちゃくちゃにしたい………』
『部屋を散らかすのはいいが、ちゃんと片付けろよ?』
それから陽太郎が無抵抗なのをいいことに、抱きついて匂いを吸ってるうちに寝てしまった。と思う。ここで記憶が完全に途切れてるし、以降全く思い出せないということは、そういうことだろう。陽太郎と虎で寝てしまった私を部屋に運んで、そこで力尽きて一緒に寝てしまったに違いない。
「迷惑、掛けたな…。」
せめてもの償いとして、まだ寝間着のままだけど、朝ご飯の支度と配達の準備に取り掛かろうと立ち上がると
「ふぁ~~~~おはよう…」
眠そうに目をこすりながら虎が台所に入ってきた。
「おはよう。早いね。陽太郎は?」
「まだ寝てたが、もうそろそろ起きてくるのではないか?」
「そう…ねぇ、昨日二人で私のこと運んでくれたの?」
「あぁ、昨日か…昨日はな?」
手を動かしながら聞いた、虎が話してくれた内容はこうだ。
陽太郎にしがみついたまますっかり寝てしまった私を、陽太郎はぎゅっと抱きしめながら虎と酒を飲み続け、私の好きなところとかわいいところを、さすがの虎もお腹いっぱいになるほど延々と語っていたらしい。中でも最近は洗濯物を干している後ろ姿と、本を読みながら笑ったり泣いたりしている様子にものすごくときめいていたとのこと。
そんな感じで陽太郎は上機嫌に語りながら、ついにお酒を全部飲み干したので、そろそろ寝ようかとなった。虎が部屋に戻ろうとしたところ、陽太郎が私を大事そうに抱えている様子に虎がときめいて、これはこれはと甘い口づけを期待しながら、柱の陰からしばらく様子を見ていたそうだ。
一言二言ぼそぼそと言葉を交わした後、陽太郎は私を抱えたまま立ち上がり、部屋へと入っていった。
その後を追うと…
『おれのかわいい子豚さん、お布団に着きましたよ。』
『う~ん…』
布団に寝かせようとしても、断固として陽太郎から離れようとしない私。
『困ったな…』
全然困っているように見えない陽太郎。
『ちゅーしてくれたら、離れてあげる。』
きたか!と息を潜めて見ていると
『今はダメ。』
バレたか?!と思ったら
『なんで!』
『今そんなことをしたら、間違いなく全部食べちゃいますよ?それはちゃんと取っておかないと、でしょう?』
『うん、全部食べたらなくなっちゃうもんね…』
『はい。だから離さなくてもいいですよ。おれも、今夜は離したくないから…』
「お前ら二人して相当酔ってたから会話の内容は意味不明だが、そうして布団に潜り込んでいく様は、口づけよりも余程ろまんちっくでドキドキしたぞ!まるで恋物語の一場面のようだった…。それから気の利く我は縁側の片付けをして、最後にもう一度部屋を覗いたら…」
陽太郎にばっちり見つかって、怒られると思ったら手招きされたそうだ。
「なるほど…それでみんな一緒に寝てたんだね。全然覚えてないわ…」
「“今夜は離さない…”これを覚えていないとは…!なんかすまんな。」
覚えてなくて本当に残念だけど、意識があったら確実にしんでいた。よかったようなよくなかったような、複雑な気持ちでいながらにやにやが止まらない。
スープの仕上げが終わったところでバタバタと足音が近づいてきて、顔にくっきり寝跡を付けた陽太郎が台所に駆け込んできた。
「おはようございます!すみません、寝坊しちゃって…すぐに顔洗ってきます!」
そしてまた、バタバタと去っていった。
虎と二人で顔を合わせて吹き出して、陽太郎が昨日のことを覚えているか覚えていないか賭けながら、幸せなくすぐったい朝に、むくんだ頬をゆるゆると緩ませた。
―完―
【あとがき】
犬の匂いは幸せの匂い、場所によっても違いますよね、からの「虎の匂いを嗅いでみたい…」そんな一言から始まった嗅いで嗅がれての妄想リレーに滾り散らかし、僭越ながら私めが書かせていただきました。ええ、お察しの通りとても楽しかったです。仕上がりに関しましてはもうほんと申し訳ないのですが、酔っ払いの戯れ感は出せたかと思います。
匂い、大事ですよね。おれのかわいい子豚様の好きな匂いは何ですか?私は街焼肉の匂いです。
暑さと重苦しさを感じて目が覚めると、至近距離に陽太郎の寝顔があった。重苦しさの正体は陽太郎の腕で、こともあろうかすっぽり抱きしめられている。驚きのあまり声も出ず、血の気の引く思いで着衣を確認すると、私も陽太郎も特に乱れた様子はない。身体にも異変は感じない。陽太郎の頭越しに見える壁の暦を見るに、どうやらここは私の部屋のようだ。
とりあえず一安心して再び陽太郎の顔に視線を戻すと、とても深く眠っているような、そんな寝顔をしている。こんな近くで正面から見たのは初めてだったので、ここぞとばかりに眺めると、あどけなくてかわいくて、なんだかちょっと感動する。もう少し眺めていたいけど、お手洗いにも行きたいし、一旦頭を整理したい。一体何がどうしてどうなってこうなっているのか。昨夜の記憶が曖昧すぎる。
陽太郎の腕から抜け出して布団から出ると、枕元には虎もいた。こちらもぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。
三人で寝てたのなら間違いが起きていないことは確かだけど、頭が冷静になるにつれ騒がしくなる胸を手で抑えながら、とりあえずお手洗いへと向かう。
その道中、おぼろげな昨夜の記憶を順を追って整理した。
昨夜、珍しくかなり久し振りに三人でお酒を飲んだ。というのも、陽太郎がものすごくいいお酒を村長から二升も頂いてきて、虎がそのうちの丸々一升にアレンジを加え、私でも飲みやすいようにと果実の風味豊かな甘い日本酒にしてくれた。日本酒なのにほとんどジュースみたいな感覚で飲んでしまい、途中からワケが分からなくなって、気がついたら朝だった。陽太郎も三人で飲めて楽しかったのか、お酒がいつもよりだいぶ進んでいた気がする。
お手洗いに着いて用を足し、手と顔を洗ってお水を汲んで、台所で乾いた喉を潤していると、だんだんと記憶がはっきりしてきた。
最初は普通にお酒の美味しさに感動して、感想を言いつつなんてことない会話をしていたと思う。注ぎ注がれしながらそのうち会話が弾んで、飲みやすさもあって全員揃ってお酒が進みに進み、なんかだかすごく楽しくなっちゃって、みんなして結構出来上がってたんだよね。で、どうしてかは思い出せないけど、私が虎のお腹に顔を埋めたらかわいい匂いがして…
『かわいいニオイって、どんなニオイですか?』
『ん~?かわいい匂い!』
『そうだ、我はニオイもとびきりかわいいのだ!特別に嗅がせてやってもいいぞ!』
『どれどれ……ん?一日中外で走り回ってた子供?みたいなニオイがするけど…』
『あー(くんくん)、ちょっと分かる気がする。あとなんか…(くんくん)豆っぽい。』
豆の種類によっては傷付く、みたいなことを話してたら
『我は陽太郎のニオイもおれのかわいい子豚のニオイも好きだぞ!あったかくて、やさしくて、落ち着くニオイだ!それに加えておれのかわいい子豚は(すんすん)甘いニオイがして、一緒に寝るといい夢が見られる。陽太郎も嗅いでみるか?』
なんて言い出して
『わざわざ嗅がなくても知ってる。』
『お前が知っているのは髪のニオイだけだろう?おれのかわいい子豚の本当のニオイがわかるのは、こことここだぞ!』
虎が私の肩によじ登って胸と首の耳下らへんをぺしぺし叩いた後、膝に降りてどやってたっけ。
そしたら陽太郎が
『おれのかわいい子豚さんの、本当のニオイ?』
『そうだ。』
『虎だけ知ってるの、ずるい……』
その眉毛の下がりっぷりと子犬のような目があんまりにもかわいくて、その後酒を煽った姿にもきゅんとして、自分の匂いに自信があるわけでもなく、むしろ臭いでしょと思ってるのに、酔いに任せて
『陽太郎…おいで!』
両手を広げて構えたんだ。お酒恐るべし。
そしたら陽太郎がゆっくり近づいてきて、私の肩に手を置いて首筋を控えめにすんすんして…鼻先が触れて、ちょっとくすぐったかったな。
『本当だ、いいニオイ……でも、落ち着かないな…落ち着くどころか、落ち着かない。』
『ははは!なんだそれ!』
『陽太郎酔ってる~!ね、どんな匂い?』
『どんな…?う~ん、一言でいうと………食べちゃいたいです。』
『え~!食べられちゃう!!』
『なんだ陽太郎、腹が減ってるのか?我もだぞ!』
酔ってるから何もかもがおかしくて、虎と二人であははは!とか言ってすごい笑ってたけど、よく考えたらとんでもないこと言われてない?
それこそ落ち着かなくなって、もう一杯お水をコップに注いで虎の踏み台に腰掛けた。目を閉じて軽く深呼吸をして、少し落ち着いたところでまた記憶を辿り出す。
確か、ひとしきり笑った後…
『陽太郎はどんな匂いだっけ?』
『陽太郎か?陽太郎はあったかくてやさしくて、干したての匂いだな!』
『干物ってこと~?!』
最悪なことを言っていた。それから確か、どれどれなんて言って、陽太郎の首筋の匂いを嗅いで…
『何の干物でしたか?』
『これはね~…陽太郎の干物!』
『陽太郎の干物か…食いでがありそうだな!』
『でもまって、もう一回…(くんくん)なんか(くんくん)落ち着くような(くんくん)へんな気分になるような…(くんくん)身体が熱くなるような…』
『大麻か?』
『嗅いだことないけど、たぶんそんな感じ!』
そして爆笑する虎と私…
思い出さなければよかったし、陽太郎が全部忘れてることを願いたい。これ以上思い出すのが怖いけど、思い出さずにいて陽太郎の胸の中にだけ秘められていられるのも怖い。
一旦水を飲んで、ふぅ、と息を吐いたところでまた記憶を辿っていく。
私に散々匂いを嗅がれた後も、陽太郎はずっと眉毛をかわいく下げてて…
『それって…いいニオイなんですか?それとも嫌なニオイ?』
『すーっっっっっ………ごくいい匂い!私も陽太郎の匂い好き…ずーっと一生嗅いでたい……ねぇ、もっと嗅がせて?』
『はぁ…かわいい…めちゃくちゃにしたい………』
『部屋を散らかすのはいいが、ちゃんと片付けろよ?』
それから陽太郎が無抵抗なのをいいことに、抱きついて匂いを吸ってるうちに寝てしまった。と思う。ここで記憶が完全に途切れてるし、以降全く思い出せないということは、そういうことだろう。陽太郎と虎で寝てしまった私を部屋に運んで、そこで力尽きて一緒に寝てしまったに違いない。
「迷惑、掛けたな…。」
せめてもの償いとして、まだ寝間着のままだけど、朝ご飯の支度と配達の準備に取り掛かろうと立ち上がると
「ふぁ~~~~おはよう…」
眠そうに目をこすりながら虎が台所に入ってきた。
「おはよう。早いね。陽太郎は?」
「まだ寝てたが、もうそろそろ起きてくるのではないか?」
「そう…ねぇ、昨日二人で私のこと運んでくれたの?」
「あぁ、昨日か…昨日はな?」
手を動かしながら聞いた、虎が話してくれた内容はこうだ。
陽太郎にしがみついたまますっかり寝てしまった私を、陽太郎はぎゅっと抱きしめながら虎と酒を飲み続け、私の好きなところとかわいいところを、さすがの虎もお腹いっぱいになるほど延々と語っていたらしい。中でも最近は洗濯物を干している後ろ姿と、本を読みながら笑ったり泣いたりしている様子にものすごくときめいていたとのこと。
そんな感じで陽太郎は上機嫌に語りながら、ついにお酒を全部飲み干したので、そろそろ寝ようかとなった。虎が部屋に戻ろうとしたところ、陽太郎が私を大事そうに抱えている様子に虎がときめいて、これはこれはと甘い口づけを期待しながら、柱の陰からしばらく様子を見ていたそうだ。
一言二言ぼそぼそと言葉を交わした後、陽太郎は私を抱えたまま立ち上がり、部屋へと入っていった。
その後を追うと…
『おれのかわいい子豚さん、お布団に着きましたよ。』
『う~ん…』
布団に寝かせようとしても、断固として陽太郎から離れようとしない私。
『困ったな…』
全然困っているように見えない陽太郎。
『ちゅーしてくれたら、離れてあげる。』
きたか!と息を潜めて見ていると
『今はダメ。』
バレたか?!と思ったら
『なんで!』
『今そんなことをしたら、間違いなく全部食べちゃいますよ?それはちゃんと取っておかないと、でしょう?』
『うん、全部食べたらなくなっちゃうもんね…』
『はい。だから離さなくてもいいですよ。おれも、今夜は離したくないから…』
「お前ら二人して相当酔ってたから会話の内容は意味不明だが、そうして布団に潜り込んでいく様は、口づけよりも余程ろまんちっくでドキドキしたぞ!まるで恋物語の一場面のようだった…。それから気の利く我は縁側の片付けをして、最後にもう一度部屋を覗いたら…」
陽太郎にばっちり見つかって、怒られると思ったら手招きされたそうだ。
「なるほど…それでみんな一緒に寝てたんだね。全然覚えてないわ…」
「“今夜は離さない…”これを覚えていないとは…!なんかすまんな。」
覚えてなくて本当に残念だけど、意識があったら確実にしんでいた。よかったようなよくなかったような、複雑な気持ちでいながらにやにやが止まらない。
スープの仕上げが終わったところでバタバタと足音が近づいてきて、顔にくっきり寝跡を付けた陽太郎が台所に駆け込んできた。
「おはようございます!すみません、寝坊しちゃって…すぐに顔洗ってきます!」
そしてまた、バタバタと去っていった。
虎と二人で顔を合わせて吹き出して、陽太郎が昨日のことを覚えているか覚えていないか賭けながら、幸せなくすぐったい朝に、むくんだ頬をゆるゆると緩ませた。
―完―
【あとがき】
犬の匂いは幸せの匂い、場所によっても違いますよね、からの「虎の匂いを嗅いでみたい…」そんな一言から始まった嗅いで嗅がれての妄想リレーに滾り散らかし、僭越ながら私めが書かせていただきました。ええ、お察しの通りとても楽しかったです。仕上がりに関しましてはもうほんと申し訳ないのですが、酔っ払いの戯れ感は出せたかと思います。
匂い、大事ですよね。おれのかわいい子豚様の好きな匂いは何ですか?私は街焼肉の匂いです。
1/1ページ