動き出す

第4話 異国のデュー
 オーディン様からの手紙を読んだ後、私たちは朝食を手早く済ませ、早速北欧地区の本部へ行くため、準備を始めた。
「北欧地区までは船で行くのですが、軽い旅行になると思ってください。ですので、トランクなどを用意する必要がありますね…。急ぎで来るように言われていますが、物資が足りなかったと言えばゼウス様じゃあるまいし、オーディン様なら許してくださいます。」
 お互いの自室で準備をしているとあっという間に初めて会った時と同じ黒を基調としたジャケットにショートパンツスタイルに着替えたハイデンが私の部屋の様子を見に来ていた。
「船で行くんですね…この間初めて乗りましたが、ああいう揺れる乗り物は得意ではないかも…。」
「船酔いも一種の経験ですが、無理は禁物です。さぁ、今日は一緒に出掛けて、仕事ですけど旅行用のものを買い込みましょう。」
「はい!」
 私はバッグにハイデンから貰った新品の財布を詰め込み、最後に洗面所で自分の姿を確認した。
 この家に来てから最初にハイデンから洋服を貰った。ハイデンはかっこいいけど、私のは可愛い路線のタイトスカートの一部がフレアになっていたり、肩出しをしていたり、アシンメトリーのデザインになっていて、私は昨日この服を一目見て気に入った。
 髪の毛も1人でアレンジしてハイデンの髪色と同じ色のリボンまで付けて、私はルンルン気分で玄関で待っていたハイデンと合流し、家から少し歩いたところにあるバス停まで歩き、そこから市街地までバスで向かった。
 ハイデンが一人暮らししているのはスウェーデンのヨーテボリという街の外れ。自然もあるし、運河もあってゆったりとした時間が流れていて、とても落ち着く街だった。
 市街地に来ると、歴史的建物が増え人も多くなった。今の時期はクリスマスマーケットが開催されており、どこもかしこも、ブースの方からいい匂いだったり、可愛い小物がチラチラと見えている。
 そわそわと落ち着かない様子でキョロキョロしていると、ハイデンがクスッと笑った。
「お昼までに地区本部に行くための旅行準備用品を買って、ここに戻って来てご飯を食べましょう。それでいいですか?」
「!はいっ!」
 目をキラキラさせて大きく頷くとハイデンはツボに入ってしまったようで、顔を背けて肩を振るわせて笑っている。
「(な、何がそんなに面白かったのかしら…?)」
 私がきょとんとしていると、ハイデンは一瞬でキリッとした表情に戻り、歩き始めた。
「まずは長距離移動にはトランクは欠かせません。カバン屋さんに行ってみましょう。」
「はい。」
 市街地を迷わず進むハイデンの後をついて行き、カバン屋さんにて私は紺色の革地に白色のベルトがアクセントになってる可愛いトランクを購入した。あらかじめアルテミス様の孤児院を出る時にある程度のお小遣いは渡されていたが、私が支払いをしようと財布を出した瞬間にハイデンがあっという間にカードで支払いを済ませてしまい、私の財布の出番が無かった…。
 店を出てハイデンにお礼を言うと、さも当たり前のように"これもデューの務めの一つよ。"と答えてかっこよかった。
 それからは下着屋さんや服屋さん、細々した雑貨用品を買い込み、私たちは最初の市街地のクリスマスマーケットが開かれている広場に戻って来た。
 時刻はお昼を30分ほど過ぎたくらいで、一際賑やかになっていた。広場に設置されたテーブルと椅子が置かれたイートインスペースには、はふはふと湯気を立てる料理を美味しそうに頬張っている人々が沢山いた。
 その光景を見てしまったら、私の腹の虫も元気よく鳴いてしまったので、苦笑いしながらハイデンを進むように促して何を食べるか真剣に吟味した。
 ――――――
「はー…、体が温まりましたし、美味しかった〜…。あのビーフシチューのお肉、ホロッホロでしたねぇ…」
「ええ、とても柔らかいお肉でした。味付けも奥深く、寒い日にはうってつけでしたね。」
 色んなブースを回って選んだのは、とてもいい香りが漂っていたビーフシチューだった。香りに引き寄せられてブースを訪れると気前のいいおじさんがお肉をたっぷり入れてくれて、私は満面の笑顔で、ハイデンは少しびっくりしてから照れたようにお礼を行ってイートインスペースでそのホロッホロのお肉をたっぷり堪能したのだった。
「次はどうします?お肉は食べましたし、甘い物ですか?」
 ハイデンが私と自分の分の器を近くのゴミ箱に捨ててる間に私はマーケットの人混みの中に一際目立つ、赤からオレンジ、そして黄色のグラデーションのふわふわの髪の毛を持つ、異国民のような風貌の女の子を見つけた。背丈は低く、私よりも年下だろうと直ぐにわかった。近くに親御さんらしき人が見当たらず、私はその子に駆け寄った。
「え、ゼルチアーノ!?」
 後ろでハイデンが驚いた声を上げていたが、そんなに距離は離れていないので、私のことも直ぐに追いかけて来れた。
「ねぇ、あなた1人?」
「……?」
 私が声をかけると振り返った女の子はキリッと吊り上がった目に同じくキリリと性格の強さを象徴するような短めのつり眉。前髪は切り過ぎたのかと一発で分かるほどで眉よりも上で切り揃えられ、目は深いエメラルドのような色に赤のアクセントがある。
「(珍しい…、可愛い…)」
 第一印象はそれだった。
 私が声をかけたことで首を傾げた目の前の赤髪の女の子は直ぐさま、私の後ろから追いかけてきたハイデンを見た。
「あなた、デューですか?」
「え、ええ。」
 私ではなく、後ろのハイデンに女の子は声をかけたので、ハイデンは驚いていたが、直ぐに姿勢を正して自己紹介をした。
「ギリシア神話の正義と純潔の女神、アストライアーの名を与えられたデュー、ハイデン・ブルーストと言います。あなたもデュー…ということですね?」
「はい。自己紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。私は中国神話、四神朱雀の名を与えられたデュー、朱朱と言います。皆からは朱朱と呼ばれております。」
「えっ!?こんな可愛い子がデュー…ですか!?」
「こら、ゼルチアーノ、失礼ではありませんか。」
「いえ、外見はただの子供ですからね。見間違えても仕方ありません。」
 なんと私が声をかけたのはこの北欧地区から遠く東の地区である中国地区のデュー、名前を朱朱ちゃんと言うらしい。可愛い外見に相反してしっかり者のようでハイデンと気が合いそうな子だと思った。
「私たちこれから、甘いものを食べるんですけど、朱朱様もいかがですか?」
「え…?い、いいのですか?その、ご一緒しても…」
 私の自己紹介も済ませ、私がマーケットのブースを指さすと朱朱様は目を輝かせて年相応の表情をした。デューとしてしっかりしなくてはという思いもあったのだろうが、甘いものの誘惑には勝てなかったようだ。一緒にどんな甘いものを食べようかブースを見て回ることになった。
「そういえば朱朱様のフェデーレは…?」
「ああ、それなら…。」
朱朱様がチュロスをあげているブースを見ながら答えようとしたその瞬間、ふと太陽に雲が翳って薄暗くなった。私が太陽を見ようと手をかざしながら顔を上げると、上空から何かが太陽を遮って落下して来た。
「あれって…!」
「「ディアボロ!!!」」
 私が指さすのとハイデンと朱朱様が声を上げたのは同時だった。
「ゼルチアーノ!」
「はい!」
「香扇!」
「はい!朱朱様!」
 2人のデューがフェデーレの名前を呼び、武器を構えるとクリスマスマーケットに来ていた人々から悲鳴が上がった。太陽を遮るように降って来たディアボロにマーケットに来ていた人々は散り散りに走って逃げていく。
「(このままでは街の人に被害が出ちゃいますよ!)」
「そうですね。朱朱様、こいつを誘導して場所を変えましょう!」
「分かりました!」
 朱朱様のフェデーレは扇に変身できるようで、朱朱様の髪の毛と同じようなグラデーションの羽がふんだんに使われた扇で、手持ち部分と羽根の結合部には朱朱様の瞳と同じエメラルドのような宝石が嵌め込まれていた。
 2人でマーケットの端に積み上げられた木箱をヒョヒョイと飛び乗り、圧倒的なジャンプ力で市街地の屋根に飛び乗ると、マーケットから離れるように走り始めた。
 今回現れたディアボロは前の手が鎌のように変形しており、あれで切り裂かれれば致命傷になりそうなくらいの鋭利なものだった。
「ディアボロ!あなたの相手は私たちですよ!」
「そうですよ!こっちへ来なさい!」
 レイピアとなった私と、朱朱様のフェデーレの子の武器で煽るようにディアボロにヒラヒラと手を仰いでいると、ディアボロは低く唸った後、直ぐにこちらに体を向けて追いかけて来た。
「さぁ、こちらへいらっしゃい!」
 朱朱様が好戦的に声を上げるとディアボロは"ガァアアアッ!"と叫びながら距離を詰めて来た。
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