このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

我愛羅

「風影様!」
 誰にも受け入れられず、誰からも疎まれた孤独な少年。それが今では、里の皆に頼られる風影様である。皆が我愛羅を慕っている。彼の過去、地獄のような孤立を思えば、今彼が皆に囲まれていることはとても嬉しい。本当に良かったと思う。しかしその反面、私の心 の片隅には暗雲が立ち込めていた。私は、彼が孤独の中狂気に身を浸していた頃からずっと彼を見てきた。皆が彼を腫物のように、あるいは目の敵にして避けていた頃から、私は彼を想ってきた。それに比べて、皆はどうだ。散々彼を苦しめ、追い込んできたくせに、 何を今更。そんな思考が脳裏に浮かんでは掻き消し、消えてはまた顔を出す。ただ純粋に祝福するだけに止まれない自分は、何と醜悪なのだろう。独占欲、なんて、愚かしい。
 風影様ったらかっこいい、可愛い、お近づきになりたい、また街中で黄色い声で囁き合うくノ一たち。あなたたちは我愛羅の何を知っているというの。私は知っている。彼がどんなに辛かったか、どんなに苦しんだか。だって私はあなたたちなんかよりずっと昔から 彼を見ていた。私は彼の表面だけを見て薄っぺらい好意だけで騒ぎ立てるあなたたちのような輩とは違う。彼の莫大な闇を、どこまででも一緒に背負う覚悟がある。
 では私が彼に抱いているのは、彼への思いが由来するものは、何だというのだろう。憐憫?同情?庇護欲?
結局は私も彼女らと同等、いや、それ以上に下劣で、最低な女じゃないか。
 労いの言葉をかけてくれる彼の優しさが眩しくて、痛くて、苦しくて、居た堪れない。 お願いだからやめて、私はあなたが思っているような清い人間なんかじゃないんだよ。
 ああもういっそ、もっと前に、彼の砂の糧になってしまえていれば。

20120406
1/2ページ
スキ