動き出す

第5話 絆の技
 ディアボロは手の鎌を建物の壁に突き立てて上手く登って来た。私たちが屋根の上で武器を構えて待っていると、ディアボロは大きくジャンプしてその自慢の鎌を振り下ろして来た。
「これ以上街の建物の破壊は許しません!」
 そう言ってハイデンが武器となった私を前に出して鎌の攻撃を受け止めた。ジャギィンッと金属のぶつかる音が響き、ハイデンがグッと足を踏ん張っていると、ディアボロの横顔にズガン!と派手な音で火の矢が打ち込まれた。
 攻撃が飛んできた方向を見ると、先程まで髪色と同じ赤色の扇を持っていたはずの朱朱様の手には真っ赤な大きな弓があり、その弓矢で火の矢をディアボロの横顔に放って来たのだと理解した。朱朱様には2人目のフェデーレがいるのだとびっくりしていると、朱朱様は直ぐに次の矢を番、大きく引いた。
「ガァッ!」
 ディアボロはレイピアを弾くと、朱朱様の方に体を向けた。その間にも朱朱様は狙いを定めており、次なる火の矢が放たれた。今回はディアボロも防御を取り、自慢の鎌を交差させ火の矢を防いだ。
 レイピアが弾かれたことで体勢を崩したハイデンは軽くバク転をして立て直し、ディアボロの意識が朱朱様に向いている今がチャンスで隙だらけのディアボロの脇腹に突きを繰り出した。そのハイデンの一撃は重く、ディアボロは道を挟んだ隣の建物の屋根まで吹っ飛んだ。
 少しでもマーケットのある広場から離れさせるためにハイデンは渾身の一撃で吹っ飛ばしたのだろう。ハイデンはディアボロの後を追いかけ、隣の建物の屋根に移動したが、朱朱様はその場を動かず、次なる攻撃の準備をしていた。
「ガァアアア!!!」
 ディアボロが大きく吠えると鎌で土煙を払い、ハイデンに鎌攻撃を繰り返して来た。ギンッギンッと鎌とレイピアがぶつかる音が響き、状況は鎌を両手に生えさせているディアボロの方が優勢かと思いきや、ハイデンは一撃の重さもさることながら、攻撃を繰り出すスピードが速く、手数でディアボロを圧倒していた。どちらが集中力を欠くか、それが勝負の分かれ目だった。
 それはディアボロが焦りと警戒心から生まれた僅かな攻撃のタイミングの遅さで決着がついた。
 ハイデンの猛攻撃に圧倒されたことと、遠距離からの朱朱様の火の矢の攻撃に一瞬でも視線を移動し、確認したことで今までレイピアの攻撃をやっとの思いで全て鎌で防いでいたのが僅かに遅れた。その隙をハイデンが見逃すはずもなく、今までの攻撃スピードに加えて、グッとレイピアの柄を強く握って、僅かに出すのが遅れたディアボロの左の鎌の湾曲している部分にレイピアをかけ、下から上に弾いた。ディアボロは鎌を大きく上に持ってかれ、体制を崩した。
「せぇあッ!!!!」
 気合いの声と共にハイデンは上に弾いたレイピアを光の速さで顔の横に構え直し、ディアボロの弱点である頭部を守る白い仮面の中心に向かってレイピアを突き出した。
「(砕けて!)」
 私がハイデンと共有している意識下でレイピアが白い仮面にぶつかっている部分に意識を集中させて硬度を高めるイメージをした。すると、仮面にビキビキッと亀裂が走り、パリンッという音と共に砕けた。その勢いのまま、レイピアはディアボロの眉間に突き刺さり、頭部を吹き飛ばすほどの威力で突き出された。
 ディアボロが数十メートルと街から離れて吹っ飛ばされたのを見て、ハイデンは突きの姿勢から一息吐いて体制を戻した。
「(ゼルチアーノ、よくぞあそこで仮面を割ってくれましたね。)」
「(あの瞬間がチャンスだと思って…、少し力を入れて硬度を上げるイメージをしてみたんです。)」
 私とハイデンが意識下で会話してる間に隣には朱朱様がやってきた。
「仮面を割ることが出来ましたね。あともうひと押しです。」
「来ますね。」
 短い会話の後、吹っ飛ばされたディアボロが強い雄叫びと共にこちらに飛んできた。激昂していることで先程よりもスピードと跳躍力が数段上がっている。
 両手の鎌を振り下ろしてきたので、ハイデンがレイピアを横に構えて受け止めようとすると、隣にいた朱朱様が突然弓矢から手を離して、ドンッとハイデンを横から体当たりして突き飛ばした。
 僅かに出来たハイデンと朱朱様の体の間にディアボロの鎌が通り抜け、建物の屋根に突き刺さった。
 しかし、ただ突き刺さっただけでなく、屋根の瓦礫がじゅう…と溶けるような音がしたのだ。屋根に鎌が刺さって動きが止まったディアボロに朱朱様は体当たりして崩れた体制から手を地面につけ、体を捻ってディアボロの腹に回し蹴りを入れて、ディアボロを吹き飛ばした。
「死に際の苦肉の策でしょう、毒を分泌して鎌に流れています!先程までと同じようにその子で受け止めていたら、溶けてしまいますよ!」
 直ぐに体制を立て直して向けてきた朱朱様の必死の形相にハイデンはハッとした。今の攻撃を私が受け止めていたら、毒の効果で刀身が溶けていたかもしれないと思うとゾッとした。武器の損傷はフェデーレである私たちにも影響してくる。だから、毒での溶解は注意しなければならない。だが鎌に毒が流れていては、こちらは鎌の攻撃を受けずに全て躱して、戦闘を長引かせず素早くディアボロの頭を飛ばすしかない。
「私が鎌の攻撃を受けます、ハイデンは隙を見て頭を狙ってください。」
「ッ!しかし、奴の鎌には毒が!」
「私のフェデーレは毒の鎌に対抗できます。ローラン!」
「はい、お嬢様。」
 朱朱様の提案にハイデンが食い下がると、朱朱様は得意げに口角を上げて、両手を掲げた。
 人の名前を呼んだ瞬間、どこから現れたのか1人の初老の男性が朱朱様の隣に来て、頭を下げた。そして、体が炎となって燃え上がるとその炎は風もないのに吹き上がり、掲げられた朱朱様の両手に収まった。
 ゴオッという音と共に朱朱様が両手を振り下ろすとその手には二振りの真っ赤な刀身の双剣が握られていた。
「3人目のフェデーレ…。」
 ハイデンがびっくりしていると、朱朱様は脚を一歩引き、その小さな体を屈めた。グッと引いた脚に力を入れたのが分かった瞬間、朱朱様は物凄いスピードの炎となって、距離が空いていたディアボロの目の前に現れた。
「ガッ!?」
 あまりにも一瞬の出来事だったので、急に目の前に現れた朱朱様にディアボロは驚き、半歩足を引いた。その瞬間に朱朱様は右の剣をディアボロの左の鎌の湾曲した部分に引っ掛けると上に押し上げ、反対側の剣をディアボロの鎌の始まりである手首部分に向かって振り下ろした。
 双剣で上下の方向に力を入れられ、そして切られる瞬間に炎を纏った剣はあっという間にディアボロの鎌の手を1本切り落とした。
「ガァアッ!」
 ご自慢の鎌の手が切り落とされた痛みでディアボロが後退すると、その場に朱朱様が膝をついた。
「朱朱様!」
 その瞬間をディアボロも逃さず、痛みで後退した足を一歩前に出してもう片方の鎌で朱朱様に向かって振り下ろした。
 だが毒の鎌が届く前に持ち前のスピードで朱朱様が膝をついた瞬間から走り出して距離を詰めていたハイデンが右腕を伸ばしてレイピアで正確にディアボロの頭部を狙って突き刺した。コンマ数秒遅れて体も追いつくと、そのまま脚を一歩踏み込んでハイデンが気合いの声を上げた。
「やぁああッ!」
 ズクズクと頭部に突き刺さったレイピアを押して最後は渾身の力で突きを放った。
 ズバンッとディアボロの頭は突き技の威力で吹っ飛び、フラフラとした体だけが残り、そのまま朱朱様に振り下ろされてた鎌が当たりそうになった瞬間にディアボロは砂となって消えた。
「はぁ…はぁ…ッ」
 朱朱様に当たるギリギリのところでディアボロに一撃を喰らわすことが出来たので、最後の一瞬に息を止めていたのであろう、ハイデンが大きく肩で呼吸をした。
「(ハイデン!朱朱様!)」
 私が剣のまま、2人の名前を呼ぶと、ハイデンが小さな声で"戻ってください、ゼルチアーノ"と言ってくれたことで、私は人間の姿になって2人に駆け寄った。その瞬間にハイデンもガクッと膝をついてから、コテンと後ろに尻餅を付く形になった。
「2人共、大丈夫ですか!?」
 私が様子を伺うと、ハイデンは肩で息をしているものの、外傷はほとんど無く、朱朱様もいつのまにか双剣のフェデーレを戻していて、3人のフェデーレに囲まれていた。
「朱朱様、ご無理はなさらないように言いましたよね?」
「はい…。」
「ローランを使う判断をされたのはあの場では最適解ですが、距離を詰めるのに、ご自身の力を使わなくても良かったでしょう!」
「で、でも、早めに対応しなければハイデンとゼルチアーノが…。」
「ご自身の寿命を縮めるおつもりですか!ローランは新入りなのですから、まだあの力を使う時ではないんです!分かってください!」
「は、はい…。」
 気付けば朱朱様はしょぼしょぼと萎れていて、長身の暗めの赤髪の若い男性に怒られていて、私と年齢が同じくらいのオレンジ色の髪の毛の女の子が朱朱様の隣で背中を摩ってあげながらもため息を吐いている。もう1人の初老で濃くて渋めのオレンジ色の髪の毛を結っている長身の男性は苦笑いでその光景を見ていた。
「(いつものこと…なのかな…?)」
 どうやら、朱朱様は若いながらにしっかりはしているが、自分の命を過小評価し、周りを助けるならば自分の命など…という方なのだろう。それを長身の若い男性のフェデーレは叱っているらしい。
「(デューはフェデーレと一緒に戦うはずなのに、デューが自分の命を大事にしないのは、苦しいよね…でも…)あの…。」
「?」
 私がおずおずと朱朱様たちの元に声をかけると、皆がこっちを見て首を傾げた。
「あの、私の主人である、ハイデン…様、を助けていただき、ありがとうございました!朱朱様がいなければ、ハイデンも私も、あのディアボロに苦戦していたと思います…、あの、ですから…朱朱様をあまり責めないでください…。」
 自分よりも背が高い長身の男性2人を前に少し怯えてしまったが、言いたいことは言えたので、キリッと顔を上げると、若い男性がキョトンとした後、ヘラッと苦笑いをした。
「ははは…、いやはやお見苦しいところを…。私は朱朱様の2人目のフェデーレ、ニコライ・プチーツァと言います。あの火の矢を放てる弓矢だったフェデーレです。」
「あたしは朱朱様の最初のフェデーレ、香扇といいます。あの宝扇だったのがあたしです。」
「自己紹介が遅れましたね、私は朱朱様の3人目のフェデーレ、最後の炎の双剣となった、ドゥリンダ・ローランと言います。お嬢さん、素晴らしい戦いっぷりでしたね。」
「あっ、えっと、私はハイデン様のフェデーレ、ゼルチアーノといいます。レイピアになってました。」
 4人で自己紹介を済ませると、朱朱様も立ち上がった。
「皆、私のことを心配して叱ってくれているのです。ゼルチアーノ、どうかこの子達を悪く思わないでください。」
「朱朱様…。」
「ゼルチアーノ、朱朱様が使ったあの炎となって距離を詰めた技は本来フェデーレとの絆が深いほどできる、絆の技です。それを朱朱様は使わないと私たちが危ないと判断し、自分の命を削って無理やり使用したんです。ゼルチアーノも私との絆が深くなれば使えますが、まだ浅い今の段階では私がデューとしての命を削ってなんとか使える状態です。ゼルチアーノはその状態でその技を使ったら、私を叱るでしょう?」
「う…っ、た、確かに…。」
「だから、朱朱様のフェデーレが心配して怒るのも無理ありません。私たちが危なかったのはディアボロが激昂したことで新たな攻撃パターンが生まれることを予想してなかったから。直ぐに気付いた朱朱様の機転が無ければやられていたのは私たちです。」
「すみません…、私たちが招いたピンチによって、朱朱様に無理をさせてしまって…。それなのに、感じ悪く朱朱様のフェデーレの皆さんを責めるようなことを…。」
 私はハイデンからあの技の正体を告げられ、無理せざる終えなかったのが私たちのせいだとやんわり言われて、しょんぼりとしてしまった。
 そこへ朱朱様のフェデーレである、ローランさんが近付いて、私に視線を合わせて屈んでくださった。そして、ポンと私の頭に手を乗せて優しく撫でた。
「君はまだフェデーレになりたてなのだろう?私もそうさ。絆の技のことを教えてもらったのも、使えるようになったのも最近だから朱朱様には無理をさせてしまうことが多くてね、申し訳ないと思っていたんだ。でも、そんな私のことも主人である朱朱様は小さなことからフェデーレとしての気概まで色々と教えてくださって…、私との絆を深めようとしてくださってる。君の主人のハイデン様も同じだ。お互い主人を無理させないためにも、普段からよく話して、気持ちを共有するといい。大丈夫、君は強くなれますよ。」
「ローランさん…。」
 温かな手で優しく撫でてくれるローランさんの言葉が胸に残った。なんだか小さい頃の記憶が燻った気がしたが、気にしないようにして、ローランさんに笑顔を向けた。
「ありがとうございます!私も強くなってもっとハイデンの力になれるように頑張ります!」
「はい、その意気です。」
 私の笑顔を見てローランさんも笑ってくださって場が和んだので、私たちは先程の広場に戻って被害の状況を確認することにしたのだった。
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