Say those three little words.
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不思議と昔のことを思い出しながら。
真っ白なドレスを着たなまえと、普段着の潔子と。
良い写真が撮れたと思う。
**
準備のほどを確認しにきた谷地は感極まった顔で、私ほんとにこの場で結婚するんじゃないかしら、と勘違いしそうだった。相手なんていないのに。
「ぜんばいぃぃぃぃぃ綺麗でずぅぅぅぅ」
ずびび、と鼻をすするので近くにあったティッシュを箱から一枚引き抜いて渡す。
「ただの写真撮影でしょう?どうして仁花ちゃんが泣いてるの」
「先輩が素敵すぎて。学生時代からお綺麗でしたけど、さらに磨きかかって超美人になってるんですもん。この件引き受けてもらえて良かったです」
「仁花ちゃんのお母さんが紹介してくれたエステのおかげでね」
友人紹介で期間限定で安く通うことのできたエステの施術は評判通りだった。
いえいえ、母の面目も立ちます。とティッシュをもう一枚手に取った。
「お役に立てるなら喜んで」
「ではそろそろ舞台に参りましょう」
「舞台って、演劇みたいね」
谷地に手を引かれて壇上に立って、彼女は新郎役を呼んできます、と小走りしていった。
聞いていたとおり小ぢんまりとした教会風の式場で、しかし全体的に白くて奥行が広がって見えた。
ステンドグラスが光を抱擁していて足元にも色づいた美しい影を作る。見ているだけで飽きない。飾り付けられた花も本番さながら。
こんな場にいれば、嫌でも夢の挙式を想像してしまう。してみたくなる。
**
隣に人が立つ雰囲気を察して、きっと新郎役の人だろう、と予測して体を向き合わせる。挨拶のために開いた口は閉じられた。
お互いに見つめ合っていた。学生時代に追いかけた、堂々とした背筋。長い手足。変化の少ない顔。試合の間もポーカーフェイスかと思いきや、悪い表情はとくに豊かだった。
高身長に端正な顔立ちとくればタキシードがこの上なく映える。
片田舎の挙式のモデルに超有名バレーボーラーって、贅沢すぎやしないか。
新郎役は事前に紹介もされなかった。相手方が忙しくて時間を確保できなかった、と谷地は言っていた。取れないのも然り。
「か……げやまく、え?本物?」
「ス。お久しぶりです」
ああ、この返答、間違いなく影山だ。服装を見ても明白な理由をきかずにはいられなかった。
「なにしてるの……」
「谷地さんに新郎役のモデルを頼まれました」
かわいい後輩はこあの想い人に負けず劣らず、とはよく言ったものだ。本人を用意しておいて。
「苗字先輩、スッゲー綺麗です」
キラキラ光を細かく反射している首元。浮き出た形の良い鎖骨。すべらかな両肩。思わず指でつかんで上を向かせたくなる顎。上品に染まる頬も、縁取られた黒目がちの瞳も一日眺めていられるほど美しい。
「……ふわぁぁぁありがとう」
影山から「綺麗」いただきました。その評価はキミの姿勢にこそふさわしいよ。
この世界はどうなっているのだろう。もしやこれこそ夢なのでは。
ふわーりがと?と首を傾げている影山。ああ、この仕草も懐かしい。この間隔だと眉毛の毛の流れさえわかる。解像度が高い。
「首のキラキラしてるやつ、なんか塗ってますか」
「デコルテのとこ?ラメのスプレーだよ」
「でこ……?らめ……らーめん」
当然、女性のコスメ事情なんて知らないよね。ほっとして笑ってしまう。
「うん、とにかくキラキラするやつ塗ってます」
「そんなんあるんですね。ベタベタしないんですか」
こんなに胸元をさらした姿は見たことがなくて、鎖骨が触れてくれとばかりに誘惑していた。
すい、と短く切られた爪をした指先が伸びて、表面を撫でていく。手のひらを返して、指の先を眺める。かすめとってわずかに輝いていた。手触りはさらりとしていて、肌が少し冷たかった。
「っ?!」
なまえの驚愕具合を見て、己の行動の奇抜さに気づいたらしく羞恥に染まる。
「うお……、すんません。無意識でした」
馬鹿か俺。壁とか机じゃねぇんだぞ。女のカラダなのに。ボゲェ、と己を罵倒した。
「わざとじゃないのはわかってるから…」
この調子で撮影終了まで心臓はもつのか。
扉が開いたので、そちらに向いた。
「新郎新婦お揃いですね。では撮影に入ります」
カメラマンが入場してきて、逃げるに逃げられない状況になった。逃げようにもこんな繊細なドレスで走れば引き裂いてしまいそうだしハイヒールは本気のハイヒールで弁償金を払うことになるなんて御免だし。気軽には払えない一生に一度の相場価格にわなないた。
かわいいはかわいくて素敵だったものの異様にかかとを釣り上げた靴は影山と身長のバランスをとるためだったのだと、今なら理解できる。
戸惑いはするが恥ずかしくはない。外見だけならば完璧に磨かれた姿なのだから。表情づくりには不安があるが、泣きそうだったりみっともないものになっていないことだけ祈る。
写真はいくら値段が吊り上がってもいいから焼き増ししてもらおう。これを糧に生きていける。全国の影山ファンの方々(特に女性)すみません。と心の中で謝っておく。
「お話してても構わないので、自然な感じでお願いします。あ、いまカメラ目線ください」
事情をまったく知らないカメラマンはまず初対面同士の緊張をほぐそうと朗らかに接する。
お話?会話とは。送信者と受信者双方が理解できる情報伝達方法。つまりなまえと影山の共通点、とは。いまとなっては潰えてしまった絆。いまとなってはプロのバレーボールプレイヤーと一般のファン。会おうとして会える関係ではない。明言はされていなくとも、暗黙のルールがある。
だからこそ、いまの状況ってなに。
「先輩は、仕事の調子どうですか」
意外にも影山から話題を振ってくれた。
「なんとかやってるよ。社内の雰囲気良くて、後輩もできたし、みんな仲良くしてくれるから楽しいよ」
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不思議と昔のことを思い出しながら。
真っ白なドレスを着たなまえと、普段着の潔子と。
良い写真が撮れたと思う。
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準備のほどを確認しにきた谷地は感極まった顔で、私ほんとにこの場で結婚するんじゃないかしら、と勘違いしそうだった。相手なんていないのに。
「ぜんばいぃぃぃぃぃ綺麗でずぅぅぅぅ」
ずびび、と鼻をすするので近くにあったティッシュを箱から一枚引き抜いて渡す。
「ただの写真撮影でしょう?どうして仁花ちゃんが泣いてるの」
「先輩が素敵すぎて。学生時代からお綺麗でしたけど、さらに磨きかかって超美人になってるんですもん。この件引き受けてもらえて良かったです」
「仁花ちゃんのお母さんが紹介してくれたエステのおかげでね」
友人紹介で期間限定で安く通うことのできたエステの施術は評判通りだった。
いえいえ、母の面目も立ちます。とティッシュをもう一枚手に取った。
「お役に立てるなら喜んで」
「ではそろそろ舞台に参りましょう」
「舞台って、演劇みたいね」
谷地に手を引かれて壇上に立って、彼女は新郎役を呼んできます、と小走りしていった。
聞いていたとおり小ぢんまりとした教会風の式場で、しかし全体的に白くて奥行が広がって見えた。
ステンドグラスが光を抱擁していて足元にも色づいた美しい影を作る。見ているだけで飽きない。飾り付けられた花も本番さながら。
こんな場にいれば、嫌でも夢の挙式を想像してしまう。してみたくなる。
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隣に人が立つ雰囲気を察して、きっと新郎役の人だろう、と予測して体を向き合わせる。挨拶のために開いた口は閉じられた。
お互いに見つめ合っていた。学生時代に追いかけた、堂々とした背筋。長い手足。変化の少ない顔。試合の間もポーカーフェイスかと思いきや、悪い表情はとくに豊かだった。
高身長に端正な顔立ちとくればタキシードがこの上なく映える。
片田舎の挙式のモデルに超有名バレーボーラーって、贅沢すぎやしないか。
新郎役は事前に紹介もされなかった。相手方が忙しくて時間を確保できなかった、と谷地は言っていた。取れないのも然り。
「か……げやまく、え?本物?」
「ス。お久しぶりです」
ああ、この返答、間違いなく影山だ。服装を見ても明白な理由をきかずにはいられなかった。
「なにしてるの……」
「谷地さんに新郎役のモデルを頼まれました」
かわいい後輩はこあの想い人に負けず劣らず、とはよく言ったものだ。本人を用意しておいて。
「苗字先輩、スッゲー綺麗です」
キラキラ光を細かく反射している首元。浮き出た形の良い鎖骨。すべらかな両肩。思わず指でつかんで上を向かせたくなる顎。上品に染まる頬も、縁取られた黒目がちの瞳も一日眺めていられるほど美しい。
「……ふわぁぁぁありがとう」
影山から「綺麗」いただきました。その評価はキミの姿勢にこそふさわしいよ。
この世界はどうなっているのだろう。もしやこれこそ夢なのでは。
ふわーりがと?と首を傾げている影山。ああ、この仕草も懐かしい。この間隔だと眉毛の毛の流れさえわかる。解像度が高い。
「首のキラキラしてるやつ、なんか塗ってますか」
「デコルテのとこ?ラメのスプレーだよ」
「でこ……?らめ……らーめん」
当然、女性のコスメ事情なんて知らないよね。ほっとして笑ってしまう。
「うん、とにかくキラキラするやつ塗ってます」
「そんなんあるんですね。ベタベタしないんですか」
こんなに胸元をさらした姿は見たことがなくて、鎖骨が触れてくれとばかりに誘惑していた。
すい、と短く切られた爪をした指先が伸びて、表面を撫でていく。手のひらを返して、指の先を眺める。かすめとってわずかに輝いていた。手触りはさらりとしていて、肌が少し冷たかった。
「っ?!」
なまえの驚愕具合を見て、己の行動の奇抜さに気づいたらしく羞恥に染まる。
「うお……、すんません。無意識でした」
馬鹿か俺。壁とか机じゃねぇんだぞ。女のカラダなのに。ボゲェ、と己を罵倒した。
「わざとじゃないのはわかってるから…」
この調子で撮影終了まで心臓はもつのか。
扉が開いたので、そちらに向いた。
「新郎新婦お揃いですね。では撮影に入ります」
カメラマンが入場してきて、逃げるに逃げられない状況になった。逃げようにもこんな繊細なドレスで走れば引き裂いてしまいそうだしハイヒールは本気のハイヒールで弁償金を払うことになるなんて御免だし。気軽には払えない一生に一度の相場価格にわなないた。
かわいいはかわいくて素敵だったものの異様にかかとを釣り上げた靴は影山と身長のバランスをとるためだったのだと、今なら理解できる。
戸惑いはするが恥ずかしくはない。外見だけならば完璧に磨かれた姿なのだから。表情づくりには不安があるが、泣きそうだったりみっともないものになっていないことだけ祈る。
写真はいくら値段が吊り上がってもいいから焼き増ししてもらおう。これを糧に生きていける。全国の影山ファンの方々(特に女性)すみません。と心の中で謝っておく。
「お話してても構わないので、自然な感じでお願いします。あ、いまカメラ目線ください」
事情をまったく知らないカメラマンはまず初対面同士の緊張をほぐそうと朗らかに接する。
お話?会話とは。送信者と受信者双方が理解できる情報伝達方法。つまりなまえと影山の共通点、とは。いまとなっては潰えてしまった絆。いまとなってはプロのバレーボールプレイヤーと一般のファン。会おうとして会える関係ではない。明言はされていなくとも、暗黙のルールがある。
だからこそ、いまの状況ってなに。
「先輩は、仕事の調子どうですか」
意外にも影山から話題を振ってくれた。
「なんとかやってるよ。社内の雰囲気良くて、後輩もできたし、みんな仲良くしてくれるから楽しいよ」
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