短編
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**
なまえが熱をだして、意識もあやふやらしい。女性型の2Bがつきっきりで面倒を見ているが、一向に良くならない。
免疫力を保つため高めの体温を維持すべきだが、アンドロイドしかいないこのレジスタンスキャンプには贅沢品もとい不用品ともいえる毛布を持ち合わせている者などいない。
それで2Bは自らの服を広げて被せた。黒いスカート部分を脱いだらその下は白いレオタード。
ときおり塩分と糖分をまぜた、人の体液に近い水分を補給させながら、2Bが抱きしめて添い寝してなまえが自分ではできない体温調節をさせている。
「2B、入りますよ。水筒持ってきました」
定期的に2人のいる部屋へ不足したものがないか確認にやってくる相棒。
「ジャッカスさんからなまえにって薬もらったんですけど、『後で詳しい反応教えて』って笑ってたので……飲ませないほうが良いかも」
2Bはうなずいて、受け取った薬を握りしめる。
「そうだね。ジャッカスの薬はやめておこう。
いま着替えをさせたところ。なまえの服を洗ってくるから、その間具合を看ておいて」
汗の染みた服を腕に丸めて、彼女は立ち上がる。机の上に薬を放置した。
「えっ、僕が……ですか?」
「9Sになまえの下着を洗ってもらってもいいけど、後から知ったら嫌がると思う」
「うっそれは……わかりました、ここにいます」
「よろしく」
2Bはレオタードのまま外へでていく。
どこか湿気を含んだ室内が扉を開けることによって換気され、少し冷える。
「さむ……」
熱源が離れしきりに寒気を訴えるなまえは、ダンゴムシのようにぎゅっと丸まった。
「ちょっとの我慢ですよ」
近づくと、微かに石鹸のような、優しい香りが鼻をくすぐった。2Bが着替えついでに汗を拭いてやったあとなのだろう。熱の残る顔をして、薄眼を開けてもまとまな視界ではなさそうだ。
「とぅび、さむい……」
腕を伸ばして、いなくなった温もりを求める。さまよった末に9Sの手に触れた。
「2Bならいま、なまえの服を洗ってますから」
言っているそばから、ずりずりとベッドを這い出てこちらに寄ってくる。抵抗するも、病人相手に強気にでられず、ついに絡みとられた。
「ベッドから出ちゃダメだってば」
彼女の体を支えつつベッドに腰掛ける。なまえは9Sの胸に頬を当て、べったりとくっついたまま。足腰に力が入らないので、ぐったり、といったほうが適切だろうか。少し表情が和らいだのは、熱源を確保できた安心からか。
「僕は男性型アンドロイドの9Sですよー。2Bじゃありませんよー」
病人にしてみたら、自分を包み込むものに、先ほどまであった胸の膨らみがなくなろうが温めてくれるなら関係ないのだろうか。
指で突っついた頬っぺたも、首も、手の甲も同様に熱い。
「さぁ、ベッドに戻ってください」
肩を掴んで引き離そうにも、抵抗される。本人にしたらやっと取り戻した温もりなのだ。
「9S、なまえはどう」
前触れもなく開かれた扉に、どきりとした。やましいことは誓ってしていないのに、他人の目からすれば何かあったように捉えられてしまうかもしれない。
抱きついているのはなまえからだが、同衾状態の彼らを見て、2Bは9Sを睨みつける。良からぬ疑いをかけられたのがわかって、焦る。
「なにもしてませんからッ!」
「……そう」
無表情な冷たい瞳が非難しているように見える。
「2Bだって、僕がなにもできないの知ってるでしょう?!」
お互いのポッド153と042は情報を定期的に交換、共有しているため、自分たちがなにをしていたかなど筒抜けだ。悪事を働けば司令官に伝わることもある。
「う……ん、あた……ま、いた……」
「9S、静かに……なまえ頭痛がするみたい」
「あっごめんなさい」
洗濯の済んだ服を、部屋の向こうの9Sから見えない場所に干して、2Bは戻ってきた。
「2B、代わってくださいよ」
「私もこれ以上はなまえを看ていられないから、デボルとポポルに頼んだ。すぐ来ると思う」
予想以上になまえの回復が遅れており、これより更に司令官からの任務を引き延ばしにすることはできないと判断した。
「そうか。ふたりが引き受けてくれたんだ」
2Bは座り込む9Sの上に寝そべる色の優れない寝顔をじっと見つめた。
「……これを、かわいいって、言うのかな」
「僕は、厄介、って言うんだと思うけど」
それが正しいのかどうか判断がつけられずに、2Bは沈黙した。
「アンドロイドならウィルスにかかっても、僕がハッキングして駆除するのに」
それなら優秀なS型のこと、1時間だってかからない。
商業地帯跡地で見つけた漢方の本から得た知識で薬を煎じてみても、効き目はすぐには出ない。衰弱したなまえには下手したら劇薬になってしまうから、体調を鑑みて量を調節しつつ服用させるしかないのも歯がゆい。
ようやく眠ったなまえの腕を解いて、ベッドにまっすぐ寝かせる。
「入るぞ」
デボルがポポルと連れ立ってきた。
「あとは任せて」
「よろしく」
ポポルが薄茶色の布を持ち出して毛布がわりにする。フードがついているので、彼女が昔使っていた外套だろう。
2Bと9Sがなまえが双子の手に渡ったのを確認して部屋を出てゆく。
「デボル、ちょっと手伝って」
ポポルの目的はこの部屋にあるもう一つのベッド。マットレスを二人で両側から持ち上げ、もう一つと並べる。これで少し広くなるだろう。
双子はなまえを挟み込んだ。3人もいると寝床はやはり狭くなるが、真ん中の人物はどこか幸せそうに穏やかな寝息を立てる。
「なまえ、早く治して酒呑もう」
こんな時代だ。手元には粗悪品しかないが、荒んだ日々を乗り越えるために、ないよりましだ。
「デボルったら、気が早いわ。まだご飯も食べれないのよ」
**
熱がようやく下がって、近くにいるのが誰なのか判別できるようになった。いつもそばにいてくれる白髪の少女ではなく、赤毛の一組に、自分の記憶を疑う。
「デボルとポポルが看病してくれてたの?ごめん、2Bだったような気がしてたの」
「いいえ、ほとんど2Bがやってくれてたのよ。私たちがきたときには9Sもいたわね」
「そう……任務の邪魔だったよね……」
2Bと9Sへの迷惑を慮って落胆したシャーリンの肩をデボルが抱く。
「気に病むなよ」
「2Bなんかはわりと面倒見が良いから、きっと好きでなまえのそばにいたんだと思うわ」
「そうなの?」
「一緒に行動してる9Sのことも、大事にしているもの」
「うん、それはわかる……言葉は少ないけど、いっぱい心配してくれるの、2Bは」
おおざっぱで、スカートがめくれるのもかまわずに武器を振り回す強い彼女。表情がわかりづらいのはゴーグルのせいだけではない。けれど、わずかな発言の裏にしまいこんだ気持ちは行動を共にするたびに伝わるようになってきた。
「デボルとポポルもありがとう」
「気にするな。他のアンドロイドたちのそばにいるより、なまえのそばにいるほうが落ち着くからな」
一般のアンドロイドから隔離された場所に逃げ込めるのはありがたかった。どうしても周囲を気にして行動してしまいがちだから。
「そうなの?私ってちょっと特別?」
双子の過去を知らない人間は不思議そうにした。
「ここのキャンプの人たちはわりといい人が多いけれど、前に嫌なことがあってね」
「わざわざ世間話しに話しかけてくれるのはおまえら3人くらいだぞ」
アンドロイドたちは情報を同期していることもあり、ゲシュタルト計画の終末は広く知られており、口に戸は立てられず知らない者はいない。それを知ってどう行動するかは個別に差があるものの、たいていは良い顔をしなかった。事件を起こした当機でもないというのに。ただ、同じ型番だったというだけで。
それらに一切通じていないなまえは無邪気で他の目を気にすることなくデボルとポポルに懐いた。はじめは慎重になっていた二人も、次第に気を許し、ともに酒をたしなむようになった。
「そうなんだ。大変だったんだね。私はふたりがずっとこのキャンプにいてくれると嬉しいなぁ。デポルとポポルのこと好きだもの」
ためらいもなく好きだと言い放つことができるのは、感情を自由に出せる人間だからか。
双子は笑顔になって、なまえをそれぞれ抱きしめた。
「もっと寝て、早く治せ」
「私たち、ずっとここにいるわ」
「うん」
**
読んでくださりありがとうございます。
なまえが熱をだして、意識もあやふやらしい。女性型の2Bがつきっきりで面倒を見ているが、一向に良くならない。
免疫力を保つため高めの体温を維持すべきだが、アンドロイドしかいないこのレジスタンスキャンプには贅沢品もとい不用品ともいえる毛布を持ち合わせている者などいない。
それで2Bは自らの服を広げて被せた。黒いスカート部分を脱いだらその下は白いレオタード。
ときおり塩分と糖分をまぜた、人の体液に近い水分を補給させながら、2Bが抱きしめて添い寝してなまえが自分ではできない体温調節をさせている。
「2B、入りますよ。水筒持ってきました」
定期的に2人のいる部屋へ不足したものがないか確認にやってくる相棒。
「ジャッカスさんからなまえにって薬もらったんですけど、『後で詳しい反応教えて』って笑ってたので……飲ませないほうが良いかも」
2Bはうなずいて、受け取った薬を握りしめる。
「そうだね。ジャッカスの薬はやめておこう。
いま着替えをさせたところ。なまえの服を洗ってくるから、その間具合を看ておいて」
汗の染みた服を腕に丸めて、彼女は立ち上がる。机の上に薬を放置した。
「えっ、僕が……ですか?」
「9Sになまえの下着を洗ってもらってもいいけど、後から知ったら嫌がると思う」
「うっそれは……わかりました、ここにいます」
「よろしく」
2Bはレオタードのまま外へでていく。
どこか湿気を含んだ室内が扉を開けることによって換気され、少し冷える。
「さむ……」
熱源が離れしきりに寒気を訴えるなまえは、ダンゴムシのようにぎゅっと丸まった。
「ちょっとの我慢ですよ」
近づくと、微かに石鹸のような、優しい香りが鼻をくすぐった。2Bが着替えついでに汗を拭いてやったあとなのだろう。熱の残る顔をして、薄眼を開けてもまとまな視界ではなさそうだ。
「とぅび、さむい……」
腕を伸ばして、いなくなった温もりを求める。さまよった末に9Sの手に触れた。
「2Bならいま、なまえの服を洗ってますから」
言っているそばから、ずりずりとベッドを這い出てこちらに寄ってくる。抵抗するも、病人相手に強気にでられず、ついに絡みとられた。
「ベッドから出ちゃダメだってば」
彼女の体を支えつつベッドに腰掛ける。なまえは9Sの胸に頬を当て、べったりとくっついたまま。足腰に力が入らないので、ぐったり、といったほうが適切だろうか。少し表情が和らいだのは、熱源を確保できた安心からか。
「僕は男性型アンドロイドの9Sですよー。2Bじゃありませんよー」
病人にしてみたら、自分を包み込むものに、先ほどまであった胸の膨らみがなくなろうが温めてくれるなら関係ないのだろうか。
指で突っついた頬っぺたも、首も、手の甲も同様に熱い。
「さぁ、ベッドに戻ってください」
肩を掴んで引き離そうにも、抵抗される。本人にしたらやっと取り戻した温もりなのだ。
「9S、なまえはどう」
前触れもなく開かれた扉に、どきりとした。やましいことは誓ってしていないのに、他人の目からすれば何かあったように捉えられてしまうかもしれない。
抱きついているのはなまえからだが、同衾状態の彼らを見て、2Bは9Sを睨みつける。良からぬ疑いをかけられたのがわかって、焦る。
「なにもしてませんからッ!」
「……そう」
無表情な冷たい瞳が非難しているように見える。
「2Bだって、僕がなにもできないの知ってるでしょう?!」
お互いのポッド153と042は情報を定期的に交換、共有しているため、自分たちがなにをしていたかなど筒抜けだ。悪事を働けば司令官に伝わることもある。
「う……ん、あた……ま、いた……」
「9S、静かに……なまえ頭痛がするみたい」
「あっごめんなさい」
洗濯の済んだ服を、部屋の向こうの9Sから見えない場所に干して、2Bは戻ってきた。
「2B、代わってくださいよ」
「私もこれ以上はなまえを看ていられないから、デボルとポポルに頼んだ。すぐ来ると思う」
予想以上になまえの回復が遅れており、これより更に司令官からの任務を引き延ばしにすることはできないと判断した。
「そうか。ふたりが引き受けてくれたんだ」
2Bは座り込む9Sの上に寝そべる色の優れない寝顔をじっと見つめた。
「……これを、かわいいって、言うのかな」
「僕は、厄介、って言うんだと思うけど」
それが正しいのかどうか判断がつけられずに、2Bは沈黙した。
「アンドロイドならウィルスにかかっても、僕がハッキングして駆除するのに」
それなら優秀なS型のこと、1時間だってかからない。
商業地帯跡地で見つけた漢方の本から得た知識で薬を煎じてみても、効き目はすぐには出ない。衰弱したなまえには下手したら劇薬になってしまうから、体調を鑑みて量を調節しつつ服用させるしかないのも歯がゆい。
ようやく眠ったなまえの腕を解いて、ベッドにまっすぐ寝かせる。
「入るぞ」
デボルがポポルと連れ立ってきた。
「あとは任せて」
「よろしく」
ポポルが薄茶色の布を持ち出して毛布がわりにする。フードがついているので、彼女が昔使っていた外套だろう。
2Bと9Sがなまえが双子の手に渡ったのを確認して部屋を出てゆく。
「デボル、ちょっと手伝って」
ポポルの目的はこの部屋にあるもう一つのベッド。マットレスを二人で両側から持ち上げ、もう一つと並べる。これで少し広くなるだろう。
双子はなまえを挟み込んだ。3人もいると寝床はやはり狭くなるが、真ん中の人物はどこか幸せそうに穏やかな寝息を立てる。
「なまえ、早く治して酒呑もう」
こんな時代だ。手元には粗悪品しかないが、荒んだ日々を乗り越えるために、ないよりましだ。
「デボルったら、気が早いわ。まだご飯も食べれないのよ」
**
熱がようやく下がって、近くにいるのが誰なのか判別できるようになった。いつもそばにいてくれる白髪の少女ではなく、赤毛の一組に、自分の記憶を疑う。
「デボルとポポルが看病してくれてたの?ごめん、2Bだったような気がしてたの」
「いいえ、ほとんど2Bがやってくれてたのよ。私たちがきたときには9Sもいたわね」
「そう……任務の邪魔だったよね……」
2Bと9Sへの迷惑を慮って落胆したシャーリンの肩をデボルが抱く。
「気に病むなよ」
「2Bなんかはわりと面倒見が良いから、きっと好きでなまえのそばにいたんだと思うわ」
「そうなの?」
「一緒に行動してる9Sのことも、大事にしているもの」
「うん、それはわかる……言葉は少ないけど、いっぱい心配してくれるの、2Bは」
おおざっぱで、スカートがめくれるのもかまわずに武器を振り回す強い彼女。表情がわかりづらいのはゴーグルのせいだけではない。けれど、わずかな発言の裏にしまいこんだ気持ちは行動を共にするたびに伝わるようになってきた。
「デボルとポポルもありがとう」
「気にするな。他のアンドロイドたちのそばにいるより、なまえのそばにいるほうが落ち着くからな」
一般のアンドロイドから隔離された場所に逃げ込めるのはありがたかった。どうしても周囲を気にして行動してしまいがちだから。
「そうなの?私ってちょっと特別?」
双子の過去を知らない人間は不思議そうにした。
「ここのキャンプの人たちはわりといい人が多いけれど、前に嫌なことがあってね」
「わざわざ世間話しに話しかけてくれるのはおまえら3人くらいだぞ」
アンドロイドたちは情報を同期していることもあり、ゲシュタルト計画の終末は広く知られており、口に戸は立てられず知らない者はいない。それを知ってどう行動するかは個別に差があるものの、たいていは良い顔をしなかった。事件を起こした当機でもないというのに。ただ、同じ型番だったというだけで。
それらに一切通じていないなまえは無邪気で他の目を気にすることなくデボルとポポルに懐いた。はじめは慎重になっていた二人も、次第に気を許し、ともに酒をたしなむようになった。
「そうなんだ。大変だったんだね。私はふたりがずっとこのキャンプにいてくれると嬉しいなぁ。デポルとポポルのこと好きだもの」
ためらいもなく好きだと言い放つことができるのは、感情を自由に出せる人間だからか。
双子は笑顔になって、なまえをそれぞれ抱きしめた。
「もっと寝て、早く治せ」
「私たち、ずっとここにいるわ」
「うん」
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