Say those three little words.
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烏野排球部にはマネージャーがいない、と潔子が勧誘されてからなまえもときおり手伝うようになっていた。他の生徒が部活をしている時間には飲食店を営む実家の手伝いをしていたので、店が忙しくない曜日に無理なく。そもそも潔子は優秀だったから正式なマネージャーとしても一人でもこなしていた。それでも体はひとつだし、潔子が何かを記録しているときにコート周囲でボールを拾ったり、ブロック練習のときにボール出しをしたりビデオを撮影したり難しいことはなにもない。ドリンクの作り方だったりそれぞれの好み、ノートの取り方も次第に覚えた。潔子がちょっとお願い、と頼むことは断ることなくなんでもこなした。言うなればマネージャー補欠。なによりも、部員の彼らと過ごす時間は楽しかった。
潔子と彼女に懐く後輩達の掛け合いはもはや漫才のようで面白い。
「なまえ先輩、毎日来てくれないかなぁ。なまえ先輩がそばにいると潔子さんの雰囲気がやわらかくなってよく笑うんスよ」
丸坊主の釣り目からそう言われて、素直な下心に笑った。潔子は最高のマネージャーだから私がいても邪魔でしょ、と返すとチーム唯一のリベロが首がちぎれそうなくらい横に振っていた。
「潔子さんもですが、なまえ先輩みたいな美人がいると思うだけでレシーブ成功率が上がります」
「俺はスパイク成功率が上がります」
私がいるくらいで簡単には上がらないでしょ、と2つの決め顔を疑っていると、
「そいつらのモチベは150%上がりますよ」
と二人を飼いならす統括者が真顔だった。縁下君が言うから説得力が違う。
**
人が見たらどちらも中途半端だと評価されるかもしれない。当初家の手伝い一本でいくつもりだったなまえを両親は強く咎めた。店を継がせるつもりはない、将来は好きなことをしなさい。外の世界を経験したうえでそれでも店をやりたいのなら譲る。店は繁盛しているが経営には苦労も多い。いきなり家業を継いで世界を狭めることはせず、学生のうちは少しでも学校でのかかわりを増やしなさい、と。そこで折り合いをつけたのが今の状態だ。
「なまえ、今日放課後来れる?」
潔子からのいつもの問い。
なにに、とかどこに、と聞かずとも部活のことだとわかった。
「うん、お手伝いいくね」
「よろしく」
ジャージに着替えて行くと、すでに数人が集まっていた。カツラのズレた教頭とすれ違う。ただならぬ雰囲気と、澤村のお怒り具合を察してこっそり菅原に近づく。なまえに対する田中の勢い良すぎる挨拶が今日はきこえない。
「菅原君。どうなってるの?」
「入部希望者の一年」
「やった!」
「なんだけど、チームプレーに問題ありそうだな」
「そんな。まだ入ってもないのに?」
「まだ入ってもないのに、だな。あの二人がさっき教頭のズラ飛ばして、大地が注意されちった」
噴き出しそうになるのを抑えながら事情を説明されて、なまえのほうが我慢できなかった。
「うそ?」
ひそひそしているうちに、デコボココンビは澤村に首根っこを掴んで外に投げ出されてしまう。
「ありゃ。何も入部届突っ返さんでも」
「大事な入部希望者~」
外に出ようとするなまえを、澤村が咎めた。
「苗字。いまフォローせんでよろしい」
「え、……はい、 主将 」
いま、と強調したということは後でフォローアップを頼みたいということかな。澤村だって、新入部員が欲しいことには変わりない。
**
お昼休み、自販機へ向かうと自主練している影山日向の挑戦者ペアに遭遇した。ボールに食いつく日向と、手加減してサーブする影山。影山と目があったものの邪魔をしないように声を出さずに手を振る。
「あ。体育館にいた人」
「え?あ、ほんとだ。バレー部の人……ですよね」
あの場で認識されていたらしい。
「あ、私はバレー部に関わってはいるけどマネージャーじゃないよ」
否定すると、二人仲良く頭を同じ方向に傾げている。
「?えーと、じゃあ……?」
問われて、名乗るべき肩書に迷う。
「言うなればお手伝い……うーん、マネージャー補欠、かな。苗字なまえです」
「おれ、日向翔陽です」
この子はちょっと西谷タイプっぽい。
「影山飛雄です」
「よろしくお願いします」
「「お願いシャス」」
「ふたりは自主練?」
「はい!」
「頑張ってね。あ、私ボール拾いしようか?」
「でも、先輩制服だし。汚れたら……」
「スライディングするわけじゃないから大丈夫。手伝っていい?」
「お、お願いします」
「アザス」
四方八方へ散るボールを拾って、影山にパスを上げる。難なくスパイクを打ち出した。日向がレシーブし損ねて、ボールが転がる。拾う。パス。トス。スパイク。その繰り返し。
影山はスパイクを打ち出しながら気味の悪さを感じていた。先ほどまでなかった、異様な数の人の目が集まっている。校舎から屋上から、ほとんどが男子生徒。どうにも自分にではない。日向にでもない。それは先輩に向けられていた。校則規定ぴったり模範のようなスカート丈。彼女がボールを追いかける度に揺れ、ボールを投げ上げる度にヒダが開いて、白い太ももが見え隠れする。中身全てをさらすことはないし、本人も気にしてなさそうだが思春期には刺激物だろう。
影山には無縁とも言えるその欲情。それが気持ち悪さの原因だった。
注意すべきかと口を開く前に予鈴が鳴る。
「あ、時間だね。私も教室戻らなきゃ。じゃあまた部活で」
彼女とともに不快感は霧散した。
「優しいよな」
「あのマネージャー補欠の人か?」
名前よりもその名目のほうが印象に残っている。
「苗字先輩だろ。美人だし、ちょっと緊張した……」
「バレー以外のこと考える余裕あるのかよ。土曜日は入部がかかってんだぞ。さっさとレシーブくらいできるようになれ」
「うっ……」
ぐぅの音も出ない。
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烏野排球部にはマネージャーがいない、と潔子が勧誘されてからなまえもときおり手伝うようになっていた。他の生徒が部活をしている時間には飲食店を営む実家の手伝いをしていたので、店が忙しくない曜日に無理なく。そもそも潔子は優秀だったから正式なマネージャーとしても一人でもこなしていた。それでも体はひとつだし、潔子が何かを記録しているときにコート周囲でボールを拾ったり、ブロック練習のときにボール出しをしたりビデオを撮影したり難しいことはなにもない。ドリンクの作り方だったりそれぞれの好み、ノートの取り方も次第に覚えた。潔子がちょっとお願い、と頼むことは断ることなくなんでもこなした。言うなればマネージャー補欠。なによりも、部員の彼らと過ごす時間は楽しかった。
潔子と彼女に懐く後輩達の掛け合いはもはや漫才のようで面白い。
「なまえ先輩、毎日来てくれないかなぁ。なまえ先輩がそばにいると潔子さんの雰囲気がやわらかくなってよく笑うんスよ」
丸坊主の釣り目からそう言われて、素直な下心に笑った。潔子は最高のマネージャーだから私がいても邪魔でしょ、と返すとチーム唯一のリベロが首がちぎれそうなくらい横に振っていた。
「潔子さんもですが、なまえ先輩みたいな美人がいると思うだけでレシーブ成功率が上がります」
「俺はスパイク成功率が上がります」
私がいるくらいで簡単には上がらないでしょ、と2つの決め顔を疑っていると、
「そいつらのモチベは150%上がりますよ」
と二人を飼いならす統括者が真顔だった。縁下君が言うから説得力が違う。
**
人が見たらどちらも中途半端だと評価されるかもしれない。当初家の手伝い一本でいくつもりだったなまえを両親は強く咎めた。店を継がせるつもりはない、将来は好きなことをしなさい。外の世界を経験したうえでそれでも店をやりたいのなら譲る。店は繁盛しているが経営には苦労も多い。いきなり家業を継いで世界を狭めることはせず、学生のうちは少しでも学校でのかかわりを増やしなさい、と。そこで折り合いをつけたのが今の状態だ。
「なまえ、今日放課後来れる?」
潔子からのいつもの問い。
なにに、とかどこに、と聞かずとも部活のことだとわかった。
「うん、お手伝いいくね」
「よろしく」
ジャージに着替えて行くと、すでに数人が集まっていた。カツラのズレた教頭とすれ違う。ただならぬ雰囲気と、澤村のお怒り具合を察してこっそり菅原に近づく。なまえに対する田中の勢い良すぎる挨拶が今日はきこえない。
「菅原君。どうなってるの?」
「入部希望者の一年」
「やった!」
「なんだけど、チームプレーに問題ありそうだな」
「そんな。まだ入ってもないのに?」
「まだ入ってもないのに、だな。あの二人がさっき教頭のズラ飛ばして、大地が注意されちった」
噴き出しそうになるのを抑えながら事情を説明されて、なまえのほうが我慢できなかった。
「うそ?」
ひそひそしているうちに、デコボココンビは澤村に首根っこを掴んで外に投げ出されてしまう。
「ありゃ。何も入部届突っ返さんでも」
「大事な入部希望者~」
外に出ようとするなまえを、澤村が咎めた。
「苗字。いまフォローせんでよろしい」
「え、……はい、
いま、と強調したということは後でフォローアップを頼みたいということかな。澤村だって、新入部員が欲しいことには変わりない。
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お昼休み、自販機へ向かうと自主練している影山日向の挑戦者ペアに遭遇した。ボールに食いつく日向と、手加減してサーブする影山。影山と目があったものの邪魔をしないように声を出さずに手を振る。
「あ。体育館にいた人」
「え?あ、ほんとだ。バレー部の人……ですよね」
あの場で認識されていたらしい。
「あ、私はバレー部に関わってはいるけどマネージャーじゃないよ」
否定すると、二人仲良く頭を同じ方向に傾げている。
「?えーと、じゃあ……?」
問われて、名乗るべき肩書に迷う。
「言うなればお手伝い……うーん、マネージャー補欠、かな。苗字なまえです」
「おれ、日向翔陽です」
この子はちょっと西谷タイプっぽい。
「影山飛雄です」
「よろしくお願いします」
「「お願いシャス」」
「ふたりは自主練?」
「はい!」
「頑張ってね。あ、私ボール拾いしようか?」
「でも、先輩制服だし。汚れたら……」
「スライディングするわけじゃないから大丈夫。手伝っていい?」
「お、お願いします」
「アザス」
四方八方へ散るボールを拾って、影山にパスを上げる。難なくスパイクを打ち出した。日向がレシーブし損ねて、ボールが転がる。拾う。パス。トス。スパイク。その繰り返し。
影山はスパイクを打ち出しながら気味の悪さを感じていた。先ほどまでなかった、異様な数の人の目が集まっている。校舎から屋上から、ほとんどが男子生徒。どうにも自分にではない。日向にでもない。それは先輩に向けられていた。校則規定ぴったり模範のようなスカート丈。彼女がボールを追いかける度に揺れ、ボールを投げ上げる度にヒダが開いて、白い太ももが見え隠れする。中身全てをさらすことはないし、本人も気にしてなさそうだが思春期には刺激物だろう。
影山には無縁とも言えるその欲情。それが気持ち悪さの原因だった。
注意すべきかと口を開く前に予鈴が鳴る。
「あ、時間だね。私も教室戻らなきゃ。じゃあまた部活で」
彼女とともに不快感は霧散した。
「優しいよな」
「あのマネージャー補欠の人か?」
名前よりもその名目のほうが印象に残っている。
「苗字先輩だろ。美人だし、ちょっと緊張した……」
「バレー以外のこと考える余裕あるのかよ。土曜日は入部がかかってんだぞ。さっさとレシーブくらいできるようになれ」
「うっ……」
ぐぅの音も出ない。
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