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「付き合わせちゃってごめんなさいねェ」
「いいえ。人と一緒にやったほうがモチベーションも維持できますから」
色違いの作務衣のような軽装で、タオル片手に顔を拭く。
鬼女の間で流行っているというダイエット方法は、八大地獄で運動し体を温めた後に八寒地獄で体を冷やし代謝を促すという、端的に言えば大規模なサウナダイエット。
多少太ろうが痩せようがお香の魅力に傷をつけることは断じてないが、本人がやりたいことは応援したい。なにより憧れの存在と側にいられるきっかけになる。
「そう?ありがとう。なまえちゃんにはダイエット必要なかったかもしれないけど、一緒にやってくれて心強いわァ」
「私も運動したかったんです」
「じゃあそろそろ八寒のほうに行きましょうか」
「はい!お香おねえさま、お水飲んでから行きましょう」
真っ赤に沸騰するマグマの流れる川の合間で、軽いストレッチをするだけでも汗が流れる。お香の玉の肌にも汗が浮かんでいた。水筒を差し出して、自分も水分補給をする。
「そうね、いただくわ」
八寒地獄はほぼ独立した地獄なので、獄卒といえど部署が違えばあまり踏み入ることはない。八大地獄の暑さに慣れていればなおさら、全く景観の違う刑場は珍しい。
雪山の描かれた水墨画を見たことがあるが、雰囲気をよく捉えていたと思う。
掠れがすれに影が無雑作に作られている。
「現世にもこういう場所はあるんでしょうか」
「そうねェ。今度鬼灯様にきいてみましょ」
雪の混じった風は火照った体にはじめ心地よいくらいだったが、だんだんと冷たく痛く感じてくる。
「10分以上いるのは体に良くないから、5分くらいしたら折り返すのが良いと思うわ」
「はい」
サクサクと雪の上を歩いて、新卒蛇獄卒の成長話や甘味の話で盛り上がった。前回も閻魔大王含む大人数で八寒にきたときの様子を語り出し、その時の失敗を踏まえて時間をこまめに確認していた。
「ああ、もう引き返さないと」
振り返って、きた道をまっすぐに戻る。
足の形に沈んだ雪はすぐに埋もれてしまい、前後左右どちらを目指していたのか区別がつかないほどまっさらな大地を作り出していた。その荘厳で美しい景色を堪能する余裕はない。
「まっすぐ来たから、そのまままっすぐ戻れば良いはず…なのに」
すでに折り返して10分ほど歩いている。来るときには5分を目安に歩いていたから、どこかで道を間違えてしまったに違いない。
足を止めるより他になかった。これ以上歩を進めるのは危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。
「そうだわ、誰かに電話を…」
ガタガタと震える手先は硬く、なかなか操作を進めることができなかった。つるりとケータイを落とす。
雪が隠してしまう前にそれをなまえが拾った。なまえのケータイは着替えと共にロッカーに置いてきてしまったのでこれ一台に頼るしかない。
「発信しますね」
お香が青白い顔で頷く。発信ボタンを押すと呼び出し音が鳴る。自身の体を抱きしめるようにしているお香の頬にケータイを添える。
***
「…はい、もしもし」
雑音が酷いせいか返答が聞こえない。
「お香さん?」
画面にはお香の名前が表示されてはいたが、彼女が無用なイタズラ電話をすることはないので、きっと何かあったのだろう。よっぽど電波の悪い場所にでもいるのか。
よく聞いてみると、雑音は風の、それも暴風の音だった。聞いたことがある。吹雪の音は大王にダイエットを強いたときの八寒地獄を思い出させる。
『ほお……たす…て……は……あぶ…だだだ…』
途切れとぎれの言葉に眉間にしわを寄せる。声は確かにお香のものだが、周囲の雑音も拾ってしまっている。
「貴女、まさか頞部陀(あぶだ)地獄にいるんですか?」
『…おね…ま!』
今度は違う女性の声。お香にいつもくっついているなまえだろう。二人して何をしているのか。
***
微かに残る熱を逃がすまいと、お香を抱きしめた。鼻先はまだ赤くなる程度で済んでいる。しかし機能せず匂いはわからない。風雪が感覚も視界もすべてさらってしまう。
「なまえちゃん、こんなことになってしまってごめんなさい」
「大丈夫です。きっと助かります」
「見回りの鬼が周回しているはずだから、彼らに見つけてもらえると良いんだけど」
歯を鳴らしながらなまえにしがみつく。
「見つけてもらえます、すぐにでも」
二人ともそれとわかっていて口にしないが、間違いなく遭難している。切羽詰まった状況ではあるが、パニックになって走り出したり悲観して泣き叫んだりするような子でなくてありがたい。不甲斐ないお香を励ましてくれさえする。上司と部下以上の付き合いができて良かった。
「そう…ね…」
お香の震えが止まった。
「お香おねえさま?」
呼びかけても反応がない。気を失ってしまったのか。この中で昏睡してしまうと体温がさらに低下してしまい危険だ。
「お香おねえさま、起きてください!」
瞬くとまつげに張った氷がはがれ落ちた。
泣くな。泣いたら涙が凍ってしまう。
お香のケータイが着信を知らせたが、もう手の自由が利かずに応答ボタンも押せない。いつ生き埋めになってもおかしくない。せめて手がかりになるようにとケータイを握りしめた手を天に突き上げる。
雪はふくらはぎまで積もり、固まった体でお香の肩に頭に降り注ぐ白を払うにも苦労した。
肺の中まで凍ってしまいそうだ。痛くて息もできない。できているのか実感がない。
「そこだーーっ!!」
のっそりと影が落ちたのはケータイが5度ほど鳴ったときだった。
ニット帽子に耳当て、首にはマフラー、手袋と厚着の上司がマンモスにまたがっている。他にも妖怪であるナマハゲたちが集まってきた。身軽な動作で雪に着地すると、剥き出しになったなまえの手首を持って脈をみる。手袋をずらして触れた素肌が熱いくらいだった。
「よし。意識もありますね」
半分しか開かない視界で、ただ鬼灯を見上げた。
「どっせい!」
掛け声と共に、二人を持ち上げ、マンモスの上まで投石の要領で投げられた。分厚い毛皮はやわらかそうに見えたが、どっしりとしていて硬い。すぐに本人も戻ってきて、ナマハゲたちに指示を飛ばす。
「おこ、お香、おねえさま、が」
口もまともに動かず、唇が切れてしまいそうだった。
温もりの残る半纏を肩に掛けられる。懐炉を押し付けられて、熱さに驚いて取り落す。
「しっかり持っておきなさい」
お香との間、腹のあたりに懐炉を突っ込まれ、上から半纏をきつく巻かれる。
「お香さんも鬼ですから、そんなに柔じゃありませんよ」
「でも、気を失って…」
腕の中でお香が身じろぎした。生きている。緊張が解けた。
「ごめ…なさ…」
「いいえ、いいんです…お香おねぇさま」
うつろな意識で謝罪を絶え絶えにこぼす上司の背中をさする。
目に登ってくるものを止められず、流すままにした。
「…怖かっ…」
分厚い手袋が目を覆う。この温もりようは、ホッカイロを仕込んでいるに違いない。布地が涙を吸い取っていく。内側からの熱で凍ったまつげと眉毛が溶けた。
「そのまま瞬きをすると氷で目玉が傷つきます」
そう言いつつも、人前で泣くなまえを隠そうとしたのだろう。八大地獄の獄卒の粗相を、八寒地獄の前で晒すことを厭うたのかもしれないが。鼻水をすすりながら、周囲が寒さのせいだと勘違いしてくれることを祈る。
鬼灯は八寒地獄の避難所に着くまでずっと目元を抑えてくれていた。
まったくこの人は、お香さんのこととなると簡単に取り乱して。ちょっと過保護すぎるんですよね。
「あなたのほうが重症でしょう。凍傷になっていれば指を切り落とすことになりますよ」
「指なんてもげたらそこらへんに落ちてる亡者の指をくっつければ良いんです!」
それよりもお香の無事が大事。
「その根性は嫌いじゃありません」
獄卒として見上げた覚悟だ、と感心した。
***
やっと血の通うようになってきた手を炉の前でさすりながら、お香が肩を落とす。
凍った髪の氷が解けてしっとりとさせていたので、水溜りができる前にナマハゲにタオルを借りて乾かした。
「ほんとうにごめんなさい。今度はあまり遠くへ行かないようにしてたから大丈夫だと思ったのだけれど、やっぱり雪は手強いわねェ」
「私がもっとしっかりしていれば…」
「なまえちゃんのせいじゃないわ。もともとは私が言い出したことよ。もうこのダイエット方はやめておきましょう」
鬼灯はいつどこで手に入れたのかわからないおしるこの缶を開けつつ、お香となまえに厳しい目を向ける。いつもと大した変化はないけれど、よく見ると眉間のしわが増えている。
「自業自得なのはわかってますね」
「はい。お手をわずらわせてしまって申し訳ありません」
「なまえさんはともかくお香さん、貴女は一度八寒を体験していたので遭難の危険性は知っていると思っていました」
「返す言葉もありませんわ」
「無事に見つかって安心しましたが、優秀な人材を2人も失うわけにはいきません」
いなくなっては困る存在だから鬼灯クラスの鬼人が先導して探しにきたのだ。
「軽率な行動は控えます」
「そうしていただけると助かります」
2人の反省を認めたのか、お小言はそこで止めてくれた。
「いやしかし寒い中飲むおしるこは格別に美味しいですね」
おかわりを催促したら、ナマハゲが小間使いのように了承していた。
「お香おねえさま、鬼灯さまがわざわざいらした目的って…」
よもや冬にコタツで暖まりつつアイスを食べる的な醍醐味を楽しむためなのでは?ときいてみたが、お香にも真意は掴めないらしく、どうかしらねぇ、と微笑まれた。
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読んでくださりありがとうございます。
「付き合わせちゃってごめんなさいねェ」
「いいえ。人と一緒にやったほうがモチベーションも維持できますから」
色違いの作務衣のような軽装で、タオル片手に顔を拭く。
鬼女の間で流行っているというダイエット方法は、八大地獄で運動し体を温めた後に八寒地獄で体を冷やし代謝を促すという、端的に言えば大規模なサウナダイエット。
多少太ろうが痩せようがお香の魅力に傷をつけることは断じてないが、本人がやりたいことは応援したい。なにより憧れの存在と側にいられるきっかけになる。
「そう?ありがとう。なまえちゃんにはダイエット必要なかったかもしれないけど、一緒にやってくれて心強いわァ」
「私も運動したかったんです」
「じゃあそろそろ八寒のほうに行きましょうか」
「はい!お香おねえさま、お水飲んでから行きましょう」
真っ赤に沸騰するマグマの流れる川の合間で、軽いストレッチをするだけでも汗が流れる。お香の玉の肌にも汗が浮かんでいた。水筒を差し出して、自分も水分補給をする。
「そうね、いただくわ」
八寒地獄はほぼ独立した地獄なので、獄卒といえど部署が違えばあまり踏み入ることはない。八大地獄の暑さに慣れていればなおさら、全く景観の違う刑場は珍しい。
雪山の描かれた水墨画を見たことがあるが、雰囲気をよく捉えていたと思う。
掠れがすれに影が無雑作に作られている。
「現世にもこういう場所はあるんでしょうか」
「そうねェ。今度鬼灯様にきいてみましょ」
雪の混じった風は火照った体にはじめ心地よいくらいだったが、だんだんと冷たく痛く感じてくる。
「10分以上いるのは体に良くないから、5分くらいしたら折り返すのが良いと思うわ」
「はい」
サクサクと雪の上を歩いて、新卒蛇獄卒の成長話や甘味の話で盛り上がった。前回も閻魔大王含む大人数で八寒にきたときの様子を語り出し、その時の失敗を踏まえて時間をこまめに確認していた。
「ああ、もう引き返さないと」
振り返って、きた道をまっすぐに戻る。
足の形に沈んだ雪はすぐに埋もれてしまい、前後左右どちらを目指していたのか区別がつかないほどまっさらな大地を作り出していた。その荘厳で美しい景色を堪能する余裕はない。
「まっすぐ来たから、そのまままっすぐ戻れば良いはず…なのに」
すでに折り返して10分ほど歩いている。来るときには5分を目安に歩いていたから、どこかで道を間違えてしまったに違いない。
足を止めるより他になかった。これ以上歩を進めるのは危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。
「そうだわ、誰かに電話を…」
ガタガタと震える手先は硬く、なかなか操作を進めることができなかった。つるりとケータイを落とす。
雪が隠してしまう前にそれをなまえが拾った。なまえのケータイは着替えと共にロッカーに置いてきてしまったのでこれ一台に頼るしかない。
「発信しますね」
お香が青白い顔で頷く。発信ボタンを押すと呼び出し音が鳴る。自身の体を抱きしめるようにしているお香の頬にケータイを添える。
***
「…はい、もしもし」
雑音が酷いせいか返答が聞こえない。
「お香さん?」
画面にはお香の名前が表示されてはいたが、彼女が無用なイタズラ電話をすることはないので、きっと何かあったのだろう。よっぽど電波の悪い場所にでもいるのか。
よく聞いてみると、雑音は風の、それも暴風の音だった。聞いたことがある。吹雪の音は大王にダイエットを強いたときの八寒地獄を思い出させる。
『ほお……たす…て……は……あぶ…だだだ…』
途切れとぎれの言葉に眉間にしわを寄せる。声は確かにお香のものだが、周囲の雑音も拾ってしまっている。
「貴女、まさか頞部陀(あぶだ)地獄にいるんですか?」
『…おね…ま!』
今度は違う女性の声。お香にいつもくっついているなまえだろう。二人して何をしているのか。
***
微かに残る熱を逃がすまいと、お香を抱きしめた。鼻先はまだ赤くなる程度で済んでいる。しかし機能せず匂いはわからない。風雪が感覚も視界もすべてさらってしまう。
「なまえちゃん、こんなことになってしまってごめんなさい」
「大丈夫です。きっと助かります」
「見回りの鬼が周回しているはずだから、彼らに見つけてもらえると良いんだけど」
歯を鳴らしながらなまえにしがみつく。
「見つけてもらえます、すぐにでも」
二人ともそれとわかっていて口にしないが、間違いなく遭難している。切羽詰まった状況ではあるが、パニックになって走り出したり悲観して泣き叫んだりするような子でなくてありがたい。不甲斐ないお香を励ましてくれさえする。上司と部下以上の付き合いができて良かった。
「そう…ね…」
お香の震えが止まった。
「お香おねえさま?」
呼びかけても反応がない。気を失ってしまったのか。この中で昏睡してしまうと体温がさらに低下してしまい危険だ。
「お香おねえさま、起きてください!」
瞬くとまつげに張った氷がはがれ落ちた。
泣くな。泣いたら涙が凍ってしまう。
お香のケータイが着信を知らせたが、もう手の自由が利かずに応答ボタンも押せない。いつ生き埋めになってもおかしくない。せめて手がかりになるようにとケータイを握りしめた手を天に突き上げる。
雪はふくらはぎまで積もり、固まった体でお香の肩に頭に降り注ぐ白を払うにも苦労した。
肺の中まで凍ってしまいそうだ。痛くて息もできない。できているのか実感がない。
「そこだーーっ!!」
のっそりと影が落ちたのはケータイが5度ほど鳴ったときだった。
ニット帽子に耳当て、首にはマフラー、手袋と厚着の上司がマンモスにまたがっている。他にも妖怪であるナマハゲたちが集まってきた。身軽な動作で雪に着地すると、剥き出しになったなまえの手首を持って脈をみる。手袋をずらして触れた素肌が熱いくらいだった。
「よし。意識もありますね」
半分しか開かない視界で、ただ鬼灯を見上げた。
「どっせい!」
掛け声と共に、二人を持ち上げ、マンモスの上まで投石の要領で投げられた。分厚い毛皮はやわらかそうに見えたが、どっしりとしていて硬い。すぐに本人も戻ってきて、ナマハゲたちに指示を飛ばす。
「おこ、お香、おねえさま、が」
口もまともに動かず、唇が切れてしまいそうだった。
温もりの残る半纏を肩に掛けられる。懐炉を押し付けられて、熱さに驚いて取り落す。
「しっかり持っておきなさい」
お香との間、腹のあたりに懐炉を突っ込まれ、上から半纏をきつく巻かれる。
「お香さんも鬼ですから、そんなに柔じゃありませんよ」
「でも、気を失って…」
腕の中でお香が身じろぎした。生きている。緊張が解けた。
「ごめ…なさ…」
「いいえ、いいんです…お香おねぇさま」
うつろな意識で謝罪を絶え絶えにこぼす上司の背中をさする。
目に登ってくるものを止められず、流すままにした。
「…怖かっ…」
分厚い手袋が目を覆う。この温もりようは、ホッカイロを仕込んでいるに違いない。布地が涙を吸い取っていく。内側からの熱で凍ったまつげと眉毛が溶けた。
「そのまま瞬きをすると氷で目玉が傷つきます」
そう言いつつも、人前で泣くなまえを隠そうとしたのだろう。八大地獄の獄卒の粗相を、八寒地獄の前で晒すことを厭うたのかもしれないが。鼻水をすすりながら、周囲が寒さのせいだと勘違いしてくれることを祈る。
鬼灯は八寒地獄の避難所に着くまでずっと目元を抑えてくれていた。
まったくこの人は、お香さんのこととなると簡単に取り乱して。ちょっと過保護すぎるんですよね。
「あなたのほうが重症でしょう。凍傷になっていれば指を切り落とすことになりますよ」
「指なんてもげたらそこらへんに落ちてる亡者の指をくっつければ良いんです!」
それよりもお香の無事が大事。
「その根性は嫌いじゃありません」
獄卒として見上げた覚悟だ、と感心した。
***
やっと血の通うようになってきた手を炉の前でさすりながら、お香が肩を落とす。
凍った髪の氷が解けてしっとりとさせていたので、水溜りができる前にナマハゲにタオルを借りて乾かした。
「ほんとうにごめんなさい。今度はあまり遠くへ行かないようにしてたから大丈夫だと思ったのだけれど、やっぱり雪は手強いわねェ」
「私がもっとしっかりしていれば…」
「なまえちゃんのせいじゃないわ。もともとは私が言い出したことよ。もうこのダイエット方はやめておきましょう」
鬼灯はいつどこで手に入れたのかわからないおしるこの缶を開けつつ、お香となまえに厳しい目を向ける。いつもと大した変化はないけれど、よく見ると眉間のしわが増えている。
「自業自得なのはわかってますね」
「はい。お手をわずらわせてしまって申し訳ありません」
「なまえさんはともかくお香さん、貴女は一度八寒を体験していたので遭難の危険性は知っていると思っていました」
「返す言葉もありませんわ」
「無事に見つかって安心しましたが、優秀な人材を2人も失うわけにはいきません」
いなくなっては困る存在だから鬼灯クラスの鬼人が先導して探しにきたのだ。
「軽率な行動は控えます」
「そうしていただけると助かります」
2人の反省を認めたのか、お小言はそこで止めてくれた。
「いやしかし寒い中飲むおしるこは格別に美味しいですね」
おかわりを催促したら、ナマハゲが小間使いのように了承していた。
「お香おねえさま、鬼灯さまがわざわざいらした目的って…」
よもや冬にコタツで暖まりつつアイスを食べる的な醍醐味を楽しむためなのでは?ときいてみたが、お香にも真意は掴めないらしく、どうかしらねぇ、と微笑まれた。
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