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なまえはソルティコの街の酒場で給仕として働いている。
内装にはさわやかな青色をしたハンモックのような椅子が並ぶ。茅葺きの屋根に、壁をとっぱらったオープンなお店だ。外の景色と潮風とともに、お酒も楽しむことができる。
「なまえ!今夜は勇者様御一行がいらしてるわよ。あたしがテーブルに案内したの!」
興奮気味に声を上ずらせる同僚に、良かったね、と返すとあの席よ、と彼女はこっそり視線で示した。いくつかのテーブルをくっつけて大きな席に仕立て上げているところに、数人の男女が杯を持って乾杯をしたところだった。
うわあ、なにあの美形の集団。レパートリーの広い麗人たちが寄り集まっている。少女、青年、妙齢、壮年に果ては老人まで…酒場に未成年は見慣れないが、保護者がいるのなら問題はないだろう。
あれだけ凝り固まっていれば美形に興味がなくとも、見惚れてしまう。事実周囲の視線を集めている。
騎士ジエーゴの統括する街なので多くのお客は品位を保って嗜む程度に楽しんでいってくれるが、名を馳せた観光地であり、カジノがあるために一世一代の大博打のために訪れる野卑な人間もいる。その目的自体を咎めるつもりはないが、不道徳な行動が目立つのもそういった人が多いのも現状。
兵士も出入りするため治安は良いほうなのだが、泥酔してしまえば理性のタガが外れる輩もいる。
注文にかこつけてウェイトレスを口説こうとする輩も少なくない。
「どうせ狙ってるのはあの子でしょ。つまみ食いする男は嫌われるわよ」
顎で向こうのテーブルに食事を運んでいた同僚を指したところ、男は苦笑いした。
「そーだけどよ。ねーちゃんも捨てたもんじゃないぜ。若いし、身体だけでいやぁ…」
その酒で血走って濁った目は、なまえの首から下を舐めるように眺めていた。それを断ち切るように、 丸いトレイを掲げて体を隠す。
「そこまでにしといて。綺麗な子が見たいんだったら外に出てオチョリちゃんのとこ行けばいい」
「なんだ、せっかく褒めてやってんのに」
一切聞こえないふりをして、カウンターに戻って握りこぶしを作った。あんなの相手にしたくもないが、あのテーブル担当はなまえだ。帰るまで我慢。
男に投げつけた言葉は同僚の受け売りばかりだ。美人の同僚はウェイトレスを始めたばかりのなまえに酔っ払いのあしらい方を教えてくれた。不埒な奴にはお高く止まっている、と思われるくらいでちょうど良い。
店の中心に文字通り立って取り仕切っているオーナーのもとで、ようやく気を抜く。
カウンターには運ぶべき料理や飲み物が用意されていて、本来なら息つく暇もない。
「無理しなくて良いんだからね?」
なまえを気にかけるオーナーに、空元気を見せる。筋肉隆々の髭面に、気弱な表情は似合わないけれど、彼の人の良さがでていた。
「まだお店は開いたばっかりですよ。今日も稼がなきゃ」
トレイに皿を乗せて、テーブルに分けて追加注文を取る。オーナーに伝えて、空いたテーブルを片付けて整える。
いつもながら、美しい夕焼けを楽しむ余裕もない。
追加のエールを運んだところで、ちょっと待てよ、と握ったトレイを机の上に抑えつけられる。
「なにか?」
「話に付き合ってくれても良いだろ」
「アンタが私を満足させられるの?」
「言ってくれるじゃねぇか」
「私はね、強い男が好きなの。声かけるのなら武将グレイグに勝負を挑んで勝ってからにして?」
別なテーブルから、口笛が聞こえた。
額に青筋を立てた悪漢は周囲を気にして、舌打ちをして乱暴にトレイを叩いて腕を解放した。チップもくれないのにサービスする義理はない。
泥酔男は他の給仕を捕まえようとしていたが、ほとんどに無視されるようになった。
開店からしばらくピークを過ぎて、空席もちらほら出てきた頃だった。
テーブル担当の給仕は馴染み客と話し込んでおり、勇者様のせっかく上がった手にも気づいていない。そして思いもよらないことに彼らはなまえのみを凝視している。仕方ない、と歩み寄ってトレイを腕と体の間に挟んだ。
「はい。ご注文は」
絹糸のように艶めく髪の青年が、優しい瞳を向ける。
「お姉さん、なんともない?」
注文を書き留めるためのメモを取り出そうとしていた手が止まった。まさか私のことを心配して呼びつけたのか。苦々しい顔で、どう釈明したものか悩んだ。
「お見苦しいところを見せてしまって…」
「いやいや、見苦しいのはあの男のほうじゃろうて」
「まったくよ。節度を知らない酔っ払いってやーよね~!乙女の口説き方もなっちゃいないんだから」
「あの野蛮な男がお姉さんにちょっかい出すからいけないんじゃない。イレブン、懲らしめてやるのよ。ギガデインをお見舞いしてやるのよ」
年齢にしてはずいぶんしっかりしている。焚きつける少女を、おっとりした女の子が抑える。
「気に入らない相手だからとなんでも力で解決するのはいけませんわ、お姉様」
おねえさま?あだ名かなにかだろうか。ふたりが血が繋がっているのは明らかだが、少女はどうみても、年上には見えなかった。
「さっきの啖呵の切り方、威勢が良かったぜ」
明るい空色の髪をした青年が、ニッと口角を上げる。
気を張って大声を出してしまったのだ、騒がしい店内といえど聞こえていただろう。
「…聞こえてました、よねぇ。お恥ずかしい限りです」
「ちなみにあなたが名前を出してたグレイグってこの人よ」
色っぽい美貌に笑みを浮かべて、武道家らしい女性の指の先には、口ひげを整えた厳つい男が、こちらを見ていた。
「引き合いに出すなんて、申し訳ございませんでした」
「いや、私も見ていて胸がすっとした。あの程度の男なら相手にもならないが、向かってくるのなら勝負もいとわぬ」
見ず知らずのなまえを立てるために、そう言ってくれるなどお人好しすぎるくらいだ。噂で正義の人、とは聞いたことがあるけれど、間違いではなかったらしい。なんたって全土に名を轟かせる英雄だ。
「みなさまのお飲み物のおかわりをお持ちします。この分のお代はこちらで持ちますので」
「え?そんなつもりじゃなかったんだ」
「お気遣いが嬉しかったので。どうぞご贔屓にしてくださいね」
「それならありがたくいただくよ」
「またこの店に来るぜ」
勇者ご一行さまは約束通り贔屓にしてくれて、2度目の来訪でようやくウェイトレスの名前を尋ねたのだった。
**
終わります。
読んでくださりありがとうございます。
なまえはソルティコの街の酒場で給仕として働いている。
内装にはさわやかな青色をしたハンモックのような椅子が並ぶ。茅葺きの屋根に、壁をとっぱらったオープンなお店だ。外の景色と潮風とともに、お酒も楽しむことができる。
「なまえ!今夜は勇者様御一行がいらしてるわよ。あたしがテーブルに案内したの!」
興奮気味に声を上ずらせる同僚に、良かったね、と返すとあの席よ、と彼女はこっそり視線で示した。いくつかのテーブルをくっつけて大きな席に仕立て上げているところに、数人の男女が杯を持って乾杯をしたところだった。
うわあ、なにあの美形の集団。レパートリーの広い麗人たちが寄り集まっている。少女、青年、妙齢、壮年に果ては老人まで…酒場に未成年は見慣れないが、保護者がいるのなら問題はないだろう。
あれだけ凝り固まっていれば美形に興味がなくとも、見惚れてしまう。事実周囲の視線を集めている。
騎士ジエーゴの統括する街なので多くのお客は品位を保って嗜む程度に楽しんでいってくれるが、名を馳せた観光地であり、カジノがあるために一世一代の大博打のために訪れる野卑な人間もいる。その目的自体を咎めるつもりはないが、不道徳な行動が目立つのもそういった人が多いのも現状。
兵士も出入りするため治安は良いほうなのだが、泥酔してしまえば理性のタガが外れる輩もいる。
注文にかこつけてウェイトレスを口説こうとする輩も少なくない。
「どうせ狙ってるのはあの子でしょ。つまみ食いする男は嫌われるわよ」
顎で向こうのテーブルに食事を運んでいた同僚を指したところ、男は苦笑いした。
「そーだけどよ。ねーちゃんも捨てたもんじゃないぜ。若いし、身体だけでいやぁ…」
その酒で血走って濁った目は、なまえの首から下を舐めるように眺めていた。それを断ち切るように、 丸いトレイを掲げて体を隠す。
「そこまでにしといて。綺麗な子が見たいんだったら外に出てオチョリちゃんのとこ行けばいい」
「なんだ、せっかく褒めてやってんのに」
一切聞こえないふりをして、カウンターに戻って握りこぶしを作った。あんなの相手にしたくもないが、あのテーブル担当はなまえだ。帰るまで我慢。
男に投げつけた言葉は同僚の受け売りばかりだ。美人の同僚はウェイトレスを始めたばかりのなまえに酔っ払いのあしらい方を教えてくれた。不埒な奴にはお高く止まっている、と思われるくらいでちょうど良い。
店の中心に文字通り立って取り仕切っているオーナーのもとで、ようやく気を抜く。
カウンターには運ぶべき料理や飲み物が用意されていて、本来なら息つく暇もない。
「無理しなくて良いんだからね?」
なまえを気にかけるオーナーに、空元気を見せる。筋肉隆々の髭面に、気弱な表情は似合わないけれど、彼の人の良さがでていた。
「まだお店は開いたばっかりですよ。今日も稼がなきゃ」
トレイに皿を乗せて、テーブルに分けて追加注文を取る。オーナーに伝えて、空いたテーブルを片付けて整える。
いつもながら、美しい夕焼けを楽しむ余裕もない。
追加のエールを運んだところで、ちょっと待てよ、と握ったトレイを机の上に抑えつけられる。
「なにか?」
「話に付き合ってくれても良いだろ」
「アンタが私を満足させられるの?」
「言ってくれるじゃねぇか」
「私はね、強い男が好きなの。声かけるのなら武将グレイグに勝負を挑んで勝ってからにして?」
別なテーブルから、口笛が聞こえた。
額に青筋を立てた悪漢は周囲を気にして、舌打ちをして乱暴にトレイを叩いて腕を解放した。チップもくれないのにサービスする義理はない。
泥酔男は他の給仕を捕まえようとしていたが、ほとんどに無視されるようになった。
開店からしばらくピークを過ぎて、空席もちらほら出てきた頃だった。
テーブル担当の給仕は馴染み客と話し込んでおり、勇者様のせっかく上がった手にも気づいていない。そして思いもよらないことに彼らはなまえのみを凝視している。仕方ない、と歩み寄ってトレイを腕と体の間に挟んだ。
「はい。ご注文は」
絹糸のように艶めく髪の青年が、優しい瞳を向ける。
「お姉さん、なんともない?」
注文を書き留めるためのメモを取り出そうとしていた手が止まった。まさか私のことを心配して呼びつけたのか。苦々しい顔で、どう釈明したものか悩んだ。
「お見苦しいところを見せてしまって…」
「いやいや、見苦しいのはあの男のほうじゃろうて」
「まったくよ。節度を知らない酔っ払いってやーよね~!乙女の口説き方もなっちゃいないんだから」
「あの野蛮な男がお姉さんにちょっかい出すからいけないんじゃない。イレブン、懲らしめてやるのよ。ギガデインをお見舞いしてやるのよ」
年齢にしてはずいぶんしっかりしている。焚きつける少女を、おっとりした女の子が抑える。
「気に入らない相手だからとなんでも力で解決するのはいけませんわ、お姉様」
おねえさま?あだ名かなにかだろうか。ふたりが血が繋がっているのは明らかだが、少女はどうみても、年上には見えなかった。
「さっきの啖呵の切り方、威勢が良かったぜ」
明るい空色の髪をした青年が、ニッと口角を上げる。
気を張って大声を出してしまったのだ、騒がしい店内といえど聞こえていただろう。
「…聞こえてました、よねぇ。お恥ずかしい限りです」
「ちなみにあなたが名前を出してたグレイグってこの人よ」
色っぽい美貌に笑みを浮かべて、武道家らしい女性の指の先には、口ひげを整えた厳つい男が、こちらを見ていた。
「引き合いに出すなんて、申し訳ございませんでした」
「いや、私も見ていて胸がすっとした。あの程度の男なら相手にもならないが、向かってくるのなら勝負もいとわぬ」
見ず知らずのなまえを立てるために、そう言ってくれるなどお人好しすぎるくらいだ。噂で正義の人、とは聞いたことがあるけれど、間違いではなかったらしい。なんたって全土に名を轟かせる英雄だ。
「みなさまのお飲み物のおかわりをお持ちします。この分のお代はこちらで持ちますので」
「え?そんなつもりじゃなかったんだ」
「お気遣いが嬉しかったので。どうぞご贔屓にしてくださいね」
「それならありがたくいただくよ」
「またこの店に来るぜ」
勇者ご一行さまは約束通り贔屓にしてくれて、2度目の来訪でようやくウェイトレスの名前を尋ねたのだった。
**
終わります。
読んでくださりありがとうございます。