ただいま、おかえり。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戸を開けると、景色がいつもと違って見えた。明るくて、眩しくて、そこら中に幸せが、色とりどりに広がっている。
差し出された手を取って、繋いで、腕を絡めて並んで歩く。横顔も、少し頭を下げて首を傾げて、覗き込むように私を見る感じも、やっぱりすごく好きだなと思う。
まだ下腹部に陽太郎の感覚が残ってる。ずっと、入ってるみたい。そんな不思議な違和感が、とても嬉しく感じる。
お腹空いたねとか、虎大丈夫だったかな、とか、そんな普通の会話をして、何度もしつこく身体は大丈夫かと尋ねてくる陽太郎に大丈夫だと返しながら、まだ残る幸せの余韻も一緒に連れ添って家路についた。
「ただいま。」
「ただいまー。」
玄関を開けると、虎が一目散に駆けてきた。百年ぶりに孫に会ったおばあちゃんみたいな歓迎のし方に、私たちは顔を見合わせて笑った。
虎には初夜のことを、夫婦の大事な儀式だと伝えていた。
一晩中ふたりきりで、手を繋ぎながらお互いの好きなところを伝え合う。それを他の誰かに少しでも聞かれると、失敗して離れ離れになってしまうかもしれない。もし成功したら二人の気が混ざり合って、場合によっては子どもを授かることができる。
陽太郎がそう説明していた。頭が良いなと思った。
虎は陽太郎と私を交互に見て、腕を組んでうんうん頷いた。
「うむ、成功したようだな。」
「性交?!」
虎の言葉に驚いて陽太郎を見上げると、ははっと爽やかに笑われた。
「大丈夫。多分そっちじゃないです。成功と失敗の…」
「あ、そっか。びっくりした…いや恥ずかしすぎる…今すぐ消えたい…」
私はもう、だめかもしれない。
「何を恥ずかしがることがある。しっかりとまではいかないが、ちゃんと互いの気が混ざっているぞ!二人共、よくやったな!それに…すんすん…おれのかわいい子豚からものずごく陽太郎のニオイが…ん?陽太郎からも…すんすん…おれのかわいい子豚のニオイがするな…そうか、おまえらようやく夫婦になったのだな…我は…我は嬉しいぞ…!う…うおぉぉおん!!」
虎の発言にハラハラしたり自分の勘違いに複雑な気持ちになったけど、鼻水を垂らして泣きじゃくる虎を見ていたら、そんなことはどうでもよくなった。
「ほら、涙と鼻水拭いて。ご飯ちゃんと食べたの?」
陽太郎が玄関に掛けてあった手ぬぐいで虎の涙と鼻水を拭いて、そのまま虎に持たせた。
ブン!と勢いよく鼻をかんだ手ぬぐいを、また陽太郎に返していた。
「ん?あぁ、そのことだがな。」
靴を脱いで三人でぞろぞろと家の中に入り、虎の後に続いて台所に行くと、大きな重箱が置いてあった。
こんな立派な重箱は、この家には無かったはず。
「宴の途中で家に帰った我は、感動覚めやらぬうちに日記を書いて、その後しばらく“よいん”に浸っていたのだ。そのうちに腹が減ってな。飯の支度ついでに作り置きでもつまもうと台所に向かったのだ。その時…」
虎の話によると。
外から何やら慌ただしい足音が聞こえてきて、虎が慌てて身を隠すと、玄関から大きな声で「忘れ物、ここに置いとくぞー!」と声がした。陽太郎もおれのかわいい子豚も宴の最中だということは村のにんげんのほとんどが知っているはずだし、今日は帰って来ないことだって知っているはず。そんなことも知らずにうっかりしている者もいるかもしれない。いずれにしろ足音が去るまでは隠れていようと思っていた。ところがその人物は、何かを玄関の前に置くと、足早に去っていった。
完全に気配がしなくなったところで玄関を開けると、この重箱が置いてあった。ごちそうの、いい匂いがした。
部屋に持ち込んで蓋を開けると、宴に並んでいたものよりも豪勢な料理が、びっしりと詰まっていた。
「なんとなくだが、我にくれたような気がしてな。ありがたく頂戴したというわけだ。おかげで酒も進んだし、腹も膨れた。いつか礼を言わねばな。」
その話を聞いて、結婚式のどの時よりも泣いてしまった。村長の心遣いに胸が熱くなって、ここへ来てから、いや、今まで生きてきて一番かもしれないってくらい、大粒の涙をぼろぼろと流して号泣してしまった。
陽太郎も、虎がいる手前か私までとはいかないけど、上を向きながら一緒に泣いていた。
「ど、どうした!料理を取っておかなかったからか?!すまん!今からでも我が何か作って…」
「いや、違うんだ。嬉しくて…虎、おれ達、家族なんだよ。“みたいなモノ”じゃなくて、本当の…本当の家族になったんだよ。」
「家族?」
「そう。この家で、おれとおれのかわいい子豚さんと、虎。三人で家族だ。」
「そうか…我らは、家族か…。」
私たちは、三人で笑いながら泣いた。家中のちり紙を集めても、足りないほど泣いた。ひとしきり泣いて落ち着いてくると、やっと言葉が出てくるようになった。
「陽太郎が夫、おれのかわいい子豚が妻、我は陽太郎の兄であり、師匠というわけだな!」
「え…私は自分のこどもだと思ってたけど…」
「おれは、弟だと思ってたけど…」
「これは…さっそく家族会議が必要だな。」
「その前にご飯にしない?すぐ作るから、ちょっとまってて。」
虎は陽太郎が立ち上がろうとするのを制して、ふっふっふと不敵に笑った。
「腹を空かせて帰ってくるだろうと思って、握り飯を用意してある。もちろん、味噌汁もだ。」
「えー!ありがと~!虎お母さんみたい!」
「我がおれのかわいい子豚の母か…ならば心苦しいが、陽太郎をいびらねばなるまい。障子の枠にこう、指を滑らせて『あら陽太郎さん、埃が残ってますわよ?こういう細かいところまでやっていただかないと…やり直してちょうだい!』と嫌味を言ったり、陽太郎が作った料理にわざとワサビを大量に入れて、『こんなモノ食えるか!』とちゃぶ台をひっくり返したりな。」
「またそんな偏った情報を…姑から舅になってるし…しかもおれが妻になってるし…。」
「細かいことは気にするな。ささ、飯にしようではないか!」
虎が用意してくれた爆弾おにぎりとお味噌汁とお茶を運び、三人揃って真っ赤な目をして、両手を合わせていただきますをした。こうしてゆっくり食卓を囲むのが、なんだかずいぶんと久しぶりに感じる。
虎の作ってくれたお味噌汁をすすると、胃の中が温まってほっとした。
大きく口を開けて、虎の爆弾おにぎりにかぶりつく。塩加減もちょうどいい。上達したなとしみじみしながら食べ進めていくと、もさっとした食感がした。
「まって、私のおにぎり裂きイカ入ってるんだけど!あ、卵焼きおいしい。」
「おれのは…アジの干物と卵焼きと…たくあんですね。今日は当たりかな。交換する?」
「大丈夫。交換は規則に反するから。それに…うん、いけなくもないよ。」
「本当に?」
「食べてみる?」
「じゃあ、一口だけ。」
おそるおそる興味津々といった陽太郎の口に、裂きイカの部分をそっと押し込むと、そこをかじり取って、眉をひそめながら咀嚼を始めた。
「どう?」
「うん、意外といけますね。あえて入れようとは思わないけど。明太子のところ、食べる?」
「じゃあ、お言葉に甘えて一口もらおうかな。」
差し出されたおにぎりの、明太子の部分を一口かじり取る。普通の、おにぎりの味がする。
「これが新・婚……!くぅ~!たまらん!」
「そうだよ?これから毎日悶絶するかもしれないから、覚悟しておいて?おれのかわいい子豚さんも、ね?」
「余裕の強気……ひと皮剥けたな、陽太郎!」
「ほんと、かっこよすぎて困っちゃう。ね?あなた。」
お気に召したであろう呼び方で陽太郎を覗き込むと、ほとんど噛んでいない口の中のおにぎりをごくりと飲み込んで、ぐっと詰まらせた。
「大丈夫?はい、お茶。」
お茶を流し込む陽太郎の背中をさすりながら、にやにやが止まらない。
「不意打ちはずるい…」
頬を染めて眉尻を下げている、いつもの陽太郎の照れ顔。新婚早々未亡人になりかけたけど、頬のゆるみが止まらない。
「まぁ、あれだな。一皮剥けたとて、陽太郎がおれのかわいい子豚に骨抜きなのは変わらんな。」
「本当、一生敵わないよ。」
「それは私の台詞。」
「あの…おれのかわいい子豚さん。さっきの、もう一回言って?」
照れ隠しに、おにぎりを目いっぱい口に入れた。裂きイカがすごくもさもさする。
賑やかで和やかな食卓は、前と同じようで同じじゃない。でも、前よりもっと輝いている。陽太郎と虎がいれば、昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日と、そんな日々が待っているとしか思えない。
もう戻れないあの頃の青い日常は、思い出として胸に残したまま、時々振り返ったりしながら、胸に抱いて一緒に生きていけばいい。
共に歩んでいく道は、ここからずっと、遙か遠くまで長く続いている。
死が二人を分かつまで、病めるときも健やかなるときも、どんなときもずっと傍にいて、愛し、守り、慈しみ、支え合って生きていく。
私たちはもう、本当の家族なのだから。
―完―
【あとがき】
ずっと書きたかったけど、ずっと書けなかったお話。今なら書けるかもしれないとおそるおそる書き始め、ようやく書くことができました。クオリティはさておき、達成感でいっぱいです。
自分の中で一区切りついてしまうのではと心配していましたが、むしろここからでしょ!といった具合に、狂気が衰えるどころか増したような気すらします。
とても長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございます。おれのかわいい子豚様に最高の三日間をお送りすることができましたでしょうか。ずっこけていたらそれはもう本当に、すみま千円。
差し出された手を取って、繋いで、腕を絡めて並んで歩く。横顔も、少し頭を下げて首を傾げて、覗き込むように私を見る感じも、やっぱりすごく好きだなと思う。
まだ下腹部に陽太郎の感覚が残ってる。ずっと、入ってるみたい。そんな不思議な違和感が、とても嬉しく感じる。
お腹空いたねとか、虎大丈夫だったかな、とか、そんな普通の会話をして、何度もしつこく身体は大丈夫かと尋ねてくる陽太郎に大丈夫だと返しながら、まだ残る幸せの余韻も一緒に連れ添って家路についた。
「ただいま。」
「ただいまー。」
玄関を開けると、虎が一目散に駆けてきた。百年ぶりに孫に会ったおばあちゃんみたいな歓迎のし方に、私たちは顔を見合わせて笑った。
虎には初夜のことを、夫婦の大事な儀式だと伝えていた。
一晩中ふたりきりで、手を繋ぎながらお互いの好きなところを伝え合う。それを他の誰かに少しでも聞かれると、失敗して離れ離れになってしまうかもしれない。もし成功したら二人の気が混ざり合って、場合によっては子どもを授かることができる。
陽太郎がそう説明していた。頭が良いなと思った。
虎は陽太郎と私を交互に見て、腕を組んでうんうん頷いた。
「うむ、成功したようだな。」
「性交?!」
虎の言葉に驚いて陽太郎を見上げると、ははっと爽やかに笑われた。
「大丈夫。多分そっちじゃないです。成功と失敗の…」
「あ、そっか。びっくりした…いや恥ずかしすぎる…今すぐ消えたい…」
私はもう、だめかもしれない。
「何を恥ずかしがることがある。しっかりとまではいかないが、ちゃんと互いの気が混ざっているぞ!二人共、よくやったな!それに…すんすん…おれのかわいい子豚からものずごく陽太郎のニオイが…ん?陽太郎からも…すんすん…おれのかわいい子豚のニオイがするな…そうか、おまえらようやく夫婦になったのだな…我は…我は嬉しいぞ…!う…うおぉぉおん!!」
虎の発言にハラハラしたり自分の勘違いに複雑な気持ちになったけど、鼻水を垂らして泣きじゃくる虎を見ていたら、そんなことはどうでもよくなった。
「ほら、涙と鼻水拭いて。ご飯ちゃんと食べたの?」
陽太郎が玄関に掛けてあった手ぬぐいで虎の涙と鼻水を拭いて、そのまま虎に持たせた。
ブン!と勢いよく鼻をかんだ手ぬぐいを、また陽太郎に返していた。
「ん?あぁ、そのことだがな。」
靴を脱いで三人でぞろぞろと家の中に入り、虎の後に続いて台所に行くと、大きな重箱が置いてあった。
こんな立派な重箱は、この家には無かったはず。
「宴の途中で家に帰った我は、感動覚めやらぬうちに日記を書いて、その後しばらく“よいん”に浸っていたのだ。そのうちに腹が減ってな。飯の支度ついでに作り置きでもつまもうと台所に向かったのだ。その時…」
虎の話によると。
外から何やら慌ただしい足音が聞こえてきて、虎が慌てて身を隠すと、玄関から大きな声で「忘れ物、ここに置いとくぞー!」と声がした。陽太郎もおれのかわいい子豚も宴の最中だということは村のにんげんのほとんどが知っているはずだし、今日は帰って来ないことだって知っているはず。そんなことも知らずにうっかりしている者もいるかもしれない。いずれにしろ足音が去るまでは隠れていようと思っていた。ところがその人物は、何かを玄関の前に置くと、足早に去っていった。
完全に気配がしなくなったところで玄関を開けると、この重箱が置いてあった。ごちそうの、いい匂いがした。
部屋に持ち込んで蓋を開けると、宴に並んでいたものよりも豪勢な料理が、びっしりと詰まっていた。
「なんとなくだが、我にくれたような気がしてな。ありがたく頂戴したというわけだ。おかげで酒も進んだし、腹も膨れた。いつか礼を言わねばな。」
その話を聞いて、結婚式のどの時よりも泣いてしまった。村長の心遣いに胸が熱くなって、ここへ来てから、いや、今まで生きてきて一番かもしれないってくらい、大粒の涙をぼろぼろと流して号泣してしまった。
陽太郎も、虎がいる手前か私までとはいかないけど、上を向きながら一緒に泣いていた。
「ど、どうした!料理を取っておかなかったからか?!すまん!今からでも我が何か作って…」
「いや、違うんだ。嬉しくて…虎、おれ達、家族なんだよ。“みたいなモノ”じゃなくて、本当の…本当の家族になったんだよ。」
「家族?」
「そう。この家で、おれとおれのかわいい子豚さんと、虎。三人で家族だ。」
「そうか…我らは、家族か…。」
私たちは、三人で笑いながら泣いた。家中のちり紙を集めても、足りないほど泣いた。ひとしきり泣いて落ち着いてくると、やっと言葉が出てくるようになった。
「陽太郎が夫、おれのかわいい子豚が妻、我は陽太郎の兄であり、師匠というわけだな!」
「え…私は自分のこどもだと思ってたけど…」
「おれは、弟だと思ってたけど…」
「これは…さっそく家族会議が必要だな。」
「その前にご飯にしない?すぐ作るから、ちょっとまってて。」
虎は陽太郎が立ち上がろうとするのを制して、ふっふっふと不敵に笑った。
「腹を空かせて帰ってくるだろうと思って、握り飯を用意してある。もちろん、味噌汁もだ。」
「えー!ありがと~!虎お母さんみたい!」
「我がおれのかわいい子豚の母か…ならば心苦しいが、陽太郎をいびらねばなるまい。障子の枠にこう、指を滑らせて『あら陽太郎さん、埃が残ってますわよ?こういう細かいところまでやっていただかないと…やり直してちょうだい!』と嫌味を言ったり、陽太郎が作った料理にわざとワサビを大量に入れて、『こんなモノ食えるか!』とちゃぶ台をひっくり返したりな。」
「またそんな偏った情報を…姑から舅になってるし…しかもおれが妻になってるし…。」
「細かいことは気にするな。ささ、飯にしようではないか!」
虎が用意してくれた爆弾おにぎりとお味噌汁とお茶を運び、三人揃って真っ赤な目をして、両手を合わせていただきますをした。こうしてゆっくり食卓を囲むのが、なんだかずいぶんと久しぶりに感じる。
虎の作ってくれたお味噌汁をすすると、胃の中が温まってほっとした。
大きく口を開けて、虎の爆弾おにぎりにかぶりつく。塩加減もちょうどいい。上達したなとしみじみしながら食べ進めていくと、もさっとした食感がした。
「まって、私のおにぎり裂きイカ入ってるんだけど!あ、卵焼きおいしい。」
「おれのは…アジの干物と卵焼きと…たくあんですね。今日は当たりかな。交換する?」
「大丈夫。交換は規則に反するから。それに…うん、いけなくもないよ。」
「本当に?」
「食べてみる?」
「じゃあ、一口だけ。」
おそるおそる興味津々といった陽太郎の口に、裂きイカの部分をそっと押し込むと、そこをかじり取って、眉をひそめながら咀嚼を始めた。
「どう?」
「うん、意外といけますね。あえて入れようとは思わないけど。明太子のところ、食べる?」
「じゃあ、お言葉に甘えて一口もらおうかな。」
差し出されたおにぎりの、明太子の部分を一口かじり取る。普通の、おにぎりの味がする。
「これが新・婚……!くぅ~!たまらん!」
「そうだよ?これから毎日悶絶するかもしれないから、覚悟しておいて?おれのかわいい子豚さんも、ね?」
「余裕の強気……ひと皮剥けたな、陽太郎!」
「ほんと、かっこよすぎて困っちゃう。ね?あなた。」
お気に召したであろう呼び方で陽太郎を覗き込むと、ほとんど噛んでいない口の中のおにぎりをごくりと飲み込んで、ぐっと詰まらせた。
「大丈夫?はい、お茶。」
お茶を流し込む陽太郎の背中をさすりながら、にやにやが止まらない。
「不意打ちはずるい…」
頬を染めて眉尻を下げている、いつもの陽太郎の照れ顔。新婚早々未亡人になりかけたけど、頬のゆるみが止まらない。
「まぁ、あれだな。一皮剥けたとて、陽太郎がおれのかわいい子豚に骨抜きなのは変わらんな。」
「本当、一生敵わないよ。」
「それは私の台詞。」
「あの…おれのかわいい子豚さん。さっきの、もう一回言って?」
照れ隠しに、おにぎりを目いっぱい口に入れた。裂きイカがすごくもさもさする。
賑やかで和やかな食卓は、前と同じようで同じじゃない。でも、前よりもっと輝いている。陽太郎と虎がいれば、昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日と、そんな日々が待っているとしか思えない。
もう戻れないあの頃の青い日常は、思い出として胸に残したまま、時々振り返ったりしながら、胸に抱いて一緒に生きていけばいい。
共に歩んでいく道は、ここからずっと、遙か遠くまで長く続いている。
死が二人を分かつまで、病めるときも健やかなるときも、どんなときもずっと傍にいて、愛し、守り、慈しみ、支え合って生きていく。
私たちはもう、本当の家族なのだから。
―完―
【あとがき】
ずっと書きたかったけど、ずっと書けなかったお話。今なら書けるかもしれないとおそるおそる書き始め、ようやく書くことができました。クオリティはさておき、達成感でいっぱいです。
自分の中で一区切りついてしまうのではと心配していましたが、むしろここからでしょ!といった具合に、狂気が衰えるどころか増したような気すらします。
とても長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございます。おれのかわいい子豚様に最高の三日間をお送りすることができましたでしょうか。ずっこけていたらそれはもう本当に、すみま千円。
1/1ページ