Say those three little words.
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短編
ある合宿の日のひとコマ。
**
まだ残暑厳しい連休中。烏野バレー部は合宿を行っていた。部員と行動を共にする潔子に留守を任され、なまえはひとり合宿所に残る。
ランニングのため外に出た部員たちを見送って、まずは体育館の舞台上に転がるスクイーズを回収する。台所で一度洗って、新しいドリンクを作り詰めておいた。軽食ができあがったら体育館に持っていこう。そのころちょうど彼らも帰ってくるだろう。
次にとりかかるのは炊飯器いっぱいに炊いたお米。真っ白な湯気を立てるそれをしゃもじで大きく混ぜて少しでも冷ます。大きな平皿と、のりと塩と小さなボウルにお水を張って、握る準備はできた。自分の手のひらより大きめに握ったおにぎりをひらすらお皿に並べていく。手のひらが赤い。だんだんと熱さに慣れてきたような、ご飯が冷めて握りやすくなったような。三角の形に整えられたおにぎりがお皿に段をつくっていく。彼らはこれを食べて夕飯もちゃんと食べるのだ。そう思うとちょっと感心だか畏敬だかよくわからない思いに包まれる。代謝エネルギー変換の力よ。
だいたい握り終わって、塩を振ってのりを巻いていく。
「っス」
台所と食堂を分けるのれんをくぐりながら、影山がのぞいてきた。
「あれ?おかえり。もう帰ってきたの?」
きっと日向とどちらが早く帰ってこられるか勝負して、今回は勝ったのだろう。
かと言って、体育館ではなく台所に来るのはなにか用事があるのだろうか。
「ドリンクがなかったんでこっちにあるかと思って」
「そっか、ごめんね。作り直すのにこっちに持ってきちゃってた。新しい中身入ってるからどうぞ」
「あざす」
ボトルを一つ手にとって、汗を拭きながら口に含んだ。なまえの手に注目する。炊飯器の中を空にして、余ったお米で最後のさいごにできたおにぎりは、他のものと比べてずいぶん小さくなってしまった。
「おにぎりすか」
「うん。軽食に作ったんだけど、これだけ中途半端な大きさになっちゃった。……食べる?」
お腹が空いていたのか、瞳がきらりと輝いた。
「いただきます」
なまえの指の先に乗るまんまるの米の固まりに、影山は腰を屈めてためらいもなく顔を近づける。ぱくり、と一口に収まった。繊細な指を爪を薄い唇がかすめて離れる。ぺろ、と爪に張り付く米粒をさらう舌に舐めあげられてそわり、と心が浮足立った。頬を膨らませて咀嚼する男は平然としている。
手ずから食べると予想していなかったなまえは、思わず固まる。満足げに嚥下した影山はなまえの様子を見て一瞬訝し気にして、弁明する。
「俺、手ぇ洗ってなかったんで」
「……あ、うん」
衛生面を考慮したのは偉いと思うが、こちらの心臓に悪い食べ方だ。ぱたぱた、と元気な足音が近づいてくる。
「影山ドリンク見つけたのかよ?あ、おにぎり!!美味そう!!」
「日向君もおかえりなさい。今から軽食とドリンク体育館に持っていくところだよ」
「じゃあおれ持っていくの手伝います!」
「ありがとう。お願いするね」
「影山も手伝えよ」
「うっせぇテメーに言われなくてもやる」
ドリンクと軽食をふたりに任せて、台所で炊飯器の釜を洗うなまえはひとり赤くなっていた。
私は誰が一番に台所にきていたとしても同じように質問した。
彼はもしおにぎりを差し出したのが清水だとしても、同じことをするだろう。そう言い聞かせて、心を落ち着かせた。
さらに言えば、西谷だって同じように噛みつくことが想像に容易い。
あ、ちょっと安心してきた。
夕飯の仕込みをしておこう。また食事のためにお米浸水させておかなければ。
**
おわります。
ある合宿の日のひとコマ。
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まだ残暑厳しい連休中。烏野バレー部は合宿を行っていた。部員と行動を共にする潔子に留守を任され、なまえはひとり合宿所に残る。
ランニングのため外に出た部員たちを見送って、まずは体育館の舞台上に転がるスクイーズを回収する。台所で一度洗って、新しいドリンクを作り詰めておいた。軽食ができあがったら体育館に持っていこう。そのころちょうど彼らも帰ってくるだろう。
次にとりかかるのは炊飯器いっぱいに炊いたお米。真っ白な湯気を立てるそれをしゃもじで大きく混ぜて少しでも冷ます。大きな平皿と、のりと塩と小さなボウルにお水を張って、握る準備はできた。自分の手のひらより大きめに握ったおにぎりをひらすらお皿に並べていく。手のひらが赤い。だんだんと熱さに慣れてきたような、ご飯が冷めて握りやすくなったような。三角の形に整えられたおにぎりがお皿に段をつくっていく。彼らはこれを食べて夕飯もちゃんと食べるのだ。そう思うとちょっと感心だか畏敬だかよくわからない思いに包まれる。代謝エネルギー変換の力よ。
だいたい握り終わって、塩を振ってのりを巻いていく。
「っス」
台所と食堂を分けるのれんをくぐりながら、影山がのぞいてきた。
「あれ?おかえり。もう帰ってきたの?」
きっと日向とどちらが早く帰ってこられるか勝負して、今回は勝ったのだろう。
かと言って、体育館ではなく台所に来るのはなにか用事があるのだろうか。
「ドリンクがなかったんでこっちにあるかと思って」
「そっか、ごめんね。作り直すのにこっちに持ってきちゃってた。新しい中身入ってるからどうぞ」
「あざす」
ボトルを一つ手にとって、汗を拭きながら口に含んだ。なまえの手に注目する。炊飯器の中を空にして、余ったお米で最後のさいごにできたおにぎりは、他のものと比べてずいぶん小さくなってしまった。
「おにぎりすか」
「うん。軽食に作ったんだけど、これだけ中途半端な大きさになっちゃった。……食べる?」
お腹が空いていたのか、瞳がきらりと輝いた。
「いただきます」
なまえの指の先に乗るまんまるの米の固まりに、影山は腰を屈めてためらいもなく顔を近づける。ぱくり、と一口に収まった。繊細な指を爪を薄い唇がかすめて離れる。ぺろ、と爪に張り付く米粒をさらう舌に舐めあげられてそわり、と心が浮足立った。頬を膨らませて咀嚼する男は平然としている。
手ずから食べると予想していなかったなまえは、思わず固まる。満足げに嚥下した影山はなまえの様子を見て一瞬訝し気にして、弁明する。
「俺、手ぇ洗ってなかったんで」
「……あ、うん」
衛生面を考慮したのは偉いと思うが、こちらの心臓に悪い食べ方だ。ぱたぱた、と元気な足音が近づいてくる。
「影山ドリンク見つけたのかよ?あ、おにぎり!!美味そう!!」
「日向君もおかえりなさい。今から軽食とドリンク体育館に持っていくところだよ」
「じゃあおれ持っていくの手伝います!」
「ありがとう。お願いするね」
「影山も手伝えよ」
「うっせぇテメーに言われなくてもやる」
ドリンクと軽食をふたりに任せて、台所で炊飯器の釜を洗うなまえはひとり赤くなっていた。
私は誰が一番に台所にきていたとしても同じように質問した。
彼はもしおにぎりを差し出したのが清水だとしても、同じことをするだろう。そう言い聞かせて、心を落ち着かせた。
さらに言えば、西谷だって同じように噛みつくことが想像に容易い。
あ、ちょっと安心してきた。
夕飯の仕込みをしておこう。また食事のためにお米浸水させておかなければ。
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おわります。
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