マギ 短編
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うとうと、うとうと。
ひたすら続く事務作業で集中力も途切れた。変わらない体勢も手伝って、眠気を呼び起こしていた。船漕ぎを続ける首がときとおり拍子を外して、大きく体を動かして意識が現実に戻る。
それを繰り返して何度目か、手がインク壺にあたり、ガタガタと激しく揺れた。
ひやりとした思いをしたおかげで、急に覚醒した。さいわい壺は固定させていたため、ぐらついただけでそこに留まった。しかし細かい飛沫が近くにとびちり、手や袖にもかかってしまった。
書きかけの文書にも。
これは作りなおしだ、と小さくため息をついて、机に模様をつけてくれたインクの後始末にとりかかった。
できあがった書簡を添削して、あとは目を通して承認してもらうだけの段階まで仕上げた。
ペン立てに羽ペンを戻し、インク壺にしっかりとふたをする。
机を軽く整頓して、書簡をまとめて部屋を後にした。
「なまえです。書簡を持ってまいりました」
「ああ、ご苦労」
扉を開けたときに顔を挙げたシンドバッドがこちらを見て、ニヤリと笑った。入室を歓迎しているような笑みともまた違う。
首をかしげるも構わず机の上に書簡を乗せる。が、その間もなまえの顔をみつめている。
「なにかありました?」
「あぁ……いや。なんでもない。な、ジャーファル」
シンがジャーファルを横目で見ると、彼は王をたしなめた。
「シン、からかってはいけませんよ。……なまえ、こちらへ」
「え?……はい」
手招きに引かれるように、ジャーファルの目の前まできた。
「失礼します。じっとして」
ジャーファルの手が延びてきて、頬にとまる。
繊細な場所に感じるかたい指先に、思わず目をつむって少しうつむく。
男の人の手だ、とあらためて認識すると、緊張が強くなった。
頬骨の下あたりを、指先で撫でる。というより、こすっている。
「インクがついてますよ」
こっそり、静かに教えてくれた。はっとして目を開く。
「あっ……!インク壺からすこしこぼしました…」
寝ぼけて手でこづいてしまったとは恥ずかしくて言えず。
とっさに自分の左手を上げたが、ジャーファルのそれと重なり、そのごつごつした肌触りに驚いて、慌てて握り込んだ手をふとももに打ち付けた。
「いいですよ。どうぞそのまま。自分ではわからないでしょう」
取り乱すこともなく、ふんわりと微笑んでインクを落とす作業を続ける。
「はっ……、ありがとうございます」
右手でなまえの頬をなるべく優しく撫ぜる。2、3度ではインクは落ちない。左手でも彼女の顔を支えるようにして包み込む。
それにしても人の頬とはこんなにもやわらかいものであったか。弾力があり指で押した通りに形を変え、かつ吸いつくようにみずみずしい。
いつの間にか真剣にむにむにと頬の感触を楽しんでいた。
なまえは文句を言うこともなく大人しくしていたが、目線をよく動かした。どこを見ていいのか判断つけかね、たまに上目遣いになる。
何度もこすったせいでもあるだろうが、頬が赤い。
「―――。」
さりげなく、流れるように薄桃色の唇に親指を乗せ、滑らせる。
頬よりも柔軟な、それはわずかにめくれて、小さな歯をのぞかせる。
なまえが左右に瞳を揺らしながら、だんだんと上へきたときかちりと合わさった。
顔をジャーファルに抑えられているため、必然的に上目遣いになるのだが。
「ジャーファル、そこまでにしておけ」
咳払いとともに、忘れ去られていたシンドバッドが止めに入った。ぴたりと動きがとまる。
「えぇ……そうですね。さぁ、落ちましたよ。すみません、こすりすぎましたね。痛くありませんか?」
「だいじょうぶです、ありがとうございました!」
ようやく解放された顔に両手を添えて、ぺこりと頭を下げる。
そそくさと部屋から出て、扉を締め切った瞬間、その場にへたりこんだ。
「あの微笑み、間近でみるとヤバイ……!」
そして何食わぬ顔で机に向かうジャーファルに、シンドバッドが意地悪い笑みを浮かべた。
「ジャーファルのすけべ」
「なっ……」
ジャーファルが羽ペンを取り落とす。
「あのままなまえにキスするところだったろう」
「馬鹿なことを、」
「でなければインクもついていない唇にあんなふうに触るものか」
「うるさい仕事しろシン!」
怒声とともに書簡が瞬時に飛んできた。
**
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ひたすら続く事務作業で集中力も途切れた。変わらない体勢も手伝って、眠気を呼び起こしていた。船漕ぎを続ける首がときとおり拍子を外して、大きく体を動かして意識が現実に戻る。
それを繰り返して何度目か、手がインク壺にあたり、ガタガタと激しく揺れた。
ひやりとした思いをしたおかげで、急に覚醒した。さいわい壺は固定させていたため、ぐらついただけでそこに留まった。しかし細かい飛沫が近くにとびちり、手や袖にもかかってしまった。
書きかけの文書にも。
これは作りなおしだ、と小さくため息をついて、机に模様をつけてくれたインクの後始末にとりかかった。
できあがった書簡を添削して、あとは目を通して承認してもらうだけの段階まで仕上げた。
ペン立てに羽ペンを戻し、インク壺にしっかりとふたをする。
机を軽く整頓して、書簡をまとめて部屋を後にした。
「なまえです。書簡を持ってまいりました」
「ああ、ご苦労」
扉を開けたときに顔を挙げたシンドバッドがこちらを見て、ニヤリと笑った。入室を歓迎しているような笑みともまた違う。
首をかしげるも構わず机の上に書簡を乗せる。が、その間もなまえの顔をみつめている。
「なにかありました?」
「あぁ……いや。なんでもない。な、ジャーファル」
シンがジャーファルを横目で見ると、彼は王をたしなめた。
「シン、からかってはいけませんよ。……なまえ、こちらへ」
「え?……はい」
手招きに引かれるように、ジャーファルの目の前まできた。
「失礼します。じっとして」
ジャーファルの手が延びてきて、頬にとまる。
繊細な場所に感じるかたい指先に、思わず目をつむって少しうつむく。
男の人の手だ、とあらためて認識すると、緊張が強くなった。
頬骨の下あたりを、指先で撫でる。というより、こすっている。
「インクがついてますよ」
こっそり、静かに教えてくれた。はっとして目を開く。
「あっ……!インク壺からすこしこぼしました…」
寝ぼけて手でこづいてしまったとは恥ずかしくて言えず。
とっさに自分の左手を上げたが、ジャーファルのそれと重なり、そのごつごつした肌触りに驚いて、慌てて握り込んだ手をふとももに打ち付けた。
「いいですよ。どうぞそのまま。自分ではわからないでしょう」
取り乱すこともなく、ふんわりと微笑んでインクを落とす作業を続ける。
「はっ……、ありがとうございます」
右手でなまえの頬をなるべく優しく撫ぜる。2、3度ではインクは落ちない。左手でも彼女の顔を支えるようにして包み込む。
それにしても人の頬とはこんなにもやわらかいものであったか。弾力があり指で押した通りに形を変え、かつ吸いつくようにみずみずしい。
いつの間にか真剣にむにむにと頬の感触を楽しんでいた。
なまえは文句を言うこともなく大人しくしていたが、目線をよく動かした。どこを見ていいのか判断つけかね、たまに上目遣いになる。
何度もこすったせいでもあるだろうが、頬が赤い。
「―――。」
さりげなく、流れるように薄桃色の唇に親指を乗せ、滑らせる。
頬よりも柔軟な、それはわずかにめくれて、小さな歯をのぞかせる。
なまえが左右に瞳を揺らしながら、だんだんと上へきたときかちりと合わさった。
顔をジャーファルに抑えられているため、必然的に上目遣いになるのだが。
「ジャーファル、そこまでにしておけ」
咳払いとともに、忘れ去られていたシンドバッドが止めに入った。ぴたりと動きがとまる。
「えぇ……そうですね。さぁ、落ちましたよ。すみません、こすりすぎましたね。痛くありませんか?」
「だいじょうぶです、ありがとうございました!」
ようやく解放された顔に両手を添えて、ぺこりと頭を下げる。
そそくさと部屋から出て、扉を締め切った瞬間、その場にへたりこんだ。
「あの微笑み、間近でみるとヤバイ……!」
そして何食わぬ顔で机に向かうジャーファルに、シンドバッドが意地悪い笑みを浮かべた。
「ジャーファルのすけべ」
「なっ……」
ジャーファルが羽ペンを取り落とす。
「あのままなまえにキスするところだったろう」
「馬鹿なことを、」
「でなければインクもついていない唇にあんなふうに触るものか」
「うるさい仕事しろシン!」
怒声とともに書簡が瞬時に飛んできた。
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