「クロエさんがお前をなあ…苦労してるな、お前もクロエさんも。」
苦労、とはまた違う。俺は苦労なんて何一つしていない。最近ではクロエが俺の周りで動いているからか一軍の奴らが面倒がって何もしてこない。正直俺が一軍の奴らでも面倒だと思うだろう。それくらい面倒な奴だ。クロエ・桔梗・フォーサイスという女は。
「俺はデブリだ。俺はあいつを幸せにはできないしあいつも俺とは幸せになれない。クロエだってすぐ飽きるよ。」
「そうかあ？いいじゃねーか、あんなかわいい子めったにいないぜ？」
ダンテの言うめったにいない、という言葉がどうもひっかかる。
「店の女とは違うんだぞ。無責任なことはできないだろ。」
「ふーん？」
意味ありげにダンテは含み笑いをしこっちを見る。
「なんだよ。」
「随分クロエさんのこと考えてんな。」
「あれだけうるさければ考えるだろ。」
そう、何も不思議なことではない。周りであれだけうるさくされれば誰でも考えるだろう。何も特別なことではない。そうだ、特別なことではない。
「幸せにできるできないの話はぬきにしてよお、お前はクロエさんのことどう思ってんだ？」
どうも思っていない。確かに可愛いとか、綺麗だとか、色々と思うことはある。それはいわゆる思春期というもので、俺がどうこうという問題ではない。
「……別に。」
途端に視界が暗くなりふわりと甘い香りに包まれた。この香りはクロエだ。優しく、どこか色っぽい香りは間違いなくクロエだ。
「だーれだ♡」
このCGSではこいつ以外にこんなに高い声の奴はいない。クロエの声はどこか凛としていて、それでも幼さを残していて、男が好む声をしていた。
「クロエ。」
「正解！やっぱり私だってすぐわかってくれるんだね。」
目をふさいでいた手がゆっくりと下へ下へとさがり肩へたどり着くと優しく力が入った。背中に感じる温もりに思わず手を伸ばしたくなる。
「こんなことするのお前だけだからな。」
「もー、つれないなー。」
頬を擦り寄せるクロエが愛おしく感じた。
女とまともに関わることが全くない俺たちにとってはこいつは悪魔のようにも思えた。
魔性の女とはよく言ったものだ。人を惑わす女だ。
そんな悪魔に惚れた俺は馬鹿で哀れな人間だ。