Say those three little words.
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**
「おふたりとも、もっと近づいてください」
なまえがもたもたとドレスの裾を持ち上げている間に影山がぐっと寄る。
「すんません、裾踏んでますか」
「ううん、大丈夫」
「……身長伸びました?」
「ハイヒールのおかげで」
「あぁ」
「だから身長は変わってないよ」
いつも観客席やら遠くから見ていたし、コートにいれば他の選手たちもそれ以上に大きいので目立つわけではなかったが、一般人の自分と並ぶと恰幅が横も縦も違いすぎる。ほんの少しだけ、近づいた距離。でも、唇を重ねるにはまだ遠い。これ以上ないくらい背伸びしきった高さのヒールをもってしても届かない。
「おふたりとも良い感じですね。じゃあ次は向き合って」
満足そうにシャッターを切り続ける。
ヒールで転ばぬよう慎重に回転する。すると現れる理想の伴侶。
「影山君、めちゃくちゃかっこいい……」
いつも写真やTVで見かける度にこぼす言葉が、現実に音となって落ちた。
切ないような、大きな瞳で見上げてくるこあが影山の体を火照らせる。
「なまえさん」
「ハイ」
彼には以前から苗字に先輩つきで呼ばれていたので、その呼称に飛び上がりそうになった。
「結婚してください」
「……なんですって?」
ドラマの中ぐらいでしか使われない台詞が口から飛び出た。
「あ、いや、ちげーな。なまえさん、好きです。結婚を前提に付き合ってください」
「なんですって?」
理解が追いつかずにもう一度繰り返した。
「結婚してください。もしくは結婚を前提に付き合ってください」
「なに?なんのドッキリ企画?いくらなんでも、台詞覚えるの下手だよ」
「台詞じゃないですし、心から言ってます」
カメラを見ると、だらんと下がった腕に繋がってレンズが下を向いている。目の前で唐突に行われたプロポーズに呆けた顔をして職務を放棄している様子を見ると、これは仕組まれたことではないのか。いや、これも含めて演技かもしれない。現代の隠しカメラは巧妙すぎて見つけられない。
次に面白いことになってきた、とカメラマンはチャンスを待ち構えている。影山はなまえしか見ていなくて気づいていない。
「いやいやいや。いまプロメイクでばっちり化かしてるから。知ってる?このメイク何時間かかったか……実物はこんなもんじゃないの。一時の気の迷いで変なこと言っちゃダメだよ」
「確かにメイクもドレスも似合ってます。けど、それナシでも俺はずっとなまえさんのことが好きでした。今でも好きです」
「ちょっと……、わからない」
「わからないならまた何度でも言います」
「待って、落ち着いて考えましょうか」
「俺、落ち着いてないように見えますか」
「……試合中のときくらい余裕で冷静に見えます……そして私は気も狂わんばかりに狼狽してます……」
「見ればわかります」
「わかられちゃった」
フッと膝の力が抜け落ちた。カーペットと幾層にも重なるパニエのおかげで尻もちの間抜けな音はかき消された。
あ、これ立ち上がれない。ドレスが重くて。さらに高すぎるヒールが阻む。意思の力も足りない。情けない。
ぴしりと糊のきいたズボンを折り曲げて、影山が片膝をつく。
「なまえさん今フリーですよね」
フリーとは。どこにも所属していないのかと聞いているのか。スポーツ選手みたい。きっと違う。付き合っている人間はいるのか、親しい特別な男がいないという意味。
「はい」
「俺と付き合ってください」
「はわわわわ……ハイ、イイエ」
「それ、イエスですかノーですか」
助けを求めるように潔子を探すと、上半身だけ扉から出しつつそっと親指を立てていた。その下で谷地がハンカチを握りしめて目元に当てている。
待つことが嫌いな彼が、辛抱強く返事を待っている。
「私、影山君のことが好きです……」
「ありがとうございます」
彼はよく通る低い声でとても丁寧に感謝を告げた。
カメラの連続シャッター音がどこかで鳴っている。
**
「すごくいい画が撮れてますよ。新婦さん、立てますか?」
「ヒールを一旦脱げばなんとか」
「なまえさん、掴まってください」
広げられた両手をとろうとすれば、それは脇を素通りして背中に回る。ヘアワックスやらクリーニングしたての、独特の匂いに混じって知らない男の人の匂いがした。軽やかに立ち上がる。体が浮いた。
―影山君が、朗らかに笑ってる。
「あ、それ!そのまま!」
興奮してシャッターを切る。
「重いでしょ」
「そうでもないです」
「足、足が地面に着いてないの」
「え。すんません」
下ろしてくれた後も、なかなか腕を離してくれなかったような気がするのは、私の妄想かな。撮影のためにポーズ決めていただけかも。
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「おふたりとも、もっと近づいてください」
なまえがもたもたとドレスの裾を持ち上げている間に影山がぐっと寄る。
「すんません、裾踏んでますか」
「ううん、大丈夫」
「……身長伸びました?」
「ハイヒールのおかげで」
「あぁ」
「だから身長は変わってないよ」
いつも観客席やら遠くから見ていたし、コートにいれば他の選手たちもそれ以上に大きいので目立つわけではなかったが、一般人の自分と並ぶと恰幅が横も縦も違いすぎる。ほんの少しだけ、近づいた距離。でも、唇を重ねるにはまだ遠い。これ以上ないくらい背伸びしきった高さのヒールをもってしても届かない。
「おふたりとも良い感じですね。じゃあ次は向き合って」
満足そうにシャッターを切り続ける。
ヒールで転ばぬよう慎重に回転する。すると現れる理想の伴侶。
「影山君、めちゃくちゃかっこいい……」
いつも写真やTVで見かける度にこぼす言葉が、現実に音となって落ちた。
切ないような、大きな瞳で見上げてくるこあが影山の体を火照らせる。
「なまえさん」
「ハイ」
彼には以前から苗字に先輩つきで呼ばれていたので、その呼称に飛び上がりそうになった。
「結婚してください」
「……なんですって?」
ドラマの中ぐらいでしか使われない台詞が口から飛び出た。
「あ、いや、ちげーな。なまえさん、好きです。結婚を前提に付き合ってください」
「なんですって?」
理解が追いつかずにもう一度繰り返した。
「結婚してください。もしくは結婚を前提に付き合ってください」
「なに?なんのドッキリ企画?いくらなんでも、台詞覚えるの下手だよ」
「台詞じゃないですし、心から言ってます」
カメラを見ると、だらんと下がった腕に繋がってレンズが下を向いている。目の前で唐突に行われたプロポーズに呆けた顔をして職務を放棄している様子を見ると、これは仕組まれたことではないのか。いや、これも含めて演技かもしれない。現代の隠しカメラは巧妙すぎて見つけられない。
次に面白いことになってきた、とカメラマンはチャンスを待ち構えている。影山はなまえしか見ていなくて気づいていない。
「いやいやいや。いまプロメイクでばっちり化かしてるから。知ってる?このメイク何時間かかったか……実物はこんなもんじゃないの。一時の気の迷いで変なこと言っちゃダメだよ」
「確かにメイクもドレスも似合ってます。けど、それナシでも俺はずっとなまえさんのことが好きでした。今でも好きです」
「ちょっと……、わからない」
「わからないならまた何度でも言います」
「待って、落ち着いて考えましょうか」
「俺、落ち着いてないように見えますか」
「……試合中のときくらい余裕で冷静に見えます……そして私は気も狂わんばかりに狼狽してます……」
「見ればわかります」
「わかられちゃった」
フッと膝の力が抜け落ちた。カーペットと幾層にも重なるパニエのおかげで尻もちの間抜けな音はかき消された。
あ、これ立ち上がれない。ドレスが重くて。さらに高すぎるヒールが阻む。意思の力も足りない。情けない。
ぴしりと糊のきいたズボンを折り曲げて、影山が片膝をつく。
「なまえさん今フリーですよね」
フリーとは。どこにも所属していないのかと聞いているのか。スポーツ選手みたい。きっと違う。付き合っている人間はいるのか、親しい特別な男がいないという意味。
「はい」
「俺と付き合ってください」
「はわわわわ……ハイ、イイエ」
「それ、イエスですかノーですか」
助けを求めるように潔子を探すと、上半身だけ扉から出しつつそっと親指を立てていた。その下で谷地がハンカチを握りしめて目元に当てている。
待つことが嫌いな彼が、辛抱強く返事を待っている。
「私、影山君のことが好きです……」
「ありがとうございます」
彼はよく通る低い声でとても丁寧に感謝を告げた。
カメラの連続シャッター音がどこかで鳴っている。
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「すごくいい画が撮れてますよ。新婦さん、立てますか?」
「ヒールを一旦脱げばなんとか」
「なまえさん、掴まってください」
広げられた両手をとろうとすれば、それは脇を素通りして背中に回る。ヘアワックスやらクリーニングしたての、独特の匂いに混じって知らない男の人の匂いがした。軽やかに立ち上がる。体が浮いた。
―影山君が、朗らかに笑ってる。
「あ、それ!そのまま!」
興奮してシャッターを切る。
「重いでしょ」
「そうでもないです」
「足、足が地面に着いてないの」
「え。すんません」
下ろしてくれた後も、なかなか腕を離してくれなかったような気がするのは、私の妄想かな。撮影のためにポーズ決めていただけかも。
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