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長谷部

 片付けは苦手で、と主が言う。
「片付けのコツは〈とにかく捨てること〉だって。皆言うの。家族も知り合いも書籍も」
 文箱を整理する主の穏やかな声を、本棚を整理しつつ静かに聴く。
「片付けというか、捨てるのが苦手でね、不要物を捨てようにも、私にとってはみんな大事だし、最低限必要な物以外捨ててってなったら、我が身と最低限の衣食住以外はいらなくなっちゃうから。ここに来るときみたいに」
 そういう中間のところの線引きが下手なんだろうねと、眉を下げて主は笑う。捨てるのは寂しいよね、と呟く声は淡く昼の光に溶けていった。
「主が多くを手放したことでここに来られたなら、俺はそれらに礼を言わねばなりません」
 整理の手を止め、主の前に座す。主の瞳は俺を見ている。
「どうか末永く、俺を貴方の刀でいさせてくださいね」

2019
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