マギ 短編
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仕事が予想外に早く終わり、もう帰って良いと言われた。せっかくだからとそっと本を持ち出して外に向かう。
周囲は木々に囲まれ、人の気配は皆無。大きな樹に背中を預け、膝に乗せた本のしおりをひらいた。
葉のざわめきも、鳥の鳴き声も遠ざかり、本の世界に吸いこまれてゆく。
午後の空気はあたたかく、知らないうちに船漕ぎを始めていた。
「まったく、こんなところで」
ジャーファルがわざと音を立てて近付いてきたというのに、横に伏せられた体は警戒のかけらもない。膝から投げ出された本はしおりが外れ、緑の上に寝そべっている。
本を取り上げてしおりを表紙の次のページに差し込み、少し離れた場所に置く。
なまえに向かい合うように寝転がって、両腕で抱きしめた。花にも果実にも似た香りがふわりと漂って、凝った体から力が抜けるのを感じた。
静かな時間だ。
どれくらい経っただろうか、なまえが身じろぎして、ぱちりと目を開けた。驚きに目を丸くした後、ジャーファルの頬に手を添えた。
「ジャーファル様?どうなさったんですか?」
「無防備な恋人を叱りにきたんです」
目をこする彼女の額に唇を落として、ぎゅっと腕に力を込めた。
なまえはいかにもおかしそうに笑って、彼の背中に腕をまわす。
「大丈夫ですよ。こんなにあたたかいんですから風邪なんてひきません」
「そういう意味ではありません」
「えーと……ここ、見つかりにくいんですよ?」
「なおさら怒りますよ。宮殿内で私の知らない場所があるとお思いですか」
「あぁ、そうですね……そうですねぇ」
まだ寝ぼけているであろう頭で、言い訳を探している彼女が可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「もういいですよ。どこにいたって私がまた探せばいいだけの話です」
「はい、お願いします」
「ねぇ、ジャーファルさま」
「はい?」
「そんなジャーファルさまがだいすきです」
「あなたには負けますね」
たまらくなって、愛をささやく唇に優しく口づけた。
「私も大好きですよ、なまえ」
そうして定刻の鐘が鳴るまで、とりとめのない話を続けた。
****
ジャーファルはなまえと別れてから、塔に戻る途中、アリババとモルジアナが仲良く二人ならんで歩いてくるのを見つけた。
「こんにちは、ジャーファルさん」
「こんにちは、……ジャーファルさん?」
「はいこんにちは、アリババくん、モルジアナくん。これから食事ですか?」
「はい!」
「いっぱい食べてくださいね」
「ありがとうございます」
すれ違いざまに軽く挨拶をして別れようとしたとき、モルジアナが首をひねりながら鼻を動かした。
「モルジアナ?どうしたんだ」
「いえ、その……花のような果実のような、なまえさんの香りがしたので。近くにはなまえさんの気配がないのですが。どうも、ジャーファルさんから……」
「あぁ、きっとさっきまで花と戯れていたからですね」
取り乱しもせず微笑んで、なんでもなかったかのように立ち去っていく。
「えっ……」
香りをまとわぬジャーファルが、なまえの香りを伴っていた。
つまりそれは移り香。
意味を悟ったアリババは顔を真っ赤にしていた。モルジアナはジャーファルの背中を眺めながら不思議そうな顔をしてアリババに視線を投げた。
「……??ジャーファルさんはお花で遊ぶ趣味があったんでしょうか。アリババ?どうしたんです?」
「い、いや……戯れるってそういう……ほら、飯食いにいこーぜ」
「なんですか、ちゃんとわかるように説明してください」
アリババだけが理解できたことが不満で、頬いっぱいに空気を膨らませた。
「いや、だからもう……あー説明させんじゃねぇ!」
「顔が赤いですけど、具合でも悪いんですか?」
「違うって。ほっといてくれ……!」
「なんですか、心配ぐらいしますよそんな顔して」
「病気とかじゃねーからそんな気にすんなって!」
後にはそんな押し問答が続いていた。
**
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周囲は木々に囲まれ、人の気配は皆無。大きな樹に背中を預け、膝に乗せた本のしおりをひらいた。
葉のざわめきも、鳥の鳴き声も遠ざかり、本の世界に吸いこまれてゆく。
午後の空気はあたたかく、知らないうちに船漕ぎを始めていた。
「まったく、こんなところで」
ジャーファルがわざと音を立てて近付いてきたというのに、横に伏せられた体は警戒のかけらもない。膝から投げ出された本はしおりが外れ、緑の上に寝そべっている。
本を取り上げてしおりを表紙の次のページに差し込み、少し離れた場所に置く。
なまえに向かい合うように寝転がって、両腕で抱きしめた。花にも果実にも似た香りがふわりと漂って、凝った体から力が抜けるのを感じた。
静かな時間だ。
どれくらい経っただろうか、なまえが身じろぎして、ぱちりと目を開けた。驚きに目を丸くした後、ジャーファルの頬に手を添えた。
「ジャーファル様?どうなさったんですか?」
「無防備な恋人を叱りにきたんです」
目をこする彼女の額に唇を落として、ぎゅっと腕に力を込めた。
なまえはいかにもおかしそうに笑って、彼の背中に腕をまわす。
「大丈夫ですよ。こんなにあたたかいんですから風邪なんてひきません」
「そういう意味ではありません」
「えーと……ここ、見つかりにくいんですよ?」
「なおさら怒りますよ。宮殿内で私の知らない場所があるとお思いですか」
「あぁ、そうですね……そうですねぇ」
まだ寝ぼけているであろう頭で、言い訳を探している彼女が可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「もういいですよ。どこにいたって私がまた探せばいいだけの話です」
「はい、お願いします」
「ねぇ、ジャーファルさま」
「はい?」
「そんなジャーファルさまがだいすきです」
「あなたには負けますね」
たまらくなって、愛をささやく唇に優しく口づけた。
「私も大好きですよ、なまえ」
そうして定刻の鐘が鳴るまで、とりとめのない話を続けた。
****
ジャーファルはなまえと別れてから、塔に戻る途中、アリババとモルジアナが仲良く二人ならんで歩いてくるのを見つけた。
「こんにちは、ジャーファルさん」
「こんにちは、……ジャーファルさん?」
「はいこんにちは、アリババくん、モルジアナくん。これから食事ですか?」
「はい!」
「いっぱい食べてくださいね」
「ありがとうございます」
すれ違いざまに軽く挨拶をして別れようとしたとき、モルジアナが首をひねりながら鼻を動かした。
「モルジアナ?どうしたんだ」
「いえ、その……花のような果実のような、なまえさんの香りがしたので。近くにはなまえさんの気配がないのですが。どうも、ジャーファルさんから……」
「あぁ、きっとさっきまで花と戯れていたからですね」
取り乱しもせず微笑んで、なんでもなかったかのように立ち去っていく。
「えっ……」
香りをまとわぬジャーファルが、なまえの香りを伴っていた。
つまりそれは移り香。
意味を悟ったアリババは顔を真っ赤にしていた。モルジアナはジャーファルの背中を眺めながら不思議そうな顔をしてアリババに視線を投げた。
「……??ジャーファルさんはお花で遊ぶ趣味があったんでしょうか。アリババ?どうしたんです?」
「い、いや……戯れるってそういう……ほら、飯食いにいこーぜ」
「なんですか、ちゃんとわかるように説明してください」
アリババだけが理解できたことが不満で、頬いっぱいに空気を膨らませた。
「いや、だからもう……あー説明させんじゃねぇ!」
「顔が赤いですけど、具合でも悪いんですか?」
「違うって。ほっといてくれ……!」
「なんですか、心配ぐらいしますよそんな顔して」
「病気とかじゃねーからそんな気にすんなって!」
後にはそんな押し問答が続いていた。
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