短編
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レジスタンスキャンプの端、アネモネから見て右手にある仕切られた空間。
背もたれのない長椅子がいくつか並べられているが、座っているものはいない。大きなバッテリーやら、古ぼけたボンベが転がっていたり、木箱が重ねてあったりするので、半分は物置なのかもしれない。棚に並ぶ書籍はアネモネの所有物か。
一体のアンドロイドが立つ前には、赤い塗装の機械がある。
「これ……ジュークボックス」
「知っているのか」
「えぇ。触ったことはないけど、ちゃんと動くのね。すごい」
目を輝かせると、タイトスカートのヨルハ部隊員は表情を和らげた。
「好きにいじっていいぞ。どうせ他の奴らはめったにこない」
「いいの?うーん、どれにしようかな」
レコードは一枚しか入っていなかった。曲を適当に選択して、再生させる。
「気に入ったか?そこにいる道具屋が他にもレコードを売ってるみたいだぞ」
「わぁ。あとで見にいってみるわ。ありがとう」
近くの椅子に腰かけ、目を閉じる。アンドロイドはそれ以上話しかけることはなかった。
ゆったりとした心地よい音楽と、暑くもなく寒くもない空気が眠気をさそう。壁を隔てた向こうでは機械生命体が我が物顔で居座り、地上をめぐる戦争が起きているだなんて信じられなかった。
目を閉じてしまえば全てがかけ離れていく。感覚も、意識も現実から浮いていく。
ジュークボックスの前にいるアンドロイドが、入ってきた二人に対して、立てた人差し指を口元にあてる。
目線は唯一の清聴客に向いていた。
「こんなところにいたんですね」
「寝てる……」
「ほんとに。気持ちよさそうです」
「ぐらぐら揺れてるけど……」
戦闘から帰ってきて、この警戒のかけらもない顔を見ると、気が抜けるというか安心するというか。
「僕らも、一休みしませんか。2B」
9Sがなまえの左側に座ると、2Bが反対側でそれに倣った。9Sが頬をつつくので、眉をしかめて起きてしまった。そこにいるのが大好きなふたりだと気づくと、かすれた声で名前を呼び、柔らかく微笑む。
「……はよ、とぅび、ないんず」
「おはよう」
「おはようございます。起きましたね」
「だってここ、気持ちよくって。なんでここをキャンプ基地にしたのかわかるわ」
「そういった観点から基地を設定したわけじゃないと思います」
「でも、居心地がいいっていうのは大事よ」
「なまえは暢気だなぁ」
「私がピリピリしてたって、なんのためにもならないでしょう」
アンドロイドたちの沽券を保つためにも、人類代表であるなまえが、アンドロイドに守られているからこそ安心して過ごすことができる、と周囲に見せつけていなければ。2Bがそれを肯定した。
「なまえはいまのままでいい」
「ありがとう2B!それに楽しむためでなきゃ、どうしてジュークボックスなんてあるのよ?」
「人間の生活を模しただけじゃないですか。実際ほとんどアンドロイドの利用者はいませんしね」
「音楽を聴くのも、贅沢な娯楽になっちゃったのね」
「そりゃまぁ、僕たち戦争してますし」
「人間はね、戦争してても娯楽を諦めることはなかったわ」
「まるで見てきたかのように言いますね……」
「これから私が生き証人になるわ」
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読んでくださりありがとうございます。
レジスタンスキャンプの端、アネモネから見て右手にある仕切られた空間。
背もたれのない長椅子がいくつか並べられているが、座っているものはいない。大きなバッテリーやら、古ぼけたボンベが転がっていたり、木箱が重ねてあったりするので、半分は物置なのかもしれない。棚に並ぶ書籍はアネモネの所有物か。
一体のアンドロイドが立つ前には、赤い塗装の機械がある。
「これ……ジュークボックス」
「知っているのか」
「えぇ。触ったことはないけど、ちゃんと動くのね。すごい」
目を輝かせると、タイトスカートのヨルハ部隊員は表情を和らげた。
「好きにいじっていいぞ。どうせ他の奴らはめったにこない」
「いいの?うーん、どれにしようかな」
レコードは一枚しか入っていなかった。曲を適当に選択して、再生させる。
「気に入ったか?そこにいる道具屋が他にもレコードを売ってるみたいだぞ」
「わぁ。あとで見にいってみるわ。ありがとう」
近くの椅子に腰かけ、目を閉じる。アンドロイドはそれ以上話しかけることはなかった。
ゆったりとした心地よい音楽と、暑くもなく寒くもない空気が眠気をさそう。壁を隔てた向こうでは機械生命体が我が物顔で居座り、地上をめぐる戦争が起きているだなんて信じられなかった。
目を閉じてしまえば全てがかけ離れていく。感覚も、意識も現実から浮いていく。
ジュークボックスの前にいるアンドロイドが、入ってきた二人に対して、立てた人差し指を口元にあてる。
目線は唯一の清聴客に向いていた。
「こんなところにいたんですね」
「寝てる……」
「ほんとに。気持ちよさそうです」
「ぐらぐら揺れてるけど……」
戦闘から帰ってきて、この警戒のかけらもない顔を見ると、気が抜けるというか安心するというか。
「僕らも、一休みしませんか。2B」
9Sがなまえの左側に座ると、2Bが反対側でそれに倣った。9Sが頬をつつくので、眉をしかめて起きてしまった。そこにいるのが大好きなふたりだと気づくと、かすれた声で名前を呼び、柔らかく微笑む。
「……はよ、とぅび、ないんず」
「おはよう」
「おはようございます。起きましたね」
「だってここ、気持ちよくって。なんでここをキャンプ基地にしたのかわかるわ」
「そういった観点から基地を設定したわけじゃないと思います」
「でも、居心地がいいっていうのは大事よ」
「なまえは暢気だなぁ」
「私がピリピリしてたって、なんのためにもならないでしょう」
アンドロイドたちの沽券を保つためにも、人類代表であるなまえが、アンドロイドに守られているからこそ安心して過ごすことができる、と周囲に見せつけていなければ。2Bがそれを肯定した。
「なまえはいまのままでいい」
「ありがとう2B!それに楽しむためでなきゃ、どうしてジュークボックスなんてあるのよ?」
「人間の生活を模しただけじゃないですか。実際ほとんどアンドロイドの利用者はいませんしね」
「音楽を聴くのも、贅沢な娯楽になっちゃったのね」
「そりゃまぁ、僕たち戦争してますし」
「人間はね、戦争してても娯楽を諦めることはなかったわ」
「まるで見てきたかのように言いますね……」
「これから私が生き証人になるわ」
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読んでくださりありがとうございます。