動き出す
第6話 強引に
広場に行くと、クリスマスマーケットに来て楽しんでいる人の姿は既になかった。ハイデンと朱朱様が戦っている間に運営スタッフが避難誘導をしていたらしく、広場にはほんの少しだけのスタッフが残って撤収作業を行っていた。
力仕事にはローランさんとニコライさんが手伝いを買って出てくれたので、2人とは別れ、私とハイデンと朱朱様、そして朱朱様のフェデーレの香扇ちゃんの4人で運営元の自治体の役所に向かうと市長自ら出迎えてくださった。
「この度は街や人々を守ってくださり、ありがとうございます。デューのお二方…。お名前を伺っても?」
「ギリシア神話、正義と純潔の女神アストライアーの名を持つ、ハイデン・ブルーストと申します。そして私のフェデーレの…」
「ゼルチアーノです。」
「私は中国神話、四神朱雀のデュー、朱朱と申します。私は3人のフェデーレがいますが、男手が広場の撤収に必要でしたので加勢するよう言って、ここには、宝扇になれる、」
「香扇と言います。」
「彼女を連れてきています。」
「あなた方のおかげで、人への被害は最小限であり、建物の破損状況は部下が確認を行っております。ああ、私はクリスマスマーケットを企画したここら辺の自治体の市長を任されております、ジアモットと申します。この度は本当にありがとうございました。」
市長へ自己紹介を済ませると、そのまま建物の中に入り、応接間に通されソファーに座るように促されると、被害状況の確認をした。ちゃんと街の人に怪我人が出ていないか、建物の損害はどの程度か確認し、教会に報告して自治体にお金の支給がされる。そのためにハイデンと朱朱様はジアモットさんから話を聞いた。
「分かりました。怪我人の病院への搬送は直ぐに手配されて今はもう治療済みということですね。先程広場の被害状況も見てきましたが、こっちの方が被害総額が大きくなりそうですね。ディアボロの出現による、民衆のパニックによって怪我やテナントの破損が引き起こされてしまったのでそれなりの金額を教会からこちらの自治体に送らせていただきます。」
「何から何までありがとうございます。命を守ってもらっただけでなく、その後の処理まで…。人々はディアボロの脅威はありつつも、クリスマスを特別な日にしようとしただけですのに…。ディアボロは残酷ですなぁ…。」
ハイデンが市長との話し合いの内容をまとめると、市長はしおしおと頭を項垂れて、秘書が出してくれた紅茶を一口飲んだ。
「私たちデューの管轄元である、教会の見解だとディアボロは人々の生命エネルギーを集めていると聞きます。ですから、クリスマスマーケットで集まった多くの人々に狙いを定めたのでしょう。」
「それにしても、激昂したディアボロが武器に毒を染み出して使ったのには驚きました。」
市長と同じように紅茶に口を付けたハイデンの言葉に朱朱様が先程戦ったディアボロの気になった点について話した。
「最近のディアボロは特異個体が確認されていると教会から自治体へ通達がありました。でも、大規模なクリスマスマーケットではないのに、ここにまで現れるとは思っていませんでした…。」
「どんなに規模が小さくても、人々が集まるところにディアボロは出現します。」
「う…すみません…。ディアボロが出る可能性があったのに、クリスマスマーケットを開催して結局被害が出てしまい、こちらの過信でした…。」
市長がどんどん肩を巻き込んで小さくなってしまうので、ハイデンが慌てて被りを振る。
「ち、違います!何も人々が集まるような催し物をするなと言ってる訳ではなく…!」
「ハイデンは催し物をするなら、教会へのデューの派遣要請と会場の規模の報告など、色々な手続きを踏んでください。そうでなくとも守りますよ。って言いたいんだと思いますよ。」
「ゼルチアーノ、皆まで言わなくても…。」
「あれ、違いました?」
ハイデンのキリッとした顔に市長が叱られていると思って縮こまってしまったので、私が助け舟を出すと、ハイデンは耳まで真っ赤にして顔を両手で覆っていた。私がキョトンとしていると、市長も同じ顔をしていたらしく、その後朱朱様が吹き出したことで、その場は和やかになった。
紅茶を頂いてから、教会へ請求するお金の話を少しだけして、私たちは市長との話し合いを終え、応接間を出た。役所の廊下を秘書に先導されて歩いていると、香扇ちゃんがクスリと笑った。
「久々に朱朱様が笑ったところを見れました。ハイデン様、ゼルチアーノさん、ありがとうございます。」
「そんな改まって言わなくてもいいじゃない…。」
「朱朱様は最近のディアボロの不気味な成長に疑問を抱いて各地の教会の地区本部を巡って話を聞いてきました。ですので、気が張り詰めていたのです。それをお二人がほぐしてくださった…。朱朱様のお側に仕えるものとして笑顔が見れることはとても嬉しいのですから。」
香扇ちゃんが真面目な顔で最近確認されたディアボロの不気味な進化について話し、主人であるデューの朱朱様のことを本当に心配しているようで、朱朱様も何も言えなくなってしまった。
「確かに私たちが契約したきっかけでもある、アルテミスの孤児院の襲撃事件では、フェデーレの真名を取って動きを封じるという今までに例を見ないディアボロが現れました。ですから、この後北欧地区の教会の神位、オーディン様から直接報告しに来るように言われておりまして…。」
「あら!そうなんですか!私もこの世界ではまだ北欧地区の本部には行ったことがないんですの。良かったら今回の件も踏まえて報告する場に私も同席してもよろしいでしょうか?」
「えっ…!?」
「ハイデン、朱朱様もいてくだされば、クリスマスマーケットを襲撃したディアボロの毒を分泌したあの行動についてもより詳しく報告できますよ!実際助けられたところもありますし、ぜひ一緒に行った方がいいです!」
「で、ですが、オーディン様は"私に"来るようにと…。」
「オーディン様はそんな融通が効かない人ではないでしょう?」
「さあ!」
「「さあ!!!」」
「う…、うう…わ、分かりました、みんなで行きましょう!」
ハイデンからオーディンへの報告の場があることを知ると朱朱様はオーディン様の元へ行きたいとおっしゃったので、私と香扇ちゃんも一緒になって融通の効かないハイデンに迫って強引に頷かせた。
そんなやりとりをしてから広場に戻ると既に広場にはニコライさんとローランさんだけが残っており、他の運営スタッフの皆さんは帰られたとのことだった。
2人にも市長との話し合いでの内容と、この後朱朱様がハイデンと共にオーディン様の元に報告と挨拶に行くことを話すと、ニコライさんは頭を下げて"ご無理を言ってすみません!"と謝り、ローランさんは苦笑いをするしかなかった。
私たちにも旅の支度があるので、朱朱様御一行とは明日ヨーテボリの街で合流し、ヘルシンキまでの船が出ている首都のストックホルムまで一緒に行くことになった。
――――――
夜にハイデンの家で真っ白な浴槽にたっぷりお湯を張ってほかほかと湯気が上がる中、体を滑り込ませると、じわりと肌に触れる心地よい温度のお湯に思わず、感嘆の息が漏れてしまう。
「ふぁ〜〜…気持ちいい〜…」
ハイデンの家の浴槽は2,3人が同時に入れそうな大きさのもので、私は足を伸ばして全身の疲れを取った。
「やっぱりお風呂は気持ちいいなぁ〜………。絆の技…か。」
両腕をぐーっと前に伸ばしてから浴槽の縁に腕をかけて上を見上げながら呟いた。
それは朱朱様のフェデーレである、ローランさんから聞いたこと。"絆の技"を会得できれば、もっとディアボロとの戦いも有利になる。でも、それはフェデーレとデューの信頼関係が最も重要になってくる。焦らず、少しづつハイデンとの関係を埋めていくしかない。ここが帰ってくる家だと再認識し、明日から北欧地区の本部に向かうのだからと、お風呂を存分に堪能して私は浴槽から出たのだった。
――――――
翌日。私が起きて部屋から出ると既にハイデンは身支度をしていた。
「おはようございます、ハイデン。」
「おはようございます。ゼルチアーノ。昨日はよく眠れましたか?」
「はい、お風呂の効果でそりゃもうぐっすり!私も身支度済ませちゃいますね。朝ごはんは食べていかれますよね?」
「それは良かった。ええ、食べてから出発するつもりです。ゼルチアーノ、旅支度はどれくらい進みました?」
「えっと、もう昨日の夜のうちに終わってて…。」
私が照れくさそうに言うと、ハイデンはびっくりした顔をしてから直ぐに小さく笑った。
「ふふ、遠足前の子供のように愛らしいですね。では朝食の準備は任せていいですか?私は旅支度をしてきますので。」
「う…、わ、わかりました!」
"愛らしい"と言われてしまって、流石に楽しみすぎて準備があっという間に終わってしまったという話はしないでおこうと思って、私は洗面台に向かった。
朝食を2人で手早く済ませて、旅の荷物の最終チェックを済ませると、ハイデンに買ってもらった新しいトランクを持って、家を出た。
「行ってきます!」
また帰ってきてあの真っ白な浴槽でお湯に浸かって心と体をリラックスさせたいと思いながら名残惜しく家を離れ、バスに乗り込んだのだった。
広場に行くと、クリスマスマーケットに来て楽しんでいる人の姿は既になかった。ハイデンと朱朱様が戦っている間に運営スタッフが避難誘導をしていたらしく、広場にはほんの少しだけのスタッフが残って撤収作業を行っていた。
力仕事にはローランさんとニコライさんが手伝いを買って出てくれたので、2人とは別れ、私とハイデンと朱朱様、そして朱朱様のフェデーレの香扇ちゃんの4人で運営元の自治体の役所に向かうと市長自ら出迎えてくださった。
「この度は街や人々を守ってくださり、ありがとうございます。デューのお二方…。お名前を伺っても?」
「ギリシア神話、正義と純潔の女神アストライアーの名を持つ、ハイデン・ブルーストと申します。そして私のフェデーレの…」
「ゼルチアーノです。」
「私は中国神話、四神朱雀のデュー、朱朱と申します。私は3人のフェデーレがいますが、男手が広場の撤収に必要でしたので加勢するよう言って、ここには、宝扇になれる、」
「香扇と言います。」
「彼女を連れてきています。」
「あなた方のおかげで、人への被害は最小限であり、建物の破損状況は部下が確認を行っております。ああ、私はクリスマスマーケットを企画したここら辺の自治体の市長を任されております、ジアモットと申します。この度は本当にありがとうございました。」
市長へ自己紹介を済ませると、そのまま建物の中に入り、応接間に通されソファーに座るように促されると、被害状況の確認をした。ちゃんと街の人に怪我人が出ていないか、建物の損害はどの程度か確認し、教会に報告して自治体にお金の支給がされる。そのためにハイデンと朱朱様はジアモットさんから話を聞いた。
「分かりました。怪我人の病院への搬送は直ぐに手配されて今はもう治療済みということですね。先程広場の被害状況も見てきましたが、こっちの方が被害総額が大きくなりそうですね。ディアボロの出現による、民衆のパニックによって怪我やテナントの破損が引き起こされてしまったのでそれなりの金額を教会からこちらの自治体に送らせていただきます。」
「何から何までありがとうございます。命を守ってもらっただけでなく、その後の処理まで…。人々はディアボロの脅威はありつつも、クリスマスを特別な日にしようとしただけですのに…。ディアボロは残酷ですなぁ…。」
ハイデンが市長との話し合いの内容をまとめると、市長はしおしおと頭を項垂れて、秘書が出してくれた紅茶を一口飲んだ。
「私たちデューの管轄元である、教会の見解だとディアボロは人々の生命エネルギーを集めていると聞きます。ですから、クリスマスマーケットで集まった多くの人々に狙いを定めたのでしょう。」
「それにしても、激昂したディアボロが武器に毒を染み出して使ったのには驚きました。」
市長と同じように紅茶に口を付けたハイデンの言葉に朱朱様が先程戦ったディアボロの気になった点について話した。
「最近のディアボロは特異個体が確認されていると教会から自治体へ通達がありました。でも、大規模なクリスマスマーケットではないのに、ここにまで現れるとは思っていませんでした…。」
「どんなに規模が小さくても、人々が集まるところにディアボロは出現します。」
「う…すみません…。ディアボロが出る可能性があったのに、クリスマスマーケットを開催して結局被害が出てしまい、こちらの過信でした…。」
市長がどんどん肩を巻き込んで小さくなってしまうので、ハイデンが慌てて被りを振る。
「ち、違います!何も人々が集まるような催し物をするなと言ってる訳ではなく…!」
「ハイデンは催し物をするなら、教会へのデューの派遣要請と会場の規模の報告など、色々な手続きを踏んでください。そうでなくとも守りますよ。って言いたいんだと思いますよ。」
「ゼルチアーノ、皆まで言わなくても…。」
「あれ、違いました?」
ハイデンのキリッとした顔に市長が叱られていると思って縮こまってしまったので、私が助け舟を出すと、ハイデンは耳まで真っ赤にして顔を両手で覆っていた。私がキョトンとしていると、市長も同じ顔をしていたらしく、その後朱朱様が吹き出したことで、その場は和やかになった。
紅茶を頂いてから、教会へ請求するお金の話を少しだけして、私たちは市長との話し合いを終え、応接間を出た。役所の廊下を秘書に先導されて歩いていると、香扇ちゃんがクスリと笑った。
「久々に朱朱様が笑ったところを見れました。ハイデン様、ゼルチアーノさん、ありがとうございます。」
「そんな改まって言わなくてもいいじゃない…。」
「朱朱様は最近のディアボロの不気味な成長に疑問を抱いて各地の教会の地区本部を巡って話を聞いてきました。ですので、気が張り詰めていたのです。それをお二人がほぐしてくださった…。朱朱様のお側に仕えるものとして笑顔が見れることはとても嬉しいのですから。」
香扇ちゃんが真面目な顔で最近確認されたディアボロの不気味な進化について話し、主人であるデューの朱朱様のことを本当に心配しているようで、朱朱様も何も言えなくなってしまった。
「確かに私たちが契約したきっかけでもある、アルテミスの孤児院の襲撃事件では、フェデーレの真名を取って動きを封じるという今までに例を見ないディアボロが現れました。ですから、この後北欧地区の教会の神位、オーディン様から直接報告しに来るように言われておりまして…。」
「あら!そうなんですか!私もこの世界ではまだ北欧地区の本部には行ったことがないんですの。良かったら今回の件も踏まえて報告する場に私も同席してもよろしいでしょうか?」
「えっ…!?」
「ハイデン、朱朱様もいてくだされば、クリスマスマーケットを襲撃したディアボロの毒を分泌したあの行動についてもより詳しく報告できますよ!実際助けられたところもありますし、ぜひ一緒に行った方がいいです!」
「で、ですが、オーディン様は"私に"来るようにと…。」
「オーディン様はそんな融通が効かない人ではないでしょう?」
「さあ!」
「「さあ!!!」」
「う…、うう…わ、分かりました、みんなで行きましょう!」
ハイデンからオーディンへの報告の場があることを知ると朱朱様はオーディン様の元へ行きたいとおっしゃったので、私と香扇ちゃんも一緒になって融通の効かないハイデンに迫って強引に頷かせた。
そんなやりとりをしてから広場に戻ると既に広場にはニコライさんとローランさんだけが残っており、他の運営スタッフの皆さんは帰られたとのことだった。
2人にも市長との話し合いでの内容と、この後朱朱様がハイデンと共にオーディン様の元に報告と挨拶に行くことを話すと、ニコライさんは頭を下げて"ご無理を言ってすみません!"と謝り、ローランさんは苦笑いをするしかなかった。
私たちにも旅の支度があるので、朱朱様御一行とは明日ヨーテボリの街で合流し、ヘルシンキまでの船が出ている首都のストックホルムまで一緒に行くことになった。
――――――
夜にハイデンの家で真っ白な浴槽にたっぷりお湯を張ってほかほかと湯気が上がる中、体を滑り込ませると、じわりと肌に触れる心地よい温度のお湯に思わず、感嘆の息が漏れてしまう。
「ふぁ〜〜…気持ちいい〜…」
ハイデンの家の浴槽は2,3人が同時に入れそうな大きさのもので、私は足を伸ばして全身の疲れを取った。
「やっぱりお風呂は気持ちいいなぁ〜………。絆の技…か。」
両腕をぐーっと前に伸ばしてから浴槽の縁に腕をかけて上を見上げながら呟いた。
それは朱朱様のフェデーレである、ローランさんから聞いたこと。"絆の技"を会得できれば、もっとディアボロとの戦いも有利になる。でも、それはフェデーレとデューの信頼関係が最も重要になってくる。焦らず、少しづつハイデンとの関係を埋めていくしかない。ここが帰ってくる家だと再認識し、明日から北欧地区の本部に向かうのだからと、お風呂を存分に堪能して私は浴槽から出たのだった。
――――――
翌日。私が起きて部屋から出ると既にハイデンは身支度をしていた。
「おはようございます、ハイデン。」
「おはようございます。ゼルチアーノ。昨日はよく眠れましたか?」
「はい、お風呂の効果でそりゃもうぐっすり!私も身支度済ませちゃいますね。朝ごはんは食べていかれますよね?」
「それは良かった。ええ、食べてから出発するつもりです。ゼルチアーノ、旅支度はどれくらい進みました?」
「えっと、もう昨日の夜のうちに終わってて…。」
私が照れくさそうに言うと、ハイデンはびっくりした顔をしてから直ぐに小さく笑った。
「ふふ、遠足前の子供のように愛らしいですね。では朝食の準備は任せていいですか?私は旅支度をしてきますので。」
「う…、わ、わかりました!」
"愛らしい"と言われてしまって、流石に楽しみすぎて準備があっという間に終わってしまったという話はしないでおこうと思って、私は洗面台に向かった。
朝食を2人で手早く済ませて、旅の荷物の最終チェックを済ませると、ハイデンに買ってもらった新しいトランクを持って、家を出た。
「行ってきます!」
また帰ってきてあの真っ白な浴槽でお湯に浸かって心と体をリラックスさせたいと思いながら名残惜しく家を離れ、バスに乗り込んだのだった。
