マギ 短編
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**
「ちょっとお願いがあるのですが……」
物珍しい申し出に、一瞬言葉を失った。
けれどきいてみるとそれはジャーファルらしい、自身のためのものではなかった。
「アリババくんの相談?」
「えぇ。最近肩を落としていることが多いようで」
「そうねぇ。母国のことでいろいろあるものね。でもそういう難しいことなら、シンドバッドさまのほうがよっぽど適任なんじゃないのかしら」
「そういう内容でしたら私でもお伺いするのですがね」
「あら。違うの?」
「女性のほうがこういうことは得意なのではないかと思うんです」
「んー……女のほうが、って恋のお悩みかしら?それならなおさら、シンさまが経験豊富だし」
「あの人の性癖わかってて言ってますか?」
「まぁそうよねぇ」
「どうか力になってあげてください」
「わかったわ、やれるだけやってみる」
「ありがとうございます」
そんなこんなでどうやって話を切り出したものか、と頬に手を当てて考える。ジャーファルは頼むだけ頼んで半ば走り出すように白羊塔へ戻るために去っていってしまった。
相変わらず忙しい人、とねめつけながらもめったにない頼まれごとに気合が入った。
****
「アリババさま?」
中庭でぽつねんともの寂しげに背中を丸める少年に、おどろかさないように声をかけた。
「あ、なまえさん」
給仕だけでなく身の周辺一通り、不便が無いように面倒を積極的にみてくれるこの女性に、この島に到着したばかりの頃まもなくアラジンとモルジアナ同様、すぐに心を開いた。
「お一人ですか?お隣にお邪魔しても?」
「いや、その、とくに何かしてたわけじゃないんでどうぞ座ってください」
「ありがとうございます。剣のお稽古はお済みのようですね」
「はぁ。今日も師匠にしごかれました」
「それはお疲れ様でした。シャルルカンさまは剣のことになると手加減の無い方ですからね」
「まったくっす」
「アリババさま、なにやらお元気がないようですけれど、なにかありましたか?」
「いや、なんでもないっすよ」
といいつつも、その表情にはありありと悩みがあります、と書いてあった。実直でわかりやすい表情に、くすりと笑みが漏れる。
「疲労のせいというわけではありませんでしょう。どうぞ気がかりがあるのならどんな小さなことでもお教えくださいませ」
「うーん。師匠に話すよりよっぽどマシかも・・・大した話じゃないんすけどね」
「喜んでお伺いします」
「その……最近っつーか前からなんすけど……俺……」
顔を首まで赤くさせて、これで何の悩みかわからぬ者などいないだろう。
「どなたか気になる方でもいらっしゃるんですか?」
「あーいや、逆っす。このままずっと彼女の一人もできなかったらどうしようかと」
「そんなこと。まだお若いんですから、チャンスはいくらでもありますよ。大事なのは、焦らないことです。人にはそれぞれタイミングというものがあるんですから」
「そうすかね」
「アリババさまなら見つけられますよ。大丈夫です」
「周りはどんどんカップルになってくし。俺にだってもうそろそろ彼女できてもいい頃じゃないすか。可愛くて一途で、俺のこと大好きって言ってくれてそれから……」
「それから?」
あわよくば胸の大きくて、腰は締まっていて、下半身も安定感のある……と言いかけて留まった。女性の目の前で、それは正しかったと思う。
「考えるべきはご自分の年齢でも相手の外見でもないのではないでしょうか。もし恋人ができたとき、どんなことをしたいですか?」
「手を繋いでデートして、い、いちゃいちゃして……」
そこからはもういえない、と思春期の乙女のように両手で顔をおおった。10代後半の少年と青年の間にいるにしてはこんな素直で純粋な感情をこんなふうに表現するだなんて稀有な存在だろう。
「かわいらしいですね。いつどこで、どんな方を好きになるかなんて誰にもわからないことです。アリババさまが心を寄せる方も、きっとアリババさまにお似合いな素敵な女性ですよ」
アリババはでれでれとしつつ、ぽりぽりと頭をかいた。
「それはそうと、なまえさんは恋人いるんすか。恋人いるって、どんな感じなんすか?」
「私ですか?」
純真な目でみつめられると、嘘はつけなさそうだった。
「そうですね……いるのかいないのかわからないような恋人なら」
少し期待するものから変わったがっかりした様子に、かわいいものだと目尻を下げる。
顔を合わすたびに抱き合って、毎日キスをしてハートマークや花びらが周囲にとびかうようなものを想像していたのかもしれない。そうだとしたらきっと、根こそぎ否定する返答だっただろう。
「どういうことすか、それ?」
「会いたいときにすぐ会えるような人ではないんです。気持ちをまっすぐに告げられることもありませんから」
「付き合ってる……んすよね」
「私の中では。そうだといいな、と思います」
「好きって言われないんすか?」
「はっきりとはききませんね。私のほかにも大事なものをたくさんお持ちなんです。だから下手に期待させたくないんでしょうね」
シンドバッド、ひいてはシンドリア国となまえであれば、確実に国王とこの領土を選ぶだろう。相手にきくまでもなくそれは理解している。もちろん恋人であるなまえには心を許している姿もみせるし、掛け値の無い笑顔をくれる。多くのことを言葉でなくても、目が合えば通じることも増えてきた。だから、ジャーファルなりに大事にしてくれているのだとはわかっている。
簡単に好きだ愛してるなどと口にすることも可能だろうけれど、言えば言うほどきっと心は重くなる。なまえはジャーファルに寄りかかってしまう。そういう甘い言葉が目隠しになって、最後に盲目になってしまったら、自分のことしか見えなくなって言ってはいけないことも言うつもりでなかったことでさえ言ってしまうし、見えていたものが理解できなくなってしまうだろう。
仕事ばっかりで私のことなんてどうでもいいんでしょう、なんて言うようになってしまったらもうおしまいだ。
「恋人よりも大切なもの……」
「シンドバッド王さまを敬ってていてこの国に一生を捧ぐ覚悟のようですから恋人は二の次でしょうね」
「どうしてその人のこと好きなんですか」
「その人の支えになりたいと思って、少しでもその人に関わって、手助けになっているときが人生で一番幸せだと気づいたからです。これが私なりの好きという気持ちなんでしょうね」
「はー……すごいっすね」
アリババは恋人が欲しい、ただ欲しいというのが寂しさを埋めるための理由で子供っぽくだだをこねているようで恥ずかしくなった。
「なまえさんの恋人が羨ましいっす。そんなに好かれて」
「羨むことはありませんよ。私がやりたいことを私の判断でやっているだけなんです。そう、人によって好きの形も違いますから、私が彼にとって正しいことをしているということもないんですよ。私の気持ちだって、迷惑になるときもあるでしょう」
「いや……そうやって思われていることがすごいっす。幸せだろうなぁ」
「私もそうであることを願います」
「で、なまえさんの恋人って、どこにいるんすか?」
「この宮殿内で働いておりますから、アリババさまもすれ違うこともあるでしょう」
すれ違うどころか、彼女の想い人が毎日のように言葉を交わすよく見知った世話焼きの政務官であることを知ったらどういう反応をするだろうか。騙すつもりでも意地悪するわけでもないが、はっきりと公言するのははばかられて、なんとはなしにぼやかしてしまう。
アリババの驚く顔を想像してみたら、自然と笑みが浮かんだ。
「相談乗ってもらってありがとうございました」
「こちらこそ、私の話をきいていただきましたし。なによりアリババさまがお元気になりましたら本望です。またなんなりとお話くださいませ。後で甘い物をお持ちしますね」
「いつもありがとうございます」
「アリババさまは毎回美味しそうに召し上がってくださいますから、それを見るのが私の楽しみでもあります。アラジンさまとモルジアナさまにも声をかけてまいりますね」
「じゃ、部屋に戻ってます」
「はい。では後ほど」
少しだけしゃんとした背筋を気持ちよく見送って、アラジンとモルジアナを探そうと首を回したところで、この場にはいないはずの人物を確認して、向き直った。
「あら。盗み聞き?」
ゆったりとした官服の袖に手を隠して、それでももじもじとしているのが見て取れた。
「その……心配で」
「アリババくんのことが?それとも私のことが?」
「それは……」
もちろんはじめは悩みの多い年頃の少年のことをおもんばかっていた。
ところが自分から頼んだとはいえ、恋人と他の男がふたりきりという状況にはらはらしたものだった。
若くて、素直で情熱的な。少し未熟なところもあるが、年上からするとそれもかわいらしく魅力に映るものだ。もしやとは思ったが、心変わりもありえるかと疑ってしまって。
「わかってるわ。私、うまく立ち回れたかしら?」
きっと彼女はわかっていない。アリババのことだけを心配になってきたのだと信じていることだろう。屈託のないその表情が物語っている。
「予想以上に。ありがとうございました」
「良かったわ。さて、アラジンくんとモルジアナちゃんを探してこなくちゃ」
ご褒美をねだるわけでもなく、すっきりとした顔ではりきってその場を後にしようとした恋人の肩をつかむ。
かすめるだけのキスをして、何があったか把握できないなまえに告白した。
「私は、なまえがいてくれて幸せです。そしてこの国に何かあったとしても、あなたごと守りますよ」
それがジャーファルに口にできる最大限の愛情表現だった。
嬉しくて涙のにじむ声で、やっと一言だけ口にできた。
「……ありがと」
「ありがとう、は私の台詞です」
「ううん……」
「ええと、だから、これからもよろしくお願いします」
まだうるむ瞳でにっこりとする。
答えを口で言う代わりに、そっとキスを返した。
私のやり方や気持ちがあの人にとって最善であるかはわかりません。
でもきっとそこに最善なんてものはなくて、あるのは互いの愛だけなんでしょうね。
**
おわり
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「ちょっとお願いがあるのですが……」
物珍しい申し出に、一瞬言葉を失った。
けれどきいてみるとそれはジャーファルらしい、自身のためのものではなかった。
「アリババくんの相談?」
「えぇ。最近肩を落としていることが多いようで」
「そうねぇ。母国のことでいろいろあるものね。でもそういう難しいことなら、シンドバッドさまのほうがよっぽど適任なんじゃないのかしら」
「そういう内容でしたら私でもお伺いするのですがね」
「あら。違うの?」
「女性のほうがこういうことは得意なのではないかと思うんです」
「んー……女のほうが、って恋のお悩みかしら?それならなおさら、シンさまが経験豊富だし」
「あの人の性癖わかってて言ってますか?」
「まぁそうよねぇ」
「どうか力になってあげてください」
「わかったわ、やれるだけやってみる」
「ありがとうございます」
そんなこんなでどうやって話を切り出したものか、と頬に手を当てて考える。ジャーファルは頼むだけ頼んで半ば走り出すように白羊塔へ戻るために去っていってしまった。
相変わらず忙しい人、とねめつけながらもめったにない頼まれごとに気合が入った。
****
「アリババさま?」
中庭でぽつねんともの寂しげに背中を丸める少年に、おどろかさないように声をかけた。
「あ、なまえさん」
給仕だけでなく身の周辺一通り、不便が無いように面倒を積極的にみてくれるこの女性に、この島に到着したばかりの頃まもなくアラジンとモルジアナ同様、すぐに心を開いた。
「お一人ですか?お隣にお邪魔しても?」
「いや、その、とくに何かしてたわけじゃないんでどうぞ座ってください」
「ありがとうございます。剣のお稽古はお済みのようですね」
「はぁ。今日も師匠にしごかれました」
「それはお疲れ様でした。シャルルカンさまは剣のことになると手加減の無い方ですからね」
「まったくっす」
「アリババさま、なにやらお元気がないようですけれど、なにかありましたか?」
「いや、なんでもないっすよ」
といいつつも、その表情にはありありと悩みがあります、と書いてあった。実直でわかりやすい表情に、くすりと笑みが漏れる。
「疲労のせいというわけではありませんでしょう。どうぞ気がかりがあるのならどんな小さなことでもお教えくださいませ」
「うーん。師匠に話すよりよっぽどマシかも・・・大した話じゃないんすけどね」
「喜んでお伺いします」
「その……最近っつーか前からなんすけど……俺……」
顔を首まで赤くさせて、これで何の悩みかわからぬ者などいないだろう。
「どなたか気になる方でもいらっしゃるんですか?」
「あーいや、逆っす。このままずっと彼女の一人もできなかったらどうしようかと」
「そんなこと。まだお若いんですから、チャンスはいくらでもありますよ。大事なのは、焦らないことです。人にはそれぞれタイミングというものがあるんですから」
「そうすかね」
「アリババさまなら見つけられますよ。大丈夫です」
「周りはどんどんカップルになってくし。俺にだってもうそろそろ彼女できてもいい頃じゃないすか。可愛くて一途で、俺のこと大好きって言ってくれてそれから……」
「それから?」
あわよくば胸の大きくて、腰は締まっていて、下半身も安定感のある……と言いかけて留まった。女性の目の前で、それは正しかったと思う。
「考えるべきはご自分の年齢でも相手の外見でもないのではないでしょうか。もし恋人ができたとき、どんなことをしたいですか?」
「手を繋いでデートして、い、いちゃいちゃして……」
そこからはもういえない、と思春期の乙女のように両手で顔をおおった。10代後半の少年と青年の間にいるにしてはこんな素直で純粋な感情をこんなふうに表現するだなんて稀有な存在だろう。
「かわいらしいですね。いつどこで、どんな方を好きになるかなんて誰にもわからないことです。アリババさまが心を寄せる方も、きっとアリババさまにお似合いな素敵な女性ですよ」
アリババはでれでれとしつつ、ぽりぽりと頭をかいた。
「それはそうと、なまえさんは恋人いるんすか。恋人いるって、どんな感じなんすか?」
「私ですか?」
純真な目でみつめられると、嘘はつけなさそうだった。
「そうですね……いるのかいないのかわからないような恋人なら」
少し期待するものから変わったがっかりした様子に、かわいいものだと目尻を下げる。
顔を合わすたびに抱き合って、毎日キスをしてハートマークや花びらが周囲にとびかうようなものを想像していたのかもしれない。そうだとしたらきっと、根こそぎ否定する返答だっただろう。
「どういうことすか、それ?」
「会いたいときにすぐ会えるような人ではないんです。気持ちをまっすぐに告げられることもありませんから」
「付き合ってる……んすよね」
「私の中では。そうだといいな、と思います」
「好きって言われないんすか?」
「はっきりとはききませんね。私のほかにも大事なものをたくさんお持ちなんです。だから下手に期待させたくないんでしょうね」
シンドバッド、ひいてはシンドリア国となまえであれば、確実に国王とこの領土を選ぶだろう。相手にきくまでもなくそれは理解している。もちろん恋人であるなまえには心を許している姿もみせるし、掛け値の無い笑顔をくれる。多くのことを言葉でなくても、目が合えば通じることも増えてきた。だから、ジャーファルなりに大事にしてくれているのだとはわかっている。
簡単に好きだ愛してるなどと口にすることも可能だろうけれど、言えば言うほどきっと心は重くなる。なまえはジャーファルに寄りかかってしまう。そういう甘い言葉が目隠しになって、最後に盲目になってしまったら、自分のことしか見えなくなって言ってはいけないことも言うつもりでなかったことでさえ言ってしまうし、見えていたものが理解できなくなってしまうだろう。
仕事ばっかりで私のことなんてどうでもいいんでしょう、なんて言うようになってしまったらもうおしまいだ。
「恋人よりも大切なもの……」
「シンドバッド王さまを敬ってていてこの国に一生を捧ぐ覚悟のようですから恋人は二の次でしょうね」
「どうしてその人のこと好きなんですか」
「その人の支えになりたいと思って、少しでもその人に関わって、手助けになっているときが人生で一番幸せだと気づいたからです。これが私なりの好きという気持ちなんでしょうね」
「はー……すごいっすね」
アリババは恋人が欲しい、ただ欲しいというのが寂しさを埋めるための理由で子供っぽくだだをこねているようで恥ずかしくなった。
「なまえさんの恋人が羨ましいっす。そんなに好かれて」
「羨むことはありませんよ。私がやりたいことを私の判断でやっているだけなんです。そう、人によって好きの形も違いますから、私が彼にとって正しいことをしているということもないんですよ。私の気持ちだって、迷惑になるときもあるでしょう」
「いや……そうやって思われていることがすごいっす。幸せだろうなぁ」
「私もそうであることを願います」
「で、なまえさんの恋人って、どこにいるんすか?」
「この宮殿内で働いておりますから、アリババさまもすれ違うこともあるでしょう」
すれ違うどころか、彼女の想い人が毎日のように言葉を交わすよく見知った世話焼きの政務官であることを知ったらどういう反応をするだろうか。騙すつもりでも意地悪するわけでもないが、はっきりと公言するのははばかられて、なんとはなしにぼやかしてしまう。
アリババの驚く顔を想像してみたら、自然と笑みが浮かんだ。
「相談乗ってもらってありがとうございました」
「こちらこそ、私の話をきいていただきましたし。なによりアリババさまがお元気になりましたら本望です。またなんなりとお話くださいませ。後で甘い物をお持ちしますね」
「いつもありがとうございます」
「アリババさまは毎回美味しそうに召し上がってくださいますから、それを見るのが私の楽しみでもあります。アラジンさまとモルジアナさまにも声をかけてまいりますね」
「じゃ、部屋に戻ってます」
「はい。では後ほど」
少しだけしゃんとした背筋を気持ちよく見送って、アラジンとモルジアナを探そうと首を回したところで、この場にはいないはずの人物を確認して、向き直った。
「あら。盗み聞き?」
ゆったりとした官服の袖に手を隠して、それでももじもじとしているのが見て取れた。
「その……心配で」
「アリババくんのことが?それとも私のことが?」
「それは……」
もちろんはじめは悩みの多い年頃の少年のことをおもんばかっていた。
ところが自分から頼んだとはいえ、恋人と他の男がふたりきりという状況にはらはらしたものだった。
若くて、素直で情熱的な。少し未熟なところもあるが、年上からするとそれもかわいらしく魅力に映るものだ。もしやとは思ったが、心変わりもありえるかと疑ってしまって。
「わかってるわ。私、うまく立ち回れたかしら?」
きっと彼女はわかっていない。アリババのことだけを心配になってきたのだと信じていることだろう。屈託のないその表情が物語っている。
「予想以上に。ありがとうございました」
「良かったわ。さて、アラジンくんとモルジアナちゃんを探してこなくちゃ」
ご褒美をねだるわけでもなく、すっきりとした顔ではりきってその場を後にしようとした恋人の肩をつかむ。
かすめるだけのキスをして、何があったか把握できないなまえに告白した。
「私は、なまえがいてくれて幸せです。そしてこの国に何かあったとしても、あなたごと守りますよ」
それがジャーファルに口にできる最大限の愛情表現だった。
嬉しくて涙のにじむ声で、やっと一言だけ口にできた。
「……ありがと」
「ありがとう、は私の台詞です」
「ううん……」
「ええと、だから、これからもよろしくお願いします」
まだうるむ瞳でにっこりとする。
答えを口で言う代わりに、そっとキスを返した。
私のやり方や気持ちがあの人にとって最善であるかはわかりません。
でもきっとそこに最善なんてものはなくて、あるのは互いの愛だけなんでしょうね。
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おわり
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