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我愛羅

 我愛羅は笑っていた。狂気を帯びた邪悪な笑みではなく、心から慈しむような、そんな穏やかな笑みだった。私の知らない笑顔だった。そうか、彼は笑えるのか。何時の間に彼はこんな表情ができるようになったのだろう。一体誰が、こんな表情をさせたのだろう。 それが私だったら、よかったのに。彼が以前の彼では考えられない、こんな柔らかな顔ができるようになったのは、とても嬉しい。でもその笑顔が、なぜだかとても儚く見えて、 彼の存在がすぐに消えてなくなってしまいそうで、怖くなった。
 ねえ、もう辛い時代は終わったんだね、これからはずっと穏やかに幸せに笑っていてね、やめてそんな顔しないで、何も言わなくてもいいからいなくならないでここにいて、 脳裏を過ぎる矛盾する思考、こんがらがった感情が渦を巻いて、心は混沌としている。
「どうした」
 彼の右手が泣きそうな顔をする私の左頬をそっと撫でた。その優しさがどうにも胸に沁みて、心臓がきゅっと苦しくなった。彼の手に自分の手を重ね、強く握った。今しっかり 縫いとめておかなければ、この温もりがどこかへ行ってしまう気がした。いやだ行かない で、どこにも行かないで消えないで、いやだいやだいやだ、暴れ出す心が漏れ出さないよう口を噤むと、抑えきれないそれは眼から溢れた。
 言葉無く泣き出す私を包む彼の温もりが優しさが切なくて、私はまた砂漠に滴を降らせた。

20120514
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