雛鶴さんと須磨さん、私の3人がほわほわとした空気の中で笑いあっていると、まきをさんの呼ぶ声がした。

「朝餉の用意が出来ましたよ」

その声を聞いて「あら、急がないと！」と、須磨さんが私を着替えさせてくれる。
山吹色の着物に、薄紅色の帯、あっと言う間に着付けられた私は、とにかく驚いた。

「あ、え…っと…ありがとうございます…！」

「いいのよー！急がないと怒られちゃうわ！」

私の手を引く須磨さんに続いて、雛鶴さんも立ち上がり後ろをついてくる。

もう4人分並んだ朝餉に、疑問を感じた。

「…4つ、ですか？」

私、雛鶴さんたち、宇髄さんも入れて5人じゃ…？

「天元様はもう出ているわ」

結構忙しい方なのよ、と慣れたようにそれぞれが朝餉の膳に向かう。
慌てて空いている膳の前に座ると、雛鶴さんが「いただきます」と手を合わせた。

まきをさん、須磨さんもいただきますと口にして食事を始める。
私も手を合わせて「いただきます」と言い、膳を見た。

あたたかいご飯、香ばしく焼けた鮎、お味噌汁にはお豆腐と長葱が入っている。
お漬物は昨夜見た胡瓜とは違って、大根と白菜のものだ。

ご飯を一口、あたたかい、甘い、美味しい…。
ご飯ってこんな味がしたんだな…。

「…美味しい」

小さく呟いたつもりだけど、みんなに聞こえていたようで、3人は微笑んだ。

お味噌汁、焼き魚、またご飯、お漬物と順に食べて、半分ほどになったとき。
美味しいご飯がなくなってしまうのが、なんだか悲しいような気がして箸が止まった。

「どうしたの？お腹いっぱい？」

「無理しなくても大丈夫よ？」

心配されて、違うんですと否定した。なくなるのが悲しいなんて子供っぽいと思われないかと恥ずかしくなってくる。

少し顔が赤くなってきた私を見て、今度は熱があるのかと心配されてしまう。

慌てて否定したけど、言わなきゃもっと心配させちゃうよね…。

「…あの、ご飯、美味しいなって思って。それで…なくなるのが、ちょっと悲しくて…」

3人はきょとんとして、同時に吹き出した。

「そんなに美味しかった？ありがとう、嬉しいわ」

笑いながら、まきをさんがそう言う。
私はもう恥ずかしくて、箸をおいて顔を手で覆う。

「昼餉は私が作るからね」

と雛鶴さんが優しく笑った。

「あ！じゃあ私、昼餉のあとにお団子作ります！」

須磨さんは張り切っている。
みんな楽しそうに言うものだから、私は口元を手で隠したまま「楽しみです…」と言うのが精一杯だった。