マギ 短編
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ヤムライハに教えてもらい、見えなくなる魔法を使ってみた。
「ど、どう?うまくできてる?」
さわさわと自分の体に触れて確認し、尋ねると、ヤムライハはにっこり答えた。
「えぇなまえ、上手よ。ちゃんと隠れてるわ」
「良かった!ヤムライハ、ありがとう」
「どういたしまして」
なまえにはこの魔法を使って、確かめたいことがあった。
天気が良いから外で食べよう、と王の御達しにより、八人将が宮殿の庭に集まった。
それどころか各国の食客たちも集まり、少し大規模な懇親会のようなものになった。
元暗殺者であった自分に気配を察するのは息をするも同じことだ。
姿は見えないが、親しみ慣れたこの気配は。
先ほどからどうしても、消すつもりのないなまえの気配がだだもれなのが気になる。
なにを考えているのかは読めないが、とりあえず様子見をしておくことにした。
視線はなまえから外さず、気付いていることをアピールしながら。
****
さきほどからずっとジャーファルと視線が合っている気がする。
こちらは見えていないはず。
いや、実際、姿は見えずともなまえの存在に気付くかどうか、を確かめたかったのだが。
それでなくとも、自分がいるときといないときの、ジャーファルの態度の違いを見てみたかった。
妙な焦りを感じながら、木の葉の影に隠れた。
葉先や枝に触れないように気を使いながら進んだところで、いま自分は姿が見えていなはずだということにはっと気付いた。
わざわざ隠れる必要などなかったのだ。
そっと今まで通った道を視線だけで辿って、踏みしめた緑から柔らかく湿った土、人に手入れされた自然へ続き。
給仕の侍女たちがせわしなく動き回っている。
立ち止まる白いゆったりした数々の官服の隙間を抜け、それはにこやかな横顔に辿りついた。
きゅう、と胸がしめつけられる。
手で押さえても、ちっとも楽にならない。
と、それまでシンドバッドやシャルルカンと談笑していた彼が、急にこちらに向かってきた。
堂々としっかりした足取りで、目的をこちらに見つけたような目つきで。
目の前で立ち止まる。お互いがじっと見つめる。
背中を向けている側に何かあるのだろうかと振りかえったが、何も不審なところはなかった。
ジャーファルに向き直るも、その目線は動かなかった。
おそるおそる指先でそばかすの浮かぶ鼻先に触れようと腕を上げて、また自分の胸へ引き戻した。
やっぱり見えていないのだ。
こんなに近付いても、私の存在などないものなのだ。
唇をかみしめて、涙をこらえようとするも、息苦しくなるばかりで。
ぱたぱたと落ちてくる雫で、そばの葉が揺れる。
雨も降らないのに、葉は次々に濡れていく。
****
これだけそばにきているというのに、なまえはまだジャーファルに気付かれていないと思っているのか。
ジャーファルはそっと、腕を伸ばして、空気中で思い切り抱きしめた。
息を呑む声が胸のあたりで聞こえた。
ゆっくりと頭をなすりつけるのがわかる。
服がじわりと水分を吸い、染みは広がっていく。
魔法は解けた。
そこにはただしく、彼女がいた。
「どうしてそんなふうに切羽詰まってしか泣けないんです」
感情を押さえた低い声に動揺する。
「わ、わかってたの……?」
「わからないと思うあなたは、ほんと馬鹿ですよね。
私が怒ってるのもわかりませんか」
これみよがしにため息をつかれ、ジャーファルの胸を両手で叩く。
「なによ…!ジャーファルのばかぁ!頭は良いくせに、私のことわかってないでしょ」
「どこをどうわかってないというんです?ここまでさせといて」
ちゃんとなまえの存在に気付いて、そばに来て、抱きしめて。
まさにたったいまあなたが望んでいることでしょう、と。
「わかってるんなら日頃から構えぇぇえばかぁぁぁぁ」
ジャーファルがぷっ、と吹き出した。
「構えって子供ですか、あなたは」
そばにいたい。
話してほしくて、自分だけを見てほしくて、好きって伝えたくて。
なまえのほうから会いにいこう、と決めて行かないと会えない。ジャーファルから来ることはめったにない。
それは彼の仕事の特殊さのためだとはわかっているけれど。逢いたいのは自分だけなのかと時折落ち込んでしまう。
時間を置いたらさみしさではちきれそうで、何の意味もない話した内容を反芻しては、ああ、あんな言い方しなければ、こう言えばもっと気持ちが伝わったのかな。
あのときのはああ受け止めてしまったものの、もしかしたらこういう意味だったのかな。
変な事言ってしまったかも、傷ついてないかしら。
嫌われてないよね?と考えるたびに逢って、笑いかけてくれることを確認したくなる。
ようやく見れた姿にどきどきして、気付いて、と心の中で念じて。
こちらを見て名前を呼ばれるとすべてを投げ捨ててとんでいってしまいそうになる。手に触れられると、たくさん話したかったことが全て頭から抜けて、心地よいぬくもりに目を閉じてしまう。それまで重かった心がふわりと浮いて、不安だったことが消えさる。
こんなに好きなのは私だけなのかな。
ねぇ、私を見てときめいたりするの?
なんて、きくにきけない。
それでも彼の笑顔で元気がでて。
そばかすにキスしたくなる。
「子供でいいもん。ジャーファルが好きなんだもん。いっしょにいたいの。
やっぱりわかってない、ばか、ジャーファルのばか」
「はいはい、そうですよ。私はなまえ馬鹿ですよ。だからいいんです」
あやすように背中を叩いて、からかうように上げ足をとって認めた。
ジャーファルはときたま怒りやすくなるけれど、優しくて。
自身に対するときと、他の人と接し方が変わらないように見える。
告白はなまえからだった。
気持ちがあふれだして、思わず好きだと伝えていた。
けれどあのとき、優しいから、断れなくて、私の「好き」にも応えたの?
「ジャーファル、好き。すきなの。
私が子供っぽいの、いや?きら、いになった?」
しゃくりあげながらも、不安で不安で仕方なくて。
「ちゃんとほんとのこと言って…」
「ああ、だから、嫌いな相手にこんな面倒なことしませんよ」
「……ジャーファルは優しいから、断れなくて、私を受け入れたの……?」
腕に力を込め、胸を押して離れようとしたら、さらにきつく抱きしめられた。
「ふざけんな!」
腕の中でびくりと肩を震わせた。
そっと離れたところから、不安げに見る彼女を抱き寄せたくても、執務中と言い聞かせて微笑みかけるのがやっと。
逢いに行くにも、先々でだれかれに捕まってしまい、彼女までたどりつけなかった。
たまに時間ができて逢えると、幸せそうにしているが、そばにいるばかりで満足そうにしている。
なまえのその柔らかな頬に、小さな手に触れたいと求めるのは自分だけか。
唇で好きを伝えたいなど、これは邪な思いなのだろうか、と心配になる。
たまに我慢できなくなってなまえを抱きしめると、顔を真っ赤にして体をこわばらせる。
それが少しずつゆるんで、こちらに体を預けるようになるまで、焦りに似た感情に支配される。
本当にこうして良いのだろか、なまえはこんな関係を望んでいるのだろうか。
彼女から告白されたとき、信じれなかったけれど、なにより嬉しかった。
優しく接してはいたが、それが兄のように思われているのではないかと諦めていたから。
素直に慕ってくる彼女がかわいくて。
「離れるなんて許さない。やっと捕まえたのに」
普段丁寧な物言いしかしないジャーファルが、強い語気をした。ごく親しい者に対してしか、こんな言葉は使わない。
それをいつも羨ましそうに見ていたけれど、実際聞いてみると少し怖かった。
けれどどこかほっとした。
やっとジャーファルに触れることができた気がする。
「これ以上どうすればわかるってんですか。
いいですか、手を握るのも抱きしめるのも可愛いって思うのもなまえ、あなただけなんです。
あなたが愛おしい」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめる。
でもそこには安心しきった笑みが浮かんでいて。
「ばかって言ってごめんなさい…だいすきよ」
「……いえ、やはり私は馬鹿です」
こんなにめちゃくちゃあなたが愛しい。
**
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「ど、どう?うまくできてる?」
さわさわと自分の体に触れて確認し、尋ねると、ヤムライハはにっこり答えた。
「えぇなまえ、上手よ。ちゃんと隠れてるわ」
「良かった!ヤムライハ、ありがとう」
「どういたしまして」
なまえにはこの魔法を使って、確かめたいことがあった。
天気が良いから外で食べよう、と王の御達しにより、八人将が宮殿の庭に集まった。
それどころか各国の食客たちも集まり、少し大規模な懇親会のようなものになった。
元暗殺者であった自分に気配を察するのは息をするも同じことだ。
姿は見えないが、親しみ慣れたこの気配は。
先ほどからどうしても、消すつもりのないなまえの気配がだだもれなのが気になる。
なにを考えているのかは読めないが、とりあえず様子見をしておくことにした。
視線はなまえから外さず、気付いていることをアピールしながら。
****
さきほどからずっとジャーファルと視線が合っている気がする。
こちらは見えていないはず。
いや、実際、姿は見えずともなまえの存在に気付くかどうか、を確かめたかったのだが。
それでなくとも、自分がいるときといないときの、ジャーファルの態度の違いを見てみたかった。
妙な焦りを感じながら、木の葉の影に隠れた。
葉先や枝に触れないように気を使いながら進んだところで、いま自分は姿が見えていなはずだということにはっと気付いた。
わざわざ隠れる必要などなかったのだ。
そっと今まで通った道を視線だけで辿って、踏みしめた緑から柔らかく湿った土、人に手入れされた自然へ続き。
給仕の侍女たちがせわしなく動き回っている。
立ち止まる白いゆったりした数々の官服の隙間を抜け、それはにこやかな横顔に辿りついた。
きゅう、と胸がしめつけられる。
手で押さえても、ちっとも楽にならない。
と、それまでシンドバッドやシャルルカンと談笑していた彼が、急にこちらに向かってきた。
堂々としっかりした足取りで、目的をこちらに見つけたような目つきで。
目の前で立ち止まる。お互いがじっと見つめる。
背中を向けている側に何かあるのだろうかと振りかえったが、何も不審なところはなかった。
ジャーファルに向き直るも、その目線は動かなかった。
おそるおそる指先でそばかすの浮かぶ鼻先に触れようと腕を上げて、また自分の胸へ引き戻した。
やっぱり見えていないのだ。
こんなに近付いても、私の存在などないものなのだ。
唇をかみしめて、涙をこらえようとするも、息苦しくなるばかりで。
ぱたぱたと落ちてくる雫で、そばの葉が揺れる。
雨も降らないのに、葉は次々に濡れていく。
****
これだけそばにきているというのに、なまえはまだジャーファルに気付かれていないと思っているのか。
ジャーファルはそっと、腕を伸ばして、空気中で思い切り抱きしめた。
息を呑む声が胸のあたりで聞こえた。
ゆっくりと頭をなすりつけるのがわかる。
服がじわりと水分を吸い、染みは広がっていく。
魔法は解けた。
そこにはただしく、彼女がいた。
「どうしてそんなふうに切羽詰まってしか泣けないんです」
感情を押さえた低い声に動揺する。
「わ、わかってたの……?」
「わからないと思うあなたは、ほんと馬鹿ですよね。
私が怒ってるのもわかりませんか」
これみよがしにため息をつかれ、ジャーファルの胸を両手で叩く。
「なによ…!ジャーファルのばかぁ!頭は良いくせに、私のことわかってないでしょ」
「どこをどうわかってないというんです?ここまでさせといて」
ちゃんとなまえの存在に気付いて、そばに来て、抱きしめて。
まさにたったいまあなたが望んでいることでしょう、と。
「わかってるんなら日頃から構えぇぇえばかぁぁぁぁ」
ジャーファルがぷっ、と吹き出した。
「構えって子供ですか、あなたは」
そばにいたい。
話してほしくて、自分だけを見てほしくて、好きって伝えたくて。
なまえのほうから会いにいこう、と決めて行かないと会えない。ジャーファルから来ることはめったにない。
それは彼の仕事の特殊さのためだとはわかっているけれど。逢いたいのは自分だけなのかと時折落ち込んでしまう。
時間を置いたらさみしさではちきれそうで、何の意味もない話した内容を反芻しては、ああ、あんな言い方しなければ、こう言えばもっと気持ちが伝わったのかな。
あのときのはああ受け止めてしまったものの、もしかしたらこういう意味だったのかな。
変な事言ってしまったかも、傷ついてないかしら。
嫌われてないよね?と考えるたびに逢って、笑いかけてくれることを確認したくなる。
ようやく見れた姿にどきどきして、気付いて、と心の中で念じて。
こちらを見て名前を呼ばれるとすべてを投げ捨ててとんでいってしまいそうになる。手に触れられると、たくさん話したかったことが全て頭から抜けて、心地よいぬくもりに目を閉じてしまう。それまで重かった心がふわりと浮いて、不安だったことが消えさる。
こんなに好きなのは私だけなのかな。
ねぇ、私を見てときめいたりするの?
なんて、きくにきけない。
それでも彼の笑顔で元気がでて。
そばかすにキスしたくなる。
「子供でいいもん。ジャーファルが好きなんだもん。いっしょにいたいの。
やっぱりわかってない、ばか、ジャーファルのばか」
「はいはい、そうですよ。私はなまえ馬鹿ですよ。だからいいんです」
あやすように背中を叩いて、からかうように上げ足をとって認めた。
ジャーファルはときたま怒りやすくなるけれど、優しくて。
自身に対するときと、他の人と接し方が変わらないように見える。
告白はなまえからだった。
気持ちがあふれだして、思わず好きだと伝えていた。
けれどあのとき、優しいから、断れなくて、私の「好き」にも応えたの?
「ジャーファル、好き。すきなの。
私が子供っぽいの、いや?きら、いになった?」
しゃくりあげながらも、不安で不安で仕方なくて。
「ちゃんとほんとのこと言って…」
「ああ、だから、嫌いな相手にこんな面倒なことしませんよ」
「……ジャーファルは優しいから、断れなくて、私を受け入れたの……?」
腕に力を込め、胸を押して離れようとしたら、さらにきつく抱きしめられた。
「ふざけんな!」
腕の中でびくりと肩を震わせた。
そっと離れたところから、不安げに見る彼女を抱き寄せたくても、執務中と言い聞かせて微笑みかけるのがやっと。
逢いに行くにも、先々でだれかれに捕まってしまい、彼女までたどりつけなかった。
たまに時間ができて逢えると、幸せそうにしているが、そばにいるばかりで満足そうにしている。
なまえのその柔らかな頬に、小さな手に触れたいと求めるのは自分だけか。
唇で好きを伝えたいなど、これは邪な思いなのだろうか、と心配になる。
たまに我慢できなくなってなまえを抱きしめると、顔を真っ赤にして体をこわばらせる。
それが少しずつゆるんで、こちらに体を預けるようになるまで、焦りに似た感情に支配される。
本当にこうして良いのだろか、なまえはこんな関係を望んでいるのだろうか。
彼女から告白されたとき、信じれなかったけれど、なにより嬉しかった。
優しく接してはいたが、それが兄のように思われているのではないかと諦めていたから。
素直に慕ってくる彼女がかわいくて。
「離れるなんて許さない。やっと捕まえたのに」
普段丁寧な物言いしかしないジャーファルが、強い語気をした。ごく親しい者に対してしか、こんな言葉は使わない。
それをいつも羨ましそうに見ていたけれど、実際聞いてみると少し怖かった。
けれどどこかほっとした。
やっとジャーファルに触れることができた気がする。
「これ以上どうすればわかるってんですか。
いいですか、手を握るのも抱きしめるのも可愛いって思うのもなまえ、あなただけなんです。
あなたが愛おしい」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめる。
でもそこには安心しきった笑みが浮かんでいて。
「ばかって言ってごめんなさい…だいすきよ」
「……いえ、やはり私は馬鹿です」
こんなにめちゃくちゃあなたが愛しい。
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