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「それで、デートは楽しかったか」
　良い仕事をしたと思い込んでいるシンは、平然と仕事を進めるジャーファルをニヤニヤと見ていた。
「楽しいも何も。なまえはデートとも認識してませんでしたよ」
　シンは拳を机に叩きつけた。それでは二人のためにと、一人きりで汚れ役（仕事）をかぶった自分はどうなるのだと。
「なんだと？恋人だろうが」
「だから恋人だなんて思ってないようですよ」
「そんなばかな、」

　それ以上の言葉を聞きたくなくて、机を力まかせに叩き割った。書類がひらひらと散らばる。

「おや、これでは仕事になりませんね。私はこれで失礼します」
　有無を言わせる間もなく身をひるがえした。
　響いた轟音に異変を感じ取ったシャルルカンがいちはやくかけつけ、真っ二つに割れた机を見て絶句した。
「王よ……、何があったのです」
「ジャーファルの奴が乱心した」
「またいらんこと言ったんでしょう」
「いや……、それは俺じゃないな。おそらくなまえだと思うぞ」
「まさか、あのなまえが」
「そうだ、あのなまえが」
　二人同時に顔を合わせて、同じように頭を振った。

　翌日も、シンが見る限りジャーファルはすこぶる不機嫌だった。表面上他人にはにこやかに接しているが、話しかけづらい。軽い冗談も言えそうにない。自分の身の安全のために仕事を進めようと、彼から逃げるようにしておとなしく政務に集中した。
「なまえです。お茶をお持ちしました」
　決まり文句を天の救いと、喜んで誘い入れた。ジャーファルも心なしかやわらいだ表情を見せる。お茶をお菓子を配り終わり、お盆だけ胸に抱えたなまえが退室しようとしたところを、ジャーファルが止めた。
「なまえ、少し話をしましょう」
　彼女はきょとんとして、疑いもなくその申し出を承諾した。彼女の腕の中のお盆をとりあげて、机の上に置く。そのまま手を取って、部屋を出かけざま、シンへ振り返る。
「しばらくこちらを空けます」
「ああ、わかった」
　きりっとした顔で返したが、二人の足音が遠ざかるのを境にだらりと体の力を抜いた。
「上手くいくといいがなぁ。これでは俺の身が保たん」

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