Say those three little words.
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モデルのときにしてもらったメイク技術を参考にしつつ、丁寧に化粧を仕上げた。服は東峰に助言された通り、肌色に合って、体型に合って、かつ背を高くみせるもの。
待ち合わせの場所には1時間前に着いた。気が逸りすぎ。さすがに早すぎるので、近くで時間をつぶしたほうがいいのか。地図アプリを開いて、周囲を見渡す。あまり遠くにいきすぎても戻ってくるのも大変になってしまう。
迷ったの?
声がしたほうを向くと、男性がにこやかにして立っていた。
案内しようか、と詰め寄ろうとするので躱す。
「いえ、結構です」
背を向けて目的もなく歩き出す。体を動かしていたほうが気が紛れて良い。ただ今日が楽しみすぎてエネルギーに満ち溢れてはいるが、歩きすぎて疲れてしまわないようにしなければ。
歩いていれば声をかけられ、備え付けのベンチに座れば声をかけられ、もう一度集合場所にたどり着くまで計5人に足を止められた。今日はナンパ師の集まりでもあるのだろうか。昔から隙が多くみられやすいのか、声をかけられやすい。純粋に道を聞かれることもあれば、お茶に誘われたりも多かった。今日はその特集みたいだ。東峰のアドバイスのおかげと思っておこう。男受けすることは立証された。
決められた時間まであと15分。
群衆から頭一つ二つ飛び出た影山を見つけた。
とくん、と心臓がひときわ強く脈打つ。一瞬で耳まで染まる。口元が喜びでゆるむ。影山の手が上がって、なまえの存在を認識したことを知らせる。
彼より手前にいる何人もの男性が微笑みに見惚れているのも目に入らない。
「「あの」なまえさん」
影山と、知らない男性が同時に発声した。
男同士でお見合いする。悠々と見下ろしながら、影山がなまえに問う。
「知り合いですか」
「ううん」
「あ、人違いでした……」
きっぱりとした否定にぺこり、と去っていく男がうらめしそうに影山を見ていたが、睨み返すと小走りに切り替えた。
「すんません。お待たせしたみたいで」
「ううん、そんなことないよ」
「なまえさん、前より縮みました?」
「だから撮影のときはハイヒール履いてたの!知ってるでしょ」
そりゃあ歩き回れるように低めの靴だけれども。精密な影山の目には服装での錯覚も効かないのか。
「冗談です。じゃあ、行きましょう」
決まり切ったことのように手を差し出すので、取らないわけにはいかなかった。優しく指が絡んできて、こんがらがった思考のままそれに応えた。温もりが肌に馴染む。驚くほどなにもなかった。昔の恋人たちにはあった違和感もうっとうしさも、発生しない。何度もそうしていたように、自然に手を繋いでいる。
「冗談、言うようになったの?」
「他の選手とコミュニケーション取るのもセッターには重要なんで」
菅原から教えてもらったセッターの在り方。果たして彼のユーモアを理解して笑う人物がいまのチームメイトにいるのか。かつての彼を知る身としては、想像がつかない。
彼について情報を集めたつもりになっていたけれど、実際のところなにも知らないのだと気づかされた。
あまり影山に集中しすぎてこけたりしないように、と風景を見渡すと歩行者たちから注目を集めている。男女関係なく、こちらに目を向けている。
ああ、やっぱり影山君目立つよね。背が高いうえにイケメンだもの。
その視線の半分はなまえに注がれていることを知る由もなかった。
「影山君、いつもの感じじゃなくない?どうしたの」
「菅原さんが『なまえはもう影山にゾッコンだからやりすぎなくらいガンガン行け。そうでなきゃ信じてもらえないぞ』って言ってました」
「それ、私に言う?言っちゃう?しかも菅原君に相談したの」
昔から相手を気遣うという技術に関して上達しなかった。しかしセッター師匠菅原、間違っていない。
「嫌でしたか」
「……嫌ではないけど」
「なら良かったです」
未だ夢心地しかしない。話しかけて、答えがある。話しかけられて、返事をする。それだけのことなのに。お互い信じられないくらい笑顔だった。
歩いているうちはいいが、店に入って立ち止まると影山選手、と呟かれることがあった。誰しもが何らかのメディアを介して一度は見たことのあるだろう、国を代表するバレー選手。ユニフォームも着ていないので確信を持って声かけしてくる輩はいなかったが、服装以外の体躯はごまかせない。見られているな、と思えばすぐ場所を変える。少し忙しないデートだった。
地方遠征があるから夜には出発するために夕方まで、という制限があるなか、瞬く間に終わりを迎えた。
「あんまり長いこと一緒にいられなくてすんません」
「ううん。忙しいのに時間を作ってくれてありがとう」
「次、どこ行きたいか考えててください」
「あ、うん。またお休みの日も教えてね」
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モデルのときにしてもらったメイク技術を参考にしつつ、丁寧に化粧を仕上げた。服は東峰に助言された通り、肌色に合って、体型に合って、かつ背を高くみせるもの。
待ち合わせの場所には1時間前に着いた。気が逸りすぎ。さすがに早すぎるので、近くで時間をつぶしたほうがいいのか。地図アプリを開いて、周囲を見渡す。あまり遠くにいきすぎても戻ってくるのも大変になってしまう。
迷ったの?
声がしたほうを向くと、男性がにこやかにして立っていた。
案内しようか、と詰め寄ろうとするので躱す。
「いえ、結構です」
背を向けて目的もなく歩き出す。体を動かしていたほうが気が紛れて良い。ただ今日が楽しみすぎてエネルギーに満ち溢れてはいるが、歩きすぎて疲れてしまわないようにしなければ。
歩いていれば声をかけられ、備え付けのベンチに座れば声をかけられ、もう一度集合場所にたどり着くまで計5人に足を止められた。今日はナンパ師の集まりでもあるのだろうか。昔から隙が多くみられやすいのか、声をかけられやすい。純粋に道を聞かれることもあれば、お茶に誘われたりも多かった。今日はその特集みたいだ。東峰のアドバイスのおかげと思っておこう。男受けすることは立証された。
決められた時間まであと15分。
群衆から頭一つ二つ飛び出た影山を見つけた。
とくん、と心臓がひときわ強く脈打つ。一瞬で耳まで染まる。口元が喜びでゆるむ。影山の手が上がって、なまえの存在を認識したことを知らせる。
彼より手前にいる何人もの男性が微笑みに見惚れているのも目に入らない。
「「あの」なまえさん」
影山と、知らない男性が同時に発声した。
男同士でお見合いする。悠々と見下ろしながら、影山がなまえに問う。
「知り合いですか」
「ううん」
「あ、人違いでした……」
きっぱりとした否定にぺこり、と去っていく男がうらめしそうに影山を見ていたが、睨み返すと小走りに切り替えた。
「すんません。お待たせしたみたいで」
「ううん、そんなことないよ」
「なまえさん、前より縮みました?」
「だから撮影のときはハイヒール履いてたの!知ってるでしょ」
そりゃあ歩き回れるように低めの靴だけれども。精密な影山の目には服装での錯覚も効かないのか。
「冗談です。じゃあ、行きましょう」
決まり切ったことのように手を差し出すので、取らないわけにはいかなかった。優しく指が絡んできて、こんがらがった思考のままそれに応えた。温もりが肌に馴染む。驚くほどなにもなかった。昔の恋人たちにはあった違和感もうっとうしさも、発生しない。何度もそうしていたように、自然に手を繋いでいる。
「冗談、言うようになったの?」
「他の選手とコミュニケーション取るのもセッターには重要なんで」
菅原から教えてもらったセッターの在り方。果たして彼のユーモアを理解して笑う人物がいまのチームメイトにいるのか。かつての彼を知る身としては、想像がつかない。
彼について情報を集めたつもりになっていたけれど、実際のところなにも知らないのだと気づかされた。
あまり影山に集中しすぎてこけたりしないように、と風景を見渡すと歩行者たちから注目を集めている。男女関係なく、こちらに目を向けている。
ああ、やっぱり影山君目立つよね。背が高いうえにイケメンだもの。
その視線の半分はなまえに注がれていることを知る由もなかった。
「影山君、いつもの感じじゃなくない?どうしたの」
「菅原さんが『なまえはもう影山にゾッコンだからやりすぎなくらいガンガン行け。そうでなきゃ信じてもらえないぞ』って言ってました」
「それ、私に言う?言っちゃう?しかも菅原君に相談したの」
昔から相手を気遣うという技術に関して上達しなかった。しかしセッター師匠菅原、間違っていない。
「嫌でしたか」
「……嫌ではないけど」
「なら良かったです」
未だ夢心地しかしない。話しかけて、答えがある。話しかけられて、返事をする。それだけのことなのに。お互い信じられないくらい笑顔だった。
歩いているうちはいいが、店に入って立ち止まると影山選手、と呟かれることがあった。誰しもが何らかのメディアを介して一度は見たことのあるだろう、国を代表するバレー選手。ユニフォームも着ていないので確信を持って声かけしてくる輩はいなかったが、服装以外の体躯はごまかせない。見られているな、と思えばすぐ場所を変える。少し忙しないデートだった。
地方遠征があるから夜には出発するために夕方まで、という制限があるなか、瞬く間に終わりを迎えた。
「あんまり長いこと一緒にいられなくてすんません」
「ううん。忙しいのに時間を作ってくれてありがとう」
「次、どこ行きたいか考えててください」
「あ、うん。またお休みの日も教えてね」
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