Say those three little words.
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私が彼と時間を共有したのはほんの短い期間。高校3年生に進学してから四季が一巡りするまで。彼にはバレーが一番でそれしかなかったから、一緒に過ごせたと言ってもいま考えればほんとに瞬きの時間しかなかったと思う。
その過去が強烈で他を圧倒しており、卒業してからもこれまでついに心を揺るがす人に出会うことがなかった。他の誰に笑われても、美化した過去に縋りついていると説教されようと、振り払うことはできない気持ち。
バレー関連の雑誌には毎回名前やインタビューが載っているし、TVに出たりもするから試合も録画して未練たらしく見直したりしてるし。
サイドテイルがトレードマークだった後輩から連絡があり、メッセージから電話に切り替えた。社会に出てから髪の結び目は上から下へ落ち着いた。学生の頃より更にしっかりしたとはいえ、愛らしい響きは変わらない。世間話で盛り上がった後に本題に入った。
「それで、なまえ先輩にお願いがあります」
「うん、どうしたの?」
「ウェディングドレス着てもらえませんか…!」
「え、私が?」
谷地の母の伝手でウェディングドレスを着て写真撮影をさせてくれるモデルを探しているとのことだった。あまり経費がかけられずモデルを雇うのも難しいと。
「わかってます、先輩がまだ…他の人を見れないこと。えっと、でも、相手役の人も負けず劣らずのカッコイイ人を用意したんで!」
「新郎役の人もいるの?」
「はい。先輩はジンクスとか信じるタイプですか……?」
結婚前にウェディングドレスを着ると結婚できなくなるという都市伝説。今はドレス販売店が企画してドレスの格安試着会を行ったり、独身の女同士でただドレスを着てみたいという理由で写真撮影だけしたりする時代だ。
「ううん、そのジンクスは信じてないし、ドレスも着てみたい」
「ならぜひ!!私を助けると思って!」
「えぇー良いのかな。潔子には頼まなかったの?」
知り合いの中でモデルにふさわしい最高峰の美人を推薦する。
「『もう間に合ってるから』と」
自慢の親友は名字を変えてだいぶ経つ。
「それもそうね。田中君のお姉さんは?」
「『角隠しのほうがいい』だそうです」
「確かに白無垢似合いそう」
「小さい挙式場ですけど、ほんとにいいところなので。依頼料とかは払えないけど、そのぶんドレスが試着タダなんです!!」
仁花ちゃんの必死な声にも、無料のドレスにも心が揺らぐ。
「私にモデルなんて務まるの……?」
「先輩なら問題ありません。パーフェクトです」
「……やってみようかな」
「じゃあお願いしますね!細かい日程なんかは先方と相談してお知らせします」
「ありがとう」
**
潔子に電話すると、話題はドレスからそれていつもの彼のこととなる。
「まだ雑誌のスナップ写真眺めて『やっぱかっこいい……』とか呟いてるの」
今まさに今月号の月刊雑誌をめくりながら開いてしまったページに彼がいて、ときめいたのをまるで見ているかのように指摘された。
「ウッ……してます……」
「素直か。なおさら良いじゃん、ウェディングドレス。非日常の新しい自分に出会っておいでよ」
「うん、ドレスは楽しみ。着こなせるかわからないけど」
「なまえなら大丈夫。私も見たいから行っていい?」
「来てくれると心強いな。お願い」
**
肩は晒して上半身は引き締め、たっぷり生地をとって膨らんだスカート部分。ヴェールは最初から後ろに垂らしてある。
典型的な、でも現代的なウェディングドレス。数日前に合わせてサイズの微調整は済ませてもらった。
「なまえ、似合ってる」
「ありがとう潔子。ドレス着るの楽しい」
「ドレスはテンション上がるよね」
にーっこりと微笑む潔子が、手にしたスマホでピンショを撮ってくれた。撮るなら一緒に撮ろうよ、と横に並んで次はセルフィー。
まるで、高校を卒業したときみたいに。
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私が彼と時間を共有したのはほんの短い期間。高校3年生に進学してから四季が一巡りするまで。彼にはバレーが一番でそれしかなかったから、一緒に過ごせたと言ってもいま考えればほんとに瞬きの時間しかなかったと思う。
その過去が強烈で他を圧倒しており、卒業してからもこれまでついに心を揺るがす人に出会うことがなかった。他の誰に笑われても、美化した過去に縋りついていると説教されようと、振り払うことはできない気持ち。
バレー関連の雑誌には毎回名前やインタビューが載っているし、TVに出たりもするから試合も録画して未練たらしく見直したりしてるし。
サイドテイルがトレードマークだった後輩から連絡があり、メッセージから電話に切り替えた。社会に出てから髪の結び目は上から下へ落ち着いた。学生の頃より更にしっかりしたとはいえ、愛らしい響きは変わらない。世間話で盛り上がった後に本題に入った。
「それで、なまえ先輩にお願いがあります」
「うん、どうしたの?」
「ウェディングドレス着てもらえませんか…!」
「え、私が?」
谷地の母の伝手でウェディングドレスを着て写真撮影をさせてくれるモデルを探しているとのことだった。あまり経費がかけられずモデルを雇うのも難しいと。
「わかってます、先輩がまだ…他の人を見れないこと。えっと、でも、相手役の人も負けず劣らずのカッコイイ人を用意したんで!」
「新郎役の人もいるの?」
「はい。先輩はジンクスとか信じるタイプですか……?」
結婚前にウェディングドレスを着ると結婚できなくなるという都市伝説。今はドレス販売店が企画してドレスの格安試着会を行ったり、独身の女同士でただドレスを着てみたいという理由で写真撮影だけしたりする時代だ。
「ううん、そのジンクスは信じてないし、ドレスも着てみたい」
「ならぜひ!!私を助けると思って!」
「えぇー良いのかな。潔子には頼まなかったの?」
知り合いの中でモデルにふさわしい最高峰の美人を推薦する。
「『もう間に合ってるから』と」
自慢の親友は名字を変えてだいぶ経つ。
「それもそうね。田中君のお姉さんは?」
「『角隠しのほうがいい』だそうです」
「確かに白無垢似合いそう」
「小さい挙式場ですけど、ほんとにいいところなので。依頼料とかは払えないけど、そのぶんドレスが試着タダなんです!!」
仁花ちゃんの必死な声にも、無料のドレスにも心が揺らぐ。
「私にモデルなんて務まるの……?」
「先輩なら問題ありません。パーフェクトです」
「……やってみようかな」
「じゃあお願いしますね!細かい日程なんかは先方と相談してお知らせします」
「ありがとう」
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潔子に電話すると、話題はドレスからそれていつもの彼のこととなる。
「まだ雑誌のスナップ写真眺めて『やっぱかっこいい……』とか呟いてるの」
今まさに今月号の月刊雑誌をめくりながら開いてしまったページに彼がいて、ときめいたのをまるで見ているかのように指摘された。
「ウッ……してます……」
「素直か。なおさら良いじゃん、ウェディングドレス。非日常の新しい自分に出会っておいでよ」
「うん、ドレスは楽しみ。着こなせるかわからないけど」
「なまえなら大丈夫。私も見たいから行っていい?」
「来てくれると心強いな。お願い」
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肩は晒して上半身は引き締め、たっぷり生地をとって膨らんだスカート部分。ヴェールは最初から後ろに垂らしてある。
典型的な、でも現代的なウェディングドレス。数日前に合わせてサイズの微調整は済ませてもらった。
「なまえ、似合ってる」
「ありがとう潔子。ドレス着るの楽しい」
「ドレスはテンション上がるよね」
にーっこりと微笑む潔子が、手にしたスマホでピンショを撮ってくれた。撮るなら一緒に撮ろうよ、と横に並んで次はセルフィー。
まるで、高校を卒業したときみたいに。
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