マギ 短編
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ジャーファルの自室を訪ねると、ちょうど眷属器の手入れをしているところだった。水に濡らし丁寧に砥石にかけている。
一度砥石から離して、数度裏表をひっくり返しては切っ先を確かめる。仕上げ具合に納得したら熱湯につけて消毒する。
なまえが乾いた布を渡すと、受け取って刃の水分をぬぐう。
「ありがとうございます」
薄く油を刷り込んで、作業を終わらせた。
ジャーファルの手つきを眺めることを咎めたりはしない。はじめに彼が武具を扱うところを見た彼女は魅入られたように物静かになり、どうかしましたか、ときいたジャーファルに「見てるのが好きなの。続けて」と促してから、ジャーファルが眷属器を手にしている様子を見るのがいつものようになっていた。
「よくそんなに熱心にできるね」
文官として机に向かうことが多く、いつも袖に潜ませている縄鏢の出番はあまりないのだが、彼は暇をみつけてはこうして研いでいる。
「大事なものですから」
英雄であり王であるシンドバッドに従属する眷属器。それはただの武器ではない。共に経験した壮絶な冒険を経て折り重ねられた、いろいろな想いが込められている。
「すぐ戻りますが、触らないように」
そう忠告を残して、濡れた布と湯を片付けに席を立った。ずっと前に一度、触ってもいいかきいたら、ダメだと即答された。それ以降、彼の武器を見つめるなまえに必ず、触らないように警告するようになった。そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。だって好きな人に関係するものに興味を持つのって、至極当然のことじゃないかしら?
ジャーファルの部屋に、一人きり。
机に並べられた刃物は、二等辺三角形の形をしている。手のひらをその上にかざすと、はみ出るくらい大きい。これくらいの大きさの鉄の塊ともなると、きっと重いはずなのに、持ち主は紙のように扱うのだから腕力はあなどれない。
少し、持ち上げるだけ。
赤縄を伝って、光沢を放つ刃物の根本に指先を滑らせた。ごとり、と机の上で揺らぐ。縄をにぎりしめて、ゆっくりと上に引っ張った。
わ、重い。
試しにほんの小さく左右に揺らしてみると、切っ先は小さく円を描いた。動きを大きくすると、鏢はあとから動きについてくる。振り子と逆の動きだ。あまりの重さに、手の動きについてこれない。
「なまえ」
「きゃっ」
音も気配もなかった。心臓が飛び出るかと思うくらい驚いて、手の平からそれをこぼしてしまった。
シンドリアの正装であり宮廷の制服である長い巻きスカートをまっすぐに切り裂いて、縄鏢はなまえの足の間に突き刺さった。
「怪我はありませんか」
時が止まったように動かないなまえの足元から、己の武器を拾い上げた。
まず体の心配を口にした彼に安心した。ぜったい怒鳴られると覚悟していたから。
「ごめんなさい」
愚行を反省したのか、素直に謝った。あと少しでもずれていたら、どちらかの足の甲に穴が開いていただろう。もしくは、指が切断されたり、膝が割れていたりしていたかもしれない。
「あれだけ触るなと言ったのにあなたは!」
「だって、どんな感じなのかなって気になって」
手のひらにかいた汗をスカートを握りこむように拭うと、太ももの半ば辺りからスリットが入っているのがわかる。糸くずもでないほどすっぱりとした、見事とすら言える裁ち後だ。
「いいですか。これは、刃物です。武器です。人を傷つけるんです。だから、あなたは触らなくていい。このきれいな手で、触らないでください…」
さっき鏢を手にしたのとはまったく違う手つきで、なまえの手をすくう。まるで繊細な壊れ物のように大事に、だいじに、優しく包み込むジャーファルの温もり。
人の血に濡れたことのない手。自分の武器が汚れているとは思わないし、むしろ幾戦も勝ち抜いてきた、シンとの絆でもある自慢だ。けれど彼女の手に渡ってはいけない。他人と衝突することや言い争いですら厭う温厚な彼女に、武器の重みを知ってほしくすらない。
「私の武器で、あなたが怪我をするなんて、悔やんでも悔やみきれない」
ああ、こんなに優しい人に、こんな悲しい顔をさせてしまった。
「もう、触らないから。ごめんなさい」
「ほんとうに、やめてください」
「うん」
もう一度ごめんね、と小さく言って、口づけた。
「……、何プレイだ?」
「シン!」
開けっぱなしだった扉の横に、国王が立っていた。
「足がチラ見えするってのもいいな。女性用の礼服のデザインを見直そう」
ジャーファルに用事があって訪ねてきたはずだが、シュエルの割かれたスカートを見て謎の頷きをして去ろうとする。
「この変態が!待ちなさい!」
「ははははは」
**
終わり。
読んでくださりありがとうございます。
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ジャーファルの自室を訪ねると、ちょうど眷属器の手入れをしているところだった。水に濡らし丁寧に砥石にかけている。
一度砥石から離して、数度裏表をひっくり返しては切っ先を確かめる。仕上げ具合に納得したら熱湯につけて消毒する。
なまえが乾いた布を渡すと、受け取って刃の水分をぬぐう。
「ありがとうございます」
薄く油を刷り込んで、作業を終わらせた。
ジャーファルの手つきを眺めることを咎めたりはしない。はじめに彼が武具を扱うところを見た彼女は魅入られたように物静かになり、どうかしましたか、ときいたジャーファルに「見てるのが好きなの。続けて」と促してから、ジャーファルが眷属器を手にしている様子を見るのがいつものようになっていた。
「よくそんなに熱心にできるね」
文官として机に向かうことが多く、いつも袖に潜ませている縄鏢の出番はあまりないのだが、彼は暇をみつけてはこうして研いでいる。
「大事なものですから」
英雄であり王であるシンドバッドに従属する眷属器。それはただの武器ではない。共に経験した壮絶な冒険を経て折り重ねられた、いろいろな想いが込められている。
「すぐ戻りますが、触らないように」
そう忠告を残して、濡れた布と湯を片付けに席を立った。ずっと前に一度、触ってもいいかきいたら、ダメだと即答された。それ以降、彼の武器を見つめるなまえに必ず、触らないように警告するようになった。そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。だって好きな人に関係するものに興味を持つのって、至極当然のことじゃないかしら?
ジャーファルの部屋に、一人きり。
机に並べられた刃物は、二等辺三角形の形をしている。手のひらをその上にかざすと、はみ出るくらい大きい。これくらいの大きさの鉄の塊ともなると、きっと重いはずなのに、持ち主は紙のように扱うのだから腕力はあなどれない。
少し、持ち上げるだけ。
赤縄を伝って、光沢を放つ刃物の根本に指先を滑らせた。ごとり、と机の上で揺らぐ。縄をにぎりしめて、ゆっくりと上に引っ張った。
わ、重い。
試しにほんの小さく左右に揺らしてみると、切っ先は小さく円を描いた。動きを大きくすると、鏢はあとから動きについてくる。振り子と逆の動きだ。あまりの重さに、手の動きについてこれない。
「なまえ」
「きゃっ」
音も気配もなかった。心臓が飛び出るかと思うくらい驚いて、手の平からそれをこぼしてしまった。
シンドリアの正装であり宮廷の制服である長い巻きスカートをまっすぐに切り裂いて、縄鏢はなまえの足の間に突き刺さった。
「怪我はありませんか」
時が止まったように動かないなまえの足元から、己の武器を拾い上げた。
まず体の心配を口にした彼に安心した。ぜったい怒鳴られると覚悟していたから。
「ごめんなさい」
愚行を反省したのか、素直に謝った。あと少しでもずれていたら、どちらかの足の甲に穴が開いていただろう。もしくは、指が切断されたり、膝が割れていたりしていたかもしれない。
「あれだけ触るなと言ったのにあなたは!」
「だって、どんな感じなのかなって気になって」
手のひらにかいた汗をスカートを握りこむように拭うと、太ももの半ば辺りからスリットが入っているのがわかる。糸くずもでないほどすっぱりとした、見事とすら言える裁ち後だ。
「いいですか。これは、刃物です。武器です。人を傷つけるんです。だから、あなたは触らなくていい。このきれいな手で、触らないでください…」
さっき鏢を手にしたのとはまったく違う手つきで、なまえの手をすくう。まるで繊細な壊れ物のように大事に、だいじに、優しく包み込むジャーファルの温もり。
人の血に濡れたことのない手。自分の武器が汚れているとは思わないし、むしろ幾戦も勝ち抜いてきた、シンとの絆でもある自慢だ。けれど彼女の手に渡ってはいけない。他人と衝突することや言い争いですら厭う温厚な彼女に、武器の重みを知ってほしくすらない。
「私の武器で、あなたが怪我をするなんて、悔やんでも悔やみきれない」
ああ、こんなに優しい人に、こんな悲しい顔をさせてしまった。
「もう、触らないから。ごめんなさい」
「ほんとうに、やめてください」
「うん」
もう一度ごめんね、と小さく言って、口づけた。
「……、何プレイだ?」
「シン!」
開けっぱなしだった扉の横に、国王が立っていた。
「足がチラ見えするってのもいいな。女性用の礼服のデザインを見直そう」
ジャーファルに用事があって訪ねてきたはずだが、シュエルの割かれたスカートを見て謎の頷きをして去ろうとする。
「この変態が!待ちなさい!」
「ははははは」
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終わり。
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