短編
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そよ風の吹くキャンプ内。
時間は早朝、そろそろ彼女が起きる時間だ。アネモネの好意で割り当てられた自室から当該の人物は姿を現した。陽の光をまぶしそうに手で遮って、瞬きをして目を慣らした。散歩するようにゆっくりと、周囲のアンドロイドたちに挨拶をしながら朝の習慣をなぞらえる。
朝、という概念があるのは彼女ひとりだけなものの。9Sが知る限り、地上はずっと太陽が照っている。人間は『夜』に睡眠をとらなければ体調を崩すらしい。彼女ひとりで起床と睡眠のサイクルを決めて、ほぼその通りに行動している。
対象の意識レベル:覚醒。
「おはようございます、なまえ」
「おはようナインズ」
バイタルチェックを開始。
対象をこの場にとどめるために会話を仕掛ける。
「今日の予定は聞いていますか?」
「ううん。まだなにも聞いてないわ」
「アネモネに頼まれてパスカルの村に物資の配達に行くんですが、なまえも来ますか?」
「二人がいいならついて行きたいわ」
「ふたり?」
声をかけたのは自分ひとりだけだ。
「ナインズと、2Bのことよ。ずっと一緒にいるし、パートナーでしょう?」
「パートナー……。あまり意識はしていませんでしたが、廃工場の任務依頼ずっと同行してますね。そうです、今回も2Bが一緒ですよ。彼女が物資を預かりにいっているので、間もなく合流予定です」
「でも、私がいると転送装置が使えないでしょう?」
「道々で植生サンプル採取の作業があるでしょう。それはなまえの役目ですよ」
「あ、今日やってもいいのね。どうしてもナインズと2Bについてきてもらわないといけないから、二人の自由時間を奪っちゃっていつも申し訳ないけど」
「2Bなら余暇なんか必要ないって言いそうですけどね」
「うわ~言いそう」
バイタルチェック終了。
結果
体温 :平温
脈拍 :正常
血圧 :正常
呼吸数:正常 速度:平常
以上の記録をバンカーの記録簿へ送信―完了。
ようやくなまえから目線を外した。今回も勝手に生命兆候を測定していることに気づいていなさそうだ。全てが正常値なためわざわざ指摘することでもない。しかしいつか気づくだろうか、と期待してもいる自分がいる。何も言わずにいたらずっとこのままかもしれない。なまえが前にいた時代では、どのように数値を測っていたのだろう。
無言で近づいてくる機体に、なまえが微笑んだ。
「2Bおはよう」
「おはよう。9Sからきいた?」
「うん。私も行くわ」
「用意ができたのなら行こう」
「あ、待って。サンプル採取するなら道具をとってこなきゃ。すぐ戻るね!」
自室に引き返したなまえを2Bとともに待つ。
「9S、もうバイタルチェックは済ませたんだね」
「はい。終わってますよ。今日も異常はありません」
「そう」
待つ間、美しい肢体を伸ばしたり、つま先を地面に打ち付けたり。首を回してみたりもする。
「まさか、教えてませんよね?僕らが毎回バイタルチェックしてること」
大事な人類であるなまえの体調を気遣って管理するのは、司令官からの指示あってのことだ。とくに本人に隠すことでもないのだが、なんとなく言えないまま日々が過ぎていく。
「教えてない」
「まだなまえは気づいてませんよ」
嬉しそうに言う。間違いなく悪戯をしている少年の姿だ。
「遊びじゃないんだから。からかっちゃダメ」
「だから、ちゃんと真面目にやってますってば」
「ならいい」
短い返事は関心の薄さからか。冷たいわけでは決してないのだけれど。そこで話は終わる。
背負う武器を軽めのものに持ちかえただけで、2Bの出発準備は万端だ。
「お待たせ。じゃあパスカルおいたんに会いに行こう!」
バックパックの肩紐の緩みを締めて、なまえは拳を作った腕をまっすぐ上げた。
****
おわり