ゾンビマン
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命とは儚く、花のように散りゆくもの。
だからこそ美しい。
桜
私は、この病室の窓から外を眺めるのが好き。
たくさんの植物や人々が、毎日違う景色を見せてくれる。
だけどもっと好きなことがある。
それは─────
「花子」
この声の主、ゾンビマンとお話すること。
「今日も来てくれたんだね。ありがとう」
彼が来ると自然と頬が緩む。
去年の春。
私は余命宣告をされた。
「あと1年の命です」
残念そうに言う医者を、両親は涙を流しながら「どうにかならないんですか」と問い詰めた。
私は何も言えなかった。
涙も出なかった。
「お医者さんのせいじゃないよ」
ただ一言そう言って、その場をあとにした。
屋上で景色を見つめていたら、やっと実感が湧いてきて、私は1人、静かに泣いた。
その時もう1人屋上にいたなんて知らずに。
「どうしたんだ?」
それが初めて聞いた、ゾンビマンの声。
あれからもうすぐ1年が経つ。
あのとき知り合った全くの他人なのに、ゾンビマンは毎日お見舞いに来てくれた。
一緒に中庭を散歩したり、屋上から景色を眺めたりした。
私が1日中ベッドの上で生活するようになってからは、毎日枕元の椅子に座って外の話を聞かせてくれた。
私はいつの間にかゾンビマンに心惹かれていた。
その優しい瞳、低い声に、心が落ち着いた。
ゾンビマンと話している間は、死への恐怖を忘れられた。
「私ね、
…桜になりたいんだ」
そう言うと、ゾンビマンは疑問の表情を浮かべた。
「桜?
桜なんて2週間くらいですぐ散って…」
言いかけたところでゾンビマンはすぐに口をつぐんだ。
こんな話、彼女にはすべきではなかった。
花子は黙り込んだゾンビマンを不思議そうに見つめている。
その様子を見て、ゾンビマンはほっと胸をなでおろした。
「…なんで桜になりたいんだ?」
「だって、さっきあなたが言ったとおり桜ってすぐに散っちゃうけど、その短い間で精一杯咲き誇って、みんなの心に消えない感動を与えてくれるでしょう?
…私、去年の春にみた桜が忘れられないんだ。
私もそんなふうに、会った人の心に焼き付いて離れないくらい精一杯生きて、最後は綺麗に散りたい」
そう語り窓の外を見つめる彼女の表情はとても穏やかで、もうすぐ余命だなんて事は忘れてしまいそうだった。
それが1週間前の出来事。
今日も花子の病室に行くと、笑顔で出迎えてくれた。
ゾンビマンは外で起こったことやヒーローの話をたくさんした。
話を聞く花子の様子がいつもと違って違和感を感じる。
話し終えてしばらく沈黙が流れると、花子が哀しそうな目で言った。
「ゾンビマン、私もう駄目みたい…」
「……何、言ってんだよ」
返す言葉が見つからず、震える声でそう言うしかなかった。
「自分で分かるの。死が近づいてきてるのが。
あぁ、最後に桜、見たかったな」
病室の窓から見える桜の木は、まだ硬い蕾がつき始めただけだった。
外から吹き込む風が、カーテンを優しく揺らす。
花子の吸い込まれそうなほど美しい瞳から、涙がこぼれた。
「あれ、おかしいな。
涙なんてとっくに枯れたはずなのに」
ゾンビマンは無理に笑おうとする花子を無言で強く抱きしめた。
その瞬間、はち切れたように花子の目から涙が溢れだして止まらなくなった。
「ひぐっ…ぅえぇ、ん…」
春の風が差し込む静かな病室に、花子の嗚咽だけが響いていた。
それから1週間もしないうちに、花子は息を引き取った。
最後に居合わせたゾンビマンに、
「ありがとう。大好きだよ」
忘れられないメッセージを残して。
結局最期に桜を見ることはできなかった。
あの日、たまたま怪人に襲われた市民を病院に送り届けて、たまたま一服しようと屋上に上がっていなかったら、花子に会うことはなかっただろう。
街を見つめ泣き出した花子を、放っておけなかった。
そのままでは壊れてしまいそうなほど儚くて。
最期に聞いたあの言葉。
ありがとう。大好きだよ
あの言葉を聞いた瞬間、俺は花子に恋をしていたんだと気づいた。
花子の言葉や表情の全てが、
目に、心に、焼き付いている。
それはきっと、花子が精一杯生きたから。
「ほんと、桜みたいな最期だったな」
ザァァ…とあたたかな風が吹いて、木々を揺らす。
見上げると、春の訪れを象徴するように桜の花びらが可憐に散っていた。
ポッカリと空いた心の穴を満たすように、桜吹雪がゾンビマンの身体を撫でていく。
花子の亡くなった次の日、病室の窓から見える桜は咲き始めた。
今ではもう満開に咲き誇っている。
きっと今頃花子は満開の桜の花となって、人々の心に鮮烈に焼き付いて、美しく散っているのだろう。
消えない感動を与えながら。
ほら今も、
どこかで。
┈┈┈┈┈┈┈┈❁あとがき❁┈┈┈┈┈┈┈┈
余命1年の少女と不死身のゾンビマン。
対照的な2人を書いてみました。
ゾンビマンさん性格とかよく分からなくて書くの難しかったです(-_-;)
私は、ぶっきらぼうだけど優しい、そんな印象を感じました。の、で…それを表現しようとしましたが、ただ優しいだけになってしまいました…
精進いたします。。
花子さん、この度はお読みいただきありがとうございました!
リクエスト受け付けております。ぜひぜひご投票ください♪
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