Say those three little words.
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**
ご注意
この話にはごく軽い性描写と、それに関する会話が含まれます。
16歳以下の閲覧はお控えください。
**
電話の相手は数コールで出た。
『どうした影山?』
「菅原さん。俺、やらかしたかもしれません」
『マジで』
デートでのあらましを説明した後、
「俺は結婚してからお互いを知っていくのも良いと思ったんすけど。全部知ってからだと遅すぎる」
『いやまぁお前ら付き合いはじめたばっかだべ。男女としては知らないこともあるだろ。影山は焦ってんのか?』
「前回路上ちゅーして怒られて」
『ひぃっ影山が路上ちゅー!成長したなぁお前!』
それは果たして成長と呼ぶのか。衝動的行動と呼ぶのか。
「牛島さんからもプロとして自覚と品格を持てって言われました。何かあったとき彼女を守れないって」
『ああー』
「俺は恋人のままで守ってやれないなら、結婚すれば文句言うヤツもいないと思って」
『お前さぁ、それ苗字に言った?』
「いえ、自分でも焦りすぎたとこあるしなまえさん怒ってて言える雰囲気じゃなくて」
『言っとけよ!そこは言っとけよ!空気読めるようになったのに感動するけどさ』
「あと国外に出ることも指摘されて」
『それなぁ……』
なまえの怒りが落ち着くまでひとまず待ってやれよ。待てだぞ、『待て』!
菅原のアドバイスはそれだけだった。お互い好き同士なんだから、話し合えば問題ないよ。
しゅん、とありもしない尻尾が下がるのを感じた。
待てっていつまでだよ。まさか彼女からの接触がくるまで我慢しろっていうのか。そんなんいつになる。
このまま自然消滅なんて嫌だ。
よし。3日間何も来なかったら俺から行動する。
**
好きな人から求婚されて釈然としない。いやいやマリッジブルーなんてものとは違う。
遠距離恋愛すらしたことないのに、単身赴任を見送ることなんてできるだろうか。
再会して1ヵ月も経ってない。平凡な会社員とは異なるスケジュールの中で、時間を見繕ってデートしてくれた苦労はあったと思う。休みならそれこそ体を休めるべきなのに。
別れたくないし、なにより好きだし、そばにいたい。
そばにいれなくても繋がっていたい。
結局はそれしかなかった。
まずは話し合わなければなにもならない。
**
『影山君、いま仙台のホテルでしょう?』
なまえさん、あの。そこまでタイピングしかけて、通知がかぶさった。新しいメッセージが表示されている。
『会いに行ってもいい?』
『はい。』
間が空いて、
『ありがとうございます。』
すぐに地図が表示された。
**
ホテルに着いたと連絡すれば、ロビーまで迎えに来てくれた。
「とりあえず、部屋に」
「うん」
泊まって数日になるはずの部屋は綺麗に整頓されていた。一度取り出した荷物もきちんと仕舞いこんで片付けているのだろう。出しっぱなしのものがない。
「なまえさん、好きです」
打ち明けられて少しひるんだ。
「私も影山君のこと好きです。でも、この先のことはどう考えてるの?」
「俺は海外に行きます。それは、譲れません」
「結婚したとして、私は?」
「仕事は続けてください。俺に着いてきてくれるのも嬉しいすけど、なまえさん仕事好きそうなんで」
「ということはすぐ別居ってこと?」
「できるだけ帰国します」
「私、寂しいよ。新婚だよ?」
「すみません。……俺も、傍にいたいです」
「でも、バレーは影山君の命だから。私も影山君を束縛したくない」
「なまえさんのことも、大事です。悩ませるのわかってて、離せないくらい」
か細いため息が漏れる。
「お互いのことよく知らないで、って言いましたけど全く知らないわけじゃない。結婚してから知っていくんじゃダメすか」
「結婚した後、私が影山君を待てなかったらどうするの?」
寂しさのあまり既婚者が間違いを起こすなんてことはよくある話だ。
「毎日電話する。忘れさせねぇ。帰れるときには帰国する」
口をついて出たのは、自分で考えてもいない質問だった。
未熟な関係を浮き彫りにするための。自身が恐れていること。
誰にも踏み込ませたことのない距離に、踏み入るのを許せるのか。
「じゃあ影山君、私のこと抱ける?!」
「あ?」
凶悪で凶暴に睨まれる。影山と向きあっている敵チームのブロックたちはいつもこんな圧を受け止めていたのか。
「抱けるに決まってんだろ」
憤慨しながらじゃなきゃ言えないのだろうか。
「体の関係があれば恋人っていうんじゃないけど、お互いを知っていく段階は、大事じゃないの?ぜんぶ飛ばして結婚しかないの?」
「はぁ?他の男とはヤったんだろ」
元カレたちには体を許したんだろう、彼女の秘めたるすみずみを、まだ俺が見ても触れてもいない場所を知っていることに苛立った。原因は知らないが付き合っては別れてを繰り返していたことなら知っている。子どもじゃないから、男女として付き合う意味くらいわかる。
だが毛が逆立ちそうな威圧にも、怯まず反発があった。
「誰とでも寝るみたいに言わないで。手を繋ぐ以上のことができなかったの!だからみんな別れたの!」
整った眉根を奇妙に歪ませた。
「んで?俺のことも拒否すんのかよ」
ふっきれた。敬語なんて使ってられなかった。
「してないでしょ。手を繋ぐのもキスも影山君は、違ったんだもん。キスなんていままで絶対できなかったのに、」
両手を伸ばして、ずいぶん高い位置にある頭を引き寄せた。抵抗はなく、なまえの唇は薄く色づいたのものを引っ張るようにたわやかに嚙みついた。
「だからほら、影山君だって、私のこと知らないじゃない。私たち、いつかは結婚するかも。でもこんなすぐじゃなくても良いでしょう。少なくともこんなことでぶつかっている間は、まだ……」
なにが好きで嫌いか。許せるものと許せないもの。なにをしたら怒って、なにをしたら笑うか。それらを確かめるための時間が必要だ。
「結婚を焦るのはどうして?繋がりを確立してから離れたかったから?」
「それもある……けど、それだけじゃねぇ」
「海外に行くのだって、月バリで知るより、影山君本人から教えて欲しかったよ」
「悪い。今度から情報はすぐ教える」
すっかり抜け落ちた敬語に、懐かしい姿が重なる。会話の途中から名前呼び捨てだし、敬語も消えてるし、気遣いという名の遠慮を一切合切取り去ってしまった。
「信じていいの?」
答えは言葉ではなかった。だが答えをつむぐもので行われた。想像以上に熱い。舌を横一直線に滑らせると引き結ばれた。下唇を軽く噛めば少し隙間が空いて、簡単に侵入できた。なまえの手が影山の胸元のシャツを握りしめる。離れてしまわないように首の後ろを掴んで腰に手を回す。口の中を撫でて、吸って、捕まえる。なまえはされるがままに身を委ねる。キスのやり方などわからずそうするしかなかった。影山から逃げようとする舌を追いかけて追い詰めていくうちに満足した。
やべぇ。すがりついてくんの、堪んねぇ。
「これ、嫌じゃねぇんだろ?」
頷いた。
「じゃあ俺を信じろよ」
「わかった」
「路上ちゅーのことも」
拗ねて尖らせた口。数年前もよくしてた。
「恋人の段階なら問題でも、夫婦なら誰にも変に思われねーし文句言わさねぇ」
「……だから結婚しようって言ったの?」
「キスしたいからじゃねぇぞ。結婚すれば家族だ。守ってやれる。メディア取材も強く拒絶できるだろ」
「そういう、こと……。私も感情的になってごめんね」
だからといって道端でのキスは公衆良俗に反するのは変わらないと思うけれど。
「俺も、すみませんでした」
「いいよ、敬語使わなくて。私たちとっくに学校は卒業したし、タメ口のほうが影山君らしい」
「おう。……なんか腹減ってきた」
「思うが儘に生きてるよね、影山君は……」
両頬を押さえつけて、訂正させられる。
「飛雄」
「え?なに?」
「俺だけなまえって呼んでたらなんかバランス悪いだろ」
だから名前で呼べと。対等でいたいという示しだろうか。
「……飛雄君」
軽く触れあうだけのキス。
「なまえ、好きだ。だからいつか結婚すんぞ」
「うん。私も好きだよ」
ただ他人に調子を合わせたりしない彼が譲歩したのは、奏功といえるのではないか。
こんなに強引なのに、こんなに愛されていると実感するなんて矛盾している。歴代の彼氏は誰も彼も優しかったけど、彼らから恋情を感じ取るにはきっと私が影山に夢中すぎた。
「飛雄君は今夜決起会でもあるんでしょう?」
明日試合があるのは公表されていた。なまえは仕事で行けないけれども。
「チームで外に食いに出かけるのは決まってる」
「楽しんで。それから試合も頑張って。私も帰らなきゃ、明日仕事だし。だから送るなんて言わないでね」
「ぐっ……タクシーで帰れ」
離れようとしたら、抱き込む腕は微動だにしない。
「え、電車もぜんぜん動いてるからいいよ」
「俺が嫌だ。送っていけねぇのに」
うんというまで離さないつもりだ。
「わかった。タクシー呼んでください」
「家に着いたら連絡しろよ」
と立派な彼氏面で、なまえがタクシーに乗るのを見送った。
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ご注意
この話にはごく軽い性描写と、それに関する会話が含まれます。
16歳以下の閲覧はお控えください。
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電話の相手は数コールで出た。
『どうした影山?』
「菅原さん。俺、やらかしたかもしれません」
『マジで』
デートでのあらましを説明した後、
「俺は結婚してからお互いを知っていくのも良いと思ったんすけど。全部知ってからだと遅すぎる」
『いやまぁお前ら付き合いはじめたばっかだべ。男女としては知らないこともあるだろ。影山は焦ってんのか?』
「前回路上ちゅーして怒られて」
『ひぃっ影山が路上ちゅー!成長したなぁお前!』
それは果たして成長と呼ぶのか。衝動的行動と呼ぶのか。
「牛島さんからもプロとして自覚と品格を持てって言われました。何かあったとき彼女を守れないって」
『ああー』
「俺は恋人のままで守ってやれないなら、結婚すれば文句言うヤツもいないと思って」
『お前さぁ、それ苗字に言った?』
「いえ、自分でも焦りすぎたとこあるしなまえさん怒ってて言える雰囲気じゃなくて」
『言っとけよ!そこは言っとけよ!空気読めるようになったのに感動するけどさ』
「あと国外に出ることも指摘されて」
『それなぁ……』
なまえの怒りが落ち着くまでひとまず待ってやれよ。待てだぞ、『待て』!
菅原のアドバイスはそれだけだった。お互い好き同士なんだから、話し合えば問題ないよ。
しゅん、とありもしない尻尾が下がるのを感じた。
待てっていつまでだよ。まさか彼女からの接触がくるまで我慢しろっていうのか。そんなんいつになる。
このまま自然消滅なんて嫌だ。
よし。3日間何も来なかったら俺から行動する。
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好きな人から求婚されて釈然としない。いやいやマリッジブルーなんてものとは違う。
遠距離恋愛すらしたことないのに、単身赴任を見送ることなんてできるだろうか。
再会して1ヵ月も経ってない。平凡な会社員とは異なるスケジュールの中で、時間を見繕ってデートしてくれた苦労はあったと思う。休みならそれこそ体を休めるべきなのに。
別れたくないし、なにより好きだし、そばにいたい。
そばにいれなくても繋がっていたい。
結局はそれしかなかった。
まずは話し合わなければなにもならない。
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『影山君、いま仙台のホテルでしょう?』
なまえさん、あの。そこまでタイピングしかけて、通知がかぶさった。新しいメッセージが表示されている。
『会いに行ってもいい?』
『はい。』
間が空いて、
『ありがとうございます。』
すぐに地図が表示された。
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ホテルに着いたと連絡すれば、ロビーまで迎えに来てくれた。
「とりあえず、部屋に」
「うん」
泊まって数日になるはずの部屋は綺麗に整頓されていた。一度取り出した荷物もきちんと仕舞いこんで片付けているのだろう。出しっぱなしのものがない。
「なまえさん、好きです」
打ち明けられて少しひるんだ。
「私も影山君のこと好きです。でも、この先のことはどう考えてるの?」
「俺は海外に行きます。それは、譲れません」
「結婚したとして、私は?」
「仕事は続けてください。俺に着いてきてくれるのも嬉しいすけど、なまえさん仕事好きそうなんで」
「ということはすぐ別居ってこと?」
「できるだけ帰国します」
「私、寂しいよ。新婚だよ?」
「すみません。……俺も、傍にいたいです」
「でも、バレーは影山君の命だから。私も影山君を束縛したくない」
「なまえさんのことも、大事です。悩ませるのわかってて、離せないくらい」
か細いため息が漏れる。
「お互いのことよく知らないで、って言いましたけど全く知らないわけじゃない。結婚してから知っていくんじゃダメすか」
「結婚した後、私が影山君を待てなかったらどうするの?」
寂しさのあまり既婚者が間違いを起こすなんてことはよくある話だ。
「毎日電話する。忘れさせねぇ。帰れるときには帰国する」
口をついて出たのは、自分で考えてもいない質問だった。
未熟な関係を浮き彫りにするための。自身が恐れていること。
誰にも踏み込ませたことのない距離に、踏み入るのを許せるのか。
「じゃあ影山君、私のこと抱ける?!」
「あ?」
凶悪で凶暴に睨まれる。影山と向きあっている敵チームのブロックたちはいつもこんな圧を受け止めていたのか。
「抱けるに決まってんだろ」
憤慨しながらじゃなきゃ言えないのだろうか。
「体の関係があれば恋人っていうんじゃないけど、お互いを知っていく段階は、大事じゃないの?ぜんぶ飛ばして結婚しかないの?」
「はぁ?他の男とはヤったんだろ」
元カレたちには体を許したんだろう、彼女の秘めたるすみずみを、まだ俺が見ても触れてもいない場所を知っていることに苛立った。原因は知らないが付き合っては別れてを繰り返していたことなら知っている。子どもじゃないから、男女として付き合う意味くらいわかる。
だが毛が逆立ちそうな威圧にも、怯まず反発があった。
「誰とでも寝るみたいに言わないで。手を繋ぐ以上のことができなかったの!だからみんな別れたの!」
整った眉根を奇妙に歪ませた。
「んで?俺のことも拒否すんのかよ」
ふっきれた。敬語なんて使ってられなかった。
「してないでしょ。手を繋ぐのもキスも影山君は、違ったんだもん。キスなんていままで絶対できなかったのに、」
両手を伸ばして、ずいぶん高い位置にある頭を引き寄せた。抵抗はなく、なまえの唇は薄く色づいたのものを引っ張るようにたわやかに嚙みついた。
「だからほら、影山君だって、私のこと知らないじゃない。私たち、いつかは結婚するかも。でもこんなすぐじゃなくても良いでしょう。少なくともこんなことでぶつかっている間は、まだ……」
なにが好きで嫌いか。許せるものと許せないもの。なにをしたら怒って、なにをしたら笑うか。それらを確かめるための時間が必要だ。
「結婚を焦るのはどうして?繋がりを確立してから離れたかったから?」
「それもある……けど、それだけじゃねぇ」
「海外に行くのだって、月バリで知るより、影山君本人から教えて欲しかったよ」
「悪い。今度から情報はすぐ教える」
すっかり抜け落ちた敬語に、懐かしい姿が重なる。会話の途中から名前呼び捨てだし、敬語も消えてるし、気遣いという名の遠慮を一切合切取り去ってしまった。
「信じていいの?」
答えは言葉ではなかった。だが答えをつむぐもので行われた。想像以上に熱い。舌を横一直線に滑らせると引き結ばれた。下唇を軽く噛めば少し隙間が空いて、簡単に侵入できた。なまえの手が影山の胸元のシャツを握りしめる。離れてしまわないように首の後ろを掴んで腰に手を回す。口の中を撫でて、吸って、捕まえる。なまえはされるがままに身を委ねる。キスのやり方などわからずそうするしかなかった。影山から逃げようとする舌を追いかけて追い詰めていくうちに満足した。
やべぇ。すがりついてくんの、堪んねぇ。
「これ、嫌じゃねぇんだろ?」
頷いた。
「じゃあ俺を信じろよ」
「わかった」
「路上ちゅーのことも」
拗ねて尖らせた口。数年前もよくしてた。
「恋人の段階なら問題でも、夫婦なら誰にも変に思われねーし文句言わさねぇ」
「……だから結婚しようって言ったの?」
「キスしたいからじゃねぇぞ。結婚すれば家族だ。守ってやれる。メディア取材も強く拒絶できるだろ」
「そういう、こと……。私も感情的になってごめんね」
だからといって道端でのキスは公衆良俗に反するのは変わらないと思うけれど。
「俺も、すみませんでした」
「いいよ、敬語使わなくて。私たちとっくに学校は卒業したし、タメ口のほうが影山君らしい」
「おう。……なんか腹減ってきた」
「思うが儘に生きてるよね、影山君は……」
両頬を押さえつけて、訂正させられる。
「飛雄」
「え?なに?」
「俺だけなまえって呼んでたらなんかバランス悪いだろ」
だから名前で呼べと。対等でいたいという示しだろうか。
「……飛雄君」
軽く触れあうだけのキス。
「なまえ、好きだ。だからいつか結婚すんぞ」
「うん。私も好きだよ」
ただ他人に調子を合わせたりしない彼が譲歩したのは、奏功といえるのではないか。
こんなに強引なのに、こんなに愛されていると実感するなんて矛盾している。歴代の彼氏は誰も彼も優しかったけど、彼らから恋情を感じ取るにはきっと私が影山に夢中すぎた。
「飛雄君は今夜決起会でもあるんでしょう?」
明日試合があるのは公表されていた。なまえは仕事で行けないけれども。
「チームで外に食いに出かけるのは決まってる」
「楽しんで。それから試合も頑張って。私も帰らなきゃ、明日仕事だし。だから送るなんて言わないでね」
「ぐっ……タクシーで帰れ」
離れようとしたら、抱き込む腕は微動だにしない。
「え、電車もぜんぜん動いてるからいいよ」
「俺が嫌だ。送っていけねぇのに」
うんというまで離さないつもりだ。
「わかった。タクシー呼んでください」
「家に着いたら連絡しろよ」
と立派な彼氏面で、なまえがタクシーに乗るのを見送った。
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