Say those three little words.
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
**
卒業。3年生で記念写真を撮ったり、監督とコーチと並んで撮ったり、メモリにははちきれんばかりに思い出を詰めた。進学したり、就職したり、進路はバラバラでもたまに集まっていた。話のお供がコンビニ菓子がカフェスィーツになり、ジュースがお酒に変化していった。
足を運べる範囲であれば試合の開催地に出向かい、観客席から応援した。来ていることも教えてないから知らないだろうし、目が合ったこともない。見る度に、試合中ですら成長していく彼は、観客を飽きさせることがなかった。次第にファンが増え、喝采に女性からの歓声が多く混じるようになった。
かつての後輩だ、と自慢できるわけもなく。バレー以外に興味のない彼だから、顔を覚えているかすら怪しい。
応援が増えて嬉しいような、寂しいような。
私は、人込みに紛れて溶け込んでしまう。
自分でお金を稼ぐようになって、ガラケーからスマホへ移行した。写真データだけは別で保存していたが、それがなければお払い箱の折りたたみケータイ。メアドも探そうと思えば探して登録できたのに、電源が切れたそれに命を与える気にならず放置した。
誰にも想い人の連絡先だけは、きけないまま。
一度失ってみてわかった。驚くほど接点がない。
高校を卒業してからも、機会があるごとに告白を受けた。
正直に、忘れられない人がいるのでごめんなさい。といちいち礼儀正しく断っていた。中には食い下がってくる人もいて、想い人を上回ることはないにしろ新しく気持ちが芽生えるかもしれない、と根負けして付き合ったことも数度。
成人してから初めてできた彼氏をバレーの試合観戦に誘ったとき、意外だと驚かれた。スポーツとか興味あったんだ、と。
「高校の後輩が選手として出てるの」
へぇ、強いんだ。と関心を寄せるので、強いよ、と肯定する。
「苗字!」
爽やかな声は澤村だった。菅原と東峰も連れている。
初めまして、なまえの彼氏です。と得意そうに言う隣の男に、彼らは表面的には笑顔で自己紹介してくれた。
試合が終わった帰り道、恋人はよそよそしく、でもどこかすっきりとした顔でいままでありがとう、ごめんな無理させて。俺たち別れたほうがいい。と無慈悲なほど唐突だった。
菅原や澤村が観戦中なにか特別に教えていた様子はなかったし、それどころか世間話もバレーのプレーの解説すらもにこやかにしていた。なにが別れ話のきっかけで要因になったのか、わからない。
**
その場にいなかった潔子は物分かり顔で、遅かれ早かれ別れることになってたよ、となぐさめにもならない言葉をくれた。
「なまえも元カレも悪くないから」
「何がいけなかったのかな……」
「合わなかったんだって」
なまえは彼氏をなおざりにしていたわけじゃないだろう。でもきっと影山に魅入ってしまって、なまえのことが好きな彼氏にはわかってしまった。それがただの後輩に向けるものではない。自分のものではない恋心がより一層美しくなまえを引き立てていることに。愛しい彼女の瞳が自分を映していない。時間をかけたってあがいたって無駄だと悟った。
だから潔く別れを告げた。
「なまえは、元カレのこと好きじゃなかったんでしょ」
「……好きになれるかな、って思ったけど」
「なれなかった」
「うん」
**
彼氏を試合観戦に連れていったのはたった一度、一人だけ。にも関わらず彼氏となる男たちには例外なくあちらから告白されて付き合い、あちらが愛想をつかして別れるパターンに嵌りこんでいた。
会社の上司から紹介された人も、友達の友達も、バレーの観戦中に意気投合した男もいた。長続きしなかった。
話すのも楽しいし、この人なら大丈夫かと思っても、恋人らしいことをしようとするとどうしても受け付なかった。手を繋いで歩くのは違和感で、腕を組むのも違う気がする。抱きしめられても居心地が悪く、キスなどもってのほかで、拒絶してしまう。
「私ってまだ子供なのかな」
潔子はそれはない、と言い切った。彼女に近づく男たちは友達にはなれても、愛されることも愛することもできなかった。そのたった一つの枠にはもう特定の人物が居座っていたから。頭上に王冠を授かり豪奢なマントを肩にかけて、玉座に悠然と背を預ける、黒いカラス。たかが一介の兵士の身で、キングには敵わないだろう。矜持を他に譲ることはない。
**
卒業。3年生で記念写真を撮ったり、監督とコーチと並んで撮ったり、メモリにははちきれんばかりに思い出を詰めた。進学したり、就職したり、進路はバラバラでもたまに集まっていた。話のお供がコンビニ菓子がカフェスィーツになり、ジュースがお酒に変化していった。
足を運べる範囲であれば試合の開催地に出向かい、観客席から応援した。来ていることも教えてないから知らないだろうし、目が合ったこともない。見る度に、試合中ですら成長していく彼は、観客を飽きさせることがなかった。次第にファンが増え、喝采に女性からの歓声が多く混じるようになった。
かつての後輩だ、と自慢できるわけもなく。バレー以外に興味のない彼だから、顔を覚えているかすら怪しい。
応援が増えて嬉しいような、寂しいような。
私は、人込みに紛れて溶け込んでしまう。
自分でお金を稼ぐようになって、ガラケーからスマホへ移行した。写真データだけは別で保存していたが、それがなければお払い箱の折りたたみケータイ。メアドも探そうと思えば探して登録できたのに、電源が切れたそれに命を与える気にならず放置した。
誰にも想い人の連絡先だけは、きけないまま。
一度失ってみてわかった。驚くほど接点がない。
高校を卒業してからも、機会があるごとに告白を受けた。
正直に、忘れられない人がいるのでごめんなさい。といちいち礼儀正しく断っていた。中には食い下がってくる人もいて、想い人を上回ることはないにしろ新しく気持ちが芽生えるかもしれない、と根負けして付き合ったことも数度。
成人してから初めてできた彼氏をバレーの試合観戦に誘ったとき、意外だと驚かれた。スポーツとか興味あったんだ、と。
「高校の後輩が選手として出てるの」
へぇ、強いんだ。と関心を寄せるので、強いよ、と肯定する。
「苗字!」
爽やかな声は澤村だった。菅原と東峰も連れている。
初めまして、なまえの彼氏です。と得意そうに言う隣の男に、彼らは表面的には笑顔で自己紹介してくれた。
試合が終わった帰り道、恋人はよそよそしく、でもどこかすっきりとした顔でいままでありがとう、ごめんな無理させて。俺たち別れたほうがいい。と無慈悲なほど唐突だった。
菅原や澤村が観戦中なにか特別に教えていた様子はなかったし、それどころか世間話もバレーのプレーの解説すらもにこやかにしていた。なにが別れ話のきっかけで要因になったのか、わからない。
**
その場にいなかった潔子は物分かり顔で、遅かれ早かれ別れることになってたよ、となぐさめにもならない言葉をくれた。
「なまえも元カレも悪くないから」
「何がいけなかったのかな……」
「合わなかったんだって」
なまえは彼氏をなおざりにしていたわけじゃないだろう。でもきっと影山に魅入ってしまって、なまえのことが好きな彼氏にはわかってしまった。それがただの後輩に向けるものではない。自分のものではない恋心がより一層美しくなまえを引き立てていることに。愛しい彼女の瞳が自分を映していない。時間をかけたってあがいたって無駄だと悟った。
だから潔く別れを告げた。
「なまえは、元カレのこと好きじゃなかったんでしょ」
「……好きになれるかな、って思ったけど」
「なれなかった」
「うん」
**
彼氏を試合観戦に連れていったのはたった一度、一人だけ。にも関わらず彼氏となる男たちには例外なくあちらから告白されて付き合い、あちらが愛想をつかして別れるパターンに嵌りこんでいた。
会社の上司から紹介された人も、友達の友達も、バレーの観戦中に意気投合した男もいた。長続きしなかった。
話すのも楽しいし、この人なら大丈夫かと思っても、恋人らしいことをしようとするとどうしても受け付なかった。手を繋いで歩くのは違和感で、腕を組むのも違う気がする。抱きしめられても居心地が悪く、キスなどもってのほかで、拒絶してしまう。
「私ってまだ子供なのかな」
潔子はそれはない、と言い切った。彼女に近づく男たちは友達にはなれても、愛されることも愛することもできなかった。そのたった一つの枠にはもう特定の人物が居座っていたから。頭上に王冠を授かり豪奢なマントを肩にかけて、玉座に悠然と背を預ける、黒いカラス。たかが一介の兵士の身で、キングには敵わないだろう。矜持を他に譲ることはない。
**